30.ロッキー3のテーマ
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「それで、今あの子は?」 「向こうの部屋に居る。昨晩から今朝に掛けて、ポツポツと話してくれたのだが、随分苦労をしたようだ」 「苦労?」 「うむ。ミナミのマンションでネグレクトをされていたのも、酷い話なのだが。名古屋で祖母や母と暮らしていた時は、身の回りの世話などは使用人がしてくれたようだが、人並みの愛情を注がれることは無かったようだ」 「だって、嫁と姑が取り合いしてたんじゃないの?」 「双方ともに、相手にマウントを取るためのトロフィーとしてミナトを取り合っていただけで、結果から言えばネグレクトと変わらない状況だったと言えるだろう。祖母は私のジジイと同様に、自分の思い通りに操ろうとして過干渉し、母親は自分の盾にするために、同情を引こうとしていたようだ」 思わず口から出た言葉は「なにそれ」だ。 そして俺の呟きに、敬一クンも大いに共感してくれた様子で、険しい顔のまま同意するように頷いている。 「確かにミナトの態度は、礼を欠いたものだが、許してやって欲しい。彼が頑ななのは、今まで彼の周りにいた大人の所為だ。だから今は心を開いてくれるように、働きかける努力をしている」 「でもセイちゃん、打ち解けたって言ってたじゃん?」 「それは、私もサバイバーだと話したことで、ミナトが口を利いてくれるようになっただけのことだ。完全に信用して心を開いてくれた訳( わけ ) では無い。先程の態度を見れば判るだろう? 私以外の大人とは、口を利くのも面倒だと言っている」 「あの、サバイバーって、なに?」 サバイバーと言う言葉には聞き覚えがあったが、この場合はどう考えても俺の知っている意味とは違う感じがしたので問うたのだが。 「そりゃオマエ、Eye of the Tiger じゃろ」 「いや、それじゃないと思う……」 「サバイバーとは "生き残った者" と言う意味だ。虐待の被害者以外にも、被災者などにも使われる名称だ」 「むう、サバイバーと言えば Eye of the Tiger だと思ったのに……」 「それはもういいから」 あんまりそれを言われると、あの前奏が脳内再生されて、メンバーが横広がりにストリートを歩いてくるPVを思い出してしまう。 「それで、白砂サンは今後もミナト君を手元に保護しておくつもりなんですか?」 「ああそうだ。なにか、問題でも?」 「問題は、養育権です。法的に他人があの子を保護していられるものなのか……」 「それに関しては、ミナミと連絡が取れないことにはどうにもなるまい。今朝、改めてメッセージを送ってあるし、留守電に伝言も残してあるが、未だに連絡は無い。ミナミが何か言ってくるまで……いや、ミナミがミナトを引き取りに来ても、渡す気は無い」 そこで一度言葉を切って、白砂サンはポケットからスマホを取り出した。 「昨晩、ミナトには猫との格闘の日々のインタビューを録らせてもらったし、身体の傷の写真も保存した。私は猫を通じてミナミと友人関係を持っている。彼が故意にミナトを虐待したとは思っていないが、彼にミナトの世話が出来るとも思えない」 敬一クンは頷きつつも、ホクトを見る。 「天宮、おまえはどう思う?」 「どう……って、伯母さんはどう気が変わるか判らないし、嫁さんに至っては顔も名前も知らないぐらいだから、何を考えてるか判らないけど。今のところは、どっちも養育権なんて欲しくないって感じだと思う」 「アマミーじゃって、子供の話なんて面倒っちぃから、セイちゃんのメールに返事してこないんだろーしなぁ」 「いや、多分、猫のことしか考えてませんよ、あいつ」 「セイちゃんの言うとーり、アマミーにはイクメンの素質は無さそーじゃし。むしろ今は、ウルサイ嫁が消えてくれて清々してるんじゃね?」 「その分、キズモノの孫が居なくなって、伯母サンからの口撃はひどくなってるんじゃないの?」 「そんなことまで、俺の知ったことじゃありませんよ。あいつだって大人なんだから、自分の親との折り合いぐらい、自分でつけてもらわないと」 南のこととなると、ホクトはいつものイケメン王子とはかけ離れた、吐き捨てるような口調になる。 「こうなると周囲があの子に無関心なことが、良いのか悪いのかも判らないな……」 敬一クンが溜息混じりに呟いた言葉は、俺も同意するところだ。 そんな過干渉な祖母や、男に逃げる母親や、ネグレクトの父親の元に返すのが良いこととは思えないが、誰( だれ ) も自分を迎えに来ないのは、子供には酷な話だ。 だが白砂サンは子供の面倒を見る気が満々の様子だし、オマケに独身で、誰( だれ ) かと部屋をシェアしている訳( わけ ) でも無いから、子供の居場所を作ってやれるだろう。 ミナトはどう見ても義務教育の年齢だが、それだってミナミから連絡が来ないうちに、こっちで勝手にどうこうする訳( わけ ) にもいかない。 事態に進展があったらまた相談しようってことで、俺達は上のペントハウスに戻った。
