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@ 7話 学力

ー/ー



 部活を引退した中学3年生……勉己による勝人の特訓が続いている。きっかけは受験……そして学佳。学佳も一緒になって勉己に勉強を教わっている。
 因みに自然科学研究部は、来年入部者がいなければ廃部になるといわれている。


「キャベツの全国生産量一位の都道府県は?」 
「俺んち! だって餃子ばっか食べてるもん」
「それは消費でしょ……」
「ああ、じゃあ……宇都宮か、宇都宮餃子、有名だもんな。答えは宇都宮県だ!」
「……」
 勝人は持ち前のガッツとスポーツで鍛えてきた集中力で次々に吸収していく。一般的に勉強の成果が表れてくるのは3か月後、と言われる中、夏休み明け一ヶ月後の中間テスト、外部の学力テストでみるみる成績を上げた。


「すごいよ、まーくん! 前回偏差値『測定不能』から一気に52だよ! でもここからがキツイところ、頑張ろう!」
 志望校のコメント欄だって、前回は『小学校から出直せ』だったのが『本当に同じ人ですか?』に変わっている。それを見て勝人は俄然やる気が湧いて来る。
 スポーツと同じだ、練習は必ず何かになって自分を助けてくれる。努力は『できないときの絶望』と、『できたときの希望』の二つの側面を持っているが、どちらにしても『経験』という大きな付加価値をもたらしてくれる。
 だから『やった方が』断然得だってことを勝人は知っている。


 勝人たち3年は放課後も休日も勉強に専念するばかり。平日の図書室と、休日の図書館が彼らの居場所となっていた。
 勝人はチラッと学佳を盗み見る。学佳は勉己と親し気に問題集を片手に一つのノートを見合っている。


「ふんっ」


「どうしたの、まーくん?」
 勉己の問いに『便所』とだけ告げて自習室を出て行く。
 徐に席を立つ勝人。図書館の中はクーラーが効いていて過ごしやすいはずが、何故か居心地が悪い。
 車通りの激しい大通りの向かいにある図書館。勝人が窓の外を見ると、通りの並木が風で大きく揺れてザワザワと音を立てる。気持ちと同じように。


『大丈夫かな?』と首を傾げる勉己に学佳が『どうしたの?』と声を掛ける。


「まーくん、今日、いつもの集中力がない気がする……模試が近いのに大丈夫かな?」
「……じゃ、戻ったらちょっと私も勉強見てみるわね」
「お願いするよ」


 トイレにしてはやけに時間がかかって戻ってきた勝人。ドカッと乱暴に椅子に横座りすると机の上の教材には目もくれない。


「数学やってるのね?」
 シャンプーの香りだろうか? 小学生のときには感じなかったフワッと柔らかい風と共に鼻孔をくすぐるのは清潔感のある爽やかな匂い。心地よい女性の香りは、その人を男の記憶に深く刻ませる重要な要素だ。
 勝人はその甘い香りに誘い出された獲物のように、隣に座った学佳が手に取った数学の教科書を見るふりして、その横顔に見惚れる。無機質なはずの図書館という場所が驚くほど急激に華やぐ。本たちも棚から飛び出して今にも踊り出しそうだ。


「ま、学佳……肉……肉あんま食ってねーだろ?」
 突然勝人が意味の分からないことを言い出す。


「?」
「肉の匂いがしねえ! 肉食ってねーからそんないい匂いがすんだ」
 学佳に鼻を向けてクンクンする勝人。


「ちょ、ちょっとやめてよ」
 顔を赤らめながら、思わず大きな声が出てしまう。


 周囲の視線が集まる。


「ご、ごめんなさい」
 もう一段階顔を赤くした学佳が小さくなって謝る。勝人は一瞬ザワついた雰囲気を見下すように、小さく舌打ちする。


「男はさ、肉食ってる男の体臭がすんだよ、強い肉体の臭いがさ」
 まだ続ける勝人に勉己が間に入る。


「まーくん……女の人はさ、皮脂の酸化を防ぐ作用があるんだよ、発汗量も少ないし……それに女性にあんまりそんなこと言わない方がいいんだよ、だからまーくん、この話はもうお終いね」


