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第3章~第2話 スタンフォード監獄実験②~

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 ====================================
 【急募】実験ボランティア
 対象:國際高校男女生徒
 寮生活に関する心理学的研究を行う生徒を募集します。
 期間:7月24日から1~2週間
 詳細および申込みについては國際高校・第二理科室までお問い合わせください。
 実験説明会:7月22日
 実験開始日:7月24日
 面接場所:第二理科室
 主催:県立國際高校・生物心理学研究会
 ====================================

 メッセージアプリの校内グループトーク機能を使って、告知文が投稿されたのは、一学期の終業式当日のことだった。

 実験説明会の当日、少し早く第二理科室を訪問した私は、準備室で説明会の支度を進めているネコ先輩にたずねる。
 
「こんな告知で、メンバーが集まってくれますかね〜?」

「告知文は、実際のスタンフォード監獄実験のものに似せて作らせてもらった。もっとも、本物の監獄実験の告知では、現在の貨幣価値として、1日116ドル相当の報酬が支払われる事になっていたらしいがね」

「116ドルって、日本円でどれくらいですか?」

「いまの為替レートなら、1万7000円以上になるようだ」

「えっ、一日でそんなに? スゴい!」

「まあ、1日3交代の看守役なら魅力的な報酬かも知れないけどねぇ……囚人役に決まったら、24時間拘束されてしまうんだ。そのストレスに見合う報酬であるかは疑問だね」

「あっ、そうか……たしかに、囚人役になっちゃうと損ですよね。同じ報酬なら不公平に感じるかも。絶対に看守役の方がお得だと思います」

「あぁ、もちろん、待遇の差を考えると報酬面でも大いに疑問を感じることが多い。ただ、実際のスタンフォード監獄実験には別の問題があったんだが――――――」

「なんですか? 別の問題って?」

「まあ、それは実際にこの実験の結果を見てから語らせてもらおう。さて、そろそろ説明会の時間だ」

 そう言って、ネコ先輩は準備室から第二理科室へと続く扉を開いた。
 第二理科室には、説明会の開始時間前の段階で、すでに数十人の生徒が集まっている。その中には、私の知っている顔も何人か見えた。

 実験のための十分な人数が集まらなかったら、どうするんだろう? という私の最初の心配事は、あっさりと問題が解決されたようだ。

 1クラス分に近い人数の生徒たちを目の前にしたネコ先輩は、第二理科室の黒板の前に立ち、いつもどおりの口調で語り始める。

「今回は、貴重な夏休み期間中であるにもかかわらず、ワタシたち生物心理学研究会の実験説明会のために集まっていただこう。ワタシが、当研究会の代表を務める朱令陣禰子(しゅれじんねこ)だ。では、早速、実験の説明を始めさせてもらおう」

 そう言って、生心研(せいしんけん)の代表者は、黒板に板書をはじめる。

 実験テーマ:閉鎖空間における権威と服従に関する研究

 黒板にテーマを書いたあと、ネコ先輩が続いて口を開く。
 
「今回の実験では、最初に看守チームと囚人チームに別れて共同生活を行ってもらう。看守チーム、囚人チームともに9人プラス代替候補の3人の合計12人ずつが実験のメンバーだ。場所は、本校のグラウンド横にある合宿施設。看守チームは8時間ずつの交代制、囚人チームは24時間に渡って、監房代わりの学校の部屋に入ってもらう予定だ」

「は〜い! その看守と囚人は、どうやってチーム分けをするんですか〜?」

 元気よく手を上げた桑来(くわき)さんが、実験の主催者に質問する。

「看守と囚人の役割は、くじ引きによって決める予定だ。無作為に選ばれたメンバーがどのように行動するのか? その観察を行うのが、この実験のテーマだからね」

 ネコ先輩が答えると、今度は別の生徒が、軽く手を上げた。
 
「ゴメン、アタシからも質問。この実験って、昔どこかの大学で行われた実験じゃないの? なんかネットのニュースで見たことあるかも。たしか、その記事では、実験は途中で中止されたって書いてあったような気がするけど……」

 桑来さんと同じクラスの九院(くいん)さんが、淡々とした口調でたずねる。

「あぁ、そのとおりだよ。これは、スタンフォード監獄実験の再現を狙っている。おそらく、いまの質問者だけでなく、この実験のことを聞いたことがあるという生徒もいるだろう。では、ここで問いたい。この監獄実験の内容を知っているものがいれば、正直に手をあげてほしい」

 ネコ先輩が、説明会の参加者に問いかけると、数人の手が上がった。

「ありがとう。他に質問は無いかな?」

 続けて、参加者に問いかける先輩の言葉に、今度は、私の良く知る1年生の男子生徒が真っ直ぐに手を上げる。

「合宿所に泊まり込むってことですけど、ちゃんと食事は出るんですか?」

 そうたずねたのは、幼なじみの戌井犬太(いぬいけんた)だった。

「あぁ、もちろんだ。ただし、看守と囚人の食事には待遇の差があるがね」

「そうですか、わかりました」

「では、他に質問が無いようであれば、これから、今回、ワタシたちが行う実験の概要を説明させてもらいたい」

 先輩は、そう言って、手元のノートPCにログインして、この日のために作っていたと思われるスライドショーを起動させる。その資料には、囚人を収監する監房を模した三人部屋のが掲載されていて、続けて、看守には休息とリラクゼーションのための特別なエリアへのアクセスを与えられることや、8時間交代で3人1組で働くように指示を出すなど、細かなルールが説明された。
 
