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7話 計画

ー/ー




 エンジェリアが歓迎会に疲れて眠っている時間。フォルは一人でエクリシェの外へ出ていた。

「久しぶり」

「ああ。久しぶりだ」

 ある国の王都にある人気のない裏路地。そこで緑髪の女性と会っている。

「以前の計画通りでいいかい? 」

「変更する。匂いでバレるだろうから、僕に頼まれて世話をするって事にして。それ以外は事前に教えた通りで」

 誰にも知られずに進めているある計画。当初は緑髪の女性に変装魔法を使ってもらい、フォルの代わりを務めてもらう計画だったが、エンジェリアに匂いを嗅がせた事で偽物だとバレてしまう。
 それならいっそはじめから別人だと言って近付いてもらう方がエンジェリアが疑わない。

「了解。これも契約。最後まで付き合うよ。けど、これで本当に後悔しないのかい? 確かに、あの二人は何も知らずに安全に暮らせる。その代償として君はあの二人以外の全ての縁を切らなければならなくなる」

「そんなの、あの子らの安全が得られるならどうでも良い。僕はただ、あの子らが笑ってくれていれば良いんだ。それ以外のものは全部捨てて良い。何も求めてなんていない」

 前々回の二人の結末を見てから、それ以外を望もうとしなくなっていた。その時に、他の全てを諦めた。

 今のフォルの望みは、エンジェリアとゼノンを御巫の運命から解放する事。それだけだ。

「世の中、真実の愛だとか、一途な愛、純粋な愛、変わらぬ愛、偽りの愛。強固なものもあれば脆いものもある。愛というのはそれぞれだ。君の場合、底の見えないほど深い場所にあり、幾千幾万の時が経とうと薄れるどころか深まるばかりの愛なんだろうね」

「……」

「深愛。どこまでも深く、愛された相手を溺れさせ、逃げられなくする愛。美しくもせつない。それが君をずっと苦しめている」

 その愛がなければ、この選択はしなかった。たった二人のためだけに全てを捨てるなどと馬鹿げていると言っていただろう。

 だが、そこまで二人を愛してしまったフォルにはそれができない。たった二人のために全てを捨てても良いと思っている。

「深愛、か。そうなんだろうね。記憶にもないほど昔からずっと深くなるばかりなんだ。それを、深い海の底に沈めようとしては失敗して。ロジェ、あの子らの事最後まで守ってあげて」

