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第17話 模擬戦(旗取り)⑤

ー/ー



「えええ! 今のってあり!?」
緑組から抗議の声が上がった。
リズが手を挙げ、声を張り上げる。
「あー、諸君、静粛に! プラグの側に雷獣がいる、つーことは、仕切り直ししてもナイドが不利だから、誰も近づけないこの状況じゃ、どのみち後半すぐ、プラグかビリーに奪われる。人の動きより雷獣の方が早くて、雷河は動きが遅い。つか味方も危ねぇから自分も動きにくい。これが雷河の欠点だ。雷同士を当ててきたプラグの作戦か、二人を送ってきた青組の判断勝ちかもな。次から気を付けろよ!」

ナイドが膝をつく。
「ああー! ちっくしょー!」
「まあいい、気にすんな、次行くぞ。休憩入れ。後半気合い入れろよ!」
シオウが言った。
ナイドは「うっす!」と答えて立ち上がった。

「良かった……」
プラグは『アンナータ=ヴィス』が変化した雷獣に乗ったまま、旗を持って、ほっと息を吐いた。確かに休憩後でも同位置からなら、雷獣に乗ってしまえば、プラグでも、ビリーでもナイドの頭の紐を取れた。なるほどこういう基準になるのだと思った。
「プラグ君、大丈夫!? ごめん、私のせいで!! 感電した!?」
サラが大焦りで駆け寄って来た。
プラグは「大丈夫だよ」と言った物の、体は上手く動かなかった。
自力で降りられない様子のプラグを、ウォレスが心配そうに見て、またさりげなく横抱きに抱えて運んだ。
「ちょっと、見てもらおうぜ」
……ウォレスは将来、良い所に婿入りするかもしれない……。
プラグはそんな事を考えながら、大人しく運ばれた。

観衆は組を問わず皆を労ってくれた。
「いやあ、プラグ君、凄いね! ずっと一人で! 良く頑張った!」
「お疲れさん! いやー、シオウ君、強いね!」
「青い子、格好良かったよ! 惚れるかと思った! えっとウォレス君?」
「コリントさんもお疲れ様!」
精霊が教えたのか、皆、いつの間にか名前も覚えている。

救護所の天幕に入ると、ナイドも続いて入って来た。
「スマン! だいじょぶか? 加減はマヌちゃんに任せたんだけど」
マヌ=ヴィスは霊体で浮いているようだ。
「ごめんね、私がトロいせいで……! 次から気を付けて、しっかり避けるから!」
涙目のサラにも言われて、プラグは微笑んだ。
「大丈夫。痺れてるけど、これなら十分か、十五分もあれば取れそう」

そして、イサーク医師が診察してくれた。
イサークは三十代半ば、長い金髪を一つ結びにして、眼鏡をかけた細身の医者だ。
医者なので今日も白衣を着ている。隊士ではないので白衣の下は生成り色のシャツに緑色のズボン、脱ぎやすそうなブーツというラフな格好だ。彼の左腕にも救護の腕章がある。
救護所の天幕には敷布のある場所とない場所があり、敷布は奥の方に敷かれていた。
プラグはブーツを履いたまま、敷布の上に腰を下ろしている。
イサーク医師はまず治療のプレートを試したが……やはり痺れには反応しなかった。
「『治療』は雷による火傷は治せるけど、痺れには反応しないんだ。熱は無いけど……具合は悪くない? 吐き気は? 目眩とかは?」
「大丈夫です」
その後、イサーク医師は変わった形の聴診器を胸に当てた。彼が普段使っている物より新しい型のようだ。
次に小さなハンマーのようなもので、足や手を軽く叩いて痺れがあるかを確認した。
「手は大丈夫だけど、まだ下半身に痺れがあるね。火傷はしてないから脱水になることはないと思う。でも十分間、休んで痺れが取れなかったら、無理せず、もう五分休憩すること、いい? 衝撃が神経に来てるかもしれないから、目眩がしたらすぐ休む事」
「はい。大丈夫そうです」
「油断は禁物だよ」
「……あの、その聴診器、初めて見るんですけど」
「ああ、これ最近できた最新型。試作品だって。音の結晶が埋め込まれていて、体の音が凄く良く聞こえる。もともとの聴診器も、悪く無かったけどこれは凄いね。軽いし使いやすい――でも、やっぱり前の物に戻すつもりだよ」
新しい聴診器は、耳に入れる部分から伸びた細い管、そして体に当てる丸い金属だけの構造だ。医療鞄には以前の聴診器も入っていて、そちらは構造は似ているが体に当てる部分が細めのラッパ状になっている。
新しい物の方が軽くて使いやすそうなのだが……。
「それはどうしてですか?」
「ん、ああ、『結晶器具』に頼り過ぎると結晶が壊れたときに診察できないからね。後は、便利すぎて医学の発達の妨げになる。この加減が難しいんだ――と父の受け売りだけどね」
イサーク医師が微笑んだ。プラグは感心しつつ頷いた。
「なるほど」
「さ、安静にして、少し横になる?」
「いえ、このままで。大分、取れてきました。膝くらいまで感覚があります」
「相変わらず、丈夫な子だなぁ」
プラグは苦笑した。ルネとの稽古の後、たまにお世話になっているのだ。
怪我は治療のプレートでほとんど治るのだが、治す程でも無い小さな怪我は、リリや隊士達、あるいは自分で手当することもある。勿論、ルネも手当てしてくれるが、その後の、経過観察や包帯換え、消毒などは医務室でやっている。
「まぁ……あまり無茶はしないように。あ。霊脈を診られる医者、探してるんだけど、全然いなくてね……それはもう少し待って」
イサーク医師が溜息を吐いて立ち上がった。
「はい。ありがとうございます。大丈夫です」
プラグは頭を下げた。
『プラグは霊脈が傷付いているかも』と言う話をルネがしたらしく、専門の医者を探してくれているのだ。
イサーク医師は次にサラを診察していた。
「サラちゃん、派手に飛んでたけど大丈夫? どっか打ったりしてない? 痛いところは無い?」
「あ、はい。アナが風で受け止めてくれました。精霊達も支えてくれて、平気です」
プラグは見られなかったが、アナ=アアヤと精霊達がしっかり受け止めたらしい。
「打ち身とか打撲とか、後で出て来る事があるから、痛くなったら医務室に来てね。青痣とかも後でできるかもしれないから。他の二人は? ウォレス君は、疾風で早く動くと体に負担が掛かるから、筋肉痛に注意してね。ビリー君はまあ大丈夫だと思うけど、雷獣は動きが速いから、そうだね、お尻に痣が出来るかも?」
イサーク医師の言葉に、ビリーが頷いた。
「ちょっと痛いっす」
「よし、ここで見てあげようか? お尻出して」
「――いやそれは勘弁っす!」
イサーク医師は笑っている。
ナイドもついでに、イサーク医師に尋ねていた。
「イサーク先生、マヌちゃんの加減、これくらいでいいっすか?」
「うん、大丈夫だと思う。本当はもう少し弱くてもいいんだけど、それだと動きが止められないから……ただし、十秒以上は当てないこと。誰かが気絶したら外に出すか、解くかする事」
「了解っす! バチってなって、ビリビリってして、その後、痺れてしばらく動けなくなるくらいっすよね! マヌちゃん、これでいいって」
ナイドが、マヌのいる場所を見た。加減は相談していたらしい。

「じゃあまた、隙あらば使うんでよろしく!」
ナイドは宣言して出て行った。
プラグは溜息を吐いた。
「もう当たりたくないな。皆も気を付けて、すぐに飛翔で距離を取って」
ウォレス、ビリー、サラが頷いた。

「みなさん、お水どうぞ~!」
ターシェル=リンドが水を持って来てくれた。
救護所には簡素な机が一つあって、複数の水が並べてある。皆で順に取り、取った候補生は天幕から離れて飲んでいる。

アルスは脱落者の敷物から立ち上がって応援や手伝いに奔走していた。
アルスはシオウ達を応援しているらしい。残念そうにナイドに話し掛けていた。
「惜しかったわ! でも一度奪ったんですもの! 凄いわ」
「ああああでも、くそ、後の事を考えてなかった!」
ナイドが顔を赤くして嘆いている。プラグは『もしかしてアルスが好きなのかも?』と思った。
「はいはい、ほら水、飲めよ、お前ら、皆、お疲れ」
シオウは仲間に水を渡している。とても楽しそうだ。

「っとにプラグ、やべーな……ホントに強い……へこむ……」
膝を抱えているのはコリントだ。がっくり項垂れている。
「コリント、てめー、あっさりやられてんなよー」
リズに言われてコリントが項垂れた。
「スンマセン……」
「まあリゼラがまだ出て来てないからな。後半だ。赤組、勝てよ~! 飯、賭けてんだからな!」
「緑は?」
コリントが尋ねた。
「よくわかんねーから今回は赤に賭けた!」
リズはそう言って去って行った。
溜息を吐くコリントに、いつの間にか見に来ていたフォーンが声を掛けていた。
「特訓し直さないとね……付き合うよ。って言うか僕達も一対一じゃ勝てないんだから、落ち込まないで……いや、僕も落ち込みそうだけど。頑張ろう」
「はい、お願いします……!」
コリントが頷いた。

プラグ、ウォレス、ビリーは水を飲みながら、後半の話し合いをした。
もちろん、サラもそのまま側にいて話を聞いている。ここにいる青組はこの四人だけだ。

ウォレスが眉を顰めた。
「今、旗、どこにあるんだろう。俺達が一本、アラークが取ったんだけど、その時、緑組が沸いてきたんだ」
ウォレスの言葉にビリーが頷く。
「そうしろ、ってシオウに言われたみたいで。でも、アラークが俺は逃げるから、お前等はプラグの援護に行けって言ってくれて、先に来たんだ。雷獣――アンナータって早いのな」
アンナータは雷獣のままでは周囲が感電してしまうので、先程、霊体に戻っていた。
「そうだったのか。助かった。アラークは凄いな……旗はどんな感じだった?」
プラグは一本杉の様子を聞いた。
するとウォレスが「あ!」と言った。
「落とし穴、あったぜ。それで色々大変だったんだけど、時間がないし、その話は後にしようぜ。森にアドニス組が結構、っていうかほとんどいたんだけど、肝心のリゼラさんとアドニスがいなかったから、二人は厩舎かも。――ここに緑が大勢いるけど、なんか、火の奴らだけっぽいよな。そう言えば、向こうにいたのは水とかだったかも……。あと、ナージャとペイトも見てないな。緑の旗を守ってんのかな。後半どうする? 俺達も移動するか?」
プラグは少し考えた。
「……じゃあこうしよう。ビリーは雷対策でここに残って。ウォレスはまず、厩舎に走って、ナージャ達の様子を見る。それをアラーク達の所に伝令。アラーク達がまだ旗を持っていたら、俺の所に報せに戻ってくれれば、俺とビリー、ウォレスで揃って応援に行く。少し遠回りだけど、早めに旗の位置を把握しておきたい。シオウ達は俺がここにいれば、たぶん、集まってくると思う……なんとなくだけど。特に伝令も合図もなしに人が来てたし、雷河のタイミングも決まってたみたいだから、シオウから、そういう指示が出てる気がする。アドニスはリゼラさんを上手く使ってる。さすが、中々手強い……」

ビリーが唸った。
「向こうも大変だったぞ。何か良い方法あるのか? こっから勝つ方法だけど」
「あると言えばありそうかな……ウォレス、まだリルカとキールが生きてるから、旗をアラークが持っていたら、リルカに渡してこっちに逃げてくるように言って。それでアラーク達には、疲れてるかもしれないけど、三本目の旗を狙ってもらおう。二本あったら、最後の一本だから……ただ、シオウ達が全力で来たらもう、最後は乱闘だな。結局、シオウが王様だからシオウを倒さない限り、シオウ達の組はしぶといと思う――アドニスといい、手強いにも程がある……いや、もう少し考えさせて……他に良い方法があるかも……」

