「月皇家も、てっきり障害かと思ってたよ」
遊馬は、舞羽の素っ頓狂な声も驚きも全く気にしない素振りで隣の席に座り込む。
「どうして?」
「あれ? 知らないの? 月皇さんの曾祖父さんは障害馬術のメダリストなんだってさ」
「そうなの? 知らなかった……お父さんも、お祖父ちゃんもドレッサージュだったから……」
「江南に来るって決まってからさ、ずっとドキドキしていたんだ、実は俺」
「どうして?」
首を傾げる舞羽の視線を避けるように、初め、『僕』なんて慣れない言葉で飾ってみた自分に今更照れて、鼻の下を指で擦りながら顔を背ける遊馬。
「天才、と呼ばれる月皇家のご令嬢の噂を聞いていたから」
「……そんな……」
今度は舞羽が下に逸らす……机の木目を見つめているようなその視線、その舞羽の感情を読むことは難しい。遊馬はわざと、おどけてみせる。
「憎きライバルなら、早めに倒しておかなくっちゃ、って」
「安心した?」
「うん、安心した」
「障害じゃないから?」
「それだけじゃないけど……でも本当に良かった……」
「うん……あたしも」
「月皇さんのような素敵な女性で……」
遊馬は立ち上がると、教室から見える春の空に目を向け、わざと声が届かないように呟いた。