強い意志か。
……なんか、みんなの意見を聞けば聞くほどがんじがらめになっている気がする。
昨日はあの後、解散になった。
結果的に樫田のお陰で夏村と話せたが、何かを得られたかと問われると難しい。
むしろ悩みの種が増えた気分だ。
津田先輩が言っていたように、俺達は総意のない烏合の衆なのかもしれない。
ちょっとずつ見えてきた現状に俺はそう思わざるを得なかった。
そして、今日も放課後がやってきた。
重い体を動かして、いつもの教室へと向かう。
さてと、残るは大槻だけか。
あいつなら聞くタイミングなんていつでもあるだろう。
そんなことを考えなら階段を上っている時だった。
「お、杉野じゃん」
「津田先輩」
いつも時間ギリギリまで来ないはずの津田先輩が教室前で待っていた。
どうやら、鍵を持ってくる轟先輩がまだ来ていないらしい。
「珍しいですね、津田先輩がこんなに早く来るなんて」
「おう、仕事の速い杉野のことだから、もう確認取れたんじゃないかと思ってな」
「……残念でしたね、大槻がまだですよ」
「それ以外は聞けたんだろ、それだけで十分だ。どうだった?」
どこか楽しげな笑顔で聞いてきた。
俺はため息交じりに答える。
「……みんなばらばらでしたね」
「はは! そうかそうか!」
腹を抱えて笑われた。何がそんなに面白いのだろうか。
そうこうしているうちに、轟先輩がやってきた。
「むむむ! 津田んが笑い転げている!? 何があったんだい杉野ん!?」
「いえ、特別面白いことはなかったですよ」
「じゃあ気にしなーい!」
そう言いながら教室の鍵を開ける轟先輩。さすがだ。津田先輩への対応が慣れている。
俺たち三人は中へと入る。
「で? 津田ん。悪巧みとかしてないよね?」
「おいおい人聞きの悪いな轟ちゃん。後輩へのちょっとしたアドバイスだよ。なぁ?」
「ええ、まあ」
「杉野んがそういうなら……」
轟先輩はどこか心配そうにこちらを見てくる。
これはあれだな。津田先輩への信頼のなさが出ているな。
「大丈夫だって、コウも知っている話だから」
「なぬぬ! なら大丈夫か!」
「そうそう」
おお、津田先輩も轟先輩の扱いが慣れているな。これが信頼関係か。
俺がそんな馬鹿なことを思っていると、津田先輩が肩を組んできた。
「じゃ、ちょっと杉野借りるぞー」
「え」
「りょうかいー。部活始まるまでには帰ってきてねー」
そう言って津田先輩は俺を連れて教室を出た。
轟は止めることなく冷静に送り出した。
「津田先輩、どこ行くんですか?」
「そうだな……とりあえず購買でも行くか」
「分かりました」
こうなったら観念するしかないだろうと、俺は津田先輩に付き従う。
購買に着くと、津田先輩は俺の肩から手を放す。
「で、だ。なんか収穫はあったか?」
「収穫ですか……」
「おいおい、しっかりしろって」
津田先輩は購買横にあるテーブルスペースの一つを占領する。
どうやら座れということだろう。
俺は津田先輩と向かい合うようにしてイスに座る。
「何で悩んでんだ?」
「そうですね。なんか色々あり過ぎて、頭がパンクしそうです」
「具体的には?」
「具体的…………そうですね。増倉と椎名は予想通りだったんですけど夏村は意外な答えでした。樫田は、まぁ、言っていることは分かるけど、それじゃ解決へ至らないっていうか……」
あれ? 喋っているうちに何に悩んでいるのか、分かんなくなってきた。
真剣に聞く津田先輩は、俺が一通り話し終わると、ゆっくりと口を開いた。
「杉野。何で俺がみんなの意見を確認させたと思う?」
「そりゃ、意見が揃ってないと烏合の衆だから?」
「違う」
はっきりと否定された。
では、いったい何のために確認しているのだろうか。
「いいか。意見が揃っているかどうかはさして問題じゃない。お前ら二年のことだ。不揃いな方が自然なぐらいだ」
「じゃあ何のために?」
「敵と味方、それ以外をはっきりさせるためだ」
その言葉に、ぼやけていた思考がはっきりとし出す。
現実に引き戻されたような強い衝撃を受ける。
そんな俺の変化に、津田先輩はにやりと笑う。
「少しは霧が晴れたみたいだな。そう、結局のところ山路が辞めることを阻止したいのはお前の意志だろ? そしてそれに賛同する者あるいは様子見の者、反対する者がいたはずだ」
「はい」
「なら、今のお前にとっての味方や時として敵になる奴も分かったはずだ」
津田先輩の言葉に気づかされる。
そうだ。至るところ、山路が辞めることについて阻止したいというのは俺の渇望であり、そもそも総意ではないのだ。
もちろん、みんな辞めてほしくないだろうが、阻止したいという強い意志や行動力は持っていない。
俺の中で思考が渦巻く。
今、この状況で協力できるのは誰か。そして敵となるのは誰か。
少しだけ前に進めたような気がした。
「津田先輩。ありがとうございます」
「よせよ、照れくさい」
俺が感謝を述べると津田先輩はそう言って頭をかいた。
その様子が見慣れなくて、つい聞いてしまった。
「それにしても、津田先輩が相談に乗ってくれるなんて珍しいですね」
「……まぁ、最後だからな。サービスだ」
笑っていたが、その目の奥には哀愁がこもっていた。
最後、か。分かっているはずのことだ。何ら不思議はない。
なのに、だというのに、俺は寂しさを覚えずにはいられなかった。
「さ、部活も始まる頃だ。戻ろうか」
「……はい」
いつも通りの津田先輩に、俺はただ黙って付いて行く。