「で、お前、はぁ」
アラークはいきなり溜息を吐いた。
青組は玄関の正面、庭の真ん中辺りで輪になっている。赤組、緑組も庭にいるが、二十メルト以上離れたので会話は聞こえない。
「ごめん……」
プラグは謝った。
「まあいい、アルスと仲直りが目標って事だな。作戦はどうする? お前が隊長だけど」
アラークの言葉に、プラグは少し考えた。
「どうするのが良いだろう。二組が相手だから大変かも。ごめん……。それはとりあえず置いておくとして、――こう言う場合って、旗を守るのか、旗を取るのか……なのかな? 俺は初めてやる競技だけど、こういうの、やった事ある人はいる?」
プラグの言葉に、全員が首を振った。
「完全に予想外っていうか、旗取りなんて初めて聞いた」
言ったのはジャソンだった。茶髪の巻き毛で、青組で一番、背の高い少年だ。
プラグは頷いた。
「そうだな……さて作戦はどうしよう。俺が決めて良いの?」
「もう、今回はそうしろよ。たぶん他もどうやるか分かって無いし、不利だし」
アラークが言った。
「じゃあ……」
プラグは少し考えた。とにかくやってみないことには……。
プラグはラウを見た。各組の精霊は担当の組についていて、ラウの後ろにはラ=ヴィアも待機している。
「ラウさん、時間内なら、旗って、取られても奪い返せるんでしたっけ?」
ラウは頷いた。
「はい。ただ、どこかが三本取ったら、そこで終わり。後は制限時間が来たら終わり。休憩時間になったら、一旦、どんな状況でもその場で仕切り直しになります」
「なるほど。偵察に人を裂くのは大丈夫ですか? 相手の妨害とかしてもいいんですか」
「何でも許可されています。人員配置は自由ですし、違反もありません」
「プレートは、飛翔、盾、後は各自の精霊も一枚使えるんですよね? でも、治療は事務の子達だけで合っています?」
「合っています」
ラウがまた頷く。
「あの――こうするといいとか、コツを教えて貰えますか……?」
プラグは聞いてみた。
するとラウは微妙な顔をした。
「すみません、えーっとそれは……ちょっと、聞いてきます」
そう言って、リゼラの所に行って、耳打ちして、耳打ちされ、すぐ戻ってきた。ラウの動きはかなり素早く、三秒も掛かっていない。さすが雷一族、かつ猫耳族だ。
「駄目でした。助言は無しだそうです」
「あ、そうなんですね。分かりました。じゃあ仕方無い、考えよう。とりあえず、作戦は二つか三つ作ろう」
プラグは言ってみた。
「ほう? どんなのだ」
アラークが言った。
「一つ目は、俺が集中的に狙われた場合の作戦。もう一つは、そうでもなかった場合の作戦。最後の三つ目は、困った時の作戦? とかどう?」
「ふん、いいかもな。あんまり多くても覚えられないし。始めだしな。多分、他の組もきっと、変な事考えてる」
アラークの言葉にプラグは頷いた。
「じゃあ俺がいきなり狙われて、皆がいっぱい襲ってきたら、その時皆はどうするかだけど、その場合は普通に考えて、守りが手薄になるから、皆は、俺を置いて旗を狙う。その時はざっくり、アラークの指示に従ってほしい。アラークが駄目だったら、後は、そうだな、三人ずつに分けて行動して、その中で指示ができそうな人を決めて、各自で動いてみるとかは?」
「なるほど。じゃあそれでいくか。俺が生きてたら、俺の指示。俺が死んだら。予備隊長を、ウォレス、あとエミールにしとくか」
「うん。後はリルカ、キール、カトリーヌ、アイリーンだけど、アイリーンはアラークと一緒にいてもらって、後は女子達で動いてもらおう。初回だし、感じを見る為に」
「アイリーン? 俺とか?」
「確か彼女の精霊は火――『閃火』だったから、アラークとは相性が良さそう。補助的な感じで」
「ああなるほど! 俺は『火渡り』だからな……そういうことなら、わかった」
アラークが言った。
「それって……どういう事?」
アイリーンが尋ねた。
彼女は、癖のある亜麻色の髪を、高い位置で二つに結んだ少女で、瞳は薄茶色だ。
「アイリーンの精霊、見た事があるけど、火の精霊で、火球を出せて、火が物に当たると燃え広がって拡散する。アラークの精霊は『物理攻撃型』と『人体強化型』の『火渡り』で、火を出す以外に火を操る事もできるし、火の上も移動できるみたいだから上手く補助できるかも。少し後ろからでも大丈夫だから、一緒に行ってもらえるかな」
「それでいいなら、わかったわ」
アイリーンが頷いた。
精霊の能力は、大まかにだが、五つの分類型がある。
『物理攻撃型』……これは火や雷、水、風などで物理攻撃が得意な精霊を言う。
精霊は基本、身を守るくらいの属性攻撃はできるので、特に攻撃重視の場合はこう呼ばれる。
『防御型』……こちらは防御が得意な精霊を言う。防御が得意な精霊は、防御しかできないがとにかく固い、と言う場合もある。
『周囲影響型』……これは、周囲環境に影響を及ぼす能力を言う。
例えば、特定の範囲を水で満たす、周囲の景色を変える、など。