プラグは思考を巡らせた。

「雷獣で旗を持って逃げ回るのは?」
ウォレスが言った。
「いや雷獣は早いけど、意思疎通が必要だから、乗った感じ、飛翔相手だと負けるかも。あと、複数人に囲まれたら不味い。さっきはナイドが油断していて、動けなかったからできた。判定で勝てたのはたぶん先に頭の紐を取ったのもある。俺がもし旗を狙っていたら、避けられたかもしれない、ってことで後半仕切り直しになったかも……」

助けが来なかったら、感電した後、プラグは紐を取られて脱落していただろう。

(本当に助かった……)

そこでプラグは、はっと閃いた。
少し考え、これだと思った。

「……。よし。決めた――三人とも、ちょっと近づいて、精霊達も耳貸して。内緒話だ」
プラグはウォレス、ビリー、サラに近づいてもらい、自分もナダ=エルタを出した。
「おつかれさま、ナダ、出てきて」
「――あれ、どうも、どうなりました?」
ナダ=エルタが首を傾げる。
「色々あったけど、なんとかなった。今から皆に、後半の作戦を伝える。もっと、近づいて」
精霊達――ウォレスとビリーの精霊は霊体で、アナ=アアヤとナダ=エルタは実体だ。
サラも含め輪になったあと、内緒話を始めた。

「ちょっと長く話してる感じを出したいから、適当に長く話すけど。いい? 今、俺達は二本の旗を持ってるかもしれない。とりあえず、ありがとう。あとアルスともなんとか仲直り出来そうかも。それはさておき作戦だけど、――もうちょっと話が長い方がいいかな。………………、よしこのくらいで。二人とも落ち着いて大げさに反応せず、冷静な振りをして聞いて欲しいんだけど。――俺達は、すぐにアラークの所へ行こう。三人で」

プラグの言葉に、皆がはっとする。プラグは頷いた。
「理由は、たぶん切羽詰まってるだろうから。作戦とか考えてる場合じゃ無いかも。助けてもらったから、助けに行く。旗を奪われていたら奪い返す。貸し借りは無し。その後の事は合流してから考えよう」

「よし、それでいこう」「いいな、それ!」
ウォレスが控えめに頷き、ビリーも小さく頷いた。
「あ。俺は雷獣に乗ったままの方がいいか?」
ビリーが尋ねてきた。
「いや、飛翔でいい。アンナータは雷獣の姿のまま先に進んでもらって、アラーク達の助けに入ってもらおう。一キロもないから。あと忘れずに剣も使ってね」
「あ。わかった。そうだった。雷獣が便利すぎて忘れてた」
ビリーが腰の剣に触れて苦笑した。
「プラグはちょっと休憩した方がいいよ。俺達も休む」
ウォレスの提案で、プラグ達は会話をやめて少し休む事にした。

プラグは痺れが取れてきたので、天幕から出て準備運動を始めた。
まだ少し違和感はあるが行動に支障は無い。
「よし。サラは……そうだな、こっちに残って、誰か来たら治療をして欲しい。あとこっそり、ここに来た人達の様子も見ておいて欲しい。誰も来ない可能性もあるけど、脱落者が来るかもしれないし」
プラグは苦笑した。プラグ達が移動したらシオウ達も動くかもしれない。そうしたら、誰もいなくなってしまい、観客は退屈になるだろう。
「分かったわ」
サラが頷いた。

「向こうから、脱落者が来ませんね……?」
リリが一本杉の方向を向いて、次に厩舎の方を振り返った。
リズが首を傾げる。
プラグもそれは不思議に思っていた。
一人くらい紐を取られた候補生がいてもおかしくないのだが……?
「確かに。おいフォーン、ちょっと見て来てくれ」
「わかりました」
フォーンが頷き、行こうとしたとき、西側、一本杉へ続く方向からグイットが来た。後ろには脱落者がいる。
「報告です! あちらの脱落者を連れて来ました、えーっと、十、いや十一人です」
グイットは補佐として入っていたらしい。

赤組はブライ、ドリュク、レジナル、リアンナの四人。
青組はジャソン、ポーヴィン、エイド、キール、リルカの五人。
緑組はダニエル、ピート、アンドレアス、リカルドの四人だった。
かなり混戦になっていたらしい。
厩舎側からは誰も来る気配が無い。

「おー、よし、じゃあ十分経ったし、先に開始だ!」
リズが言って、ユノがバチを手に取る。

「ラウ、脱落者との会話って、始まった後はできる?」
プラグはラウに尋ねた。ラウとラ=ヴィアは休憩中、二人で話し会っていたが、既にプラグ達の側に戻って来ていた。
「いいえ、できないです。休憩中はできますが――」
休憩はもう終わる。
「わかった。大丈夫だ。移動するからついてきて――」
プラグはウォレスとビリーに言った。二人とも準備は終わっている。
するとウォレスが青組の脱落者を見て眉を顰めた。
「そういや、ポーヴィンの『腐食』のせいで、相手の剣がボロボロになったんだけど。でもあいつ、捕まったんだな。って言うか女子組がやられてる、嘘だろ」
ウォレスの言葉をビリーが引き継いだ。
「そうそう。その後、プレートで混戦になって、キール達が援護して、アラークが頑張って旗を取った。俺達が見たのはそこまでだった……あれ、ヨアヒムが残ってんのか?」

青組で一本杉に残っているのはアラーク、ロルフ、ヨアヒム、エミール、カトリーヌの五人だ。
「急いだ方がいいかもな。サラ、じゃあ後はお願い」
サラが頷いた。

「では、始め!」
開始の銅鑼が鳴った。

■ ■ ■

後半開始の銅鑼が聞こえる少し前、アラークは立ち上がった。

今ここに残っているのは、アラーク『リザベ=ナーダ(火/火渡り)』、ロルフ『ゾーエ=ヴィス(雷/迅雷)』、ヨアヒム『スルフィ=アアヤ(風/狂風)』、エミール『(水/水精)』の四人だ。

――アラークは前半戦の出来事を思い出した。

アラーク達は前半戦開始と共に、作戦通りに組に分かれ、一本杉を目指した。
周囲を警戒しながら進み、一本杉が見える辺りで一旦止まり、アラーク自身のリザベ=ナーダに偵察をしてもらった。

「罠がアリマス」
リザベが言った。
一本杉には、見事に罠が仕掛けられていた。

旗の周囲が一メルトほどを残し、周囲が掘られて、四角い掘り――塹壕になっていた。
塹壕というには広く、幅は三メルト、深さは四メルト以上はありそうだったと言う。
そして掘り返したらしい土が杉の脇に盛り上がっている。
「後でちゃんと埋めるんだろうな? 手伝わねぇぞ俺達は……」
思い切りの良い罠にアラークは呆れた。

そして、中央にはフィニーが一人……そして木の上に赤組が沢山いたと言う。
「全部見えませんでしたガ、ざっと見えただけで七人はイマシタ。それと、二人が塹壕の中にイマス」
アラークの『リザベ=ナーダ(火/火渡り)』はキルト語を話してくれる精霊で、翻訳のプレートが必要ない。片言だが充分流暢だ。
彼女は火の精霊にしては珍しく、肌の色は人に近い。しかし目は真っ黒で、白目は少なく黒目がちだった。
赤く短い髪は燃えていて、服はスカートが短く、火でできていて、メラメラと燃えている。赤いブーツを履いているのだが、それもやはり火でできている。真っ赤な翼は鳥のような形状で、尻尾は長くて、燃えている――どこか紅玉鳥を彷彿とさせた。側にいるだけで熱いし燃えるので、普段は霊体になってもらっているが、今は実体化している。

塹壕の中にはレンツィとマシルがいると言う。
「二人のプレートは何だった?」
するとエミールが持つ『リジット=エルタ(水/水精)』が教えてくれた。
「レンツィさんは『剣風』のプレート、これは長い髪の毛を刃にして広範囲に攻撃してきます。マシルさんは『烈風』これはとても強い風です。吹き上げたら近づきにくいと思います」
リジット=エルタは水色の長い巻き毛に、灰色の瞳を持ち、真っ白な袖無しドレスを着た女性精霊だ。ドレスはぴったりしたデザインで、膝から下だけが広がっている。耳や背中からは水晶のような鉱物が生えていて、これが彼女の耳と羽らしい。
「最悪だな……」
アラークは言った。
プラグがゼラトの作った落とし穴があるかもしれないと言っていたが、ここまでしっかり掘るとは思わなかった。
「――緑組は?」
「見当たりマセン」
リザベ=ナーダが答えた。
「どうする」
エミールが言った。アラークは唸った。
「ヤバイのは分かる。えーっと――カトリーヌ、お前確か、水だよな。あの塹壕に水を満たせるか?」
アラークは黒髪、黒目の少女、カトリーヌに尋ねた。
カトリーヌが精霊『ルメード=エルタ(水/渦潮)』に聞いて、頷いた。
「できるそうです」
「お! じゃあそれでいこう。これ以上作戦を練っても仕方無い。とにかく全力で突破だ! あでも、リルカ達は援護な。まず俺達とウォレス組で行くから、エミール組も援護、緑が来たら守ってくれ。各組作戦を立ててやってくれ」
「了解!」

二十分しか無いのでアラークはそう言った。しかし迷いが生じて動くのをためらった。
アラークが動かないので皆も足を止めている。
「……どのみち、旗を奪わないと話にならない……でも奪ったら、どうする? すぐプラグの所に行くか?」
するとエミールが首を振った。
「待った、すぐ行くのは不味いよ。そのまま敵を引き連れることになるから、作戦通りに粘って、できれば、数を減らす方がいい。引きつけ役もしておかないと」
アラークは作戦を分かっていたが、罠を見てひるんでいた。エミールに言ってもらえて良かった。しっかり頷く。
「よし、そうしよう。エミールは下がって、じゃあ、ウォレス、アイリーン、カトリーヌ、行くぞ、ああもうカトリとアイリでいいな? 二人は俺の少し後ろでこい、守りはリルカ達で」
「わかったわ」
アイリーン、リルカ、キールが頷いた。アイリーンとカトリーヌはいちいち名前が長いのでアラークは略すことにした。
そこで、支援の女子がいる事にも気が付いた。考える事が多い。
「治療班は決めたとおりに!」

そしてアラークは森の一本道を進んだ。走ろうかと思ったが、ふと、急いでも仕方無いのかも、と思った。

「ルメードさん、お願いします……!」
カトリーヌが『ルメード=エルタ(水/渦潮)』に命令して、ルメード=エルタが大量の水の渦を発生させて、塹壕に向けて放った。
アラークはその時『あれ、精霊に直接言えばいいんじゃね?』と思った。頼んで命令してもらうよりその方が早い。いっそプレートを手に持って発動してもいい。しかしアラークはまだプラグほど精霊を覚えていない。頼むにしても精霊の名前と効果くらいは覚えておかないといけないのだ。

ルメードの水は渦を巻き、塹壕を満たすかに思われた。
ところが――。
塹壕の中から烈風が吹き荒れ、なんと水の大半が外に流れた。流れた水が木の周囲にどんどん広がっていく。

「うそ!?」
カトリーヌが驚いているが、ルメード=エルタは両手を真上に伸ばし、そのまま水を放出している。ルメード=エルタの頭上から渦が始まりその渦が湾曲して塹壕に向かうという、圧倒される光景だ。そしてその軌道は風により邪魔され、揺れて、水をまき散らしてうねっている。水しぶきはこちらまで飛んで来た。
ルメード=エルタが気合いを入れる。
「烈風です! このまま水を放出し続けます! 勝てます!」
「勝てるのか!?」
アラークは驚いた。
「おそらく! 周囲警戒して下さい!」
ルメードの言葉でアラークは我に返り、どうするか考えた。
木の上を見て、左右を見る。

