「わぁ~すごい可愛い。まるで踊っているみたいね」
「あれは『ピアッフェ』だね」
「わっ今度はクルッと回転したわ! 2回も!」
「バレエと同じ『ピルーエット』さ。……ここで月皇家得意の2回転を見せるのは見事としか言いようがない……」
20m×60mの長方形アリーナ内で踊る人馬。その一体となった美しい動
きは、まさに氷の無いフィギアスケート。
『ブルルルッ』
観客席はアリーナから少し離れているが、馬の息づかいや蹄の音がはっきり聞こえてくるほどの迫力だ。
馬上の騎手は驚くほど何もしていない。いいや何もしていない事こそが驚くべきことである。
騎手の下では馬が踊っているのだ。その馬上で姿勢を正したまま、まるで身じろぎもしていないように見える。そう、『何もしていない』ように見えているだけだ。
そして、これこそが馬場馬術、まるで馬が背にする騎手を称えるように舞う『ドレッサージュ』という芸術である。
***
月皇舞羽、舞香は、馬術の名家に育った。父駿吾は日本に名だたるトップライダーであり、幼いころから馬に慣れ親しんできた。
そして、かつて戦後、幻の乗馬クラブと謳われた『インペリアル乗馬倶楽部』の一員でもあった、月皇竹一を曾祖父に持つ。
広い河川敷の畔に屋敷を構える月皇家は、すぐ近くに乗馬クラブを営む国作栄人という厩舎がある。
そこには竹一の愛した名馬『天空号』と、同クラブで『馬術の天下の名人』と謳われた天沢新吉郎の愛馬『ジャパニーズローズ』が眠っており、その子孫たちが育っている。
そして月皇家と天沢家には代々、この名馬たちの子孫を乗りこなす天才たちが現れると言い伝えられていた。