『ロレ=ナーダ(火/情火)』『ギナ=ミミム(悪/闇)』などの『精神攻撃』もここに含まれるが、候補生の持つ精霊は扱いやすい四大属性が多く、あまり難しい効果のプレートは含まれていない。
ちなみに『ロレ=ナーダ』への対策は『転属(アーケ)』で情火を消してしまうか、気合いで勝つ、くらいになる。弱点として、妻一筋、などの一途な人間には若干、効きにくい。
……『変換(アルド)による防御』や『転属(アーケ)による防御』はこういったものを指す。
『転属(アーケ)』は使える者が少なく、また『変換(アルド)』による防御は難易度が高く、祝詞も必要になるため、あまり実践向きでは無いが、巫女にはごく稀に、祝詞を唱え、障壁を作りながら戦う者や、周囲を守る者もいる。ただし、まともにできれば、最低でも巫女長クラスだ。
『人体強化型』……これはアラークの『リザベ=ナーダ(火/火渡り)』のように人体を強化する、あるいは人体や物質に精霊の力を乗せる事ができる精霊を言う。
ペイトの『ディツ=ヴィス(雷/帯電)』などもこれで、人間が早く動いたり、武器の威力が強くなったりするので、かなり厄介だ。
『精霊変化型』……これは精霊自体が別の物に変化する。例えば動物になる、例えば周囲の何かに擬態をするなどだ。
カド=ククナの『人間への擬態能力』やラ=ヴィア自身が『知り合いに化ける能力』はここに入る。プラグが知る限りでは完全な人への変化はこの二体しかできない。しかし動物や現象、物質に変化する精霊はたまに見かける。
精霊はどれか一つだけ、という訳では無く、複数の能力を使える場合がある。
例えば、ラ=ヴィアの場合は、『物理攻撃型』でもあるし、『鏡』による防御や反射も大得意だし、『人体強化』でプラグに誰かの姿を映せるし、『精霊変化』で自分もアメルになれるしと幅広い。
これは長年、使い方を追及した結果であるのだが、ラ=ヴィアの場合、元々強いから『水鏡はそういう性質の精霊だから』と言う事になる。
ラ=ヴィアの『水/鏡』やナダ=エルタ『水/氷』のような『複合属性』の精霊は大抵器用で、できる事が多い。
しかし攻撃特化型、防御特化型の精霊が弱いかと言えばそうではなく、その分、技の威力が強かったり防御がとにかく固かったりする。
精霊によって得手不得手があり、アプリアの『旋風』で姿を隠す、など、こんな使い方もできるかも? という新しい発見もある。
「で、旗は、どうする。二つ取るか? 二手に分かれるかって意味だけど?」
アラークに言われてプラグは少し考えた。
「いや……四十分あるから、絶対、どこかで旗は動く。だったら持ち主を叩いた方が早い。どちらか一つを狙って行こう。アドニスとシオウだけど……どっちも厄介な……アルスのアドニスは上手い作戦を考えそうだ」
プラグは歯がみして、ラウを見た。
「……旗って、奪った後は持って歩いて良いんですよね? 隠すのは禁止とか?」
ラウは頷いた。
「旗は、奪った後は持ち歩いて大丈夫です。でも、隠すこと、騙すことは禁止になっています。必ず持っている人が分かるようにして下さい。旗はベルトの前側に挟む場合が多いです。後ろは取られやすいので。プレートケースのある左側に挟む場合が多いです」
つまりベルトの左側に差すと言う事だろう。右にあると剣が振りにくいし、左側にはプレートケースや鞘があるので防御に慣れている。
ラウの隣ではラ=ヴィアが熱心に聞いているが、ラ=ヴィアのことだから、事前に規則を覚えてきているだろう。彼女はとても真面目で優秀な精霊だ。
「なるほど。うーん。あ、じゃあ、開始と同時に、俺が自陣の旗を取って動くのは? いきなりは駄目ですか? 後は、奪った旗を誰かに渡す事はできますか?」
プラグの言葉に、ラウは頷いた。
「はい。いきなり自陣の旗を取る事はできません。誰かに奪われた後は奪い返せます。――奪った旗は、誰かに渡す事はできます。一応聞いてきます」
ラウはすぐ戻って来て「旗を渡すのは大丈夫です」と言った。
ラウの言葉に、プラグは少し眉を顰めた。
「たぶん、救護員に渡すのは駄目ですよね?」
「ええ、それは駄目です」
ラウが頷いた。
「あ……じゃあ精霊は旗を取れないのかな?」
プラグの言葉に、ラウはすぐに頷いた。
「はい。旗は候補生しか取れません。あ、あと、『紐』も必ず候補生が取ります。精霊が取るのは禁止です。あとは、お互いの紐を同時に取った、紐を取ると同時に旗を取られた、時間ぎりぎりで旗を取った、その他、精霊の力による特殊な状況など、判断が難しい場合『審議』が入り、見守っていた隊士や候補生、補助員が審議します。これは『審議をお願いします!』といって頼んでも大丈夫です」
プラグは頷いた。
――何となく感じが分かってきた。
「なるほど……かなり大変そうだな……。じゃあ、アラークはどっちの旗を取りたい? これは好みでいい」
「――好みか……そうだなぁ。アドニスの方かな……」
「難しそうだけど、理由ってある?」
「特にないけど、出し抜けたらいいなってだけだ。アドニス、頭良いし。シオウもだけど。……これって、かなり面倒な試合だな。最後は結局、力勝負になるんじゃないか?」