「アイリーン、行くぞ! 水はそのまま出して、もしできれば援護してくれ! 満杯でなくても塹壕から二人を出せば良い!」
「分かりました!」
「主、トアゼに注意シテ! 波紋、水があると強イ!」
リザベ=ナーダが警告する。
「分かった、こっちは火だ、やってやろう、アイリーン、とりあえず火! 皆、攻撃をフィニーに向けろ!」
「はい! 最大で――フィニーに!」
アイリーンが言うと、一メルトほどの火の玉が二つ現れた。
この効果は授業で見た事がある。確か、地面などに落ちると閃光と共に燃え広がる。
しかしフィニーが盾で身を守り、ついでに水の流れを引っ張って――としか言えない――水が円を描くように湾曲して水の勢いを殺したのだ――塹壕に火が入らないようにしてしまった。
「ちょっと、やばくないか!?」
「水!」
とレンツィとマシルが声を上げる。

「アイリーン、とりあえず連続でフィニーを攻撃、精霊、各自、適当に候補生を援護、候補生は突っ込め! 俺は行く! もう指示は無理だ、各自、好きな所攻撃しろ!」
アラークは言った。これはもっと精霊の扱いに慣れなければ作戦を立てられない。
反省は次に生かすとして、とにかく突っ込んで覚えるしか無い。

「とにかく突っ込んで覚えろ! 盾で防ぎゃなんとかなる!」
アラークは突撃することにした。
しかし当然のごとく、旗を守る為の攻撃が一斉に振ってくる。雷、水、火、風、属性もバラバラで、とても近づけない――しかし、キールが弓矢を放ち、木の上の候補生を焦らせていく。
そこでドリュクが木に向けて火を放った。木の一部が燃え、三名が落ちたのだが、アラークは焦った。赤組の精霊が慌てて消化している。
「待った、一本杉は燃やすな! フィニーの相手は俺がする! 誰か回り込め!」
「俺が行く!」
アラークの言葉に『疾風』のウォレスの返事が聞こえた。移動は早すぎて風だけ感じた。
一瞬遅れて『雷獣』のビリーと『迅雷』のロルフがついていった。
アラークはアイリーンの火球が熾した火の海を飛び越える。するとリザベ=ナーダが援護してくれて、火を引き連れて旗の島へ乗る――と思ったら、横から鋭い何かが飛んで来た。
「ッ」
アラークは躱し損ねるところだったが、幸い、盾で弾くことができた。すぐにリザベ=ナーダが火で壁を作る。
攻撃してきたのはレンツィの精霊だった。そしてレンツィが炎を避けて斬り掛かってきて、アラークは体勢を崩して、塹壕の手前に膝を突いて着地した。そのまま不利な体勢からレンツィの刃を受ける事になった。横に転がり間合いを取って立ち上がる。
そしてそのまま、レンツィとは剣での戦いになってしまった。
レンツィの精霊はというと、こちらはリザベ=ナーダ、効果は忘れたが、エイドの雷属性精霊が攻撃して押さえている。

『火渡り』は火の上に乗ることができる便利なプレートなのだが、精霊と一緒だと息を合わせる必要がある。思ったより精霊と戦うのが難しいのだ。
「青の精霊達、一気に旗を攻撃! たぶん押せばいける! えっと、ボーヴィン、お前もなんかやれ!」
「あ、うん!」
アラークはレンツィと剣で押し合いをしながら、突っ立っていたポーヴィンに指示を出した。
「片っ端から! なんかやれ!」
「わかった、お願いします!」
「はい~」
間の抜けた声で、珍しいぽっちゃり系の精霊が答えた。金髪碧眼の長髪巻き毛で、白いゆったりとした、古風なドレスを身に纏っている。二の腕に金の腕輪をしているが少々食い込んでいる。羽は真っ白で小さく、鳩か鶏のようだった。
しかし動きは素早かった。
「エッ」
ちょうどレンツィが打ち込んできたのだが、彼女は羽ばたいて、一瞬で距離をつめて、レンツィの刃に触れて通り過ぎる。
そして、レンツィの剣が触れたところからバキリと折れた。
「えっ!?」
これにはアラークも驚いた。鉄を脆くする、とプラグが言っていたが本当に脆くなってしまった。レンツィも目を丸くしている。
「私の力はですね~、触った金属を腐食させます~! 触らないといけないんですけど~素早いので~触れます~」
「どんどんやってくれ! ――腐食の精霊!」
アラークは叫んだ。
「はい~!」
精霊は微笑み、間を縫って飛んで行く。フィニーは慌てて剣を収めていた。確かにそうしてしまえばできない、のだろうか?
そしてやはり名前が分からない。なんだっけアイツ、だ。一応、自己紹介で聞いたのだが、精霊は多すぎてややこしい。

「ル・フィーラ!」
「きゃあっ」「うわっ」

初めてだから仕方無いが、皆、慣れていない。しかしそれは赤組も同じに見える。
青組は勢いが良いのだが、その勢いを見て戸惑っているのだ。
戦ってもいいのかな、という逡巡があり、有利な位置を生かせていない。
木の上で足場が悪いのが影響しているのと、キールの弓矢や、精霊の攻撃が正確で効いている。
ウォレス達が後ろから追い立てた事も重なり、木の上には一人もいなくなった。
そして地上で皆、精霊は精霊同士で牽制しあい、候補生は候補生同士で戦い初めている。

フィニーはぽつんと中央の島に突っ立っている。がトアゼは忙しく攻撃を防いでいる。
突っ立っているフィニーも、一応、攻撃は盾でしっかり受けて旗を守っている。
レンツィに阻まれて中々近づけず、アラークは焦り始めたが、考え直す。これだけの人数がここにいるのだ。プラグは楽に違い無い。レンツィの相手をしながら、位置を変えて背後を見てみた。すると緑組が監視をしているのを見つけた。加勢してこない――? 理由は『作戦』としか思えなかった。つまりここにシオウがいないのだ。
……これは当たり前と言えばそうだが、シオウはプラグを倒しに行ったのだろう。コリントもいないと言うことは、そちらもプラグが相手している……?
もし居ればあっと言う間にやられていただろう。
要するに、皆、初回で慣れていないのだ。そこでアラークは閃いた。

「あ、そうだ、青組! 紐取れ! 忘れてた!」
「あっ!」
「とにかく人数、減らしていこう、ちょっと減ったら旗を狙う、俺が旗を狙ったら精霊達は全力で援護だ! いいな!」
「はい!」
精霊達が頷いたのを見て、アラークはフィニーに突進した。いまちょうど混戦になり、塹壕の周囲がぽっかりと空いているのだ。
島に乗って、フィニーと対峙する。
フィニーは正直、格上の相手なのだが、ひるんではいられない。

「援護シマス! 火球下サイ!」
アラークはリザベ=ナーダの頼もしさに気が付いた。アイリーンの精霊も援護してくれる。火炎と共にフィニーに突っ込むが、トアゼも周囲の水を円形に巻き上げて上手く防いでいる。属性ではこちらが不利だが、威力は高い。
ふとフィニーが動かないのは、旗をまだ誰も取っていないからだと思い出した。
自陣の旗は誰かに取らせないと持ち歩けないのだ。レンツィをエミールが押さえて、ウォレスやロルフ、ビリーは幾人かの紐を取っていた。そして紐を取ってしまえば治療が入る。その分楽になる。頭を狙っているが、腕も取っている。

「前半、あと五分!」
と言うグイット隊士の声が聞こえた。はっとする。
「リザベ、プレートに戻ってくれ!」
「エッはい!?」
「アイリ、火球できるだけ連発――」
アラークはプレートを持って最大の火力で火を巻き起こし、フィニーが避けた所で旗を取った。そして『初めからこうすりゃ良かった』と思ったのだった。

――旗を取った後、緑組が一斉に飛びかかってきて、アラークは逃げ回ることになった。
作戦を覚えていたので、プラグの援護にウォレスとビリーを送ったが遅かったかもしれない。少し慣れて来た今では、この人数でここにいる意味がないと思えた。
「カトリ、お前、緑の旗を偵察できるか? 取ってプラグと合流してもいいし、そのまま監視してもいい、任せる!」
カトリーヌに近づいたときに伝えて、カトリーヌは頷き去って行った。
その後、緑組に囲まれてキールが頭の鉢巻きを取られた。
リルカはフィニーと一対一で戦っていたが、キールがいなくなった後、接近戦になり、右手の紐を取られ、頭の紐も取られてしまった。アイリーンも緑組に狩られた。
こうして見ると、順位の低い者から狩られている。

「ヨアヒム! 風!」
ここで意外に役立ったのが最下位のヨアヒムだ。彼の狂風は軌道が読めない上、かなり範囲が広く、しかも程良く殺傷能力があるので、皆が一瞬、盾で防ぐのだ。しかし、防ぎ切るのは難しく、アラークも、仲間も、敵も皆、小さな切り傷だらけになっている。大した傷では無いから精霊が加減しているのだろう。
ヨアヒム自身もすばしこくて、中々上手く逃げている。
アラークはフィニー相手に走りまくって必死なのだが――。
フィニーの手がアラークの頭に伸びたとき、銅鑼が聞こえた。

「前半、終了!」
グイット隊士の声と共に、アラークは膝をついた。

「はぁ、はぁ、まじヤベーなんだこれ……しんどっ」
「はぁ……もー! 取れない! 追いかけっこ?」
フィニーも尻餅をついて息を吐く。

アラークは汗を拭った。
グイットの明るい笑い声が響いた。
「よーし、皆、十分の休憩だ! 初めてにしては良いぞ! 治療が済んだら、失格者は俺と一緒に戻るぞー、水あるからな、飲めよ!」
木の少し後ろに、僅かな観客と見学の隊士、精霊達がいて水を用意してくれていた。
「はーい……」
たった二十分だったとは思えない程、皆汗だくになっている。

木のコップが差し出されたので顔を上げると、エマがいた。
「アラーク君、お疲れ様、大丈夫? これどうぞ。――怪我、治すわね」
「あんがとな……」
アラークは座って水をごくごくと飲んだ。
「ル・フィーラ・ディアセス!」
エマが治療のプレートでアラークの生傷を治した。
水を飲み終える間に、傷はあっと言う間にふさがる。コップから口を離して溜息を吐いた。

「あ゛ー……俺、こんなに怪我したの初めてだぜ……領土騎士やっときゃ良かった……!」
エミール、レンツィなど領土騎士団出身の平民は結構いい動きをしていた。
逆に、貴族のマシルは戸惑っていた。同じく貴族のフィニーも少々戸惑っているようだったが、持ち前の優秀さとトアゼの指示で上手く動いていた。
アラークも貴族で、鍛練はしていたが……こんな風に大勢の訓練や、何ヶ所も怪我をした事は無かったのだ。

「でも凄く頑張ってたし、旗、持ってるじゃない! 凄いわ」
エマに言われて旗を見た。確かに、旗が取れて奪われなかった。
「あ、そうだ……」
アラークは思い出して上を見た。
リザベ=ナーダが浮いている。
「リザベ、大分助かった、ありがとな……」
「イエ! イー感じデシタ!」
リザベが目を細めて、両手の親指を立てて微笑んだ。
アラークは正直、この精霊の瞳が動物っぽいし、姿が焼き鳥みたいで少し不気味だと思っていたのだが、キルト語も話せるし、頭はいいし、良く見たら可愛い気がする。
「リザベのおかげだって、これからも頼む……ほんと、難しいな――プラグはどうだろう。おい、青組、集まれー」

隊長なので青組を呼び寄せて、後半どうするかを考えた。
「とりあえず旗は守った。が、正直グダグダだった気がする。後半は速攻で逃げて、プラグと合流するぞ。あいつの戦い方を見よう」
異論は上がらず、皆が頷いた。
「こんなにやりにくいって聞いてない」「俺、途中から自分でプレート使ってた」「俺はずっと守ってもらってた。紐取れねー!」
アラークは溜息を吐きながら頷いた。
「あいつ実戦経験ありそうって隊士が言ってたし、後半は合流して指示に従おう。二回戦もその方向で。まずは効率の良い戦い方を覚えないと話にならない。あと、精霊の名前と効果も覚えないと駄目だ。お前等全員、女子も宿題だぜ。俺もだけど、名前わっかんねー! 多すぎだって!」
アラークの嘆きに精霊達が苦笑した。
リザベは「ソレとかアレでいいデスよ」と言っている。精霊にとっては毎年のことなのだろう。

