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第3話 泉翔国

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 誰もが日々の鍛錬を続けるようになり、それが子どもたちへと受け継がれていくようになったころ、巫女がまたご神託を受けた。

『十六の歳に洗礼を受けた者の中から戦士を選び、三日月の守護印を授けます。そして印を受けたものが迷わないように、率いる力を持つものを八人選び、蓮華の花の印を授けます。ただし、これは守る思いにのみ発揮される守護の証です。決してそれ以外のことに向かわないように。毎年、収穫の時期には収穫祭を執り行い、大陸に眠る女神さまの兄神さまのもとへ蓮華の印を持つものが奉納に行くこと。それを守ることで、守護の力を確固たるものとします』

 その後、行われた洗礼の儀では、戦士として選ばれた数十人に三日月の形をした痣が浮かび出た。そして、その中に蓮華の花を象った痣を持つ者が八人。彼らはそれまで以上に鍛錬を重ね、皆の思う以上の力をつけていった。
 蓮華の印を持つ者だけは、特別な存在の証であるかのように、八人を超えることはない。病気や不慮の事故、老齢で亡くなったときにだけ、翌年の洗礼で新たな蓮華の印を持つ者が現れた。

 巫女のご神託通りの戦士たちの誕生――。

 これで万が一にも襲撃されるような事態に陥っても、何もできずに戸惑い逃げることなく立ち向かえる。戦士たちだけでは対応が出来なかったとしても、誰もが十六歳まで鍛錬を続けているのだから、易々とやられることはないだろう。

 徐々に確立されていく人々の生活の中で、信仰もさらに発展していく。
 島の人々は女神さまを『泉の女神』と呼び、その教えを女神信仰として守り続けている。収穫祭と奉納を執り行い、親から子へ、子から孫へと約束を語り継ぎ、それぞれが自らを鍛えながら大地を育み暮らした。

 蓮華の印を持つ戦士たちだけは、毎年、収穫祭の時期が来るたびにひっそりと島を離れ、供物を手に何日もかけて大陸へと忍んだ。決して大陸の人間に見つからないよう、四つの国の中にある兄神さまたちの祠を探しだし、人目につかないように供物と祈りを捧げ続けている。そこで目にするのは、言い伝えに聞く通りの荒れ果てた土地であり、争いを続ける四つの国の人々だった。


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 島の人々はやがて一つに結束し、泉翔(せんしょう)という国を作った。そして国民の中から国王が選ばれた。
 各地区を代表する長も決まり、新たなルールが次々と決まっていく。ゆっくりとではあるが、国としてのまとまりも人々の中で大きく育まれていった。

 四方を海で囲まれた泉翔国は、城のある中央をはじめ、東、西、南、北の五つの区域に分けられた。どの区域もそれぞれの特色を持ち発展している。

 中央区には王城と神殿があり、政治と信仰の中心となっていた。北区は漁業が盛んで、新鮮な海の幸が豊富だった。東区は手工芸が発達し、美しい織物や陶器、また、戦士たちのための武器や防具の製造が多く発達していた。西区は稲作や野菜、果樹栽培が盛んで、南区は山間部を活かした林業と鉱業が主要産業だった。

 生活の基盤が発達してどんなに豊かになろうとも、人々は平和な日々を送りながら、いつか来るかもしれない脅威に備えて、日々鍛錬を怠らなかった。

 そしてある時期から、ひっそりと大陸へ潜んで土地に慣れ親しみ、四つの国の情報を泉翔へ伝える役割を担う機関も作られた。彼らは危険を承知で役目を率先して引き受けてくれた。それもすべて、この国を守りたいからという純粋な思いからである。

 荒廃した土地に危険を顧みず腰を据えることを選んだ彼らは、各国で虐げられる生活を送りながらも、着実に根を張り居場所を作り、やがては彼らだけのコミュニティの確立に成功した。各国に散った仲間たちとも密かに繋がりを持ち続け、収穫祭の時期に訪れてくる蓮華の印を持つ戦士たちを支援した。


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 時が経ち、文明が発達すると大陸の人々は動き出し、海を渡り、ついにこの島を目にすることとなる。

 そこはもはや枯れ果てた大陸とは違い、自然の溢れる島だった。青い海に囲まれた緑豊かな土地、豊富な水源、肥沃な大地――まさに楽園のような光景が広がっていた。

 北のロマジェリカ、南のジャセンベル、西のヘイト、東の庸儀(ようぎ)。四つの国が、それぞれの思惑をもって泉翔国を手に入れんとし、進軍を始めた。

 ロマジェリカは厳しい寒さに苦しみ、温暖な土地を求めていた。ジャセンベルは砂漠化が進み、水源を必要としていた。ヘイトは人口増加に苦しみ、新天地を探していた。庸儀は資源の枯渇に悩み、豊かな鉱物資源を狙っていた。

 泉翔国は、長い時をかけて鍛え上げた戦士たちの手によって、それを阻んだ。これより泉翔国は、思いとは裏腹に戦乱に巻き込まれていくこととなった。

 戦士たちは決して流されず、すべての行動を防衛のためだけに働かせている。侵略者を撃退しても、決して追撃はしない。報復もしない。ただひたすら、故郷を守ることだけに専念していた。


