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8.おもちと大福

ー/ー



 ギャルソンエプロンが導入されると、案の定エビセン・ホクト・敬一クンのキャンパストリオは、見事な客引きの餌になった。
 口コミ欄には、料理を撮ってんだか、給仕を撮ってんだかワカラン、微妙な画像が上がっていて、それを見たイケメン好きなイチゲンさんもちょびっと増えた。
 とはいえ、炎上もバズりもしてないので、客の増え方も地味っちゃ地味で、さほど忙しくもなってない。
 そんなこんなで、その日も俺が閉店準備でテラスの椅子やらテーブルやらを片付けていると、坂の下からコグマが登ってくるのが見えた。

「やあ、おかえり」
「あっ! 多聞サン!」

 俺が声を掛けると、コグマはなぜかこちらに走り寄ってきた。

「どうしたの?」
「聞いてくださいよ!」

 キョロキョロと辺りを見回し、特に厨房の白砂サンの様子を何度も伺ってから、コグマはテラスの隅でコソコソ話しだした。

「多聞サン、おもちと大福の話、知ってますか?」
「え? おもちはともかく、大福なら商店街の真ん中辺りに縞彪(しまとら)って和菓子屋があるよ?」
「違いますよ、おもちと大福っていうのは、聖一サンの飼い猫です。白いのがおもち、黒っぽいブチがあるのが豆大福って名前なんです」
「あの猫、ミナミに譲渡しなかったの?」
「ミナミに預けて、部屋では飼わないって話になったんです。それで聖一サン、休みの度にミナミのマンションに(かよ)ってるんです。だから僕も、毎回一緒に()ってるんですけど……」

 コグマは紆余曲折を経て、現在白砂サンと "ステディな" お付き合いをしている。
 様子を見ていると、コグマはエビセンとのルームシェアを解消し、白砂サンの部屋に移り住みたいっぽい雰囲気を醸しているが、その一方で白砂サンのコレクションが怖くて、白砂サンの部屋に(ハイ)るのも難儀らしい。
 だがまぁ、ぶっちゃけエイリアンの等身大フィギュアが廊下に飾ってある……だけならまだしも、白砂サンはそれらのものに各種のギミックを仕掛けていて、(そば)を通りかかるとライトアップされたり、目が光ったり、奇声を上げたりするので、大人でもフツーに怖いと思うだろう。
 それどころか、俺なぞは確実に夜中、トイレにいけなくなると想像がつくから、ビビりなコグマを笑うつもりは無い。
 問題は、コグマが白砂サンにそれらのものを「苦手だ」としか伝えていないことだ。
 通い婚よろしく、距離のあるオツキアイをするつもりならともかく、同居を希望しているなら、もっとハッキリ「腰が抜けるほど怖い」と白状して、ホラーハウスみたいな演出をやめてもらいたい旨を伝え、同居のための折衷案を模索すべきと思うのだが。
 だが言うも言わぬも当事者の問題だから、俺がわざわざ言及する話でも無いと思って、(ほう)ってある。

「ミナミの部屋、猫の多頭飼いなんてもんじゃありませんよ! アレは猫屋敷です! いくら広い高級マンションだからって、猫が100匹ぐらいいるんですよ!」
「100匹は大袈裟なんじゃ〜?」
「いいえ! 大袈裟なんかじゃないです! 僕、本当は、動物とか子供とかあんまり好きじゃないのに、あんな猫部屋に毎週毎週通うの、(つら)すぎますよ!」
「あのさ。猫には興味ないって、白砂サンに言ったらどうよ?」
「だって聖一サンは猛烈な猫好きなんですよ? いつもおもちと大福におみやげを買っていくんですけど、先週なんて、ペースト状の猫用おやつを100匹分買ってったんですから! 部屋にいる100匹の猫は、すっかり聖一サンに懐いてるし、聖一サンはあそこで猫とばっかり遊んでいて、僕には見向きもしてくれないんです!」

 思わず、思ったことを口に出してしまったが、バーっと言い返されて、少々後悔する。

「いや、だから、そうじゃなくて。たまには猫以外のイベントもとか……」
「ちょっと多聞サン、僕の話ちゃんと聞いてます? 聖一サンは猫が大好きなんですよ? それなのに、僕は猫が好きじゃないから、猫より僕と遊んで下さいなんて言ったら、大人げないって思われちゃうじゃないですか!」
「ああ……、そう……」

 要するに、自分が "白馬の王子様" を気取るつもりで見栄を張っているだけだってことが、改めて浮き彫りになっただけだ。
 でもそんな見栄っ張りで無理な我慢を続けていれば、そのうち溜まり溜まった不満が爆発するんじゃなかろうか?
 それでなくともコグマと白砂サンの交際は、専制君主であるシノさんが白砂サンに肩入れしてるところから始まってるんだから、トラブった場合、コグマに勝ち目は無い。
 だけどそういうことも、俺が言ったところで、この様子のコグマは聞く耳持たないだろう。

「イタル、戻っていたのかね。おかえり」

 厨房の片付けが終わったらしく、白砂サンが出てきて、コグマが居ることに気付いたようだ。

「あ、聖一サン、ただいま帰りました」
「今日は、キドニーを焼いたから取り置きしてあるよ。持って行くかね?」
「ありがとうございます! 聖一サンはこれからお夕飯ですか? それなら僕の部屋で一緒に食べましょう」
「しかし、突然お邪魔しては、海老坂君に悪いよ」
「大丈夫ですよ、海老坂クンはきっと、柊一サンの所に食べに()っちゃいますから!」