「それが契約なんだ。言われなくてもそうするよ」

「うん……ごめん、なにもしてやれなくて。それと、ありがと、さようなら」

 この計画が成功した先、協力者である彼女に会う事もできなくなる。そして、計画が成功する前に会うのもこれで最後。

 フォルは彼女にだけは別れを直接告げた。

「礼だけ受け取っておくよ」

      **********

 エンジェリアはゼノンにエクリシェ案内をしてもらっていた。
 居住スペース、娯楽スペース、買い物スペースなど、外に出る必要がないほど充実している。

「便利だろ」

「みゅ。水族館、お魚いっぱい。お魚に乗れるんだよね? 」

「乗れるわけねぇだろ。お前の中の魚はどんだけでかいんだよ」

 婚約発表から数日、エンジェリアとゼノンは更に仲を深めていた。今ではエンジェリアが何か言うたびにゼノンが突っ込んで、エンジェリアが楽しむのが日常になっている。

「それにしても遅いな。そろそろ帰ってきて良いと思うんだが」

「うん。エレ寂しい。ゼノンいるからがまんしてるだけなの」

 フォルが外に出て数日経っているというのに戻ってこない。今もエンジェリアとゼノンはフォルの帰りを待っている。

「双子姫さん。はじめましてかな」

 緑髪の女性がエンジェリアとゼノンに挨拶をする。

「僕はローシェジェラ。しばらくの間、フォルから二人の面倒を見て欲しいと頼まれてる。よろしくね、エレ、ゼノン」

 親切には親切を返す。最近のエンジェリアが覚えた事だ。

 エンジェリアはぺこりとお辞儀をした。

「よろしくなの……ゼノンも面倒見られてたんだ」

「……エレ、探検の次は勉強って約束だろ。勉強三時間コースな。俺がじっくり教えてやる」

 面倒見られていたが気に障ったのだろう。エンジェリアが勉強嫌いと知っていてゼノンがそう言っている。

「いじわるなの。極甘が良いの。とってもとってもあまあまが良いの」

「とりあえずテスト作ってあるからそれ解いてみろ」

「みゅぅ」

 エンジェリアは逃げ道などない事に気づいているため、嫌々ゼノンが渡すテストをリビングで受ける事にした。

      **********

「……魔法学と調合学だけは満点だね」

「ああ。ほか全部十点未満だが。何でそれだけ満点取れんだよ。普通逆だろ」

 ゼノンが呆れを通り越して感心しているようだ。

 エンジェリアはテスト燃え尽き症候群で机に突っ伏している。

「がんばったの。ごほうびをよぉきゅぅするの」

「これで良いか? 」

 エンジェリアはゼノンに頭を撫でられて喜んでいる。

「にしても、フォルから聞いてはいたが、天才魔法具技師は本当だったな」

 ゼノンの意外と言いたそうな表情を見てエンジェリアは「当然なの」と不機嫌に言った。

 テストには何でも良いから魔法具の設計図を描けという問題があり、エンジェリアは短時間で高性能のどこにいても道がわかる魔法具の設計図を描いた。

 しかも現在の技術で作れるギリギリラインを攻めている。

「得意分野なの。今のゼノンの連絡魔法具の性能を百倍くらいあげた魔宝具の設計図も描けるの」

「お前の技術は何千年前取りしてんだよ」

「逆なの。今が低いの。古代魔法具はもっと性能高いでしょ? 」

 エンジェリアは収納魔法で巨大な本を取り出した。古代魔法具という事だけ知っている謎の本。エンジェリアが昔から持っているものだ。

「中の文字が読めないからどんな魔法具なのかわかんないの。でも、動き続けてるのは確かなの。ずっと昔のものなのに奇跡みたいでしょ? 」

「……魔原書リプセグ。君だけの特別な魔法具だよ。読めないならゼノンに読んでもらえば? こんなテストするくらいなら当然読めるでしょ」

「……黄金蝶ってみんなそうなの? ちょっぴりいじわる。でも、優しそう。ゼノンに頼むの」

 エンジェリアはそう言ってローシェジェラに笑顔を見せた。

「ゼノン、お部屋戻ってエレと一緒に読むの。文字がんばって覚えるから教えて欲しいの」

「頑張んなくて良い。もっと気楽に楽しくしてた方が覚えやすいだろ。それに勉強嫌いにもならねぇだろ」

「みゅにゃ⁉︎ 天才ゼノンなの⁉︎ ロジェ、またあとでね。ゼノン、エレがお部屋まで案内なの」

 エンジェリアは立ち上がり、ゼノンを連れてリビングを出た。

「……なぁ、反対」

「みゅにゃ!? ゼノン、お願いなの」

「お前方向音痴だろ」

