@ 29話
ー/ー
真一はマフラーに顔を埋めて謝罪の念に浸る。もう摩己は勿論、天恵の温もりも香りも纏っていないマフラー。
ホテルでキーワードが配られなかったことによる、心理的焦燥感というのか、違和感を期待した真一の思惑は外れた形となるが、灯のカミングアウトは天恵の希望通りに事態を動かす結果となった。
クロスワードの解が見えたことで、誰の仕業か見当がつく。だから月下家で何かしらの動きがあることは、真一には想定内の出来事のはずだった。それなのに……。
一昨日の午後から降った雨のせいで、マフラーは汚れていた。
真一は月下家から高校に行くであろう順路の2通り目のルートを三輪自転車で走っていた。今は12/31、16:40。自転車の籠にはあのマフラーが放り込まれている。真一の自転車のスピードにマフラーが激しく揺れている。
まだ灯は見つからない。幸いにも大晦日の夕方は、人通りを減らしはじめていた。この後天気は崩れそうだ。ニュースでも残念ながら、雲が新年のご来光を遮ることでしょうと伝えていた。
12/31天恵は間違いなく、高校のタイムトンネルに17:00の待ち合わせより早く現着するはずである。天恵に知られずに灯にマフラーを渡さなければならない。その大事な役目を暮田なんぞを利用したのが失敗だった。
* * *
「宮東。そんなことをして、月下のお義母さんが喜ぶと思うかい?」
「余計に苦しい思いをさせるだけだと思う。しかし天恵に他の選択肢がないのも事実」
「そうだな、こういうときは赤の他人が介入したが良い」
「ところで宮東、絵葉書に記した次のワードの鍵は何にしたんだい?」
「それが……」
12/31 17:00

正門で待ってます。
「これを渡したんだ」
「12/31って……」
「明日だ」
「それなら何としてもその前にマフラーを月下のお母さんに渡さないといけないな……」
「どうやって天恵に知られずにお義母さんへ渡せるか……」
「それなら
暮田にストーカーの責任を取ってもらえばいいさッ」
「?!」
そういうと蓮水は鞄からデバイスを取り出した。片手でメッセージを打ち込む。それが女子高生並みに早いのに驚いた。
* * *
「12/31に天恵と親御さんが17:00に高校で待ち合わせをしている。少なくとも天恵と親御さんたちは別々に向かうはずだ。そして天恵の方が絶対に先に家を出る」
蓮水に呼び出された暮田に対し、これほど男に顔を接近させることは人生で二度とないという至近距離で暮田に迫る……。
「暮田……ストーカーの件をバラされたくなければ、月下の家を見張れ、得意だろ? そして天恵が家を出たらすぐに俺に教えろ」
暮田は何を勘違いしたのか、灯が家を出たタイミングで連絡を寄こした。だから俺は月下家へと急いだ。
暮田の言い訳は『月下の両親は午前中から出掛けていて、天恵が家を出るまでに帰宅しなかった』『さっき母親だけ帰ってきたと思ったらすぐ家を出た、だから連絡した』ということだ。
午前中からストーカーしてるのか……暇人め……。
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クロスワードの解が見えたことで、誰の仕業か見当がつく。だから月下家で何かしらの動きがあることは、真一には想定内の出来事のはずだった。それなのに……。
一昨日の午後から降った雨のせいで、マフラーは汚れていた。
真一は月下家から高校に行くであろう順路の2通り目のルートを三輪自転車で走っていた。今は12/31、16:40。自転車の籠にはあのマフラーが放り込まれている。真一の自転車のスピードにマフラーが激しく揺れている。
まだ灯は見つからない。幸いにも大晦日の夕方は、人通りを減らしはじめていた。この後天気は崩れそうだ。ニュースでも残念ながら、雲が新年のご来光を遮ることでしょうと伝えていた。
12/31天恵は間違いなく、高校のタイムトンネルに17:00の待ち合わせより早く現着するはずである。天恵に知られずに灯にマフラーを渡さなければならない。その大事な役目を暮田なんぞを利用したのが失敗だった。
* * *
「宮東。そんなことをして、月下のお義母さんが喜ぶと思うかい?」
「余計に苦しい思いをさせるだけだと思う。しかし天恵に他の選択肢がないのも事実」
「そうだな、こういうときは赤の他人が介入したが良い」
「ところで宮東、絵葉書に記した次のワードの鍵は何にしたんだい?」
「それが……」
12/31 17:00
正門で待ってます。
「これを渡したんだ」
「12/31って……」
「明日だ」
「それなら何としてもその前にマフラーを月下のお母さんに渡さないといけないな……」
「どうやって天恵に知られずにお義母さんへ渡せるか……」
「それなら|暮田《こいつ》にストーカーの責任を取ってもらえばいいさッ」
「?!」
そういうと蓮水は鞄からデバイスを取り出した。片手でメッセージを打ち込む。それが女子高生並みに早いのに驚いた。
* * *
「12/31に天恵と親御さんが17:00に高校で待ち合わせをしている。少なくとも天恵と親御さんたちは別々に向かうはずだ。そして天恵の方が絶対に先に家を出る」
蓮水に呼び出された暮田に対し、これほど男に顔を接近させることは人生で二度とないという至近距離で暮田に迫る……。
「暮田……ストーカーの件をバラされたくなければ、月下の家を見張れ、得意だろ? そして天恵が家を出たらすぐに俺に教えろ」
暮田は何を勘違いしたのか、灯が家を出たタイミングで連絡を寄こした。だから俺は月下家へと急いだ。
暮田の言い訳は『月下の両親は午前中から出掛けていて、天恵が家を出るまでに帰宅しなかった』『さっき母親だけ帰ってきたと思ったらすぐ家を出た、だから連絡した』ということだ。
午前中からストーカーしてるのか……暇人め……。