青組で生き残ってこの場にいるのは、アラーク、ロルフ、ヨアヒム、エミールの四人だ。
ウォレスとビリーはプラグの救援に向かい、カトリーヌは緑組の偵察に出している。
カトリーヌを送った理由は説明しにくいのだが、彼女のプレート『渦潮』が防御もできそうだったから……かもしれない。

「三人向こうにやったとは言え、結構減ったな……ウォレスとビリーは間に合ったか? ヨアヒム、お前結構、すばしこいな。残るとは思わなかった」
「へへっ、スルフィが結構、凄いんだな」
ヨアヒムが嬉しそうにはにかんだ。彼は亜麻色の髪で丸っこい頭、薄紫の瞳が印象的な、一番背の低い少年だ。少し前は最下位だからと落ち込んで、辞めようかな、と言っ泣いていた。活躍できて嬉しそうだ。個人の実力としてはやはり微妙なのだが、小柄で小回りが利く。模擬戦では役に立ちそうだと思った。
「でもお前、一対一になるとたぶん不利だから、逃げ回って攪乱の方がいい」
「わかった」
ヨアヒムが頷いた。

「なあ、俺はどうだった? いや見えてた? あれでいいのかな」
濃紫髪に紫目の少年、ロルフが言った。
ロルフは『ゾーエ=ヴィス(雷/迅雷)』を持っている――これは名前が格好いいので覚えていた――自己強化型の精霊で、ロルフはかなり素早く動いて緑組の紐を取っていた。アラークも何回か助けられていた。
「ああ、良かった。その調子って感じ。エミールもかなり使いやすそうだな、その精霊」
「うん、水晶を出せるのって便利なんだな」
エミールが頷いた。
「火とか水って案外、制御が難しいのか?」
ヨアヒムが言った。
「ハァ? それを言うなら、お前の風だろ! めっちゃ切れたんだけど!」
エミールが呆れた様子で少し怒った。女子達が治療するわ、と言って治療を始め、ヨアヒムが唸る。
「ゴメン! でもこれって、制御できるのかなぁ……?」
「うーん」
皆で唸ってしまった。アラークも溜息を吐いた。
「精霊の攻撃って、スゲーよな。ちょっと威力がありすぎて、下手すりゃ木が燃えるし……でも、手に持って自分で調整もできるし、いつ何使えばいいか、良くわかんねぇ」
アラークの言葉に皆が頷いた。皆、考える事はだいたい同じらしい。
……精霊の攻撃はどれも思ったより威力があり、授業で試した時より強いのだ。
しかし、口頭で指示を出すとどうしても手間取ってしまい、言葉で伝える時間がもったいない。かといって任せきりでは思った攻撃と違ったり、加減が出来なかったり、あさっての方向へ行く事もある。
精霊を収めて、プレートは手に持って発動することもできるが、使い分けもよく分からない。
さらに、自分でも剣を持っているし飛翔で飛べるので……もうどれを使ってどう戦えばいいのか分からないのだ。
そして結論は「プラグに聞こう」となった。

「でも『精霊に聞け』ってあいつ、言ったよな?」
アラークは言った。
「でも、精霊もよく分かってない感じじゃね? どういうことだよ?」
ロルフが言った。確かに精霊もどうしよう、みたいな顔をしている。
隊士達がコップを回収し始めている。
ヨアヒムが周囲を見た。
「あ、もうすぐ終わる。これからどうするの?」
「つかプラグ、大丈夫か、シオウがいないんだけど、相手してるのか?」
エミールは心配そうに言った。
ロルフが頷いた。
「あとリゼラさんとアドニスもいないよな……まさか全員あっち?」

アラークが周囲を見ると、赤組、緑組と目が合った。
絶対取る、という表情をしている。アラークは少しひるんだ。

「開始と同時に飛翔で戻るぞ。固まって盾を出す。剣も抜いとけ。精霊は周りを守ってくれ! プラグと合流だ。あいつ、生きてるか?」

そして、後半開始の銅鑼が鳴り響いた。

■ ■ ■

後半戦開始と共に、プラグ、ウォレス、ビリーは走り出した。
精霊を出して全速力で、玄関を後にする。
ビリーの『アンナータ=ヴィス(雷/雷獣)』が先行する。
飛翔を使ってしまえば、一本杉のある裏の林までは一分程度だ。

「あ!」

そしてちょうど向こうから来たアラーク達が見えた。あちらも合流する予定だったらしい。
しかし後ろに赤組、緑組がいる。
「ナダ、あっちを援護! 適当に!」
「はい!」
ナダ=エルタが飛んで行く。
「ウォレス、ビリー、一旦、赤、緑から距離を取る。援護して――」
プラグは残っている青組を見たが、カトリーヌがいない。

先に一人で飛んで、アラーク達四人と合流して、声を張った。
「エミール! リジットも手伝って、ナダと一緒に攻撃!」
「あっ」
「あっはい!」
『リジット=エルタ(水/水精)』が周囲に向けて、水を放出する。ナダ=エルタは細かな氷を出して、水を凍らせて、更に無差別に氷の刃を出して周囲を牽制した。

「アラーク、カトリーヌは?」
「あっ、緑の方にいる! 偵察」
アラークが返事した。プラグは目を見張った。
「なるほど。よし! このまま少しここで粘ってみよう、皆は剣で赤、緑の紐を狙ってくれ! 精霊達は防御! 点数稼ぎだ! 女子は近くに来て治療に専念! シオウが来そうだったら逃げよう! あとアドニスとリゼラさんが来たら俺に任せて!」
プラグはあえて大きな声で言った。林の中だが、ちょうど見通しもよく戦いやすい。

「俺はフィニーを倒そう。たぶんリルカの仇?」
プラグは剣を向けて狙いを定めた。フィニーが「げっ」と声を上げた。
「――ウォレス、旗持ってて」
「えっ、おい!」
プラグは旗をウォレスに渡して、フィニーに近づいた。

「ひぇえ!」
と言いつつフィニーは剣を受けた。
「はいっと!」
プラグはフィニーの剣を巻き取り、柄に向かって刃を滑らせて、そのままたたき落とした。
膝蹴りを入れて、ついでに顔を殴って、右腕を引いて体勢を崩させて、頭の紐を取る。

「取った!」
取った後はすぐ跳んで戻り、長剣を収めて、左手で短剣を抜いた。
特に深い意味はないのだが、牽制だ。ハッタリとも言う。
短剣は本当は二本使いたいが、候補生はまず一本と言う事で柄を左に向けてある。

「長剣も飽きたし、二刀流にしようかな?」
そして長剣を抜く。プラグの様子を見た緑組は少したじろぎ――。

「どうする?」
「くそ、シオウと合流だ」
と言って、去って行った。やはりシオウからは何か指示が出ていたようだ。
赤組は「私達は?」と言って戸惑っている。
「……アドニスと合流しよう」
ゼラトが言って、去って行く。
赤組はここにいて旗を狙っても問題ないが、戦力を温存しようと言う事だろう。

赤組も去ったのを見て、プラグは息を吐いた。
「残られたら面倒だった。シオウが来ないと良いけど」
プラグはアラーク達を見た。
「お疲れさま、良かった無事で」
ほっとして微笑んだのだが、アラークは眉をつり上げた。
「お前、くそ、ムカツク!」
「ええっ」
怒鳴られてプラグはひるんだ。
「くっそ、心配して損した! あーもう……!」
「ええと、ごめん、でも旗、ありがとう守ってくれて、援軍も助かった」
「ああ、そんなの楽勝だって……! はぁ。で、どうするんだ? 向こうどーなってる?」
「俺、この旗、返す?」
ウォレスが戸惑って言った。
「いや悪いけど、ウォレスと――あとエミールは二人でその旗を守ってくれ。俺はシオウと戦うから持たない方がいいかも。あとリゼラさん達は向こうなんだな……。アドニスもそっちか。アラークは疲れてなければそのまま持っていて。大丈夫?」
「ああ」
アラークがこちらを睨みながら言った。
「ビリーとアンナータはアラークの補助をお願い。あと十五分くらいか……いけるかな」
「いけるだろ」
とアラークは言ったのだが、プラグは唸った。
「そうだな、やってみよう」
「出来ないって思うのか?」
「守る事は出来るけど、奪うとなると、二組が敵だからな。三組バラバラならやりようはあるんだけど……さて……」
「敵なのはお前のせいだろ……全く、で? どうすんだ、二本あるとして、この旗を守れるとして、もう一本取りに行くのか」
プラグは頷いた。
「最後の旗は、シオウとアドニスが協力して守っていたらたぶん取りにくい。下手したら開始から全く動いてないかも……。頑張るけど。シオウとアドニスが協力してなかったら、頑張って取ってみよう。その場合リゼラさんがいるんだよな……」
このまま守っていても、たぶん負けないし『どこも勝たない』と言う結果にはできる。

すると――。
誰もいない一本杉の方から、カトリーヌが『飛翔』で走って来た。
「あ、カトリーヌ!」
ロルフが言った。
アラーク達も驚いている。

カトリーヌは息を上げているが、息を整えて続けた。
「はぁ、恐かった。……向こう、偵察してきました。緑の旗には、ペイトとナージャさんいましたが、アドニスさんとリゼラさんがいて、ずっと戦っていました。私は遠くから、精霊に頼んで見てもらって、しばらく見ていましたが、とても割り込めなくて逃げて来ました。私が見た時はペイトさんが旗を持っていましたが、劣勢で、たぶんアドニスさんかリゼラさんに奪われると思います。でも、ナージャさんが曲がる水で上手く援護していました。……でも、もしシオウさんが来れば分かりません。すみません、何も分からなくて……」
彼女は戸惑った様子だが、プラグは感心した。
「霊体で見て貰ったんだね? それで逃げて来た」
「ええ、私の力では、それしかできなくて……」
カトリーヌが不安げに言ったが、プラグは微笑んだ頷いた。
「ありがとう、充分だ。偵察で一番厄介なのが精霊だから正解だ……あ。たぶんだけどね。――今、緑組が引き上げて行ったけど、これは元々の作戦だと思う。後半に集まるとか? 赤組は作戦じゃなくてアドニスに指示を仰ぎに行ったと思う。罠があるから、旗を取れると思ってたはずだ。断定はできないけど、可能性は高いと踏んでいたはず……さてどうするか」

プラグは旗を取るか迷ったが……ここで失敗しても、行くしかないと思った。

「よし、行こう! シオウとは真っ向勝負になる。勝てるかは分からないけど、模擬戦、しかも一戦目でひるんでいたら駄目だ。負けてもいいけど、勝つつもりで! リゼラさんとシオウがつぶし合ってくれたら嬉しいけど、多分無理だな。よし」

プラグは気合いを入れて、アラークを見た。
「アラーク、リゼラさんとシオウ、どちらと戦いたい?」
するとアラークが眉を顰めた。
「またそれかよ。お前はどっちなんだよ。どっちなら勝てるんだ?」
「向こうに火の精霊使いが集まっていたから、シオウは強敵だ。俺はリゼラさんとはまだ戦ったことが無い。……でも、彼女は精霊がいないから、ナダをアラークに任せて、俺はリゼラさんと一対一でやってみたい。それでいい?」
プラグは五倍訓練で隊士達とも戦っているが、リゼラはルネが苦手――嫌いらしく『薔薇の館』には来ないのだ。近づきもしないとコリントが言っていた。
今回はリゼラの精霊がいない事を差し引いても、未知数だし、印象として『強そう』だと思っていた。

アラークが頷いた。
「じゃあそれで。俺はシオウ――旗は持ったまま行く。じゃないと素通りされるだろ。お前の方へ行くのを邪魔する。エミール達は一本を死守だ。あとアドニスその他がいたら、暴れまくって、そいつらの足を引っ張れ。プラグはリゼラ」

「わかった、時間がない。急ごう。とりあえず玄関を見て、いなかったら向こうの旗だ」
「全く、お前がのんびりなせいだ。ほら、行くぞ」
アラークの言葉にプラグは苦笑して、皆で走り始めた。


