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@19話 パズルの差出人

ー/ー





「でもそれって摩己は灯ちゃんに対抗して、苦手なお菓子作りをしてガトーショコラを月下くんに渡したってこと、だよね?」


「それは明先輩をまだ想っている、ってことですよね」


「いや、違うよ。入園式で染谷さんを見て残りの面白半分……、みたいな?!それに本を借りたのだって推薦で早くから進路が決まっていた摩己は、ただ暇してたんだと思う」


 運ばれてきた料理も程よく進む。段々と湯気の勢いがか細くなるもお腹は満たされていた。目の前にいる染夜灯の声が明の気持ちを埋めて行くのも感じていた。


 


「……ねぇ、私たちが卒業した後から都市伝説化された『手作りガトーショコラの伝説』って知ってる?」


「俺が知るわけないだろ?」


「知りません……先輩それ、何ですか」


「そう……ならいいわ」


 


  ** 12/27 **


 


(『手作りガトーショコラの伝説』……そう言えば、あのとき大街もそんなこと言ってたっけな……)


 否応が無しに昔の記憶をふと思い出すことに成功した。天恵が言ってたのも同じか?


 


(もしこのパズルが灯からだとしたら、灯と俺がこの幼稚園で接点のあった、天恵の『みかん組』に違いない)


 予想通り見つけた月下明様と書かれた封筒。中には【縦9の鍵 浮気封じのお札と神事の補佐を担う女性】とある。これは神社に違いない。再び幼稚園から大通反対側の図書館の前にある神社へと押しボタン信号が青に変わるのを待つ。同じように幼稚園を目指す灯が横断歩道の向かいに立っていた。多分お互いの存在に気付いたのは同時だった。


 


 信号が青に変わり、消えかかった横断歩道ですれ違う二人。


 


「明さん?!」


「灯?!」


「何してるの?」


「あ、ちょっとそこの神社まで……灯は?」


「わたしもちょっと幼稚園に用が……」


「そっか」


「神社に用って……遅くなるの?」


「いや、すぐ帰るよ」


「じゃ、わたしは夕飯の買い物してから帰るわね」


「じゃあ、神社は止めて買い物手伝うよ」


「いいわ、もし幼稚園で昔の知り合いと会ったら待たせちゃうし」


「……分かった。お願いするよ」


「……うん」


 明は幼稚園には『誰もいないみたいだったよ』と言おうと思ってやめた。そして10年近く前の職場に今更何の用があるのかとも思ったが、歩行者信号が点滅しだしたので2人は足を速めて渡り切った。押しボタン信号が赤に変わって2人が振り返ったのは、気付いたときと丁度入れ替わったポジションだった。


 


 すぐに神社へと着いた明。そしてそれを待っていたかのような住職の存在に頭を下げる。不自然なまでに明を見守る住職に明は声を掛けずにはいられなかった。


 


「あ、あの……もしかしたら、なんですが先程少し前に灯が……いや、この女性が……自分の妻なんですが、ここに来ませんでしたか?」


「…………」


 住職は応えないで微笑んだままだ。


 


「あ、すみません、この女性……」


 二度目の明の言葉に住職は、ただゆっくり頷いて見せた。『聞こえている』との頷きかもしれなかったけれど、明は『来た』という返事に受け取って少しエキサイトする。


 


「あ、そうしたら、封筒とか置いていきませんでしたか? あ、丁度こんなのなんですが……多分、それ自分のだと思うんです」


 懐からパズルのキーワードが書かれた封筒を慌てて取り出して見せる。住職が口を開いたのは、まさに自分がバカなことを言っていると感じた矢先だった。


 


「これ、ですな……」


「あ、そうです。やっぱり! すみません。ありがとうございます」


 やっぱりこの手紙は灯が……だからさっきすれ違って……でもそうしたら幼稚園の手紙は取ったのにどうしてまた幼稚園に? そうか、きっと手紙を入れたときに昔の同僚に会って待ち合わせで戻ったとか……あんなこと言った辻褄も合う。住職の持つ手紙に手を伸ばしたところ、住職から喝が入る。


