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第二十一幕

ー/ー



「お久しぶりです、お姉様。こんな所で何をされているんですか? 今は護衛の方と一緒に散歩に出ているとお聞きしましたが……」


 姫より、何センチか小さな体型。頭には、野生動物の耳を模したかのような二つの団子結びをした髪型。皇后と同じく煌びやかなドレスに包まれた、ご令嬢。名前はミラノ・ミーシャ。姫の従姉妹にあたる。


「それは……  いやいや。こっちのセリフよ! なんでアンタがウチの屋敷にいるわけ? いつからいたの? 来るなら来るって事前に言ってほしかったんだけど?」


 姫は、ご令嬢に詰め寄るように畳み掛ける。


「そんなこと言われましても、いきなりの事でミーシャも大変だったんですよ? 朝起きたら、移動するーー なんて言われて、手紙を送る暇なんて無かったですよ。だから今渡しますね。はいコレ」


 ご令嬢は、悪びれる様子もなく隠し持っていた手紙を姫に手渡す。


「だから何で、いつも手渡しなのよ。で、今日は何しに来たの? 大体アンタ、いつも勝手に来ては問題ばっかり起こして……」


 ふと、姫の視線が下がる。良く見ると、ご令嬢は何かを大事そうに懐に抱えていた。それは、埃をかぶっている。厚みがあり、しっかりしていた。良く、見覚えがある。姫は徐々に顔を青ざめた。


「ミーシャ…… アンタ、それどこで拾ったの?」


「あーー。この本ですか? そうそう。会ったら話そうと思ってたんです。実はこの本、ミーシャが部屋に入った途端いきなり上から降ってきたんですよ。まだ、中身は見てないんですけど、なんだか運命感じちゃって一応大事に持ってるんです」


 ご令嬢は嬉しそうに応えた。


「どうかしましたか? 顔色が悪いですよ?」


「ねぇ…… アンタ。今、部屋の外から入って来なかった? まさか…… まさかとは思うけど、その本を持ったまま屋敷内を徘徊してたんじゃないわよね……」


「えっ? ダメなんですか? ちょっとトイレに行って来ただけですよ? それとも、お姉様は、この本について何かご存知なんですか?」


 ご令嬢は純粋な疑問を投げかけた。一瞬、何かを言おうとするが、躊躇うと僅かに間を開け姫は再び口を開く。


「ダメに決まってるでしょ? アンタ、私の部屋がすぐこの上の階にあるの忘れたの? さっき、掃除してる時にうっかり落としちゃったのよ。まさか、アンタが下にいるとは思わなかったけど。さあ、それは私の物よ。早く返しなさい。時間が無いから早くして」


 姫は堂々とした態度で話す。ご令嬢は悲壮の笑みを浮かべた。大事そうに抱えた、その本をじっと見つめると、ご令嬢は口を開く。


「そうでしたね…… お姉様には時間が無いのでしたね…… すみませんでした。お姉様の物なら、お返しします。どうぞ」


 ご令嬢は抵抗するわけでもなく、すんなりと本を手渡した。


「へーー…… 今日は随分と素直じゃない。何かあった?」


「そうですか? いつも通りですよ?」


 まさか、こんなかに簡単に渡してくれるとは思いもしなかった。普段なら、もっと駄々をこねるはずなんだけど…… 姫は本を受け取ると当たりを気にする仕草を見せながら、服の中に隠した。


「隠すんですか?」ご令嬢が、つかさず応える。


「そ、そうよ。悪い? 私だって見られたくない物の一つや二つくらいあるの。貴方にもあるでしょ? それに……」


 その時、階段をゆっくりと上がる一つの足音が耳に入る。まずい……


「姫様ーー! また勝手に逃げ出して…… どこにいるんですか? 別に怒ったりしませんから出てきて下さい。……というか、出てきてくれないと怒られるの私なんですよ? 勘弁してくれ……」


 姫の直感はすぐさま現実の物になる。大丈夫、まだ遠い……


「もしかして、オルディボさんですか? どこにいるんですか?」ご令嬢は興味津々な様子で話しを進める。


「早いわね…… ごめんなさい。ちょっと用事を思い出したから、もう行くわ。あっ、それとオルディボが来たら私は図書館にいるって言っておいてくれない? いい?」


 姫は、メイド達に圧をかけるかの如く一通り視線を合わせると偉そうに応えた。


「凄い呼ばれてますけど良いんですか? オルディボさん、また怒られちゃいますよ? ミーシャとしては少し気が引けます」


「ハァ? 良いわよ別に。コレも護衛の役目なんだから。彼も内心、私の役に立てて喜んでるはずよ。会えばわかるわ。とりあえず、そう言うことだからよろしくね?」


 それだけ言い残すと姫は来た道とは逆の方角へと走っていった。それを遠目に追うご令嬢。しばらくすると、背後から一人の男性の声が聞こえてきた。


「これは…… ミーシャ様。来ておられたのですか? まったく知りませんでした…… ただ、大変恐縮なのですが、一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」