 今までは同じ場所を行き来するだけの生活だった。こんな広い場所を歩く事もなくエンジェリアは方向音痴を自覚していなかった。

 ゼノンに指摘されて気づいたが受け入れられない。

「気のせいなの! 」

「……前にフォルと夜遊んでた時に方向音痴の子が好きって言ってた」

「エレは方向音痴なの」

 フォルに好きになって欲しいエンジェリアは方向音痴をあっさりと認めた。

「……単純姫」

「まさか騙したの⁉︎ 」

「騙してねぇよ。方向音痴の主人公の本を読んでてそれで言ってたんだ。単純姫」

 ゼノンがまた呆れた表情を見せる。エンジェリアは、ゼノンを驚かせようと部屋に戻るこの時間でリビングから部屋までの道だけでも覚えようと一人で意気込んだ。

 だが、道を全く覚えられずゼノンに呆れられたままになった。

「魔原書リプセグが綴る。星の姫君達の奇跡の物語星の音……」

 ベッドの上で並んで座りエンジェリア達は、魔原書リビングに書かれたエンジェリア達の夢のような願いが導いたもう一つ物語を見る事となった。


次のエピソードへ進む 8話 魔原書リプセグ 星の音 願い


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 エンジェリアが歓迎会に疲れて眠っている時間。フォルは一人でエクリシェの外へ出ていた。
「久しぶり」
「ああ。久しぶりだ」
 ある国の王都にある人気のない裏路地。そこで緑髪の女性と会っている。
「以前の計画通りでいいかい? 」
「変更する。匂いでバレるだろうから、僕に頼まれて世話をするって事にして。それ以外は事前に教えた通りで」
 誰にも知られずに進めているある計画。当初は緑髪の女性に変装魔法を使ってもらい、フォルの代わりを務めてもらう計画だったが、エンジェリアに匂いを嗅がせた事で偽物だとバレてしまう。
 それならいっそはじめから別人だと言って近付いてもらう方がエンジェリアが疑わない。
「了解。これも契約。最後まで付き合うよ。けど、これで本当に後悔しないのかい? 確かに、あの二人は何も知らずに安全に暮らせる。その代償として君はあの二人以外の全ての縁を切らなければならなくなる」
「そんなの、あの子らの安全が得られるならどうでも良い。僕はただ、あの子らが笑ってくれていれば良いんだ。それ以外のものは全部捨てて良い。何も求めてなんていない」
 前々回の二人の結末を見てから、それ以外を望もうとしなくなっていた。その時に、他の全てを諦めた。
 今のフォルの望みは、エンジェリアとゼノンを御巫の運命から解放する事。それだけだ。
「世の中、真実の愛だとか、一途な愛、純粋な愛、変わらぬ愛、偽りの愛。強固なものもあれば脆いものもある。愛というのはそれぞれだ。君の場合、底の見えないほど深い場所にあり、幾千幾万の時が経とうと薄れるどころか深まるばかりの愛なんだろうね」
「……」
「深愛。どこまでも深く、愛された相手を溺れさせ、逃げられなくする愛。美しくもせつない。それが君をずっと苦しめている」
 その愛がなければ、この選択はしなかった。たった二人のためだけに全てを捨てるなどと馬鹿げていると言っていただろう。
 だが、そこまで二人を愛してしまったフォルにはそれができない。たった二人のために全てを捨てても良いと思っている。
「深愛、か。そうなんだろうね。記憶にもないほど昔からずっと深くなるばかりなんだ。それを、深い海の底に沈めようとしては失敗して。ロジェ、あの子らの事最後まで守ってあげて」
「それが契約なんだ。言われなくてもそうするよ」
「うん……ごめん、なにもしてやれなくて。それと、ありがと、さようなら」
 この計画が成功した先、協力者である彼女に会う事もできなくなる。そして、計画が成功する前に会うのもこれで最後。
 フォルは彼女にだけは別れを直接告げた。
「礼だけ受け取っておくよ」
      **********
 エンジェリアはゼノンにエクリシェ案内をしてもらっていた。
 居住スペース、娯楽スペース、買い物スペースなど、外に出る必要がないほど充実している。
「便利だろ」
「みゅ。水族館、お魚いっぱい。お魚に乗れるんだよね? 」
「乗れるわけねぇだろ。お前の中の魚はどんだけでかいんだよ」
 婚約発表から数日、エンジェリアとゼノンは更に仲を深めていた。今ではエンジェリアが何か言うたびにゼノンが突っ込んで、エンジェリアが楽しむのが日常になっている。
