第13話 重い報告
ー/ー
もう血は止まっていると修治は言ったけれど、出血しすぎたというのは放っておいても大丈夫なんだろうか?
麻乃の顔色は薄ら青くて、手を伸ばして触れてみた頬も心なしか冷たい気がする。いつもなら、こんな風に触れることなど考えもしないのに、今は麻乃が壊れ物のように思えて仕方がない。
(まさか麻乃……このまま死んじまうなんてことはないよな……?)
胸の奥で嫌な考えばかりが浮かんでくる。麻乃を失うかもしれないという可能性が、鴇汰を動揺させていることだけは確かだった。
エンジンの単調なリズムが鴇汰の不安を余計にあおり、少しだけスピードを上げて走った。
-----
西医療所は、先に運ばれてきた隊員たちの処置で混乱して騒々しい。麻乃を抱えたまま、近くを通った看護係を呼び止めると、今は医師の手が足りていないと言われた。
岱胡の隊員たちが、中央の医療所へ医師を迎えに行っているらしい。麻乃を空いているベッドに寝かせて待っていると、傷を見に来た看護係が処置を始めたので、鴇汰はそっと部屋を出た。
玄関先で医師を待ちながら待機している隊員たちを集めて、改めて様子を聞いた。医療所に運ばれたのは、火傷や切り傷が多く、命に関わる怪我を負った隊員はいなかった。
川上も、腕の処置に時間はかかっているが、どうやら無事でいるらしい。ただ、毒矢を受けているから、しばらくは楽観できないということだった。
比較的、怪我の軽かった隊員は、岱胡の隊員たちとともに、ほかの地区の医療所へ向かったという。残っているのは動かせない怪我を負った者たちだけか。そうしているあいだに、麻乃が治療室へ運ばれていった。
鴇汰は待っていることしかできず、もどかしさに苛立つだけだった。数十分が過ぎたころ、後処理を終えた修治たちが医療所へ着いた。一緒に来た隊員たちも、軽い怪我や火傷を負っていて、看護係に簡単な手当てをしてもらっている。
「穂高たちは?」
「ああ、ひと足先に軍部へ向かった。麻乃はどうだ?」
「さっき処置室に入った。そのときは意識もまだ戻ってなかった」
長椅子に座ったままそう言うと、修治も心配そうに処置室を見つめている。
「そうか……この後、すぐに報告を兼ねた緊急会議を始めるそうだ。車も用意した。急いで向かうぞ」
「俺は麻乃の様子を見てから戻る」
「馬鹿なことを言うな。そんなわけにはいかないだろう」
「麻乃一人を置いていけるかよ!」
「先生や看護の方々がいるだろう。一人じゃない。おまえも今日は北浜に出ているんだ。報告の義務があるはずだ」
ある程度の長い付き合いで、蓮華の奴らそれぞれの性格がわかっていても、修治のこういう冷めたところを、鴇汰はどうしても好きになれない。いや、普段なら修治の冷静さを頼もしく思うことだってある。けれど、こと麻乃に関してとなると、どうしてもその合理的な判断が冷たく感じられてしまう。自分でもおかしいと思いながらも、感情がうまくコントロールできない。
「……わかった。行くよ」
修治を睨むと、わざと大きくため息をついて立ち上がった。
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島の中央に位置する街には軍本部があり、施設内にはいくつかの会議室と戦士たちの控え所や食堂、宿舎などのさまざまな設備が整えられている。
軍の上層部は、王族のほかに引退した元蓮華や戦士たちで構成され、昔からの伝統や経験が、世代が変わるたびに受け継がれている。
戦闘以外の細やかな情報処理や収集、諜報部や監視隊も、戦士たちと構成は違えど軍部に管理されていた。
鴇汰と修治が軍部に着いたときには、大会議室にほかの蓮華たちや上層部が集まっていて、全員が難しい顔をしていた。
早々に始まった会議では、鴇汰と岱胡の出た北浜は特に問題なく報告が済んだ。
西浜のロマジェリカ戦について修治の報告が始まると、上層部たちはそろって眉をひそめていた。
戦果は上げたものの、実情は二部隊の援護投入。一部隊においては、約二十年ぶりになる砲撃の使用。そして最大の問題は、部隊の崩壊だった。
修治の部隊は三十二人、麻乃の部隊は三十九人もの戦士を失っていた。その数の多さに、鴇汰だけでなくほかの蓮華たちも何も言えずにいる。
「補充は予備部隊と訓練生からの引き上げですぐにできるとはいえ、経験不足までは補えない」
「今度のようなことが起きても、すぐに前線には出られないだろう」
上層部の意見は全員が同じだ。
言葉尻は柔らかであっても冷ややかな目が、修治を責めているように見える。
麻乃と修治の部隊はともに、これまで欠員が出ることは滅多になかった。長く一緒に戦ってきたが故の阿吽の呼吸ができていたから、半数以上の入れ替えとなると、動き一つにも何らかの支障が出るだろう。
二人の部隊は当分のあいだ、出撃の差し控え、早急な隊員補充とその訓練をすること、という名目で謹慎が言い渡された。
修治の報告にあったロマジェリカの奇妙な兵については、ロマジェリカの徴兵状況を含む大陸の各国の様子を、諜報部によって再調査されることになった。
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麻乃の顔色は薄ら青くて、手を伸ばして触れてみた頬も心なしか冷たい気がする。いつもなら、こんな風に触れることなど考えもしないのに、今は麻乃が壊れ物のように思えて仕方がない。
(まさか麻乃……このまま死んじまうなんてことはないよな……?)
