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 荒々しく扉が開かれた。
 豪華な調度品が並ぶ部屋に、武骨な兵士達がなだれ込んでくる。

 マリノ王国の宮殿。若き現国王を補佐する摂政(せっしょう)にして前国王の妃、アヴリーヌの執務(しつむ)室である。
 瑠璃(るり)色の上等なドレスに身を包んだアヴリーヌは、執務用の机で書類に目を通しているところだった。武装した兵士達を一目見ると、動じることなくそっと目を伏せ、「その時」がきたことを悟る。

(私が、「悪女」として断罪される時がきたのね)

 すぐに険しい表情を装い、椅子から立ち上がる。
 緩くウエーブを描く豪華な金の髪に、燃えるような赤い瞳。見る者を圧倒するアヴリーヌの美貌は、もうすぐ三十歳になるというのに全く衰えることがない。この国で最も美しく、最も権力をもち、そして最も恐ろしいと言われる女性。それがアヴリーヌだった。

「無礼者! (わたくし)の部屋に無断で押し入るとは、全員牢獄行きよ!」

 声を張り上げたアヴリーヌに、彼女を取り囲んだ兵士達が一斉に気圧される。
 そんな彼らの中から、一人の少女が前に進み出た。

「お待ちください、お義母(かあ)様!」

 若草色のドレスをまとう小柄な彼女は、17歳のエマ姫だ。前国王が早くに亡くした先妻の子――アヴリーヌの義理の娘であり、同じく義理の息子である現国王の妹である。

「これ以上、罪の無い方々を苦しめるのはおやめ下さい! (わたし)は……お義母様を断罪いたします!」

 胸の前で両手を握りしめ、兵士達を代表するようにエマは言い放った。
 可憐な顔立ちに、乙女らしい華奢な体つき、そして明るい亜麻色の髪と瞳。姫としての気品と、親しみやすい少女の愛らしさを合わせもつ彼女の姿は、かつて「ゲーム」画面で何度も見たものだ。

(この台詞、覚えてる。……やっぱりこれは、「アヴリーヌ断罪イベント」に違いないわ)

 ヒロイン・エマが恋人であるヒーローと共に、傲慢で残酷な義母を断罪する、ゲーム内でのクライマックス。アヴリーヌも前世では、「エマ」としてラスボス的キャラクターである「アヴリーヌ」を追い詰め、ヒーロー達とのハッピーエンドを何度も迎えたものだ。

 ――ここは「乙女ゲーム『若草姫と七人の宝石達』」の世界であり、アヴリーヌは前世の記憶をもったまま生まれ変わった、転生者なのだ。




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 荒々しく扉が開かれた。
 豪華な調度品が並ぶ部屋に、武骨な兵士達がなだれ込んでくる。
 マリノ王国の宮殿。若き現国王を補佐する|摂政《せっしょう》にして前国王の妃、アヴリーヌの|執務《しつむ》室である。
 |瑠璃《るり》色の上等なドレスに身を包んだアヴリーヌは、執務用の机で書類に目を通しているところだった。武装した兵士達を一目見ると、動じることなくそっと目を伏せ、「その時」がきたことを悟る。
(私が、「悪女」として断罪される時がきたのね)
 すぐに険しい表情を装い、椅子から立ち上がる。
 緩くウエーブを描く豪華な金の髪に、燃えるような赤い瞳。見る者を圧倒するアヴリーヌの美貌は、もうすぐ三十歳になるというのに全く衰えることがない。この国で最も美しく、最も権力をもち、そして最も恐ろしいと言われる女性。それがアヴリーヌだった。
「無礼者! |私《わたくし》の部屋に無断で押し入るとは、全員牢獄行きよ!」
 声を張り上げたアヴリーヌに、彼女を取り囲んだ兵士達が一斉に気圧される。
 そんな彼らの中から、一人の少女が前に進み出た。
「お待ちください、お|義母《かあ》様!」
 若草色のドレスをまとう小柄な彼女は、17歳のエマ姫だ。前国王が早くに亡くした先妻の子――アヴリーヌの義理の娘であり、同じく義理の息子である現国王の妹である。
「これ以上、罪の無い方々を苦しめるのはおやめ下さい! |私《わたし》は……お義母様を断罪いたします!」
 胸の前で両手を握りしめ、兵士達を代表するようにエマは言い放った。
 可憐な顔立ちに、乙女らしい華奢な体つき、そして明るい亜麻色の髪と瞳。姫としての気品と、親しみやすい少女の愛らしさを合わせもつ彼女の姿は、かつて「ゲーム」画面で何度も見たものだ。
(この台詞、覚えてる。……やっぱりこれは、「アヴリーヌ断罪イベント」に違いないわ)
 ヒロイン・エマが恋人であるヒーローと共に、傲慢で残酷な義母を断罪する、ゲーム内でのクライマックス。アヴリーヌも前世では、「エマ」としてラスボス的キャラクターである「アヴリーヌ」を追い詰め、ヒーロー達とのハッピーエンドを何度も迎えたものだ。
 ――ここは「乙女ゲーム『若草姫と七人の宝石達』」の世界であり、アヴリーヌは前世の記憶をもったまま生まれ変わった、転生者なのだ。