「ヨ、ヨウイチ! こ、これは、そのそういうことじゃなくて――――――」
さっきまでのノリノリのテンションとは打って変わって、急にしどろもどろな口調になるネコ先輩。
こんな光景を何日か前に見たことあるな~、と感じながら、私はツッコミどころ多数だったパペット劇に物申す機会を失ったことを残念に感じながら、二人の上級生のようすをうかがうことにした。
「そういうことじゃなくて?」
無邪気な笑顔でたずねる日辻先輩に、ネコ先輩は必死に取りつくろいながら、有効な言い訳を模索しているようだ。
「そ、その……恋に悩めるネズコくんや金野さんの参考にならないか……と、あくまで、一般的な恋愛の理想形をこのパペットで演じさせてもらっただけなんだ。そ、そうだよなネズコくん?」
またも、以前に見たような光景であることを思い出しながら、幼なじみの追及に、ふたたび動揺の色を濃くするネコ先輩を助けるべく、私は心のなかで小さくため息をつきつつ、苦笑いを浮かべて、今回も彼女の話に合わせることにした。
「そうなんです。最近、男女の恋愛モノの小説を書き始めたんですけど、これまで、そういうジャンルの作品を書いたことがなくて……読者が憧れるシチュエーションが思いつかないので、ネコ先輩に協力してもらったんです。ですよね、ネコ先輩?」
即興で理由をでっち上げただけなので、どこまで、ごまかし通せたかはわからないけれど、日辻先輩は
「ふ~ん、そっか……」
と笑顔で応じて、この件についてはこれ以上、追究しないと決めたようだ。
そうして、上級生の男子生徒は、話題を変えるように、続けて私にたずねてくる。
「ところで、いまさっき禰子が恋に悩めるネズコくん、って言ってたけど……音無さんは、小説以外のことで悩んだりはしていないの?」
「えっ、私ですか? そうですね……正直、悩んでいないと言えば、嘘になりますけど……仲の良かった男子の気持ちがわからないって感じで……」
「そうなんだ……実は、ボクの周りにも『女子の気持ちがわからない』って悩んでいるクラスメートが居るんだけどさ……良ければ、彼の話を聞いてあげてくれないかな? ついでに、音無さんの悩みも相談するって感じなら、お互いに話しやすいんじゃないかとも思うんだ」
「はあ、それは別に構いませんが……私なんかで相手の人のお力になれるかはわかりませんよ?」
「そこまで気にしなくて大丈夫だと思うよ。ボクが見たところ、その男子の彼女は、音無さんと雰囲気が似ているところがあると思うし。ちなみに、彼の名前は、加絵留皇子って言うんだけど、音無さんは、彼のこと知ってる?」
日辻先輩の口から発せられた意外な名前に、ネコ先輩と私は、思わずお互いの顔を見合ってしまう。
そうして、上級生男子の推薦によって、私は思わぬ形で、金野さんの彼氏さんと対峙することになり、男子バスケットボール部に所属する加絵留先輩を訪ねることになってしまった。
私が、戸惑いながらも金野さんと距離を置こうと告げた男子生徒と話し合うことを了承すると、日辻先輩は、
「色々とありがとうね、音無さん」
と、意味深な笑顔で、お礼の言葉を述べてくれた。
放課後の練習が終わるのを待って、私は男子バスケ部の部室に向かう。
着替えの終わった背の高い男子が、ぞろぞろと部室から出てくる中、部室から少し離れた場所で、気まずい思いをしながらも、お目当ての男子生徒を待っていると、数人の部員と連れ立ってこちらに歩いて来た男子が、見慣れない女子が待ち構えているのに気づいたようだ。
「キミ、一年のコ?」
私が見上げるくらい背の高い男子が声をかけてくる。
「は、はい! 1組の音無と言います」
緊張しながら返事をすると、黙って軽くうなずいた加絵留先輩は、連れ立って部室を出てきた部員の人たちに「悪い、先に帰ってて」と告げる。
「おいおい、今度は下級生に手を出すのかよ?」
揶揄しながら去って行く部員たちに、「うっせ、早く帰れ」と声をかけたあと、彼らの姿が見えなくなったのを確認した先輩は、
「休憩中に日辻から聞いたよ。オレの相談に乗ってくれるの?」
と、問いかけてきた。
「は、はい、おチカラになれるかはわからないですけど……」
大柄な上に、容姿は整っているものの、あまり愛想が良いとは言えない表情の上級生相手に、緊張しながら答えると、彼は、フッと笑みを漏らして、
「緊張させちゃったかな? ゴメンな」
と、謝罪の言葉を口にしたあと、
「そう言えば、あのコと最初に会ったときも、こんな感じだったっけ?」
と、つぶやくように声を漏らした。
「あの子って、2年生の金野さんのことですか?」
思わず私がたずねると、彼は意外そうな表情で、
「マリを知ってるの?」
と問い返してきた。
「はい、さっきも、ある先輩から、私と金野さんは雰囲気が似ているって言われたので……」
私が、そう返答すると、加絵留先輩は、
「それ、日辻が言ってたの? たしかに、それは言えるかも……」
と言って、少しだけ優しげな笑みを見せてくれた。