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 誰もが日々の鍛錬を続けるようになり、それが子どもたちへと受け継がれていくようになったころ、巫女がまたご神託を受けた。
『十六の歳に洗礼を受けた者の中から戦士を選び、三日月の守護印を授けます。そして印を受けたものが迷わないように、率いる力を持つものを八人選び、蓮華の花の印を授けます。ただし、これは守る思いにのみ発揮される守護の証です。決してそれ以外のことに向かわないように。毎年、収穫の時期には収穫祭を執り行い、大陸に眠る女神さまの兄神さまのもとへ蓮華の印を持つものが奉納に行くこと。それを守ることで、守護の力を確固たるものとします』
 その後、行われた洗礼の儀では、戦士として選ばれた数十人に三日月の形をした痣が浮かび出た。そして、その中に蓮華の花を象った痣を持つ者が八人。彼らはそれまで以上に鍛錬を重ね、皆の思う以上の力をつけていった。
 蓮華の印を持つ者だけは、特別な存在の証であるかのように、八人を超えることはない。病気や不慮の事故、老齢で亡くなったときにだけ、翌年の洗礼で新たな蓮華の印を持つ者が現れた。
 巫女のご神託通りの戦士たちの誕生――。
 これで万が一にも襲撃されるような事態に陥っても、何もできずに戸惑い逃げることなく立ち向かえる。戦士たちだけでは対応が出来なかったとしても、誰もが十六歳まで鍛錬を続けているのだから、易々とやられることはないだろう。
 徐々に確立されていく人々の生活の中で、信仰もさらに発展していく。
 島の人々は女神さまを『泉の女神』と呼び、その教えを女神信仰として守り続けている。収穫祭と奉納を執り行い、親から子へ、子から孫へと約束を語り継ぎ、それぞれが自らを鍛えながら大地を育み暮らした。
 蓮華の印を持つ戦士たちだけは、毎年、収穫祭の時期が来るたびにひっそりと島を離れ、供物を手に何日もかけて大陸へと忍んだ。決して大陸の人間に見つからないよう、四つの国の中にある兄神さまたちの祠を探しだし、人目につかないように供物と祈りを捧げ続けている。そこで目にするのは、言い伝えに聞く通りの荒れ果てた土地であり、争いを続ける四つの国の人々だった。
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 島の人々はやがて一つに結束し、|泉翔《せんしょう》という国を作った。そして国民の中から国王が選ばれた。
 各地区を代表する長も決まり、新たなルールが次々と決まっていく。ゆっくりとではあるが、国としてのまとまりも人々の中で大きく育まれていった。
 四方を海で囲まれた泉翔国は、城のある中央をはじめ、東、西、南、北の五つの区域に分けられた。どの区域もそれぞれの特色を持ち発展している。
 中央区には王城と神殿があり、政治と信仰の中心となっていた。北区は漁業が盛んで、新鮮な海の幸が豊富だった。東区は手工芸が発達し、美しい織物や陶器、また、戦士たちのための武器や防具の製造が多く発達していた。西区は稲作や野菜、果樹栽培が盛んで、南区は山間部を活かした林業と鉱業が主要産業だった。
 生活の基盤が発達してどんなに豊かになろうとも、人々は平和な日々を送りながら、いつか来るかもしれない脅威に備えて、日々鍛錬を怠らなかった。
 そしてある時期から、ひっそりと大陸へ潜んで土地に慣れ親しみ、四つの国の情報を泉翔へ伝える役割を担う機関も作られた。彼らは危険を承知で役目を率先して引き受けてくれた。それもすべて、この国を守りたいからという純粋な思いからである。
 荒廃した土地に危険を顧みず腰を据えることを選んだ彼らは、各国で虐げられる生活を送りながらも、着実に根を張り居場所を作り、やがては彼らだけのコミュニティの確立に成功した。各国に散った仲間たちとも密かに繋がりを持ち続け、収穫祭の時期に訪れてくる蓮華の印を持つ戦士たちを支援した。
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 時が経ち、文明が発達すると大陸の人々は動き出し、海を渡り、ついにこの島を目にすることとなる。
 そこはもはや枯れ果てた大陸とは違い、自然の溢れる島だった。青い海に囲まれた緑豊かな土地、豊富な水源、肥沃な大地――まさに楽園のような光景が広がっていた。
 北のロマジェリカ、南のジャセンベル、西のヘイト、東の|庸儀《ようぎ》。四つの国が、それぞれの思惑をもって泉翔国を手に入れんとし、進軍を始めた。
 ロマジェリカは厳しい寒さに苦しみ、温暖な土地を求めていた。ジャセンベルは砂漠化が進み、水源を必要としていた。ヘイトは人口増加に苦しみ、新天地を探していた。庸儀は資源の枯渇に悩み、豊かな鉱物資源を狙っていた。
 泉翔国は、長い時をかけて鍛え上げた戦士たちの手によって、それを阻んだ。これより泉翔国は、思いとは裏腹に戦乱に巻き込まれていくこととなった。
 戦士たちは決して流されず、すべての行動を防衛のためだけに働かせている。侵略者を撃退しても、決して追撃はしない。報復もしない。ただひたすら、故郷を守ることだけに専念していた。