 明はびっくりして飛び上がって手を引っ込めた。




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「それは明先輩をまだ想っている、ってことですよね」
「いや、違うよ。入園式で染谷さんを見て残りの面白半分……、みたいな?!それに本を借りたのだって推薦で早くから進路が決まっていた摩己は、ただ暇してたんだと思う」
 運ばれてきた料理も程よく進む。段々と湯気の勢いがか細くなるもお腹は満たされていた。目の前にいる染夜灯の声が明の気持ちを埋めて行くのも感じていた。
「……ねぇ、私たちが卒業した後から都市伝説化された『手作りガトーショコラの伝説』って知ってる?」
「俺が知るわけないだろ?」
「知りません……先輩それ、何ですか」
「そう……ならいいわ」
  ** 12/27 **
(『手作りガトーショコラの伝説』……そう言えば、あのとき大街もそんなこと言ってたっけな……)
 否応が無しに昔の記憶をふと思い出すことに成功した。天恵が言ってたのも同じか?
(もしこのパズルが灯からだとしたら、灯と俺がこの幼稚園で接点のあった、天恵の『みかん組』に違いない)
 予想通り見つけた月下明様と書かれた封筒。中には【縦9の鍵 浮気封じのお札と神事の補佐を担う女性】とある。これは神社に違いない。再び幼稚園から大通反対側の図書館の前にある神社へと押しボタン信号が青に変わるのを待つ。同じように幼稚園を目指す灯が横断歩道の向かいに立っていた。多分お互いの存在に気付いたのは同時だった。
 信号が青に変わり、消えかかった横断歩道ですれ違う二人。
「明さん?!」
「灯?!」
「何してるの?」
「あ、ちょっとそこの神社まで……灯は?」
「わたしもちょっと幼稚園に用が……」
「そっか」
「神社に用って……遅くなるの?」
「いや、すぐ帰るよ」
「じゃ、わたしは夕飯の買い物してから帰るわね」
「じゃあ、神社は止めて買い物手伝うよ」
「いいわ、もし幼稚園で昔の知り合いと会ったら待たせちゃうし」
「……分かった。お願いするよ」
「……うん」
 明は幼稚園には『誰もいないみたいだったよ』と言おうと思ってやめた。そして10年近く前の職場に今更何の用があるのかとも思ったが、歩行者信号が点滅しだしたので2人は足を速めて渡り切った。押しボタン信号が赤に変わって2人が振り返ったのは、気付いたときと丁度入れ替わったポジションだった。
 すぐに神社へと着いた明。そしてそれを待っていたかのような住職の存在に頭を下げる。不自然なまでに明を見守る住職に明は声を掛けずにはいられなかった。
「あ、あの……もしかしたら、なんですが先程少し前に灯が……いや、この女性が……自分の妻なんですが、ここに来ませんでしたか?」
「…………」
 住職は応えないで微笑んだままだ。
「あ、すみません、この女性……」
 二度目の明の言葉に住職は、ただゆっくり頷いて見せた。『聞こえている』との頷きかもしれなかったけれど、明は『来た』という返事に受け取って少しエキサイトする。
「あ、そうしたら、封筒とか置いていきませんでしたか? あ、丁度こんなのなんですが……多分、それ自分のだと思うんです」
 懐からパズルのキーワードが書かれた封筒を慌てて取り出して見せる。住職が口を開いたのは、まさに自分がバカなことを言っていると感じた矢先だった。
「これ、ですな……」
「あ、そうです。やっぱり! すみません。ありがとうございます」
 やっぱりこの手紙は灯が……だからさっきすれ違って……でもそうしたら幼稚園の手紙は取ったのにどうしてまた幼稚園に? そうか、きっと手紙を入れたときに昔の同僚に会って待ち合わせで戻ったとか……あんなこと言った辻褄も合う。住職の持つ手紙に手を伸ばしたところ、住職から喝が入る。
 明はびっくりして飛び上がって手を引っ込めた。