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※ ※ ※
アヴリーヌの前世は、大手商社に勤める有能な女性だった。入社当初から仕事に打ち込んだおかげで、若くして重要なプロジェクトに関わったり、三十を手前にして部下をもつ役職に就くこともできた。
しかし充実したキャリアを走り続けていた一方で、プライベートではずっと独り身だった。こっそり趣味にしていた乙女ゲームで「恋愛」を楽しんではいたが、現実では男友達すらいない。職場ではあまりに有能過ぎたため、男性からはむしろ敬遠されていた。
ふと寂しくなった時、突然恋人ができた。美人なくせに奥手だった前世のアヴリーヌにとって、生まれて初めての真剣な恋だった。
彼は部下の一人で、三歳下の青年だった。新入社員の頃に指導した縁で元々親しくはあったが、ある時二人きりで飲みに行きたいとバーに誘われ、そこで情熱的に口説かれたのだ。
初めは冗談だろうと思った。甘い顔立ちで話上手な彼は職場の女性に人気があり、わざわざ歳上で、しかも上司である自分を選ぶ理由がわからなかったからだ。
だが彼は、及び腰の自分に甘い囁きを重ねた。
「落ち着いた大人の女性って素敵だよ」
「仕事ができるとこ、尊敬してる」
「若いだけの同僚より、ずっと綺麗だ」
「愛してる」
まるでゲームのヒロインのように扱われたアヴリーヌが、身も心も彼に夢中になるまでそう時間はかからなかった。この人となら結婚してもいい。そう考えながら過ごしていたある日。
突然、彼に捨てられた。
可愛いと評判の新人と彼がつきあっている。そんな噂にまさかと思って問い詰めると、逆に「別れてくれ」と突き放されたのだ。
予想だにしなかった冷たい態度。いつも冷静な自分が我を失った。手当たり次第に物を投げ、彼に掴みかからんばかりに取り乱す。しかしそんな自分の手を、彼は嫌悪感たっぷりに振り払った。
「だって、プライベートでも仕事でもおまえが主導権握ってくるし、全然俺を立ててくれないし」
「確かに美人だけど、やっぱり若さには勝てないだろ」
「仕事で男を負かそうとする女は、やっぱり扱いにくいんだよな」
ほめてくれた全てを反古にして、彼はあっさり自分から若い女に乗り換えたのだ。
彼が選んだ人は若く可愛く、男性が思わず守ってあげたくなるような可憐な女性だった。そこにいるだけで周り皆が彼女を愛してしまう。それこそ、乙女ゲームのヒロイン「エマ」のように。
彼女と自分では何もかもが真逆。たとえ若かったとしても、自分ではあんなに可愛くは――乙女ゲームのヒロインのように愛らしくは振る舞えないだろう。
私はヒーローに選んでもらえない。私はヒーローの特別にはなれない。
(……私は、ヒロインになれなかったんだ)
失恋の傷を癒せないまま、眠れない日々が続いた。不注意から事故に遭い、前世のアヴリーヌが呆気なくその生涯を終えたのはそれからすぐのこと。それは、彼と彼女が婚約を報告した日の夜だった。
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ふと寂しくなった時、突然恋人ができた。美人なくせに奥手だった前世のアヴリーヌにとって、生まれて初めての真剣な恋だった。
彼は部下の一人で、三歳下の青年だった。新入社員の頃に指導した縁で元々親しくはあったが、ある時二人きりで飲みに行きたいとバーに誘われ、そこで情熱的に口説かれたのだ。
初めは冗談だろうと思った。甘い顔立ちで話上手な彼は職場の女性に人気があり、わざわざ歳上で、しかも上司である自分を選ぶ理由がわからなかったからだ。
だが彼は、及び腰の自分に甘い囁きを重ねた。
「落ち着いた大人の女性って素敵だよ」
「仕事ができるとこ、尊敬してる」
「若いだけの同僚より、ずっと綺麗だ」
「愛してる」
まるでゲームのヒロインのように扱われたアヴリーヌが、身も心も彼に夢中になるまでそう時間はかからなかった。この人となら結婚してもいい。そう考えながら過ごしていたある日。
突然、彼に捨てられた。
可愛いと評判の新人と彼がつきあっている。そんな噂にまさかと思って問い詰めると、逆に「別れてくれ」と突き放されたのだ。
予想だにしなかった冷たい態度。いつも冷静な自分が我を失った。手当たり次第に物を投げ、彼に掴みかからんばかりに取り乱す。しかしそんな自分の手を、彼は嫌悪感たっぷりに振り払った。
「だって、プライベートでも仕事でもおまえが主導権握ってくるし、全然俺を立ててくれないし」
「確かに美人だけど、やっぱり若さには勝てないだろ」
「仕事で男を負かそうとする女は、やっぱり扱いにくいんだよな」
ほめてくれた全てを反古にして、彼はあっさり自分から若い女に乗り換えたのだ。
彼が選んだ人は若く可愛く、男性が思わず守ってあげたくなるような可憐な女性だった。そこにいるだけで周り皆が彼女を愛してしまう。それこそ、乙女ゲームのヒロイン「エマ」のように。
彼女と自分では何もかもが真逆。たとえ若かったとしても、自分ではあんなに可愛くは――乙女ゲームのヒロインのように愛らしくは振る舞えないだろう。
私はヒーローに選んでもらえない。私はヒーローの特別にはなれない。
(……私は、ヒロインになれなかったんだ)
失恋の傷を癒せないまま、眠れない日々が続いた。不注意から事故に遭い、前世のアヴリーヌが呆気なくその生涯を終えたのはそれからすぐのこと。それは、彼と彼女が婚約を報告した日の夜だった。