 護衛の男は、落ち着かない様子で話す。


「姫様を…… リアナ皇女を見かけませんでしたか? ずっと探しているのですが…… まったく……」男が問いかける。真っ青な顔で悲壮な笑みを浮かべながら。


「あの…… 」


「何かご存じでしたか?」男の瞳に僅かな光が宿る。


 ご令嬢はゆったりとした口調で語りかける。


「いえ………… オルディボさんが楽しそうで何よりです!」


「えっ…………?」


 男はあからさまに驚いてみせた。


「えっ…………?」


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「お久しぶりです、お姉様。こんな所で何をされているんですか? 今は護衛の方と一緒に散歩に出ているとお聞きしましたが……」
 姫より、何センチか小さな体型。頭には、野生動物の耳を模したかのような二つの団子結びをした髪型。皇后と同じく煌びやかなドレスに包まれた、ご令嬢。名前はミラノ・ミーシャ。姫の従姉妹にあたる。
「それは……  いやいや。こっちのセリフよ! なんでアンタがウチの屋敷にいるわけ? いつからいたの? 来るなら来るって事前に言ってほしかったんだけど?」
 姫は、ご令嬢に詰め寄るように畳み掛ける。
「そんなこと言われましても、いきなりの事でミーシャも大変だったんですよ? 朝起きたら、移動するーー なんて言われて、手紙を送る暇なんて無かったですよ。だから今渡しますね。はいコレ」
 ご令嬢は、悪びれる様子もなく隠し持っていた手紙を姫に手渡す。
「だから何で、いつも手渡しなのよ。で、今日は何しに来たの? 大体アンタ、いつも勝手に来ては問題ばっかり起こして……」
 ふと、姫の視線が下がる。良く見ると、ご令嬢は何かを大事そうに懐に抱えていた。それは、埃をかぶっている。厚みがあり、しっかりしていた。良く、見覚えがある。姫は徐々に顔を青ざめた。
「ミーシャ…… アンタ、それどこで拾ったの?」
「あーー。この本ですか? そうそう。会ったら話そうと思ってたんです。実はこの本、ミーシャが部屋に入った途端いきなり上から降ってきたんですよ。まだ、中身は見てないんですけど、なんだか運命感じちゃって一応大事に持ってるんです」
 ご令嬢は嬉しそうに応えた。
「どうかしましたか? 顔色が悪いですよ?」
「ねぇ…… アンタ。今、部屋の外から入って来なかった? まさか…… まさかとは思うけど、その本を持ったまま屋敷内を徘徊してたんじゃないわよね……」
「えっ? ダメなんですか? ちょっとトイレに行って来ただけですよ? それとも、お姉様は、この本について何かご存知なんですか?」
 ご令嬢は純粋な疑問を投げかけた。一瞬、何かを言おうとするが、躊躇うと僅かに間を開け姫は再び口を開く。
「ダメに決まってるでしょ? アンタ、私の部屋がすぐこの上の階にあるの忘れたの? さっき、掃除してる時にうっかり落としちゃったのよ。まさか、アンタが下にいるとは思わなかったけど。さあ、それは私の物よ。早く返しなさい。時間が無いから早くして」
 姫は堂々とした態度で話す。ご令嬢は悲壮の笑みを浮かべた。大事そうに抱えた、その本をじっと見つめると、ご令嬢は口を開く。
「そうでしたね…… お姉様には時間が無いのでしたね…… すみませんでした。お姉様の物なら、お返しします。どうぞ」
 ご令嬢は抵抗するわけでもなく、すんなりと本を手渡した。
「へーー…… 今日は随分と素直じゃない。何かあった?」
「そうですか? いつも通りですよ?」
 まさか、こんなかに簡単に渡してくれるとは思いもしなかった。普段なら、もっと駄々をこねるはずなんだけど…… 姫は本を受け取ると当たりを気にする仕草を見せながら、服の中に隠した。
「隠すんですか?」ご令嬢が、つかさず応える。
「そ、そうよ。悪い? 私だって見られたくない物の一つや二つくらいあるの。貴方にもあるでしょ? それに……」
 その時、階段をゆっくりと上がる一つの足音が耳に入る。まずい……
「姫様ーー! また勝手に逃げ出して…… どこにいるんですか? 別に怒ったりしませんから出てきて下さい。……というか、出てきてくれないと怒られるの私なんですよ? 勘弁してくれ……」
 姫の直感はすぐさま現実の物になる。大丈夫、まだ遠い……
「もしかして、オルディボさんですか? どこにいるんですか?」ご令嬢は興味津々な様子で話しを進める。
「早いわね…… ごめんなさい。ちょっと用事を思い出したから、もう行くわ。あっ、それとオルディボが来たら私は図書館にいるって言っておいてくれない? いい?」
 姫は、メイド達に圧をかけるかの如く一通り視線を合わせると偉そうに応えた。
「凄い呼ばれてますけど良いんですか? オルディボさん、また怒られちゃいますよ? ミーシャとしては少し気が引けます」
「ハァ? 良いわよ別に。コレも護衛の役目なんだから。彼も内心、私の役に立てて喜んでるはずよ。会えばわかるわ。とりあえず、そう言うことだからよろしくね?」
 それだけ言い残すと姫は来た道とは逆の方角へと走っていった。それを遠目に追うご令嬢。しばらくすると、背後から一人の男性の声が聞こえてきた。
「これは…… ミーシャ様。来ておられたのですか? まったく知りませんでした…… ただ、大変恐縮なのですが、一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」
 護衛の男は、落ち着かない様子で話す。
「姫様を…… リアナ皇女を見かけませんでしたか? ずっと探しているのですが…… まったく……」男が問いかける。真っ青な顔で悲壮な笑みを浮かべながら。
「あの…… 」
「何かご存じでしたか?」男の瞳に僅かな光が宿る。
 ご令嬢はゆったりとした口調で語りかける。
「いえ………… オルディボさんが楽しそうで何よりです!」
「えっ…………?」
 男はあからさまに驚いてみせた。
「えっ…………?」