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「それで、今あの子は?」 「向こうの部屋に居る。昨晩から今朝に掛けて、ポツポツと話してくれたのだが、随分苦労をしたようだ」 「苦労?」 「うむ。ミナミのマンションでネグレクトをされていたのも、酷い話なのだが。名古屋で祖母や母と暮らしていた時は、身の回りの世話などは使用人がしてくれたようだが、人並みの愛情を注がれることは無かったようだ」 「だって、嫁と姑が取り合いしてたんじゃないの?」 「双方ともに、相手にマウントを取るためのトロフィーとしてミナトを取り合っていただけで、結果から言えばネグレクトと変わらない状況だったと言えるだろう。祖母は私のジジイと同様に、自分の思い通りに操ろうとして過干渉し、母親は自分の盾にするために、同情を引こうとしていたようだ」
思わず口から出た言葉は「なにそれ」だ。 そして俺の呟きに、敬一クンも大いに共感してくれた様子で、険しい顔のまま同意するように頷いている。
「確かにミナトの態度は、礼を欠いたものだが、許してやって欲しい。彼が頑ななのは、今まで彼の周りにいた大人の所為だ。だから今は心を開いてくれるように、働きかける努力をしている」 「でもセイちゃん、打ち解けたって言ってたじゃん?」 「それは、私もサバイバーだと話したことで、ミナトが口を利いてくれるようになっただけのことだ。完全に信用して心を開いてくれた|訳《わけ》では無い。先程の態度を見れば判るだろう? 私以外の大人とは、口を利くのも面倒だと言っている」 「あの、サバイバーって、なに?」
サバイバーと言う言葉には聞き覚えがあったが、この場合はどう考えても俺の知っている意味とは違う感じがしたので問うたのだが。
「そりゃオマエ、Eye of the Tiger じゃろ」 「いや、それじゃないと思う……」 「サバイバーとは "生き残った者" と言う意味だ。虐待の被害者以外にも、被災者などにも使われる名称だ」 「むう、サバイバーと言えば Eye of the Tiger だと思ったのに……」 「それはもういいから」
あんまりそれを言われると、あの前奏が脳内再生されて、メンバーが横広がりにストリートを歩いてくるPVを思い出してしまう。
「それで、白砂サンは今後もミナト君を手元に保護しておくつもりなんですか?」 「ああそうだ。なにか、問題でも?」 「問題は、養育権です。法的に他人があの子を保護していられるものなのか……」 「それに関しては、ミナミと連絡が取れないことにはどうにもなるまい。今朝、改めてメッセージを送ってあるし、留守電に伝言も残してあるが、未だに連絡は無い。ミナミが何か言ってくるまで……いや、ミナミがミナトを引き取りに来ても、渡す気は無い」
そこで一度言葉を切って、白砂サンはポケットからスマホを取り出した。
「昨晩、ミナトには猫との格闘の日々のインタビューを録らせてもらったし、身体の傷の写真も保存した。私は猫を通じてミナミと友人関係を持っている。彼が故意にミナトを虐待したとは思っていないが、彼にミナトの世話が出来るとも思えない」
敬一クンは頷きつつも、ホクトを見る。
「天宮、おまえはどう思う?」 「どう……って、伯母さんはどう気が変わるか判らないし、嫁さんに至っては顔も名前も知らないぐらいだから、何を考えてるか判らないけど。今のところは、どっちも養育権なんて欲しくないって感じだと思う」 「アマミーじゃって、子供の話なんて面倒っちぃから、セイちゃんのメールに返事してこないんだろーしなぁ」 「いや、多分、猫のことしか考えてませんよ、あいつ」 「セイちゃんの言うとーり、アマミーにはイクメンの素質は無さそーじゃし。むしろ今は、ウルサイ嫁が消えてくれて清々してるんじゃね?」 「その分、キズモノの孫が居なくなって、伯母サンからの口撃はひどくなってるんじゃないの?」 「そんなことまで、俺の知ったことじゃありませんよ。あいつだって大人なんだから、自分の親との折り合いぐらい、自分でつけてもらわないと」
南のこととなると、ホクトはいつものイケメン王子とはかけ離れた、吐き捨てるような口調になる。
「こうなると周囲があの子に無関心なことが、良いのか悪いのかも判らないな……」
敬一クンが溜息混じりに呟いた言葉は、俺も同意するところだ。 そんな過干渉な祖母や、男に逃げる母親や、ネグレクトの父親の元に返すのが良いこととは思えないが、|誰《だれ》も自分を迎えに来ないのは、子供には酷な話だ。 だが白砂サンは子供の面倒を見る気が満々の様子だし、オマケに独身で、|誰《だれ》かと部屋をシェアしている|訳《わけ》でも無いから、子供の居場所を作ってやれるだろう。 ミナトはどう見ても義務教育の年齢だが、それだってミナミから連絡が来ないうちに、こっちで勝手にどうこうする|訳《わけ》にもいかない。 事態に進展があったらまた相談しようってことで、俺達は上のペントハウスに戻った。