 一連の解説と質疑応答が終わると、今回の実験の説明会は終了する。
 そして、

「それでは、このあと、実験に参加してもらうメンバーを選出するための面接を行う」

ネコ先輩はそう告げて、準備室に移動し、個別の面接を実施する準備に取り掛かった。


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 対象:國際高校男女生徒
 寮生活に関する心理学的研究を行う生徒を募集します。
 期間:7月24日から1~2週間
 詳細および申込みについては國際高校・第二理科室までお問い合わせください。
 実験説明会:7月22日
 実験開始日:7月24日
 面接場所:第二理科室
 主催:県立國際高校・生物心理学研究会
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 メッセージアプリの校内グループトーク機能を使って、告知文が投稿されたのは、一学期の終業式当日のことだった。
 実験説明会の当日、少し早く第二理科室を訪問した私は、準備室で説明会の支度を進めているネコ先輩にたずねる。
「こんな告知で、メンバーが集まってくれますかね〜?」
「告知文は、実際のスタンフォード監獄実験のものに似せて作らせてもらった。もっとも、本物の監獄実験の告知では、現在の貨幣価値として、1日116ドル相当の報酬が支払われる事になっていたらしいがね」
「116ドルって、日本円でどれくらいですか?」
「いまの為替レートなら、1万7000円以上になるようだ」
「えっ、一日でそんなに? スゴい!」
「まあ、1日3交代の看守役なら魅力的な報酬かも知れないけどねぇ……囚人役に決まったら、24時間拘束されてしまうんだ。そのストレスに見合う報酬であるかは疑問だね」
「あっ、そうか……たしかに、囚人役になっちゃうと損ですよね。同じ報酬なら不公平に感じるかも。絶対に看守役の方がお得だと思います」
「あぁ、もちろん、待遇の差を考えると報酬面でも大いに疑問を感じることが多い。ただ、実際のスタンフォード監獄実験には別の問題があったんだが――――――」
「なんですか? 別の問題って?」
「まあ、それは実際にこの実験の結果を見てから語らせてもらおう。さて、そろそろ説明会の時間だ」
 そう言って、ネコ先輩は準備室から第二理科室へと続く扉を開いた。
 第二理科室には、説明会の開始時間前の段階で、すでに数十人の生徒が集まっている。その中には、私の知っている顔も何人か見えた。
 実験のための十分な人数が集まらなかったら、どうするんだろう? という私の最初の心配事は、あっさりと問題が解決されたようだ。
 1クラス分に近い人数の生徒たちを目の前にしたネコ先輩は、第二理科室の黒板の前に立ち、いつもどおりの口調で語り始める。
「今回は、貴重な夏休み期間中であるにもかかわらず、ワタシたち生物心理学研究会の実験説明会のために集まっていただこう。ワタシが、当研究会の代表を務める|朱令陣禰子《しゅれじんねこ》だ。では、早速、実験の説明を始めさせてもらおう」
 そう言って、|生心研《せいしんけん》の代表者は、黒板に板書をはじめる。
 実験テーマ:閉鎖空間における権威と服従に関する研究
 黒板にテーマを書いたあと、ネコ先輩が続いて口を開く。
「今回の実験では、最初に看守チームと囚人チームに別れて共同生活を行ってもらう。看守チーム、囚人チームともに9人プラス代替候補の3人の合計12人ずつが実験のメンバーだ。場所は、本校のグラウンド横にある合宿施設。看守チームは8時間ずつの交代制、囚人チームは24時間に渡って、監房代わりの学校の部屋に入ってもらう予定だ」
「は〜い! その看守と囚人は、どうやってチーム分けをするんですか〜?」
 元気よく手を上げた|桑来《くわき》さんが、実験の主催者に質問する。
「看守と囚人の役割は、くじ引きによって決める予定だ。無作為に選ばれたメンバーがどのように行動するのか? その観察を行うのが、この実験のテーマだからね」
 ネコ先輩が答えると、今度は別の生徒が、軽く手を上げた。
「ゴメン、アタシからも質問。この実験って、昔どこかの大学で行われた実験じゃないの? なんかネットのニュースで見たことあるかも。たしか、その記事では、実験は途中で中止されたって書いてあったような気がするけど……」
 桑来さんと同じクラスの|九院《くいん》さんが、淡々とした口調でたずねる。
「あぁ、そのとおりだよ。これは、スタンフォード監獄実験の再現を狙っている。おそらく、いまの質問者だけでなく、この実験のことを聞いたことがあるという生徒もいるだろう。では、ここで問いたい。この監獄実験の内容を知っているものがいれば、正直に手をあげてほしい」
 ネコ先輩が、説明会の参加者に問いかけると、数人の手が上がった。
「ありがとう。他に質問は無いかな?」
 続けて、参加者に問いかける先輩の言葉に、今度は、私の良く知る1年生の男子生徒が真っ直ぐに手を上げる。
「合宿所に泊まり込むってことですけど、ちゃんと食事は出るんですか?」
 そうたずねたのは、幼なじみの|戌井犬太《いぬいけんた》だった。
「あぁ、もちろんだ。ただし、看守と囚人の食事には待遇の差があるがね」
「そうですか、わかりました」
「では、他に質問が無いようであれば、これから、今回、ワタシたちが行う実験の概要を説明させてもらいたい」
 先輩は、そう言って、手元のノートPCにログインして、この日のために作っていたと思われるスライドショーを起動させる。その資料には、囚人を収監する監房を模した三人部屋のが掲載されていて、続けて、看守には休息とリラクゼーションのための特別なエリアへのアクセスを与えられることや、8時間交代で3人1組で働くように指示を出すなど、細かなルールが説明された。
 一連の解説と質疑応答が終わると、今回の実験の説明会は終了する。
 そして、
「それでは、このあと、実験に参加してもらうメンバーを選出するための面接を行う」
ネコ先輩はそう告げて、準備室に移動し、個別の面接を実施する準備に取り掛かった。