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 部活を引退した中学3年生……勉己による勝人の特訓が続いている。きっかけは受験……そして学佳。学佳も一緒になって勉己に勉強を教わっている。
 因みに自然科学研究部は、来年入部者がいなければ廃部になるといわれている。
「キャベツの全国生産量一位の都道府県は?」 
「俺んち! だって餃子ばっか食べてるもん」
「それは消費でしょ……」
「ああ、じゃあ……宇都宮か、宇都宮餃子、有名だもんな。答えは宇都宮県だ!」
「……」
 勝人は持ち前のガッツとスポーツで鍛えてきた集中力で次々に吸収していく。一般的に勉強の成果が表れてくるのは3か月後、と言われる中、夏休み明け一ヶ月後の中間テスト、外部の学力テストでみるみる成績を上げた。
「すごいよ、まーくん! 前回偏差値『測定不能』から一気に52だよ! でもここからがキツイところ、頑張ろう!」
 志望校のコメント欄だって、前回は『小学校から出直せ』だったのが『本当に同じ人ですか?』に変わっている。それを見て勝人は俄然やる気が湧いて来る。
 スポーツと同じだ、練習は必ず何かになって自分を助けてくれる。努力は『できないときの絶望』と、『できたときの希望』の二つの側面を持っているが、どちらにしても『経験』という大きな付加価値をもたらしてくれる。
 だから『やった方が』断然得だってことを勝人は知っている。
 勝人たち3年は放課後も休日も勉強に専念するばかり。平日の図書室と、休日の図書館が彼らの居場所となっていた。
 勝人はチラッと学佳を盗み見る。学佳は勉己と親し気に問題集を片手に一つのノートを見合っている。
「ふんっ」
「どうしたの、まーくん?」
 勉己の問いに『便所』とだけ告げて自習室を出て行く。
 徐に席を立つ勝人。図書館の中はクーラーが効いていて過ごしやすいはずが、何故か居心地が悪い。
 車通りの激しい大通りの向かいにある図書館。勝人が窓の外を見ると、通りの並木が風で大きく揺れてザワザワと音を立てる。気持ちと同じように。
『大丈夫かな?』と首を傾げる勉己に学佳が『どうしたの?』と声を掛ける。
「まーくん、今日、いつもの集中力がない気がする……模試が近いのに大丈夫かな?」
「……じゃ、戻ったらちょっと私も勉強見てみるわね」
「お願いするよ」
 トイレにしてはやけに時間がかかって戻ってきた勝人。ドカッと乱暴に椅子に横座りすると机の上の教材には目もくれない。
「数学やってるのね?」
 シャンプーの香りだろうか? 小学生のときには感じなかったフワッと柔らかい風と共に鼻孔をくすぐるのは清潔感のある爽やかな匂い。心地よい女性の香りは、その人を男の記憶に深く刻ませる重要な要素だ。
 勝人はその甘い香りに誘い出された獲物のように、隣に座った学佳が手に取った数学の教科書を見るふりして、その横顔に見惚れる。無機質なはずの図書館という場所が驚くほど急激に華やぐ。本たちも棚から飛び出して今にも踊り出しそうだ。
「ま、学佳……肉……肉あんま食ってねーだろ?」
 突然勝人が意味の分からないことを言い出す。
「?」
「肉の匂いがしねえ! 肉食ってねーからそんないい匂いがすんだ」
 学佳に鼻を向けてクンクンする勝人。
「ちょ、ちょっとやめてよ」
 顔を赤らめながら、思わず大きな声が出てしまう。
 周囲の視線が集まる。
「ご、ごめんなさい」
 もう一段階顔を赤くした学佳が小さくなって謝る。勝人は一瞬ザワついた雰囲気を見下すように、小さく舌打ちする。
「男はさ、肉食ってる男の体臭がすんだよ、強い肉体の臭いがさ」
 まだ続ける勝人に勉己が間に入る。
「まーくん……女の人はさ、皮脂の酸化を防ぐ作用があるんだよ、発汗量も少ないし……それに女性にあんまりそんなこと言わない方がいいんだよ、だからまーくん、この話はもうお終いね」