アラークの言葉にプラグは頷いた。
「そんな気はする。そうだ、ラウ、あと、個人の能力、例えば『変換(アルド)』とか、『転属(アーケ)』は使っても大丈夫? 盾以外で攻撃を防いでもいいかって意味だけど。あと精霊の力や、物理で庇ってもらって攻撃を防ぐのはいいよね?」
「――聞いてきます」
ラウが戻って来て報告した。
「今回は変換(アルド)、転属(アーケ)による防御は不可、皆ができるようになったら、いずれは可能になるかも、とのことでした。精霊の力で守ってもらう、精霊に庇ってもらうのは問題ありません」
「じゃあ、精霊をプレートに収めて自分で使ってもいい?」
「はい。それはどちらでもいいです」
ラウが頷いた。プレートに収めて使うというのは、術者が手に持って、あるいは空中に浮かせた状態で使う、と言う意味だ。
霊力消費があるが、『霊力調整(フィカルテ)』が使えるので精霊自身が攻撃するより小回りが利く。
「わかった。じゃあやっぱり、俺達は、精霊に頼る方向で行こう」
プラグの言葉にアラークが頷いた。
「そうだな。お前が動かずにいて、その間に俺がアドニスの旗を取れるか試す、最後はもう乱戦、持ってる奴から奪うって感じでいいんじゃないか? どっちも作戦を練ってくるだろうから。特にアドニスは対策を考えても無駄だろ? たぶん少人数、お前が言った三人くらいで動いて指示役をそれぞれ決めた方がいい。俺だって狩られる可能性あるし」
アラークにの言葉に、プラグは頷いた。
「じゃあそうしよう。相談時間も無いし、どうなるか分からないから作戦はこの一つにしちゃおう。皆は、シオウの陣へは行かずにアラークの言う事を聞いて、ひたすらアドニスの旗を狙う。もしアラークが狩られたら後は各自、決めた人に従う。俺は手一杯だろうから、あてにしない感じで」
プラグの言葉に、全員が頷いた。
「誰かがアドニスの旗を取ったら? もう一つ狙うか?」
アラークが言ったが、プラグは首を振った。
「その場合は俺の方に数人、援護に来て欲しい。たぶん、狙われてるから……、取られてたらゴメン。生きてたら取り返す。後は、残り十分くらいまでアラークは逃げ回っていていいと思う。旗は誰かに渡してもいいから、臨機応変に。後は……救護員の配置だけど、自陣にいないと駄目ですか?」
プラグがラウに聞くとラウは首を振って。
「いえ、動いても大丈夫です」
と答えた。
……青組の救護員、エマ、エレーナ、ローナ、サラ、ベアトラ、ガーラが少したじろいだ。
「でも、攻撃対象にはならないですよね?」
プラグが尋ねると、ラウは頷いた。
「はい。救護員は攻撃対象にはならないし、攻撃してはいけません。でも、救護員からは攻撃ができませんし、戦闘員を『盾』のプレートで守る事もできません。できるのは自分の身を守ることです。身を守るときに盾は使えて、精霊も防御に使えます。精霊は状況の把握と、怪我人の発見にも使えますが、救護員の移動は自分の足と『飛翔』のプレート限定で、精霊に飛んで運んでもらうことはできません」
「なるほど。精霊も使える……でも防御用、と言う事ですね?」
「はい」
「じゃあ……六人の中で、一番体力に自信があるのは? 運動、できそうって子はいる? 一人は、ずっとアラークについてもらいたいんだけど。一緒に動かなくても、少し離れて見守って、怪我人が出たら治す感じでいいから」
「どうする?」
と六人は顔を見合わせたが、初めに手を挙げたのはエマだった。
「私、五キロなら走れます……飛翔駆けもちょっと練習してて、今は三十キロまでなら、なんとか。あと、巫女志望なので……! やります!」
プラグは微笑んだ。
エマは巫女を目指すことにしたらしい。
「よし、じゃあアラーク達はエマにお願いして、あと一人誰か、俺のとこに残ってもらって、後の五人は各班についてもらおうか?」
アラークが頷いた。
「ああ、それいでくか、戦力外だからな。あんまり動くのも疲れるだけだし。少し離れて見てる感じで。女子、それぞれ付くヤツを決めてくれ」
救護の女子達――エマ、エレーナ、ローナ、サラ、ベアトラ、ガーラは相談を始めた。
「皆はどうする?」
エマが言った。
エマは金髪巻き毛に茶色い瞳の、小柄な少女だ。今は髪を青いリボンで一つに束ねている。
彼女はアラーク達の近くにいる係だ。
エレーナが手を挙げる。
「じゃあ……私、エミール君達につきます」
エレーナは癖のない茶髪をうなじの辺りで一つに結んだ少女で、瞳も茶色。青組救護女子の中で一番、背が高い。前髪はまっすぐに切りそろえている。
「プラグ君には誰がつく? 一番、動けそうなのって誰? 私ちょっと、運動は苦手かも」
言ったのはサラだ。
サラはやや赤みがかった金髪の少女で、肘くらいまでの長さの髪を左右で二本の三つ編みにしている。瞳は薄い茶色。垂れ目で穏やかそうだが、眉は上向きで賢そうな感じがある。
サラの右側にいた、ベアトラが少し考えて口を開いた。