「それにしても遅いな。そろそろ帰ってきて良いと思うんだが」
「うん。エレ寂しい。ゼノンいるからがまんしてるだけなの」
 フォルが外に出て数日経っているというのに戻ってこない。今もエンジェリアとゼノンはフォルの帰りを待っている。
「双子姫さん。はじめましてかな」
 緑髪の女性がエンジェリアとゼノンに挨拶をする。
「僕はローシェジェラ。しばらくの間、フォルから二人の面倒を見て欲しいと頼まれてる。よろしくね、エレ、ゼノン」
 親切には親切を返す。最近のエンジェリアが覚えた事だ。
 エンジェリアはぺこりとお辞儀をした。
「よろしくなの……ゼノンも面倒見られてたんだ」
「……エレ、探検の次は勉強って約束だろ。勉強三時間コースな。俺がじっくり教えてやる」
 面倒見られていたが気に障ったのだろう。エンジェリアが勉強嫌いと知っていてゼノンがそう言っている。
「いじわるなの。極甘が良いの。とってもとってもあまあまが良いの」
「とりあえずテスト作ってあるからそれ解いてみろ」
「みゅぅ」
 エンジェリアは逃げ道などない事に気づいているため、嫌々ゼノンが渡すテストをリビングで受ける事にした。
      **********
「……魔法学と調合学だけは満点だね」
「ああ。ほか全部十点未満だが。何でそれだけ満点取れんだよ。普通逆だろ」
 ゼノンが呆れを通り越して感心しているようだ。
 エンジェリアはテスト燃え尽き症候群で机に突っ伏している。
「がんばったの。ごほうびをよぉきゅぅするの」
「これで良いか? 」
 エンジェリアはゼノンに頭を撫でられて喜んでいる。
「にしても、フォルから聞いてはいたが、天才魔法具技師は本当だったな」
 ゼノンの意外と言いたそうな表情を見てエンジェリアは「当然なの」と不機嫌に言った。
 テストには何でも良いから魔法具の設計図を描けという問題があり、エンジェリアは短時間で高性能のどこにいても道がわかる魔法具の設計図を描いた。
 しかも現在の技術で作れるギリギリラインを攻めている。
「得意分野なの。今のゼノンの連絡魔法具の性能を百倍くらいあげた魔宝具の設計図も描けるの」
「お前の技術は何千年前取りしてんだよ」
「逆なの。今が低いの。古代魔法具はもっと性能高いでしょ? 」
 エンジェリアは収納魔法で巨大な本を取り出した。古代魔法具という事だけ知っている謎の本。エンジェリアが昔から持っているものだ。
「中の文字が読めないからどんな魔法具なのかわかんないの。でも、動き続けてるのは確かなの。ずっと昔のものなのに奇跡みたいでしょ? 」
「……魔原書リプセグ。君だけの特別な魔法具だよ。読めないならゼノンに読んでもらえば? こんなテストするくらいなら当然読めるでしょ」
「……黄金蝶ってみんなそうなの? ちょっぴりいじわる。でも、優しそう。ゼノンに頼むの」
 エンジェリアはそう言ってローシェジェラに笑顔を見せた。
「ゼノン、お部屋戻ってエレと一緒に読むの。文字がんばって覚えるから教えて欲しいの」
「頑張んなくて良い。もっと気楽に楽しくしてた方が覚えやすいだろ。それに勉強嫌いにもならねぇだろ」
「みゅにゃ⁉︎ 天才ゼノンなの⁉︎ ロジェ、またあとでね。ゼノン、エレがお部屋まで案内なの」
 エンジェリアは立ち上がり、ゼノンを連れてリビングを出た。
「……なぁ、反対」
「みゅにゃ!? ゼノン、お願いなの」
「お前方向音痴だろ」
 今までは同じ場所を行き来するだけの生活だった。こんな広い場所を歩く事もなくエンジェリアは方向音痴を自覚していなかった。
 ゼノンに指摘されて気づいたが受け入れられない。
「気のせいなの! 」
「……前にフォルと夜遊んでた時に方向音痴の子が好きって言ってた」
「エレは方向音痴なの」
 フォルに好きになって欲しいエンジェリアは方向音痴をあっさりと認めた。
「……単純姫」
「まさか騙したの⁉︎ 」
「騙してねぇよ。方向音痴の主人公の本を読んでてそれで言ってたんだ。単純姫」
 ゼノンがまた呆れた表情を見せる。エンジェリアは、ゼノンを驚かせようと部屋に戻るこの時間でリビングから部屋までの道だけでも覚えようと一人で意気込んだ。
 だが、道を全く覚えられずゼノンに呆れられたままになった。
「魔原書リプセグが綴る。星の姫君達の奇跡の物語星の音……」
 ベッドの上で並んで座りエンジェリア達は、魔原書リビングに書かれたエンジェリア達の夢のような願いが導いたもう一つ物語を見る事となった。