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次のエピソードへ進む 第17話 模擬戦(旗取り)⑥ -1/2-


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「えええ! 今のってあり!?」
緑組から抗議の声が上がった。
リズが手を挙げ、声を張り上げる。
「あー、諸君、静粛に! プラグの側に雷獣がいる、つーことは、仕切り直ししてもナイドが不利だから、誰も近づけないこの状況じゃ、どのみち後半すぐ、プラグかビリーに奪われる。人の動きより雷獣の方が早くて、雷河は動きが遅い。つか味方も危ねぇから自分も動きにくい。これが雷河の欠点だ。雷同士を当ててきたプラグの作戦か、二人を送ってきた青組の判断勝ちかもな。次から気を付けろよ!」
ナイドが膝をつく。
「ああー! ちっくしょー!」
「まあいい、気にすんな、次行くぞ。休憩入れ。後半気合い入れろよ!」
シオウが言った。
ナイドは「うっす!」と答えて立ち上がった。
「良かった……」
プラグは『アンナータ=ヴィス』が変化した雷獣に乗ったまま、旗を持って、ほっと息を吐いた。確かに休憩後でも同位置からなら、雷獣に乗ってしまえば、プラグでも、ビリーでもナイドの頭の紐を取れた。なるほどこういう基準になるのだと思った。
「プラグ君、大丈夫!? ごめん、私のせいで!! 感電した!?」
サラが大焦りで駆け寄って来た。
プラグは「大丈夫だよ」と言った物の、体は上手く動かなかった。
自力で降りられない様子のプラグを、ウォレスが心配そうに見て、またさりげなく横抱きに抱えて運んだ。
「ちょっと、見てもらおうぜ」
……ウォレスは将来、良い所に婿入りするかもしれない……。
プラグはそんな事を考えながら、大人しく運ばれた。
観衆は組を問わず皆を労ってくれた。
「いやあ、プラグ君、凄いね! ずっと一人で! 良く頑張った!」
「お疲れさん! いやー、シオウ君、強いね!」
「青い子、格好良かったよ! 惚れるかと思った! えっとウォレス君?」
「コリントさんもお疲れ様!」
精霊が教えたのか、皆、いつの間にか名前も覚えている。
救護所の天幕に入ると、ナイドも続いて入って来た。
「スマン! だいじょぶか? 加減はマヌちゃんに任せたんだけど」
マヌ=ヴィスは霊体で浮いているようだ。
「ごめんね、私がトロいせいで……! 次から気を付けて、しっかり避けるから!」
涙目のサラにも言われて、プラグは微笑んだ。
「大丈夫。痺れてるけど、これなら十分か、十五分もあれば取れそう」
そして、イサーク医師が診察してくれた。
イサークは三十代半ば、長い金髪を一つ結びにして、眼鏡をかけた細身の医者だ。
医者なので今日も白衣を着ている。隊士ではないので白衣の下は生成り色のシャツに緑色のズボン、脱ぎやすそうなブーツというラフな格好だ。彼の左腕にも救護の腕章がある。
救護所の天幕には敷布のある場所とない場所があり、敷布は奥の方に敷かれていた。
プラグはブーツを履いたまま、敷布の上に腰を下ろしている。
イサーク医師はまず治療のプレートを試したが……やはり痺れには反応しなかった。
「『治療』は雷による火傷は治せるけど、痺れには反応しないんだ。熱は無いけど……具合は悪くない? 吐き気は? 目眩とかは?」
「大丈夫です」
その後、イサーク医師は変わった形の聴診器を胸に当てた。彼が普段使っている物より新しい型のようだ。
次に小さなハンマーのようなもので、足や手を軽く叩いて痺れがあるかを確認した。
「手は大丈夫だけど、まだ下半身に痺れがあるね。火傷はしてないから脱水になることはないと思う。でも十分間、休んで痺れが取れなかったら、無理せず、もう五分休憩すること、いい? 衝撃が神経に来てるかもしれないから、目眩がしたらすぐ休む事」
「はい。大丈夫そうです」
「油断は禁物だよ」
「……あの、その聴診器、初めて見るんですけど」
「ああ、これ最近できた最新型。試作品だって。音の結晶が埋め込まれていて、体の音が凄く良く聞こえる。もともとの聴診器も、悪く無かったけどこれは凄いね。軽いし使いやすい――でも、やっぱり前の物に戻すつもりだよ」
新しい聴診器は、耳に入れる部分から伸びた細い管、そして体に当てる丸い金属だけの構造だ。医療鞄には以前の聴診器も入っていて、そちらは構造は似ているが体に当てる部分が細めのラッパ状になっている。
新しい物の方が軽くて使いやすそうなのだが……。
「それはどうしてですか?」
「ん、ああ、『結晶器具』に頼り過ぎると結晶が壊れたときに診察できないからね。後は、便利すぎて医学の発達の妨げになる。この加減が難しいんだ――と父の受け売りだけどね」
イサーク医師が微笑んだ。プラグは感心しつつ頷いた。
「なるほど」
「さ、安静にして、少し横になる?」
「いえ、このままで。大分、取れてきました。膝くらいまで感覚があります」
「相変わらず、丈夫な子だなぁ」
プラグは苦笑した。ルネとの稽古の後、たまにお世話になっているのだ。
怪我は治療のプレートでほとんど治るのだが、治す程でも無い小さな怪我は、リリや隊士達、あるいは自分で手当することもある。勿論、ルネも手当てしてくれるが、その後の、経過観察や包帯換え、消毒などは医務室でやっている。
「まぁ……あまり無茶はしないように。あ。霊脈を診られる医者、探してるんだけど、全然いなくてね……それはもう少し待って」
イサーク医師が溜息を吐いて立ち上がった。
「はい。ありがとうございます。大丈夫です」
プラグは頭を下げた。
『プラグは霊脈が傷付いているかも』と言う話をルネがしたらしく、専門の医者を探してくれているのだ。
イサーク医師は次にサラを診察していた。
「サラちゃん、派手に飛んでたけど大丈夫? どっか打ったりしてない? 痛いところは無い?」
「あ、はい。アナが風で受け止めてくれました。精霊達も支えてくれて、平気です」
プラグは見られなかったが、アナ=アアヤと精霊達がしっかり受け止めたらしい。
「打ち身とか打撲とか、後で出て来る事があるから、痛くなったら医務室に来てね。青痣とかも後でできるかもしれないから。他の二人は? ウォレス君は、疾風で早く動くと体に負担が掛かるから、筋肉痛に注意してね。ビリー君はまあ大丈夫だと思うけど、雷獣は動きが速いから、そうだね、お尻に痣が出来るかも?」
イサーク医師の言葉に、ビリーが頷いた。
「ちょっと痛いっす」
「よし、ここで見てあげようか? お尻出して」
「――いやそれは勘弁っす!」
イサーク医師は笑っている。
ナイドもついでに、イサーク医師に尋ねていた。
「イサーク先生、マヌちゃんの加減、これくらいでいいっすか?」
「うん、大丈夫だと思う。本当はもう少し弱くてもいいんだけど、それだと動きが止められないから……ただし、十秒以上は当てないこと。誰かが気絶したら外に出すか、解くかする事」
「了解っす! バチってなって、ビリビリってして、その後、痺れてしばらく動けなくなるくらいっすよね! マヌちゃん、これでいいって」
ナイドが、マヌのいる場所を見た。加減は相談していたらしい。
「じゃあまた、隙あらば使うんでよろしく!」
ナイドは宣言して出て行った。
プラグは溜息を吐いた。
「もう当たりたくないな。皆も気を付けて、すぐに飛翔で距離を取って」
ウォレス、ビリー、サラが頷いた。
「みなさん、お水どうぞ~!」
ターシェル=リンドが水を持って来てくれた。
救護所には簡素な机が一つあって、複数の水が並べてある。皆で順に取り、取った候補生は天幕から離れて飲んでいる。
アルスは脱落者の敷物から立ち上がって応援や手伝いに奔走していた。
アルスはシオウ達を応援しているらしい。残念そうにナイドに話し掛けていた。
「惜しかったわ! でも一度奪ったんですもの! 凄いわ」
「ああああでも、くそ、後の事を考えてなかった!」
ナイドが顔を赤くして嘆いている。プラグは『もしかしてアルスが好きなのかも?』と思った。
「はいはい、ほら水、飲めよ、お前ら、皆、お疲れ」
シオウは仲間に水を渡している。とても楽しそうだ。
「っとにプラグ、やべーな……ホントに強い……へこむ……」
膝を抱えているのはコリントだ。がっくり項垂れている。
「コリント、てめー、あっさりやられてんなよー」
リズに言われてコリントが項垂れた。
「スンマセン……」
「まあリゼラがまだ出て来てないからな。後半だ。赤組、勝てよ~! 飯、賭けてんだからな!」
「緑は?」
コリントが尋ねた。
「よくわかんねーから今回は赤に賭けた!」
リズはそう言って去って行った。
溜息を吐くコリントに、いつの間にか見に来ていたフォーンが声を掛けていた。
「特訓し直さないとね……付き合うよ。って言うか僕達も一対一じゃ勝てないんだから、落ち込まないで……いや、僕も落ち込みそうだけど。頑張ろう」
「はい、お願いします……!」
コリントが頷いた。
プラグ、ウォレス、ビリーは水を飲みながら、後半の話し合いをした。
もちろん、サラもそのまま側にいて話を聞いている。ここにいる青組はこの四人だけだ。
ウォレスが眉を顰めた。
「今、旗、どこにあるんだろう。俺達が一本、アラークが取ったんだけど、その時、緑組が沸いてきたんだ」
ウォレスの言葉にビリーが頷く。
「そうしろ、ってシオウに言われたみたいで。でも、アラークが俺は逃げるから、お前等はプラグの援護に行けって言ってくれて、先に来たんだ。雷獣――アンナータって早いのな」
アンナータは雷獣のままでは周囲が感電してしまうので、先程、霊体に戻っていた。
「そうだったのか。助かった。アラークは凄いな……旗はどんな感じだった?」
プラグは一本杉の様子を聞いた。
するとウォレスが「あ!」と言った。
「落とし穴、あったぜ。それで色々大変だったんだけど、時間がないし、その話は後にしようぜ。森にアドニス組が結構、っていうかほとんどいたんだけど、肝心のリゼラさんとアドニスがいなかったから、二人は厩舎かも。――ここに緑が大勢いるけど、なんか、火の奴らだけっぽいよな。そう言えば、向こうにいたのは水とかだったかも……。あと、ナージャとペイトも見てないな。緑の旗を守ってんのかな。後半どうする? 俺達も移動するか?」
プラグは少し考えた。
「……じゃあこうしよう。ビリーは雷対策でここに残って。ウォレスはまず、厩舎に走って、ナージャ達の様子を見る。それをアラーク達の所に伝令。アラーク達がまだ旗を持っていたら、俺の所に報せに戻ってくれれば、俺とビリー、ウォレスで揃って応援に行く。少し遠回りだけど、早めに旗の位置を把握しておきたい。シオウ達は俺がここにいれば、たぶん、集まってくると思う……なんとなくだけど。特に伝令も合図もなしに人が来てたし、雷河のタイミングも決まってたみたいだから、シオウから、そういう指示が出てる気がする。アドニスはリゼラさんを上手く使ってる。さすが、中々手強い……」
ビリーが唸った。
「向こうも大変だったぞ。何か良い方法あるのか? こっから勝つ方法だけど」
「あると言えばありそうかな……ウォレス、まだリルカとキールが生きてるから、旗をアラークが持っていたら、リルカに渡してこっちに逃げてくるように言って。それでアラーク達には、疲れてるかもしれないけど、三本目の旗を狙ってもらおう。二本あったら、最後の一本だから……ただ、シオウ達が全力で来たらもう、最後は乱闘だな。結局、シオウが王様だからシオウを倒さない限り、シオウ達の組はしぶといと思う――アドニスといい、手強いにも程がある……いや、もう少し考えさせて……他に良い方法があるかも……」
