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第2章~第6話 蛙化現象③~

ー/ー



「さて、美しいシスターフッドな場面が見られたところで、本題に入ろうか?」

 二人して手を握り合い、お互いを見つめ合っていた私と金野(こんの)さんの姿を見ながら、コホンと咳ばらいをしたネコ先輩が宣言する。

 ハッと我に返った私と金野さんは、慌てて握り合っていた手を離し、気まずくなって互いにうつむいたあと、第二理科室の黒板に、チョークで板書を始めた上級生を見つめる。

 ・蛙化現象とは?

 定義:好意を持っていた相手に自分も好かれていると分かった途端、相手に対して生理的な嫌悪感を抱いてしまう現象。

 黒板に書き記した文字を指し示しながら、ネコ先輩は、まるで大学で講義を行う教授のように、私たちに問いかける。

「ここに書いた内容が、ワタシが認識している『蛙化現象』の内容だが、キミたちの認識と相違は無いかい?」

「ん〜、そうだね〜。ウチは、だいたいそういう意味で使ってる。二人はどう?」

 先に先輩の言葉に応えた桑来(くわき)さんが、私たちに話しを振ってきた。

「はい、詳しくはわからないですけど、おおよそ、そんな意味なんじゃないかと思います」

 私が返答すると、金野さんも無言で、コクコクと首を縦に振ってうなずいている。

「あっ、でも、それとは別にこんな意見もあるんだよね。この前、たまたまネットの記事で見たんだけどさ〜」

 そう言って、桑来さんは、スマホの画面で検索を始めた。

「これこれ、この記事! みんな、ちょっと読んでみ?」

 彼女が表示させたディスプレイには、こんな内容が書かれていた。

「蛙化現象のもともとの意味は、『好きな相手から好意を向けられるととたんに嫌いになってしまう』というグリム童話が由来になっています。最初は『好きなところは()()!』だった彼の姿も、日常を共有するうちに隠しきれないクセや価値観のズレが露呈し、ふとした瞬間に『え、ちょっと無理かも…』と心の声がこぼれてしまうこと、ありませんか? 今回はウェブアンケートにて総勢1752名に調査した

 <【蛙化現象】彼氏に「あっ…無理」ってなる瞬間ランキング>

 を発表! 1位に選ばれたのは…!?」

 そして、上位ベスト(?)3のランキングは、こんな風になっていた。

 第1位 食事中のマナーがひどい(264票)
 第2位 プライドが高すぎて謝れない(108票)
 第3位 元カノの話をする(107票)

「あ〜、わかる! これ、いままで全部あったわ」

 ひとり、納得して、キャハハと笑う桑来さんに対して渋い表情をしたネコ先輩は、苦言を呈する。

「申し訳ないが、この内容は、ノイズになるのでスルーさせてもらうよ?」

「え〜、なんで? コレって、あるあるネタじゃん? 彼氏がいたらわかることばっかだよね?」

 ネコ先輩の言葉に不満をあらわす桑来さんだけど……。

 残念ながら特定の交際相手が自分にも、加恵留(かえる)先輩と交際を始めて間もない金野さんにとっても、共感できる内容ではなかった。

「あ〜、あはは……どうなんでしょうね? ちょっと、わからないです」

 あいまいに笑って答えると、私よりもっと、彼氏の不満点という俗っぽい話題に興味が無さそうなネコ先輩が、

「不服があるなら、その話題は、また次の機会に取り上げることにしよう」

と言ったあと、淡々とした口調で、こう付け加えた。

「話しをもとに戻すと、そのサイトの冒頭にも書いているとおり、『蛙化現象』は、グリム童話の『カエルの王様』のエピソードが元になっていて、いまさっき確認したように、『好意を持っていた相手に自分も好かれていると分かった途端、相手に対して生理的な嫌悪感を抱いてしまう』心理だと説明されている。この定義を基本として考えるなら、蛙化現象の克服は不可能ではないだろう」

 第二理科室の大きな教壇に手を乗せながら語る生物心理学研究会の代表者の言葉に、金野さんは驚いたように反応した。

「本当ですか!」

「あぁ、本当だ。ただ、その前に、ちょっと立ち入ったことを聞かせてもらって良いかな?」

「え? うん……別に構わないけど……どんなこと?」

「そうだな、キミは、いまの彼氏に告白されたとき、もしくは、交際を始めたときに、『どうして、()()()()()()()()()()()()()()()()()』あるいは、『いままでは普通に接していたのに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()』と感じたことは無かったかい?」

 それは、金野さんに対して発した問いかけだと言うことは、誰が聞いても、あきらかだったのに、ネコ先輩の言葉は、私の胸にも深く突き刺さった。

「どうして、わかったの? たしかに、『皇子(おうじ)くんは、どうして私なんかと付き合ってるんだろう?』っていつも思ってる……」

 金野さんは、またも驚くような反応をみせていたたけれど、私は内心で彼女以上に、驚愕していた。

 いままでは、幼なじみとして普通に接していたのに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()、というのは、私がケンタに告白されてから、ずっと心のどこかで感じていたことだからだ。