ベアトラはセピア色の髪に灰色の目を持つ少女で、前髪はやや左側で分けて、こめかみの辺りでピンを留めている。髪は五人の中で一番長く、後ろで長いポニーテイルにしている。
「それなら逆に、ここにいた方がいいんじゃない? 今回はサラで。私は……、じゃあ、ウォレス君でいい? ローナは?」
「なら私は……、リルカさん達につきます」
ローナがしっとりとした声で言った。
ローナはやや褐色の肌に、真っ直ぐな黒髪の少女で、濃い紫の瞳が印象的だ。
前髪は自然な真ん中分け。いつも髪をほどいているが、彼女も今は低い位置で二つに結んでいる。髪の長さは背中の真ん中程度。体型は女性らしく、十四歳にしては背も高く胸が大きいが、色っぽいと言うよりは、健康的、という感じだ。
目元は丸目。顔立ちはストラヴェルでは良くある感じだが、南方の血が入っているのだろう。
「じゃあ私は……どうしよう? 余っちゃった。もう皆、付いてるわよね」
戸惑いがちに言ったのは、真っ直ぐな茶髪を一つにまとめた、細身の少女、ガーラだった。彼女は印象的な橙色の瞳を持っている。
確かに、プラグ、アラーク、エミール、ウォレス、リルカと全ての班に一人ずつ付いているが……。
「じゃあガーラはアラークに付くのはどうかな。エマと二人いれば、混戦でもすぐに治療ができるし」
プラグは言った。
「あっ、そうね。わかったわ」
ガーラがしっかり頷いた。
「よし、決まりだな」
アラークが言った。
そこでコリントの「あと十分!」――という声が響いた。
プラグは少し顔を上げた。
「あ、もう十分? 組の分け方はどうする……? 誰が誰と行動するか、今回は俺が適当に決めていい?」
「いいけど、決められるのか?」
アラークが言った。
「うーん――じゃあ、アラーク組は、ジャソンと、エイド、あとは補助としてアイリーンに入ってもらう。――アラークは火『火渡り』、ジャソンは水『熱湯』エイドは雷『雷雨』の精霊で属性もちょうどいいし。アイリーンは『閃火』だったと思うから、確か火だよね。前線に行かなくても良いけど、上手くアラークを助けてあげて」
プラグの言葉に、アラークが目を丸くした。
「精霊、覚えてるのか?」
「うん。聞いたから。後、組み分けは分かってたから、昨日からちょっと考えてたんだ。俺のせいで、おかしな事になったし……」
プラグの言葉に、皆が驚いた。
――笑顔で口を開いたのはウォレスだった。
「もう気にすんなよ。そういうこともあるって。で、どうすんだ、隊長!」
ウォレスはいつも爽やかだ。
プラグは頷いた。
「なるべく雷の精霊を一体ずつ振り分けよう。昨日、ナイドの『雷河』って精霊を見せてもらったんだけど、雷は範囲が広くて避けにくくて恐そうだったから、雷の精霊を見つけたら雷の精霊をぶつけて、精霊達から離れて戦ってみて。火の精霊には水をぶつけるとか。そんな感じでいい?」
――火も恐いのだが、火は大抵、目に見える。
しかし雷は、瞬く間に攻撃をされ、軌道が読めない。
土や風も吹く方向を見定めることができる。
勿論、厄介な効果もあるが。候補生に配られた中には、精神攻撃など、あまり厄介な効果のプレートは無かった。使いやすさを重視しているのだろう。
「ああ。お前、凄ぇな。それで行こうぜ」
アラークが笑顔で――頷いた。プラグも頷く。
「アドニスは分からないけど、たぶんシオウもこのくらいはやる。熱湯って結構、恐いかも……でも、実際に『治療』が使えない場合、火傷させないように、脅かすくらいしかできないかな。ラウ、そう言う攻撃はどう?」
「――あんまり酷いのは駄目、だそうです」
ラウはプラグが言い終わる前に、聞いて戻って来た。
「ありがとう。ジャソンは気を付けて。でも水なのに熱いってのはここぞと言う時に使えば吃驚するかも? 足とかなら火傷も軽いはずだ。防がれる前提で、上手く使って。でも顔は絶対に駄目。火傷しない程度に、少し温度が下げられたらいいんだけど……できるのかな……? 精霊に聞いてみて」
「あ! それ、できるって言ってた。冬は便利だって! 熱ッ! ってくらいにしてもらう」
ジャソンが言った。
「じゃあそれでお願い」
プラグが言うとジャソンが「任せろ、頑張る」と言った。
「ウォレス組は、ロルフとポーヴィンで。――ウォレスは『疾風(しっぷう))』、ロルフは『迅雷(じんらい)』、ポーヴィンは『腐食』。腐食の効果は分からないから、精霊に聞いて上手く使って。疾風と迅雷は、何だか速そうな名前だ」
知らない振りをしたが『腐食/毒』は中々、強力なプレートだ。金属……つまり鉄を脆くできる。候補生の精霊はほぼ四大属性だったが、稀に例外もあって、空いていたか、数合わせだろう。
ウォレスは疾風、ロルフは迅雷。これはどちらも速いので、腐食と合わせるのは面白い。
「エミール組は、ヨアヒム、ビリー。エミールは『水精』、ヨアヒムは『狂風』、ビリーは『雷獣』だっけ? 効果は精霊に聞いて頑張って」
「わかった!」「頑張る」「了解!」
エミール、ヨアヒム、ビリーが頷いた。