プラグは思考を巡らせた。
「雷獣で旗を持って逃げ回るのは?」
ウォレスが言った。
「いや雷獣は早いけど、意思疎通が必要だから、乗った感じ、飛翔相手だと負けるかも。あと、複数人に囲まれたら不味い。さっきはナイドが油断していて、動けなかったからできた。判定で勝てたのはたぶん先に頭の紐を取ったのもある。俺がもし旗を狙っていたら、避けられたかもしれない、ってことで後半仕切り直しになったかも……」
助けが来なかったら、感電した後、プラグは紐を取られて脱落していただろう。
(本当に助かった……)
そこでプラグは、はっと閃いた。
少し考え、これだと思った。
「……。よし。決めた――三人とも、ちょっと近づいて、精霊達も耳貸して。内緒話だ」
プラグはウォレス、ビリー、サラに近づいてもらい、自分もナダ=エルタを出した。
「おつかれさま、ナダ、出てきて」
「――あれ、どうも、どうなりました?」
ナダ=エルタが首を傾げる。
「色々あったけど、なんとかなった。今から皆に、後半の作戦を伝える。もっと、近づいて」
精霊達――ウォレスとビリーの精霊は霊体で、アナ=アアヤとナダ=エルタは実体だ。
サラも含め輪になったあと、内緒話を始めた。
「ちょっと長く話してる感じを出したいから、適当に長く話すけど。いい? 今、俺達は二本の旗を持ってるかもしれない。とりあえず、ありがとう。あとアルスともなんとか仲直り出来そうかも。それはさておき作戦だけど、――もうちょっと話が長い方がいいかな。………………、よしこのくらいで。二人とも落ち着いて大げさに反応せず、冷静な振りをして聞いて欲しいんだけど。――俺達は、すぐにアラークの所へ行こう。三人で」
プラグの言葉に、皆がはっとする。プラグは頷いた。
「理由は、たぶん切羽詰まってるだろうから。作戦とか考えてる場合じゃ無いかも。助けてもらったから、助けに行く。旗を奪われていたら奪い返す。貸し借りは無し。その後の事は合流してから考えよう」
「よし、それでいこう」「いいな、それ!」
ウォレスが控えめに頷き、ビリーも小さく頷いた。
「あ。俺は雷獣に乗ったままの方がいいか?」
ビリーが尋ねてきた。
「いや、飛翔でいい。アンナータは雷獣の姿のまま先に進んでもらって、アラーク達の助けに入ってもらおう。一キロもないから。あと忘れずに剣も使ってね」
「あ。わかった。そうだった。雷獣が便利すぎて忘れてた」
ビリーが腰の剣に触れて苦笑した。
「プラグはちょっと休憩した方がいいよ。俺達も休む」
ウォレスの提案で、プラグ達は会話をやめて少し休む事にした。
プラグは痺れが取れてきたので、天幕から出て準備運動を始めた。
まだ少し違和感はあるが行動に支障は無い。
「よし。サラは……そうだな、こっちに残って、誰か来たら治療をして欲しい。あとこっそり、ここに来た人達の様子も見ておいて欲しい。誰も来ない可能性もあるけど、脱落者が来るかもしれないし」
プラグは苦笑した。プラグ達が移動したらシオウ達も動くかもしれない。そうしたら、誰もいなくなってしまい、観客は退屈になるだろう。
「分かったわ」
サラが頷いた。
「向こうから、脱落者が来ませんね……?」
リリが一本杉の方向を向いて、次に厩舎の方を振り返った。
リズが首を傾げる。
プラグもそれは不思議に思っていた。
一人くらい紐を取られた候補生がいてもおかしくないのだが……?
「確かに。おいフォーン、ちょっと見て来てくれ」
「わかりました」
フォーンが頷き、行こうとしたとき、西側、一本杉へ続く方向からグイットが来た。後ろには脱落者がいる。
「報告です! あちらの脱落者を連れて来ました、えーっと、十、いや十一人です」
グイットは補佐として入っていたらしい。
赤組はブライ、ドリュク、レジナル、リアンナの四人。
青組はジャソン、ポーヴィン、エイド、キール、リルカの五人。
緑組はダニエル、ピート、アンドレアス、リカルドの四人だった。
かなり混戦になっていたらしい。
厩舎側からは誰も来る気配が無い。
「おー、よし、じゃあ十分経ったし、先に開始だ!」
リズが言って、ユノがバチを手に取る。
「ラウ、脱落者との会話って、始まった後はできる?」
プラグはラウに尋ねた。ラウとラ=ヴィアは休憩中、二人で話し会っていたが、既にプラグ達の側に戻って来ていた。
「いいえ、できないです。休憩中はできますが――」
休憩はもう終わる。
「わかった。大丈夫だ。移動するからついてきて――」
プラグはウォレスとビリーに言った。二人とも準備は終わっている。
するとウォレスが青組の脱落者を見て眉を顰めた。
「そういや、ポーヴィンの『腐食』のせいで、相手の剣がボロボロになったんだけど。でもあいつ、捕まったんだな。って言うか女子組がやられてる、嘘だろ」
ウォレスの言葉をビリーが引き継いだ。
「そうそう。その後、プレートで混戦になって、キール達が援護して、アラークが頑張って旗を取った。俺達が見たのはそこまでだった……あれ、ヨアヒムが残ってんのか?」
青組で一本杉に残っているのはアラーク、ロルフ、ヨアヒム、エミール、カトリーヌの五人だ。
「急いだ方がいいかもな。サラ、じゃあ後はお願い」
サラが頷いた。
「では、始め!」
開始の銅鑼が鳴った。
■ ■ ■
後半開始の銅鑼が聞こえる少し前、アラークは立ち上がった。
今ここに残っているのは、アラーク『リザベ=ナーダ(火/火渡り)』、ロルフ『ゾーエ=ヴィス(雷/迅雷)』、ヨアヒム『スルフィ=アアヤ(風/狂風)』、エミール『(水/水精)』の四人だ。
――アラークは前半戦の出来事を思い出した。
アラーク達は前半戦開始と共に、作戦通りに組に分かれ、一本杉を目指した。
周囲を警戒しながら進み、一本杉が見える辺りで一旦止まり、アラーク自身のリザベ=ナーダに偵察をしてもらった。
「罠がアリマス」
リザベが言った。
一本杉には、見事に罠が仕掛けられていた。
旗の周囲が一メルトほどを残し、周囲が掘られて、四角い掘り――塹壕になっていた。
塹壕というには広く、幅は三メルト、深さは四メルト以上はありそうだったと言う。
そして掘り返したらしい土が杉の脇に盛り上がっている。
「後でちゃんと埋めるんだろうな? 手伝わねぇぞ俺達は……」
思い切りの良い罠にアラークは呆れた。
そして、中央にはフィニーが一人……そして木の上に赤組が沢山いたと言う。
「全部見えませんでしたガ、ざっと見えただけで七人はイマシタ。それと、二人が塹壕の中にイマス」
アラークの『リザベ=ナーダ(火/火渡り)』はキルト語を話してくれる精霊で、翻訳のプレートが必要ない。片言だが充分流暢だ。
彼女は火の精霊にしては珍しく、肌の色は人に近い。しかし目は真っ黒で、白目は少なく黒目がちだった。
赤く短い髪は燃えていて、服はスカートが短く、火でできていて、メラメラと燃えている。赤いブーツを履いているのだが、それもやはり火でできている。真っ赤な翼は鳥のような形状で、尻尾は長くて、燃えている――どこか紅玉鳥を彷彿とさせた。側にいるだけで熱いし燃えるので、普段は霊体になってもらっているが、今は実体化している。
塹壕の中にはレンツィとマシルがいると言う。
「二人のプレートは何だった?」
するとエミールが持つ『リジット=エルタ(水/水精)』が教えてくれた。
「レンツィさんは『剣風』のプレート、これは長い髪の毛を刃にして広範囲に攻撃してきます。マシルさんは『烈風』これはとても強い風です。吹き上げたら近づきにくいと思います」
リジット=エルタは水色の長い巻き毛に、灰色の瞳を持ち、真っ白な袖無しドレスを着た女性精霊だ。ドレスはぴったりしたデザインで、膝から下だけが広がっている。耳や背中からは水晶のような鉱物が生えていて、これが彼女の耳と羽らしい。
「最悪だな……」
アラークは言った。
プラグがゼラトの作った落とし穴があるかもしれないと言っていたが、ここまでしっかり掘るとは思わなかった。
「――緑組は?」
「見当たりマセン」
リザベ=ナーダが答えた。
「どうする」
エミールが言った。アラークは唸った。
「ヤバイのは分かる。えーっと――カトリーヌ、お前確か、水だよな。あの塹壕に水を満たせるか?」
アラークは黒髪、黒目の少女、カトリーヌに尋ねた。
カトリーヌが精霊『ルメード=エルタ(水/渦潮)』に聞いて、頷いた。
「できるそうです」
「お! じゃあそれでいこう。これ以上作戦を練っても仕方無い。とにかく全力で突破だ! あでも、リルカ達は援護な。まず俺達とウォレス組で行くから、エミール組も援護、緑が来たら守ってくれ。各組作戦を立ててやってくれ」
「了解!」
二十分しか無いのでアラークはそう言った。しかし迷いが生じて動くのをためらった。
アラークが動かないので皆も足を止めている。
「……どのみち、旗を奪わないと話にならない……でも奪ったら、どうする? すぐプラグの所に行くか?」
するとエミールが首を振った。
「待った、すぐ行くのは不味いよ。そのまま敵を引き連れることになるから、作戦通りに粘って、できれば、数を減らす方がいい。引きつけ役もしておかないと」
アラークは作戦を分かっていたが、罠を見てひるんでいた。エミールに言ってもらえて良かった。しっかり頷く。
「よし、そうしよう。エミールは下がって、じゃあ、ウォレス、アイリーン、カトリーヌ、行くぞ、ああもうカトリとアイリでいいな? 二人は俺の少し後ろでこい、守りはリルカ達で」
「わかったわ」
アイリーン、リルカ、キールが頷いた。アイリーンとカトリーヌはいちいち名前が長いのでアラークは略すことにした。
そこで、支援の女子がいる事にも気が付いた。考える事が多い。
「治療班は決めたとおりに!」
そしてアラークは森の一本道を進んだ。走ろうかと思ったが、ふと、急いでも仕方無いのかも、と思った。
「ルメードさん、お願いします……!」
カトリーヌが『ルメード=エルタ(水/渦潮)』に命令して、ルメード=エルタが大量の水の渦を発生させて、塹壕に向けて放った。
アラークはその時『あれ、精霊に直接言えばいいんじゃね?』と思った。頼んで命令してもらうよりその方が早い。いっそプレートを手に持って発動してもいい。しかしアラークはまだプラグほど精霊を覚えていない。頼むにしても精霊の名前と効果くらいは覚えておかないといけないのだ。
ルメードの水は渦を巻き、塹壕を満たすかに思われた。
ところが――。
塹壕の中から烈風が吹き荒れ、なんと水の大半が外に流れた。流れた水が木の周囲にどんどん広がっていく。
「うそ!?」
カトリーヌが驚いているが、ルメード=エルタは両手を真上に伸ばし、そのまま水を放出している。ルメード=エルタの頭上から渦が始まりその渦が湾曲して塹壕に向かうという、圧倒される光景だ。そしてその軌道は風により邪魔され、揺れて、水をまき散らしてうねっている。水しぶきはこちらまで飛んで来た。
ルメード=エルタが気合いを入れる。
「烈風です! このまま水を放出し続けます! 勝てます!」
「勝てるのか!?」
アラークは驚いた。
「おそらく! 周囲警戒して下さい!」
ルメードの言葉でアラークは我に返り、どうするか考えた。
木の上を見て、左右を見る。
「アイリーン、行くぞ! 水はそのまま出して、もしできれば援護してくれ! 満杯でなくても塹壕から二人を出せば良い!」