 白砂サンの(まえ)では、取り繕いまくりでデレデレのコグマに、俺は呆れた溜息しか出なかった。


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 ギャルソンエプロンが導入されると、案の定エビセン・ホクト・敬一クンのキャンパストリオは、見事な客引きの餌になった。
 口コミ欄には、料理を撮ってんだか、給仕を撮ってんだかワカラン、微妙な画像が上がっていて、それを見たイケメン好きなイチゲンさんもちょびっと増えた。
 とはいえ、炎上もバズりもしてないので、客の増え方も地味っちゃ地味で、さほど忙しくもなってない。
 そんなこんなで、その日も俺が閉店準備でテラスの椅子やらテーブルやらを片付けていると、坂の下からコグマが登ってくるのが見えた。
「やあ、おかえり」
「あっ! 多聞サン!」
 俺が声を掛けると、コグマはなぜかこちらに走り寄ってきた。
「どうしたの?」
「聞いてくださいよ!」
 キョロキョロと辺りを見回し、特に厨房の白砂サンの様子を何度も伺ってから、コグマはテラスの隅でコソコソ話しだした。
「多聞サン、おもちと大福の話、知ってますか?」
「え? おもちはともかく、大福なら商店街の真ん中辺りに|縞彪《しまとら》って和菓子屋があるよ?」
「違いますよ、おもちと大福っていうのは、聖一サンの飼い猫です。白いのがおもち、黒っぽいブチがあるのが豆大福って名前なんです」
「あの猫、ミナミに譲渡しなかったの?」
「ミナミに預けて、部屋では飼わないって話になったんです。それで聖一サン、休みの度にミナミのマンションに|通《かよ》ってるんです。だから僕も、毎回一緒に|行《い》ってるんですけど……」
 コグマは紆余曲折を経て、現在白砂サンと "ステディな" お付き合いをしている。
 様子を見ていると、コグマはエビセンとのルームシェアを解消し、白砂サンの部屋に移り住みたいっぽい雰囲気を醸しているが、その一方で白砂サンのコレクションが怖くて、白砂サンの部屋に|入《ハイ》るのも難儀らしい。
 だがまぁ、ぶっちゃけエイリアンの等身大フィギュアが廊下に飾ってある……だけならまだしも、白砂サンはそれらのものに各種のギミックを仕掛けていて、|傍《そば》を通りかかるとライトアップされたり、目が光ったり、奇声を上げたりするので、大人でもフツーに怖いと思うだろう。
 それどころか、俺なぞは確実に夜中、トイレにいけなくなると想像がつくから、ビビりなコグマを笑うつもりは無い。
 問題は、コグマが白砂サンにそれらのものを「苦手だ」としか伝えていないことだ。
 通い婚よろしく、距離のあるオツキアイをするつもりならともかく、同居を希望しているなら、もっとハッキリ「腰が抜けるほど怖い」と白状して、ホラーハウスみたいな演出をやめてもらいたい旨を伝え、同居のための折衷案を模索すべきと思うのだが。
 だが言うも言わぬも当事者の問題だから、俺がわざわざ言及する話でも無いと思って、|放《ほう》ってある。
「ミナミの部屋、猫の多頭飼いなんてもんじゃありませんよ! アレは猫屋敷です! いくら広い高級マンションだからって、猫が100匹ぐらいいるんですよ!」
「100匹は大袈裟なんじゃ〜?」
「いいえ! 大袈裟なんかじゃないです! 僕、本当は、動物とか子供とかあんまり好きじゃないのに、あんな猫部屋に毎週毎週通うの、|辛《つら》すぎますよ!」
「あのさ。猫には興味ないって、白砂サンに言ったらどうよ?」
「だって聖一サンは猛烈な猫好きなんですよ? いつもおもちと大福におみやげを買っていくんですけど、先週なんて、ペースト状の猫用おやつを100匹分買ってったんですから! 部屋にいる100匹の猫は、すっかり聖一サンに懐いてるし、聖一サンはあそこで猫とばっかり遊んでいて、僕には見向きもしてくれないんです!」
 思わず、思ったことを口に出してしまったが、バーっと言い返されて、少々後悔する。
「いや、だから、そうじゃなくて。たまには猫以外のイベントもとか……」
「ちょっと多聞サン、僕の話ちゃんと聞いてます? 聖一サンは猫が大好きなんですよ? それなのに、僕は猫が好きじゃないから、猫より僕と遊んで下さいなんて言ったら、大人げないって思われちゃうじゃないですか!」
「ああ……、そう……」
 要するに、自分が "白馬の王子様" を気取るつもりで見栄を張っているだけだってことが、改めて浮き彫りになっただけだ。
 でもそんな見栄っ張りで無理な我慢を続けていれば、そのうち溜まり溜まった不満が爆発するんじゃなかろうか?
 それでなくともコグマと白砂サンの交際は、専制君主であるシノさんが白砂サンに肩入れしてるところから始まってるんだから、トラブった場合、コグマに勝ち目は無い。
 だけどそういうことも、俺が言ったところで、この様子のコグマは聞く耳持たないだろう。
「イタル、戻っていたのかね。おかえり」
 厨房の片付けが終わったらしく、白砂サンが出てきて、コグマが居ることに気付いたようだ。
「あ、聖一サン、ただいま帰りました」
「今日は、キドニーを焼いたから取り置きしてあるよ。持って行くかね?」
「ありがとうございます! 聖一サンはこれからお夕飯ですか? それなら僕の部屋で一緒に食べましょう」
「しかし、突然お邪魔しては、海老坂君に悪いよ」
「大丈夫ですよ、海老坂クンはきっと、柊一サンの所に食べに|行《い》っちゃいますから!」
 白砂サンの|前《まえ》では、取り繕いまくりでデレデレのコグマに、俺は呆れた溜息しか出なかった。