エミールの『水精』は水一族だが、珍しく物理攻撃が得意な精霊だ。結晶化した水晶のような刃で攻撃できる。しかも水でも攻撃できるのでかなり応用が利く。
ヨアヒムは今の所、戦闘クラスで最下位の男子なのだが、彼が『狂風』を持っていると言うのは偶然だが運がいい。狂風は軌道が読めないし当たると切れる。そして風の中でも広範囲に広がり、一帯が荒れる。紐を無差別に切る事もできるが、紐は引っこ抜くか、引っ張って外す以外はカウントされないので結びに直しなりそうだ。狂風の問題は、風の制御だ。まあ、精霊に任せておけば何とかなるだろう。
『雷獣』は雷一族の他の一族にもいる『精霊変化型』精霊だ。精霊自身が豹のような獣に変化して、雷をまとったまま人間を乗せて移動できる。同じ属性への耐性と、すばやい動きが特徴だ。
他にも『水獣』『水龍』『水鳥』、『火獣』『火鳥』『火龍』などがいる。
「後は、キールと、リルカの二人か……どうしようか。キールは『光彩』……武器は、弓矢が使えないから……ん? 武器って、何が使えるんだっけ。長剣と短剣? 弓って駄目? この組は隊士がいなくて不利だから、使えたら助かるんだけど……? 駄目かな? ――あと、できればコリントさんとリゼラさんには、何か制限が欲しいな。やっぱり先輩だから、強いと思うし。例えば『精霊を使わない』とか。それは今回だけでもいいから、聞いてもらえますか?」
プラグはラウに確認した。するとラウはリゼラに聞いてきて。
「弓はキールさんに限って大丈夫、だそうです。短剣も使えますが、投げナイフは危ないので禁止です。あと、リゼラさんとコリントさんは今回は、精霊も無しにして下さるそうです。次回からは未定、様子を見てその都度決める、とのことです」
と返してくれた。
つまり、いきなり隊士が本気では大人気ないので、初回は手加減してくれる、と言うことだ。
キールは長剣があまり使えないので、弓が使えるのは助かる。
「やった! じゃあ、キールは弓矢を使ってアラーク組を援護してくれる? リルカを付けるから、リルカはキールを守る事を優先しつつ『風采』を使いながら、隙ができたら紐を取るように。弓矢は盾で弾けるから射る時は心配しないで。でも急所は狙わないように。狙うなら、腕とか足とか限定で。頭はだめだ。当てなくてもいいから、牽制目的で、隙のある、弱そうな人から狩って。あ、矢の補給はいくらでもできる? 精霊はいくらでも矢が打てるんだから、いっぱい打っても良いと思うけど?」
プラグはラウを見た。
「……聞いてきます!」
ラウは聞いてきて。
無表情のまま両腕を上に挙げて、大きく丸を作った。
「いくらでも良いそうです。不利だからとのことで。あなた、結構、悪い人ですね」
ラウが口の端を上げ、小さく笑った。
「ふふ……そうかな? 弓矢の補給は誰に頼めば良い?」
プラグが尋ねると、ラ=ヴィアが素早く手を上げた。
「ミッ!! 私がやってもイイ?」
「そうですね。僕は記録を付けますので」
ラウが頷いた。
「風采ってどう使えばいいの? 気配を消す感じ?」
リルカが尋ねた。
「うん、さりげなく近づく時か、混戦の時に使って」
リルカの『風采』は『人体強化型』の精霊で、持ち主の中に入り込み、外見を変えるのが主だが、さりげなく気配を消す効果が……若干だがある。混戦の時は役立つだろう。
――「あと五分」と言う声がする。
「もし旗が取れたら逃げ続けるけど、その時の作戦は? なんかあるか」
アラークが尋ねてきた。
「状況によるけど、追ってくる人がいたら、なるべく他と引き離して、何人かで囲んだ方がいいかもしれない。森なら待ち伏せとか木の上も使えるから、逆に伏兵に気を付けて」
「わかった。最後の一本はどうするんだ? 応援はやるつもりだけど。お前、たぶん最後まで動けないよな?」
「分からないけど、アラーク達はしばらく逃げて、人が減って、強い人が来なくなったら、旗を狙いに行ってもいい。ちょうど俺が狙われてる時が狙い目かも。俺のとこにリゼラさん、コリントさん、後はアドニス、シオウ、あとアルスも同時にいれば言う事は無いけど、そう上手くは行かないと思う。悪いけど、臨機応変に」
プラグは苦笑した。
「まあ、そうだな。分かった。やってみる」
アラークが頷き、プラグも頷き返した。
「あと……これは一応なんだけど、ゼラトがプレートの練習してるときに『落とし穴』を作ってたから……もしかしたら使ってくるかも?」
「落とし穴?」
「『隆起』の精霊の、いい使い方が何か無い? って聞かれたから、二人で考えたんだ。周りの土を持ち上げると、穴が作れる」
「ああ、なるほど。分かった。一応気を付ける」
アラーク達が頷いた。
「よし、じゃあこれで。頑張ってみよう。精霊が使えるってなると、かなり混戦なるかもしれない。皆は気を付けて。盾は常に出して、飛翔も起動したまま、精霊は常に背後につけておく、って感じで。攻撃されたら精霊にも守ってもらって。これは遠慮なく頼っていいと思う。授業でやった通り、精霊には『剣が刺さるけど痛くない』から。飛翔のプレートがあるから、もしかしたら決着が早いかも。皆、素早く動く事を意識して。ただし後半に疲れないように、体力と相談で。あとキール、短剣は使えたよね。それも忘れずに」