「分かりました!」
「主、トアゼに注意シテ! 波紋、水があると強イ!」
リザベ=ナーダが警告する。
「分かった、こっちは火だ、やってやろう、アイリーン、とりあえず火! 皆、攻撃をフィニーに向けろ!」
「はい! 最大で――フィニーに!」
アイリーンが言うと、一メルトほどの火の玉が二つ現れた。
この効果は授業で見た事がある。確か、地面などに落ちると閃光と共に燃え広がる。
しかしフィニーが盾で身を守り、ついでに水の流れを引っ張って――としか言えない――水が円を描くように湾曲して水の勢いを殺したのだ――塹壕に火が入らないようにしてしまった。
「ちょっと、やばくないか!?」
「水!」
とレンツィとマシルが声を上げる。
「アイリーン、とりあえず連続でフィニーを攻撃、精霊、各自、適当に候補生を援護、候補生は突っ込め! 俺は行く! もう指示は無理だ、各自、好きな所攻撃しろ!」
アラークは言った。これはもっと精霊の扱いに慣れなければ作戦を立てられない。
反省は次に生かすとして、とにかく突っ込んで覚えるしか無い。
「とにかく突っ込んで覚えろ! 盾で防ぎゃなんとかなる!」
アラークは突撃することにした。
しかし当然のごとく、旗を守る為の攻撃が一斉に振ってくる。雷、水、火、風、属性もバラバラで、とても近づけない――しかし、キールが弓矢を放ち、木の上の候補生を焦らせていく。
そこでドリュクが木に向けて火を放った。木の一部が燃え、三名が落ちたのだが、アラークは焦った。赤組の精霊が慌てて消化している。
「待った、一本杉は燃やすな! フィニーの相手は俺がする! 誰か回り込め!」
「俺が行く!」
アラークの言葉に『疾風』のウォレスの返事が聞こえた。移動は早すぎて風だけ感じた。
一瞬遅れて『雷獣』のビリーと『迅雷』のロルフがついていった。
アラークはアイリーンの火球が熾した火の海を飛び越える。するとリザベ=ナーダが援護してくれて、火を引き連れて旗の島へ乗る――と思ったら、横から鋭い何かが飛んで来た。
「ッ」
アラークは躱し損ねるところだったが、幸い、盾で弾くことができた。すぐにリザベ=ナーダが火で壁を作る。
攻撃してきたのはレンツィの精霊だった。そしてレンツィが炎を避けて斬り掛かってきて、アラークは体勢を崩して、塹壕の手前に膝を突いて着地した。そのまま不利な体勢からレンツィの刃を受ける事になった。横に転がり間合いを取って立ち上がる。
そしてそのまま、レンツィとは剣での戦いになってしまった。
レンツィの精霊はというと、こちらはリザベ=ナーダ、効果は忘れたが、エイドの雷属性精霊が攻撃して押さえている。
『火渡り』は火の上に乗ることができる便利なプレートなのだが、精霊と一緒だと息を合わせる必要がある。思ったより精霊と戦うのが難しいのだ。
「青の精霊達、一気に旗を攻撃! たぶん押せばいける! えっと、ボーヴィン、お前もなんかやれ!」
「あ、うん!」
アラークはレンツィと剣で押し合いをしながら、突っ立っていたポーヴィンに指示を出した。
「片っ端から! なんかやれ!」
「わかった、お願いします!」
「はい~」
間の抜けた声で、珍しいぽっちゃり系の精霊が答えた。金髪碧眼の長髪巻き毛で、白いゆったりとした、古風なドレスを身に纏っている。二の腕に金の腕輪をしているが少々食い込んでいる。羽は真っ白で小さく、鳩か鶏のようだった。
しかし動きは素早かった。
「エッ」
ちょうどレンツィが打ち込んできたのだが、彼女は羽ばたいて、一瞬で距離をつめて、レンツィの刃に触れて通り過ぎる。
そして、レンツィの剣が触れたところからバキリと折れた。
「えっ!?」
これにはアラークも驚いた。鉄を脆くする、とプラグが言っていたが本当に脆くなってしまった。レンツィも目を丸くしている。
「私の力はですね~、触った金属を腐食させます~! 触らないといけないんですけど~素早いので~触れます~」
「どんどんやってくれ! ――腐食の精霊!」
アラークは叫んだ。
「はい~!」
精霊は微笑み、間を縫って飛んで行く。フィニーは慌てて剣を収めていた。確かにそうしてしまえばできない、のだろうか?
そしてやはり名前が分からない。なんだっけアイツ、だ。一応、自己紹介で聞いたのだが、精霊は多すぎてややこしい。
「ル・フィーラ!」
「きゃあっ」「うわっ」
初めてだから仕方無いが、皆、慣れていない。しかしそれは赤組も同じに見える。
青組は勢いが良いのだが、その勢いを見て戸惑っているのだ。
戦ってもいいのかな、という逡巡があり、有利な位置を生かせていない。
木の上で足場が悪いのが影響しているのと、キールの弓矢や、精霊の攻撃が正確で効いている。
ウォレス達が後ろから追い立てた事も重なり、木の上には一人もいなくなった。
そして地上で皆、精霊は精霊同士で牽制しあい、候補生は候補生同士で戦い初めている。
フィニーはぽつんと中央の島に突っ立っている。がトアゼは忙しく攻撃を防いでいる。
突っ立っているフィニーも、一応、攻撃は盾でしっかり受けて旗を守っている。
レンツィに阻まれて中々近づけず、アラークは焦り始めたが、考え直す。これだけの人数がここにいるのだ。プラグは楽に違い無い。レンツィの相手をしながら、位置を変えて背後を見てみた。すると緑組が監視をしているのを見つけた。加勢してこない――? 理由は『作戦』としか思えなかった。つまりここにシオウがいないのだ。
……これは当たり前と言えばそうだが、シオウはプラグを倒しに行ったのだろう。コリントもいないと言うことは、そちらもプラグが相手している……?
もし居ればあっと言う間にやられていただろう。
要するに、皆、初回で慣れていないのだ。そこでアラークは閃いた。
「あ、そうだ、青組! 紐取れ! 忘れてた!」
「あっ!」
「とにかく人数、減らしていこう、ちょっと減ったら旗を狙う、俺が旗を狙ったら精霊達は全力で援護だ! いいな!」
「はい!」
精霊達が頷いたのを見て、アラークはフィニーに突進した。いまちょうど混戦になり、塹壕の周囲がぽっかりと空いているのだ。
島に乗って、フィニーと対峙する。
フィニーは正直、格上の相手なのだが、ひるんではいられない。
「援護シマス! 火球下サイ!」
アラークはリザベ=ナーダの頼もしさに気が付いた。アイリーンの精霊も援護してくれる。火炎と共にフィニーに突っ込むが、トアゼも周囲の水を円形に巻き上げて上手く防いでいる。属性ではこちらが不利だが、威力は高い。
ふとフィニーが動かないのは、旗をまだ誰も取っていないからだと思い出した。
自陣の旗は誰かに取らせないと持ち歩けないのだ。レンツィをエミールが押さえて、ウォレスやロルフ、ビリーは幾人かの紐を取っていた。そして紐を取ってしまえば治療が入る。その分楽になる。頭を狙っているが、腕も取っている。
「前半、あと五分!」
と言うグイット隊士の声が聞こえた。はっとする。
「リザベ、プレートに戻ってくれ!」
「エッはい!?」
「アイリ、火球できるだけ連発――」
アラークはプレートを持って最大の火力で火を巻き起こし、フィニーが避けた所で旗を取った。そして『初めからこうすりゃ良かった』と思ったのだった。
――旗を取った後、緑組が一斉に飛びかかってきて、アラークは逃げ回ることになった。
作戦を覚えていたので、プラグの援護にウォレスとビリーを送ったが遅かったかもしれない。少し慣れて来た今では、この人数でここにいる意味がないと思えた。
「カトリ、お前、緑の旗を偵察できるか? 取ってプラグと合流してもいいし、そのまま監視してもいい、任せる!」
カトリーヌに近づいたときに伝えて、カトリーヌは頷き去って行った。
その後、緑組に囲まれてキールが頭の鉢巻きを取られた。
リルカはフィニーと一対一で戦っていたが、キールがいなくなった後、接近戦になり、右手の紐を取られ、頭の紐も取られてしまった。アイリーンも緑組に狩られた。
こうして見ると、順位の低い者から狩られている。
「ヨアヒム! 風!」
ここで意外に役立ったのが最下位のヨアヒムだ。彼の狂風は軌道が読めない上、かなり範囲が広く、しかも程良く殺傷能力があるので、皆が一瞬、盾で防ぐのだ。しかし、防ぎ切るのは難しく、アラークも、仲間も、敵も皆、小さな切り傷だらけになっている。大した傷では無いから精霊が加減しているのだろう。
ヨアヒム自身もすばしこくて、中々上手く逃げている。
アラークはフィニー相手に走りまくって必死なのだが――。
フィニーの手がアラークの頭に伸びたとき、銅鑼が聞こえた。
「前半、終了!」
グイット隊士の声と共に、アラークは膝をついた。
「はぁ、はぁ、まじヤベーなんだこれ……しんどっ」
「はぁ……もー! 取れない! 追いかけっこ?」
フィニーも尻餅をついて息を吐く。
アラークは汗を拭った。
グイットの明るい笑い声が響いた。
「よーし、皆、十分の休憩だ! 初めてにしては良いぞ! 治療が済んだら、失格者は俺と一緒に戻るぞー、水あるからな、飲めよ!」
木の少し後ろに、僅かな観客と見学の隊士、精霊達がいて水を用意してくれていた。
「はーい……」
たった二十分だったとは思えない程、皆汗だくになっている。
木のコップが差し出されたので顔を上げると、エマがいた。
「アラーク君、お疲れ様、大丈夫? これどうぞ。――怪我、治すわね」
「あんがとな……」
アラークは座って水をごくごくと飲んだ。
「ル・フィーラ・ディアセス!」
エマが治療のプレートでアラークの生傷を治した。
水を飲み終える間に、傷はあっと言う間にふさがる。コップから口を離して溜息を吐いた。
「あ゛ー……俺、こんなに怪我したの初めてだぜ……領土騎士やっときゃ良かった……!」
エミール、レンツィなど領土騎士団出身の平民は結構いい動きをしていた。
逆に、貴族のマシルは戸惑っていた。同じく貴族のフィニーも少々戸惑っているようだったが、持ち前の優秀さとトアゼの指示で上手く動いていた。
アラークも貴族で、鍛練はしていたが……こんな風に大勢の訓練や、何ヶ所も怪我をした事は無かったのだ。
「でも凄く頑張ってたし、旗、持ってるじゃない! 凄いわ」
エマに言われて旗を見た。確かに、旗が取れて奪われなかった。
「あ、そうだ……」
アラークは思い出して上を見た。
リザベ=ナーダが浮いている。
「リザベ、大分助かった、ありがとな……」
「イエ! イー感じデシタ!」
リザベが目を細めて、両手の親指を立てて微笑んだ。
アラークは正直、この精霊の瞳が動物っぽいし、姿が焼き鳥みたいで少し不気味だと思っていたのだが、キルト語も話せるし、頭はいいし、良く見たら可愛い気がする。
「リザベのおかげだって、これからも頼む……ほんと、難しいな――プラグはどうだろう。おい、青組、集まれー」
隊長なので青組を呼び寄せて、後半どうするかを考えた。
「とりあえず旗は守った。が、正直グダグダだった気がする。後半は速攻で逃げて、プラグと合流するぞ。あいつの戦い方を見よう」
異論は上がらず、皆が頷いた。
「こんなにやりにくいって聞いてない」「俺、途中から自分でプレート使ってた」「俺はずっと守ってもらってた。紐取れねー!」
アラークは溜息を吐きながら頷いた。
「あいつ実戦経験ありそうって隊士が言ってたし、後半は合流して指示に従おう。二回戦もその方向で。まずは効率の良い戦い方を覚えないと話にならない。あと、精霊の名前と効果も覚えないと駄目だ。お前等全員、女子も宿題だぜ。俺もだけど、名前わっかんねー! 多すぎだって!」
