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14.怪傑ゾロの成れの果て

ー/ー



「イタル、身体自慢の話はしていない。シャツを身に着けたまえ」

 この間の抜けた空気の中でも落ち着き払った様子で、白砂サンはアタッシュケースを膝に載せると、おもむろに蓋を開けて、中から今朝敬一クンが着用していたトラジマ模様のホルターネックシャツを取り出した。

「柊一は、君がこの衣装を身に着けて、私と出掛けることが出来るかと、訊ねている」
「敬一クンだって、そんなもの着てないじゃないですか!」

 コグマの返事に、白砂サンは相変わらずの鉄面皮のまま、スッと手を引っ込めてトラジマシャツをアタッシュケースに収めたけれど、その表情の動かない横顔に、俺は微かな怒りを感じた。
 そして、きちんとアタッシュケースの蓋を閉めるとおもむろに立ち上がり、まだシノさんにシャツを捲りあげられたままの敬一クンの傍に寄る。

「すまない、敬一。立ち上がってくれまいか?」
「はあ、なんでしょう?」

 シャツがたくし上がったままの敬一クンが立ち上がると、白砂サンは「失礼」と言って一瞬にして、敬一クンの履いていたカーキ色のカーゴパンツを、スポッと脱がせて足首まで下ろしてしまった。

「え? うわっ」

 敬一クンは、自分が脱がされて初めて気付いたみたいに驚いている。

「納得したかね?」

 驚いた敬一クンをスルーして、白砂サンはコグマに振り返った。
 剥き出しになった敬一クンの下半身は、今朝この部屋で衣装合わせをしていた時の姿のままだ。
 がしかし、その他の装飾パーツが外された、ふさふさストレッチ素材だけの姿は、猫でも怪傑ゾロでもない。

「確かに、敬一クンがコスプレして()ったのは、本当みたいですけど……。でも、敬一クンはまだ子供じゃないですか。そんなの、イイ歳した僕がするような格好じゃないです!」
「それはつまり、私のコスプレ趣味に対する批判かね?」
「聖一サンは似合っているからいいんです! だけど僕は違います!」
「オマエ、ソレおかしいだろ!? オマエはオマエの言い分しかねェのかよ!」

 気の短いシノさんが苛立って、またコグマを詰った。

「僕が僕の言い分を言わなかったら、(だれ)が僕の言い分を言ってくれるんですか!」

 シノさんに言い返すなんて、どうやらコグマはすっかり意固地になっているようだ。
 一方的に責められる形になっていることも、コグマの腹立たしさを煽る理由になってるんだろう。
 だが、猫屋敷に連れて行かれる愚痴を聞いた時に思ったのだが、コグマが白砂サンの趣味に付き合う努力をしてるのは解るが、白砂サンに合わせることより、自分のカッコつけとか見栄を優先しているように俺には見えた。
 そして白砂サンも白砂サンで、コグマに対して色々と思うところがあるにも関わらず、それらの不満をなぜかコグマ本人には一切言わずに、シノさんに愚痴をこぼすだけに留めていたみたいだし、双方とも本音の話し合いを端折っている。
 双方が相手に気遣いをしているつもりで、自分のストレス値を無駄に上げていたのだから、この衝突は避けられなかっただろう。
 だけど交際(まえ)から白砂サンの肩を持つと宣言している専制君主のシノさんと、状況が解らず困惑してる敬一クンと、面倒事には日和見主義の俺……という不利なメンツの(まえ)でこの衝突をやらかしたのは、コグマ自身の失敗だ。

「君の言い分は、少々勝手過ぎまいか?」
「なにがですか?」
「君は、私が誘う前提で話をしている。君から私を誘って出掛ける機会を、君が作れば良いのでは?」
「何度も誘ってるじゃないですか! なのに聖一サン、最初以降は全然応じてくれてませんよね!」
「それは君の誘いが、夕方から外出をして飲酒をし、ご休憩して帰ってくる誘いだけだからだ!」