「は、はい~!」
キールが頷いた。
■ ■ ■
「――初試合か」
リズはバウル、エドナク、他十人の事務員と共に『旋風』で姿を隠して観戦していた。
隠れているのは、思いっきり紙を持ち、採点しているからだ。
『旗取り』は精霊騎士課程伝統の鍛練方法で、毎年、何度もやっているので採点方法も決まっている。
基準は『個人技』『精霊術』『統率力』『紐の数』。後は『団体戦績』だ。
各項目、十点満点で全員採点するので、結構忙しく、精霊の手も借りている。
一人一人につくわけでは無く、赤、青、緑の組ごとに三人ずつで、二手、三手に別れたときは採点者も別れる。
ちなみに終了後、候補生の精霊は『この時はこうでした!』『私の子と、他の子も、こんな感じで頑張っていました!』と紙で報告する義務があって、それも加味されるので、採点の精度は高い。
リズやバウル、エドナクの採点は『おまけ』なので、好きな所を自由に動ける。
動いた間の事は採点員が聞いているので、彼等に聞けば一応、どんなやりとりや戦いがあったか分かるのだ。しかし、できることなら、実際に見た方が良い。
まあ人数が多いので全てとは行かないし、贔屓は良くないので均等に目を配るつもりだ。
あと、決して暇ではないので、不在の時もある。初めの内はきっちり監督して、候補生が慣れて来たら、ほぼ勝手にやらせていく。
評価員は必要なので、最低三名ずつは付くのだが、それも途中からはほぼ、暇な精霊に任せる。慣れれば怪我人もほとんど出ないので、医師や看護師が一人ずつ付く程度だ。
旗取りは誰か考えたのか、中々良くできていて、実戦に近い訓練ができる。おまけに支援の練習もできるし、作戦の練習もできる。
集団戦闘も実戦も同じような仕組みになっているので、遊び感覚で覚えれば、いざという時、抵抗感や緊張感が少なくて済む。強敵にひるんでも、散々やった通りにやる、となれば反射で動ける場合が多いのだ。
――先程から青組の精霊、ラウミーネがリゼラの元へ行ったり来たりしている。
バウルがプラグを見て苦笑した。
「結構、精霊使いの荒い子ですね。荒いというか、扱い慣れている感じで」
バウルの言葉に、リズは頷いた。
「ま、でも、必要な事を聞く姿勢は良いな。アラークとも意外に上手くやってるし、案外組のまとまりがいい。ま、ここは大丈夫だろ。私は赤を見てくる」
「では私は、もう少ししたら、緑へ行きましょう。私は見えてもいいでしょう」
緑にはエドナクも行っている。三十分あるので、バウルはもうしばらくいるようだった。
バウルは旋風から抜けて、にこにこしながら見学している。初めてなので楽しみだ、と言っていた。プラグはリズ達には気づいているが全く気に留めていなかった。
相談が始まって十二分頃――赤組では作戦の相談が始まったところだった。
まだ始まったばかり、という感じなので、候補生達に声をかけて様子を聞いた。
「見に来たぜ。おいー、採点員、誰か説明。今どんな感じだ?」
「――あ。はい。さっきまで自己紹介でした」
採点員の一人が姿を現して、リズに説明した。
最初の十分は互いに、どんな精霊を持っているか、何が得意かの自己紹介だったという。
隊長はアドニス。副隊長はアルスだ。
「じゃあ、作戦を話します。今日はアルスちゃんの復讐なので、皆さんには、作戦に協力して頂きたいです」
赤組候補生達も異論はないようだった。
「まず――作戦候補は二つあります。皆さんに聞いて、どちらかいい方にしたいと思っています」
アドニスは、どうやらあらかじめ作戦を練ってきたようだ。
先程、プラグとアラークが話しながら決めていたのとは対照的だ。
「――どちらの場合でも、緑組とは、協力ができればしてください。でも勝つにはシオウさんを何とかしないといけないので、最後は彼を抑えて旗を持っている人を狙っていきましょう。コリントさんがプラグさんと戦ってくれれば良し。と言う感じです。出方次第なので、状況に合わせて、僕とペイトさん、ゼラト君の指示を受けて下さい」
赤組はアドニスと、レンツィ、ゼラトが指示役になるようだった。
それから、アドニスの作戦を聞いてリズは感心した。
(ほうほう、中々、思い切るな)
多数決で決まるのを見届けて、リズは赤組を後にした。
「よし、じゃあなー、頑張れよ」
青、赤は問題無さそうだったが、緑組は一番どうなるか分からない組だ。
――と言うのも、リズはシオウのことが未だによく分からない。
あと、たまたま、この緑組には目立って強い候補生が少ない。コリントとナージャが入っているので、戦力的には悪く無いのだが、それをシオウがどう判断するか。
(荒れるといいなー。喧嘩しろー)
そんな事を考えながら、リズは歩き出し、途中、バウルと入れ違いで緑組の側に来た。
■ ■ ■