アラークの嘆きに精霊達が苦笑した。
リザベは「ソレとかアレでいいデスよ」と言っている。精霊にとっては毎年のことなのだろう。
青組で生き残ってこの場にいるのは、アラーク、ロルフ、ヨアヒム、エミールの四人だ。
ウォレスとビリーはプラグの救援に向かい、カトリーヌは緑組の偵察に出している。
カトリーヌを送った理由は説明しにくいのだが、彼女のプレート『渦潮』が防御もできそうだったから……かもしれない。
「三人向こうにやったとは言え、結構減ったな……ウォレスとビリーは間に合ったか? ヨアヒム、お前結構、すばしこいな。残るとは思わなかった」
「へへっ、スルフィが結構、凄いんだな」
ヨアヒムが嬉しそうにはにかんだ。彼は亜麻色の髪で丸っこい頭、薄紫の瞳が印象的な、一番背の低い少年だ。少し前は最下位だからと落ち込んで、辞めようかな、と言っ泣いていた。活躍できて嬉しそうだ。個人の実力としてはやはり微妙なのだが、小柄で小回りが利く。模擬戦では役に立ちそうだと思った。
「でもお前、一対一になるとたぶん不利だから、逃げ回って攪乱の方がいい」
「わかった」
ヨアヒムが頷いた。
「なあ、俺はどうだった? いや見えてた? あれでいいのかな」
濃紫髪に紫目の少年、ロルフが言った。
ロルフは『ゾーエ=ヴィス(雷/迅雷)』を持っている――これは名前が格好いいので覚えていた――自己強化型の精霊で、ロルフはかなり素早く動いて緑組の紐を取っていた。アラークも何回か助けられていた。
「ああ、良かった。その調子って感じ。エミールもかなり使いやすそうだな、その精霊」
「うん、水晶を出せるのって便利なんだな」
エミールが頷いた。
「火とか水って案外、制御が難しいのか?」
ヨアヒムが言った。
「ハァ? それを言うなら、お前の風だろ! めっちゃ切れたんだけど!」
エミールが呆れた様子で少し怒った。女子達が治療するわ、と言って治療を始め、ヨアヒムが唸る。
「ゴメン! でもこれって、制御できるのかなぁ……?」
「うーん」
皆で唸ってしまった。アラークも溜息を吐いた。
「精霊の攻撃って、スゲーよな。ちょっと威力がありすぎて、下手すりゃ木が燃えるし……でも、手に持って自分で調整もできるし、いつ何使えばいいか、良くわかんねぇ」
アラークの言葉に皆が頷いた。皆、考える事はだいたい同じらしい。
……精霊の攻撃はどれも思ったより威力があり、授業で試した時より強いのだ。
しかし、口頭で指示を出すとどうしても手間取ってしまい、言葉で伝える時間がもったいない。かといって任せきりでは思った攻撃と違ったり、加減が出来なかったり、あさっての方向へ行く事もある。
精霊を収めて、プレートは手に持って発動することもできるが、使い分けもよく分からない。
さらに、自分でも剣を持っているし飛翔で飛べるので……もうどれを使ってどう戦えばいいのか分からないのだ。
そして結論は「プラグに聞こう」となった。
「でも『精霊に聞け』ってあいつ、言ったよな?」
アラークは言った。
「でも、精霊もよく分かってない感じじゃね? どういうことだよ?」
ロルフが言った。確かに精霊もどうしよう、みたいな顔をしている。
隊士達がコップを回収し始めている。
ヨアヒムが周囲を見た。
「あ、もうすぐ終わる。これからどうするの?」
「つかプラグ、大丈夫か、シオウがいないんだけど、相手してるのか?」
エミールは心配そうに言った。
ロルフが頷いた。
「あとリゼラさんとアドニスもいないよな……まさか全員あっち?」
アラークが周囲を見ると、赤組、緑組と目が合った。
絶対取る、という表情をしている。アラークは少しひるんだ。
「開始と同時に飛翔で戻るぞ。固まって盾を出す。剣も抜いとけ。精霊は周りを守ってくれ! プラグと合流だ。あいつ、生きてるか?」
そして、後半開始の銅鑼が鳴り響いた。
■ ■ ■
後半戦開始と共に、プラグ、ウォレス、ビリーは走り出した。
精霊を出して全速力で、玄関を後にする。
ビリーの『アンナータ=ヴィス(雷/雷獣)』が先行する。
飛翔を使ってしまえば、一本杉のある裏の林までは一分程度だ。
「あ!」
そしてちょうど向こうから来たアラーク達が見えた。あちらも合流する予定だったらしい。
しかし後ろに赤組、緑組がいる。
「ナダ、あっちを援護! 適当に!」
「はい!」
ナダ=エルタが飛んで行く。
「ウォレス、ビリー、一旦、赤、緑から距離を取る。援護して――」
プラグは残っている青組を見たが、カトリーヌがいない。
先に一人で飛んで、アラーク達四人と合流して、声を張った。
「エミール! リジットも手伝って、ナダと一緒に攻撃!」
「あっ」
「あっはい!」
『リジット=エルタ(水/水精)』が周囲に向けて、水を放出する。ナダ=エルタは細かな氷を出して、水を凍らせて、更に無差別に氷の刃を出して周囲を牽制した。
「アラーク、カトリーヌは?」
「あっ、緑の方にいる! 偵察」
アラークが返事した。プラグは目を見張った。
「なるほど。よし! このまま少しここで粘ってみよう、皆は剣で赤、緑の紐を狙ってくれ! 精霊達は防御! 点数稼ぎだ! 女子は近くに来て治療に専念! シオウが来そうだったら逃げよう! あとアドニスとリゼラさんが来たら俺に任せて!」
プラグはあえて大きな声で言った。林の中だが、ちょうど見通しもよく戦いやすい。
「俺はフィニーを倒そう。たぶんリルカの仇?」
プラグは剣を向けて狙いを定めた。フィニーが「げっ」と声を上げた。
「――ウォレス、旗持ってて」
「えっ、おい!」
プラグは旗をウォレスに渡して、フィニーに近づいた。
「ひぇえ!」
と言いつつフィニーは剣を受けた。
「はいっと!」
プラグはフィニーの剣を巻き取り、柄に向かって刃を滑らせて、そのままたたき落とした。
膝蹴りを入れて、ついでに顔を殴って、右腕を引いて体勢を崩させて、頭の紐を取る。
「取った!」
取った後はすぐ跳んで戻り、長剣を収めて、左手で短剣を抜いた。
特に深い意味はないのだが、牽制だ。ハッタリとも言う。
短剣は本当は二本使いたいが、候補生はまず一本と言う事で柄を左に向けてある。
「長剣も飽きたし、二刀流にしようかな?」
そして長剣を抜く。プラグの様子を見た緑組は少したじろぎ――。
「どうする?」
「くそ、シオウと合流だ」
と言って、去って行った。やはりシオウからは何か指示が出ていたようだ。
赤組は「私達は?」と言って戸惑っている。
「……アドニスと合流しよう」
ゼラトが言って、去って行く。
赤組はここにいて旗を狙っても問題ないが、戦力を温存しようと言う事だろう。
赤組も去ったのを見て、プラグは息を吐いた。
「残られたら面倒だった。シオウが来ないと良いけど」
プラグはアラーク達を見た。
「お疲れさま、良かった無事で」
ほっとして微笑んだのだが、アラークは眉をつり上げた。
「お前、くそ、ムカツク!」
「ええっ」
怒鳴られてプラグはひるんだ。
「くっそ、心配して損した! あーもう……!」
「ええと、ごめん、でも旗、ありがとう守ってくれて、援軍も助かった」
「ああ、そんなの楽勝だって……! はぁ。で、どうするんだ? 向こうどーなってる?」
「俺、この旗、返す?」
ウォレスが戸惑って言った。
「いや悪いけど、ウォレスと――あとエミールは二人でその旗を守ってくれ。俺はシオウと戦うから持たない方がいいかも。あとリゼラさん達は向こうなんだな……。アドニスもそっちか。アラークは疲れてなければそのまま持っていて。大丈夫?」
「ああ」
アラークがこちらを睨みながら言った。
「ビリーとアンナータはアラークの補助をお願い。あと十五分くらいか……いけるかな」
「いけるだろ」
とアラークは言ったのだが、プラグは唸った。
「そうだな、やってみよう」
「出来ないって思うのか?」
「守る事は出来るけど、奪うとなると、二組が敵だからな。三組バラバラならやりようはあるんだけど……さて……」
「敵なのはお前のせいだろ……全く、で? どうすんだ、二本あるとして、この旗を守れるとして、もう一本取りに行くのか」
プラグは頷いた。
「最後の旗は、シオウとアドニスが協力して守っていたらたぶん取りにくい。下手したら開始から全く動いてないかも……。頑張るけど。シオウとアドニスが協力してなかったら、頑張って取ってみよう。その場合リゼラさんがいるんだよな……」
このまま守っていても、たぶん負けないし『どこも勝たない』と言う結果にはできる。
すると――。
誰もいない一本杉の方から、カトリーヌが『飛翔』で走って来た。
「あ、カトリーヌ!」
ロルフが言った。
アラーク達も驚いている。
カトリーヌは息を上げているが、息を整えて続けた。
「はぁ、恐かった。……向こう、偵察してきました。緑の旗には、ペイトとナージャさんいましたが、アドニスさんとリゼラさんがいて、ずっと戦っていました。私は遠くから、精霊に頼んで見てもらって、しばらく見ていましたが、とても割り込めなくて逃げて来ました。私が見た時はペイトさんが旗を持っていましたが、劣勢で、たぶんアドニスさんかリゼラさんに奪われると思います。でも、ナージャさんが曲がる水で上手く援護していました。……でも、もしシオウさんが来れば分かりません。すみません、何も分からなくて……」
彼女は戸惑った様子だが、プラグは感心した。
「霊体で見て貰ったんだね? それで逃げて来た」
「ええ、私の力では、それしかできなくて……」
カトリーヌが不安げに言ったが、プラグは微笑んだ頷いた。
「ありがとう、充分だ。偵察で一番厄介なのが精霊だから正解だ……あ。たぶんだけどね。――今、緑組が引き上げて行ったけど、これは元々の作戦だと思う。後半に集まるとか? 赤組は作戦じゃなくてアドニスに指示を仰ぎに行ったと思う。罠があるから、旗を取れると思ってたはずだ。断定はできないけど、可能性は高いと踏んでいたはず……さてどうするか」
プラグは旗を取るか迷ったが……ここで失敗しても、行くしかないと思った。
「よし、行こう! シオウとは真っ向勝負になる。勝てるかは分からないけど、模擬戦、しかも一戦目でひるんでいたら駄目だ。負けてもいいけど、勝つつもりで! リゼラさんとシオウがつぶし合ってくれたら嬉しいけど、多分無理だな。よし」
プラグは気合いを入れて、アラークを見た。
「アラーク、リゼラさんとシオウ、どちらと戦いたい?」
するとアラークが眉を顰めた。
「またそれかよ。お前はどっちなんだよ。どっちなら勝てるんだ?」
「向こうに火の精霊使いが集まっていたから、シオウは強敵だ。俺はリゼラさんとはまだ戦ったことが無い。……でも、彼女は精霊がいないから、ナダをアラークに任せて、俺はリゼラさんと一対一でやってみたい。それでいい?」
プラグは五倍訓練で隊士達とも戦っているが、リゼラはルネが苦手――嫌いらしく『薔薇の館』には来ないのだ。近づきもしないとコリントが言っていた。
今回はリゼラの精霊がいない事を差し引いても、未知数だし、印象として『強そう』だと思っていた。
アラークが頷いた。
「じゃあそれで。俺はシオウ――旗は持ったまま行く。じゃないと素通りされるだろ。お前の方へ行くのを邪魔する。エミール達は一本を死守だ。あとアドニスその他がいたら、暴れまくって、そいつらの足を引っ張れ。プラグはリゼラ」
「わかった、時間がない。急ごう。とりあえず玄関を見て、いなかったら向こうの旗だ」
「全く、お前がのんびりなせいだ。ほら、行くぞ」
アラークの言葉にプラグは苦笑して、皆で走り始めた。