 とうとう白砂サンまで声を荒げた。


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「イタル、身体自慢の話はしていない。シャツを身に着けたまえ」
 この間の抜けた空気の中でも落ち着き払った様子で、白砂サンはアタッシュケースを膝に載せると、おもむろに蓋を開けて、中から今朝敬一クンが着用していたトラジマ模様のホルターネックシャツを取り出した。
「柊一は、君がこの衣装を身に着けて、私と出掛けることが出来るかと、訊ねている」
「敬一クンだって、そんなもの着てないじゃないですか!」
 コグマの返事に、白砂サンは相変わらずの鉄面皮のまま、スッと手を引っ込めてトラジマシャツをアタッシュケースに収めたけれど、その表情の動かない横顔に、俺は微かな怒りを感じた。
 そして、きちんとアタッシュケースの蓋を閉めるとおもむろに立ち上がり、まだシノさんにシャツを捲りあげられたままの敬一クンの傍に寄る。
「すまない、敬一。立ち上がってくれまいか?」
「はあ、なんでしょう?」
 シャツがたくし上がったままの敬一クンが立ち上がると、白砂サンは「失礼」と言って一瞬にして、敬一クンの履いていたカーキ色のカーゴパンツを、スポッと脱がせて足首まで下ろしてしまった。
「え? うわっ」
 敬一クンは、自分が脱がされて初めて気付いたみたいに驚いている。
「納得したかね?」
 驚いた敬一クンをスルーして、白砂サンはコグマに振り返った。
 剥き出しになった敬一クンの下半身は、今朝この部屋で衣装合わせをしていた時の姿のままだ。
 がしかし、その他の装飾パーツが外された、ふさふさストレッチ素材だけの姿は、猫でも怪傑ゾロでもない。
「確かに、敬一クンがコスプレして|行《い》ったのは、本当みたいですけど……。でも、敬一クンはまだ子供じゃないですか。そんなの、イイ歳した僕がするような格好じゃないです!」
「それはつまり、私のコスプレ趣味に対する批判かね?」
「聖一サンは似合っているからいいんです! だけど僕は違います!」
「オマエ、ソレおかしいだろ!? オマエはオマエの言い分しかねェのかよ!」
 気の短いシノさんが苛立って、またコグマを詰った。
「僕が僕の言い分を言わなかったら、|誰《だれ》が僕の言い分を言ってくれるんですか!」
 シノさんに言い返すなんて、どうやらコグマはすっかり意固地になっているようだ。
 一方的に責められる形になっていることも、コグマの腹立たしさを煽る理由になってるんだろう。
 だが、猫屋敷に連れて行かれる愚痴を聞いた時に思ったのだが、コグマが白砂サンの趣味に付き合う努力をしてるのは解るが、白砂サンに合わせることより、自分のカッコつけとか見栄を優先しているように俺には見えた。
 そして白砂サンも白砂サンで、コグマに対して色々と思うところがあるにも関わらず、それらの不満をなぜかコグマ本人には一切言わずに、シノさんに愚痴をこぼすだけに留めていたみたいだし、双方とも本音の話し合いを端折っている。
 双方が相手に気遣いをしているつもりで、自分のストレス値を無駄に上げていたのだから、この衝突は避けられなかっただろう。
 だけど交際|前《まえ》から白砂サンの肩を持つと宣言している専制君主のシノさんと、状況が解らず困惑してる敬一クンと、面倒事には日和見主義の俺……という不利なメンツの|前《まえ》でこの衝突をやらかしたのは、コグマ自身の失敗だ。
「君の言い分は、少々勝手過ぎまいか?」
「なにがですか?」
「君は、私が誘う前提で話をしている。君から私を誘って出掛ける機会を、君が作れば良いのでは?」
「何度も誘ってるじゃないですか! なのに聖一サン、最初以降は全然応じてくれてませんよね!」
「それは君の誘いが、夕方から外出をして飲酒をし、ご休憩して帰ってくる誘いだけだからだ!」
 とうとう白砂サンまで声を荒げた。