「よーし、集まったな、俺が隊長。よろしくな。で、ナージャが副隊長って事で」
シオウがにこやかに挨拶をするのを、エドナクはシオウの向かい側から眺めていた。
緑組はシオウ(三位)、ナージャ(女子/六位)、ダニエル(三十六位)、アンドレアス(二十一位)、リカルド(二十八位)、グレイブ(三十位)、オード(三十九位)、ナイド(二十三位)、イアンチカ(十五位)、ピート(三十四位)、フォンデ(十二位)、ペイト(女子/七位)そしてコリントの十三名だった。
シオウはナージャを横に置き、後は皆、エドナクに背を向けて適当に座らせている。
先生と生徒のような並び方だ。
エドナクが最初にここにいたのは、リズ達が青組にいたから、と言うのもあるが、このシオウが未だによく分からないので『とりあえず見てみよう』と言う好奇心からだった。
シオウは、何となく候補生達に一目置かれて恐れられている。
何回か手合わせしたが、確かに才能、実力も有り余る程あり、プラグとも、現役隊士とも互角以上の良い勝負をする。力もこの年の少年とは思えないくらい強く、リズから精霊コル=ナーダの孫だと聞いている。
正直、もう隊士で良いくらい強い。最近は毎朝プラグと手合わせをしているらしく、授業中に聞いた所、現在『五勝八敗』だと言っていた。シオウに勝つプラグもおかしいが、プラグに勝つシオウもおかしい。
今年は去年が嘘のように強い候補生が集まっている。
去年のこの時期は……リゼラやコリント、殉職した隊士達は例年通りに強かったのだが、候補生間の格差が大きすぎて、脱落者が多く出ていたのだ。
今年、現状は最下位のヨアヒムも、去年ならぎりぎり上位二十名に入れただろう。
ただ、ここまで良いと、逆に何か問題が起こるのでは無いか、と少々不安に駆られる。
緑組の面子はと言うと、シオウがにこやかなので面食らったらしい。
「えっとー、この組は、あんま、目立ってすげーのは少ないな。ま、部屋割りだからな。やりがいがあるって事で。まぁ全員、面倒を見てやるから安心しろ。皆揃って強くなる、で、紐を取りまくる、ってのがこの組の目標。下位だって上位だって、別にどっこいどっこいだし、全員これから伸びていけばいいって事で、頼んだぞ」
シオウの言葉に、またもや皆が目を丸くする。
「で。まず今回は、プラグとアルスのいざこざに巻き込まれて、ぶっちゃけ貧乏くじを引いた感じ。って言うか俺、何かしたか……? つーわけで、とりあえず、作戦説明して、その後は自己紹介でもしとくか? それでいいか?」
異論は出ない。皆が無言で頷いた。候補生の目は相変わらず丸い。
シオウは普段、あまり会話をしないので、ナージャも意外そうに瞬きをしている。
「よし、じゃあ作戦! えー、俺は開始と同時にのんびり移動、プラグに付き切りになって、コリント――さん、コリントでいいすか――?」
シオウの言葉にコリントが「もちろんいいぜ」と頷いた。
シオウは一応、目上や年上には敬語を使う。
「――じゃあコリントで。あとは多分来そうなアルス、リゼラと一緒に、なんとか旗を奪う。で、奪った奴から奪う。理想は最後あたりに頂く感じ。で、首尾良く奪ったら全力で逃げる。プラグが粘ったら、とりあえず勝つことは、今回は諦める。プラグは多分、早々に一回誰かに奪わせて奪い返すと思う。そうしたら持ち歩けるからな。あえてプラグからは奪わず動きを制限させて、最後に奪うってのもいいが、まあ、奪い奪われってのも悪くない……この辺は臨機応変にいくしかないな」
シオウはすっと目を細めた。この鋭い視線が、候補生達がシオウを恐れる理由だろう。
不快そう、不機嫌そう、とも見て取れる表情をする時、彼は何を考えているのだろう。何も考えていないのかもしれないが……。
シオウはぱっと微笑んだ。口角を上げて目を細める、無邪気? な笑い方だ。こうして見ると良く笑うし、表情は豊かなのだが、落差が激しいため、先程の表情は何だろう、となるのだ。
「んで、お前等の動きだが、まずナージャ、ペイトは厩舎前に残って、旗を守る。コリントは俺と一緒にプラグの所へ行く。あと、火の精霊を持ってる奴らは俺と一緒に行動。何でって、プラグの精霊が氷だからな。あとはナイドも来い。雷がいれば多少、戦闘が有利になるかもな。後の『風、土、水』は他の旗を狙う遊軍。プラグは自分一人を陣地に置いて、後はどっちかの旗を取るのに集中させると思う。まあそんくらいできるやつだからな。あいつは慎重だから、両方の旗を狙う事は無いと思う。可能性が高いのはアドニスの方。こっちは来ない気がする――ってことで」
「あ『風、土、水』手を挙げろ。あ。イアンチカは鋸(のこぎり)だったか? お前もこっちに入っとけ」
挙げたのはピート(三十四位)――精霊は『エグラ=アアヤ(風/海風)』。
アンドレアス(二十一位/)、精霊は『ヴォレア=ララフ(土/土壁)』。
ダニエル(三十六位)、精霊は『メェオ=エルタ(水/水鉄)』)。
フォンデ(十二位)、精霊は『スレット=アアヤ(風/風花)』の四名だった。