胸の奥で嫌な考えばかりが浮かんでくる。麻乃を失うかもしれないという可能性が、鴇汰を動揺させていることだけは確かだった。
エンジンの単調なリズムが鴇汰の不安を余計にあおり、少しだけスピードを上げて走った。
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西医療所は、先に運ばれてきた隊員たちの処置で混乱して騒々しい。麻乃を抱えたまま、近くを通った看護係を呼び止めると、今は医師の手が足りていないと言われた。
岱胡の隊員たちが、中央の医療所へ医師を迎えに行っているらしい。麻乃を空いているベッドに寝かせて待っていると、傷を見に来た看護係が処置を始めたので、鴇汰はそっと部屋を出た。
玄関先で医師を待ちながら待機している隊員たちを集めて、改めて様子を聞いた。医療所に運ばれたのは、火傷や切り傷が多く、命に関わる怪我を負った隊員はいなかった。
川上も、腕の処置に時間はかかっているが、どうやら無事でいるらしい。ただ、毒矢を受けているから、しばらくは楽観できないということだった。
比較的、怪我の軽かった隊員は、岱胡の隊員たちとともに、ほかの地区の医療所へ向かったという。残っているのは動かせない怪我を負った者たちだけか。そうしているあいだに、麻乃が治療室へ運ばれていった。
鴇汰は待っていることしかできず、もどかしさに苛立つだけだった。数十分が過ぎたころ、後処理を終えた修治たちが医療所へ着いた。一緒に来た隊員たちも、軽い怪我や火傷を負っていて、看護係に簡単な手当てをしてもらっている。
「穂高たちは?」
「ああ、ひと足先に軍部へ向かった。麻乃はどうだ?」
「さっき処置室に入った。そのときは意識もまだ戻ってなかった」
長椅子に座ったままそう言うと、修治も心配そうに処置室を見つめている。
「そうか……この後、すぐに報告を兼ねた緊急会議を始めるそうだ。車も用意した。急いで向かうぞ」
「俺は麻乃の様子を見てから戻る」
「馬鹿なことを言うな。そんなわけにはいかないだろう」
「麻乃一人を置いていけるかよ!」
「先生や看護の方々がいるだろう。一人じゃない。おまえも今日は北浜に出ているんだ。報告の義務があるはずだ」
ある程度の長い付き合いで、蓮華の奴らそれぞれの性格がわかっていても、修治のこういう冷めたところを、鴇汰はどうしても好きになれない。いや、普段なら修治の冷静さを頼もしく思うことだってある。けれど、こと麻乃に関してとなると、どうしてもその合理的な判断が冷たく感じられてしまう。自分でもおかしいと思いながらも、感情がうまくコントロールできない。
「……わかった。行くよ」
修治を睨むと、わざと大きくため息をついて立ち上がった。
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島の中央に位置する街には軍本部があり、施設内にはいくつかの会議室と戦士たちの控え所や食堂、宿舎などのさまざまな設備が整えられている。
軍の上層部は、王族のほかに引退した元蓮華や戦士たちで構成され、昔からの伝統や経験が、世代が変わるたびに受け継がれている。
戦闘以外の細やかな情報処理や収集、諜報部や監視隊も、戦士たちと構成は違えど軍部に管理されていた。
鴇汰と修治が軍部に着いたときには、大会議室にほかの蓮華たちや上層部が集まっていて、全員が難しい顔をしていた。
早々に始まった会議では、鴇汰と岱胡の出た北浜は特に問題なく報告が済んだ。
西浜のロマジェリカ戦について修治の報告が始まると、上層部たちはそろって眉をひそめていた。
戦果は上げたものの、実情は二部隊の援護投入。一部隊においては、約二十年ぶりになる砲撃の使用。そして最大の問題は、部隊の崩壊だった。
修治の部隊は三十二人、麻乃の部隊は三十九人もの戦士を失っていた。その数の多さに、鴇汰だけでなくほかの蓮華たちも何も言えずにいる。
「補充は予備部隊と訓練生からの引き上げですぐにできるとはいえ、経験不足までは補えない」
「今度のようなことが起きても、すぐに前線には出られないだろう」
上層部の意見は全員が同じだ。
言葉尻は柔らかであっても冷ややかな目が、修治を責めているように見える。
麻乃と修治の部隊はともに、これまで欠員が出ることは滅多になかった。長く一緒に戦ってきたが故の阿吽の呼吸ができていたから、半数以上の入れ替えとなると、動き一つにも何らかの支障が出るだろう。
二人の部隊は当分のあいだ、出撃の差し控え、早急な隊員補充とその訓練をすること、という名目で謹慎が言い渡された。
修治の報告にあったロマジェリカの奇妙な兵については、ロマジェリカの徴兵状況を含む大陸の各国の様子を、諜報部によって再調査されることになった。