候補生の精霊はなるべく四大属性で使いやすい物が選ばれている。
イアンチカ(十五位)、はそう言えば『ガット=ルルカ(金/鋸)』を持っていた。
シオウは覚えていたようだ。
「じゃあイアンチカが切り込み隊長。お前らは前半はアドニス旗の近くに所に行って、プラグ組を邪魔するんだが、ゆっくりのんびり歩いて、木の陰に隠れたりして、出て行くのはプラグ組が旗を取った後にする。つまり横取り作戦だな。プラグ組が来て無かったら、旗を狙う必要はない。もし狙うなら罠が無いか確かめてからにしろ。基本は、旗を持ってる奴を探して、追いまくって狙っていけ。俺はアルスとプラグの喧嘩を後押しするが、勝つなって話でもないし。でも前半終了までに旗が取れなかったら、諦めて玄関に集合。取れた場合も玄関に来る。そこでプラグに襲いかかってやれ。あ、旗は俺に渡してくれよ?」
シオウの言葉に、イアンチカが「わかった」と頷いた。
「よし。ナイドと炎は俺が指示を出すから、そのまま従え。攪乱役だな。たぶん、プラグは炎には対応出来ても、雷までくるときついはず。コリントさんは自由に動いてプラグを何とかしてください。俺も一緒にいきますから。数で勝負って感じで」
コリントが「わかった」と頷いた。
シオウがにっと笑って頷く。
「よし。じゃあ、残りのナージャとペイト。この二人は、ここに残って、一度誰かに旗を奪わせて、それを奪い返して、奪い返したらすぐ全速力で逃げて、旗を持って玄関に集合。そのまま俺に旗を渡して、身軽になったら、プラグに飛びかかる――結局アイツをどうにかしないと、勝てないからな。で、もし早めにプラグが片付いて、俺かコリントが旗を取ったら、後半、俺達は全員でまとまって、旗を奪われないように守りつつ、残りの旗を狩りに出る――って感じでどうだ? ペイト、ナージャはいけそうか?」
するとペイトが頷いた。
「任せて!」
「よし。ナージャは?」
「わかりました」
ナージャもしっかりと頷いた。
ペイトは特に、目を輝かせている。要するに自陣の旗の守りがナージャとペイトだけになる言う事だが、ペイトは気が強いので、不利な役目は好きそうだ。彼女の精霊『ディツ=ヴィス(雷/帯電)』は雷を纏い、身体能力を強化する精霊で、早く動けるので適している。
「じゃ、そういうことで。後は支援だけど、俺の所に二人。イアンチカの所にも二人。後はペイトとナージャの所にも二人。で、後半になったら皆、玄関集合、これくらいで。んで、分かれ方は今、適当に決めてくれ」
そして事務の候補生達が相談して、男子のオリヴァーとカールがシオウとコリントに、レンツィ達には、レイシーとリアーナが付いた。
ペイトとナージャにはジュリアとピキータが付く事になった。
シオウに女子が付かなかったのは、混戦が予想されるから、初回は様子見、と言う感じだった。
「えー、この適当作戦の要は、ペイトとナージャが自軍の旗を速やかに奪い返せるか、後はイアンチカ達が、旗を上手く奪えるかにかかってる。プラグは数で押せば倒せるからな。まあ旗は一、二本、駄目でも、最後に集団で狩ればなんとかなるかもな。で、とりあえず、プラグ組の勝ちを封じられれば万歳。時間切れも狙っていく。あ、あと余裕があったら、紐の数、自分達で稼いどけよ、成績も上げていけ。よし、後はお互い自己紹介、自分の精霊について話す。時計回りとか? 俺は最後でいい、――じゃあ、まあ、ナージャからでいいか。副隊長だし」
と言って、シオウはナージャを指名した。
「はい。ナージャ・ラ・タルクロンです。精霊は水一族、水流の精霊、クト=エルタです。コリント様、イダルさんは今回は使用禁止でいいでしょうか?」
ナージャがコリントに尋ね、コリントが頷いた。
クト=エルタが姿を現して、お辞儀をする。
ナージャも、他の緑組の候補生も、皆、すっかりシオウを信頼している。
自己紹介が終わっても時間があったので、シオウが少し考える。
「まだ時間あるな。じゃ、何か質問あるやつ、適当に質問」
すると手が上がらない。皆、役割を理解している、という感じだった。
しばらく後、手を挙げたのはペイトだ。
「あの……プラグの弱点とかってないの?」
「あ、あるある。あいつ、頭と背中が弱いって。ま、対策してるみたいだが。昔の怪我があるとかで、打つとめっちゃ痛がる。まあ頭はお前等がやったら死ぬから、狙うなら背中だな。打った後は面白い程、隙ができるぜ。やってみろ」
シオウの言葉に緑組がざわついた。信じられないと言う顔をしている。
「……そういうの、言っていいの?」
ペイトの言葉にシオウがにやりと微笑んだ。
「友達っつーか、今は敵だし。別に秘密にしろって言われてない。まあ外では吹聴するな、って感じだろうけど。候補生同士なら良いだろ。って事で、頑張れよ、お前等」
なるほどコイツはやるやつだな、とエドナクが感心していると、リズが来た。
「よっ、青と赤、見て来た。ここはどんな感じだった?」
「いや、それが案外悪く無い。こりゃどこか勝つか、面白くなりそうだ」
エドナクは笑った。