 私の心の内側をよそに、ネコ先輩は、「そうか……」と、金野さんに対して柔和に微笑んだあと、

「それなら、解決策は見つかったも同然だ。容易なことではないかも知れないが、下級生と一緒にがんばってみないか? さあ、実践の時間だよ!」

と言って、私の方に視線を向けた。


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「さて、美しいシスターフッドな場面が見られたところで、本題に入ろうか?」
 二人して手を握り合い、お互いを見つめ合っていた私と|金野《こんの》さんの姿を見ながら、コホンと咳ばらいをしたネコ先輩が宣言する。
 ハッと我に返った私と金野さんは、慌てて握り合っていた手を離し、気まずくなって互いにうつむいたあと、第二理科室の黒板に、チョークで板書を始めた上級生を見つめる。
 ・蛙化現象とは?
 定義:好意を持っていた相手に自分も好かれていると分かった途端、相手に対して生理的な嫌悪感を抱いてしまう現象。
 黒板に書き記した文字を指し示しながら、ネコ先輩は、まるで大学で講義を行う教授のように、私たちに問いかける。
「ここに書いた内容が、ワタシが認識している『蛙化現象』の内容だが、キミたちの認識と相違は無いかい?」
「ん〜、そうだね〜。ウチは、だいたいそういう意味で使ってる。二人はどう?」
 先に先輩の言葉に応えた|桑来《くわき》さんが、私たちに話しを振ってきた。
「はい、詳しくはわからないですけど、おおよそ、そんな意味なんじゃないかと思います」
 私が返答すると、金野さんも無言で、コクコクと首を縦に振ってうなずいている。
「あっ、でも、それとは別にこんな意見もあるんだよね。この前、たまたまネットの記事で見たんだけどさ〜」
 そう言って、桑来さんは、スマホの画面で検索を始めた。
「これこれ、この記事! みんな、ちょっと読んでみ?」
 彼女が表示させたディスプレイには、こんな内容が書かれていた。
「蛙化現象のもともとの意味は、『好きな相手から好意を向けられるととたんに嫌いになってしまう』というグリム童話が由来になっています。最初は『好きなところは|全《・》|部《・》!』だった彼の姿も、日常を共有するうちに隠しきれないクセや価値観のズレが露呈し、ふとした瞬間に『え、ちょっと無理かも…』と心の声がこぼれてしまうこと、ありませんか? 今回はウェブアンケートにて総勢1752名に調査した
 <【蛙化現象】彼氏に「あっ…無理」ってなる瞬間ランキング>
 を発表! 1位に選ばれたのは…!?」
 そして、上位ベスト(?)3のランキングは、こんな風になっていた。
 第1位 食事中のマナーがひどい(264票)
 第2位 プライドが高すぎて謝れない(108票)
 第3位 元カノの話をする(107票)
「あ〜、わかる! これ、いままで全部あったわ」
 ひとり、納得して、キャハハと笑う桑来さんに対して渋い表情をしたネコ先輩は、苦言を呈する。
「申し訳ないが、この内容は、ノイズになるのでスルーさせてもらうよ?」
「え〜、なんで? コレって、あるあるネタじゃん? 彼氏がいたらわかることばっかだよね?」
 ネコ先輩の言葉に不満をあらわす桑来さんだけど……。
 残念ながら特定の交際相手が自分にも、|加恵留《かえる》先輩と交際を始めて間もない金野さんにとっても、共感できる内容ではなかった。
「あ〜、あはは……どうなんでしょうね? ちょっと、わからないです」
 あいまいに笑って答えると、私よりもっと、彼氏の不満点という俗っぽい話題に興味が無さそうなネコ先輩が、
「不服があるなら、その話題は、また次の機会に取り上げることにしよう」
と言ったあと、淡々とした口調で、こう付け加えた。
「話しをもとに戻すと、そのサイトの冒頭にも書いているとおり、『蛙化現象』は、グリム童話の『カエルの王様』のエピソードが元になっていて、いまさっき確認したように、『好意を持っていた相手に自分も好かれていると分かった途端、相手に対して生理的な嫌悪感を抱いてしまう』心理だと説明されている。この定義を基本として考えるなら、蛙化現象の克服は不可能ではないだろう」
 第二理科室の大きな教壇に手を乗せながら語る生物心理学研究会の代表者の言葉に、金野さんは驚いたように反応した。
「本当ですか!」
「あぁ、本当だ。ただ、その前に、ちょっと立ち入ったことを聞かせてもらって良いかな?」
「え? うん……別に構わないけど……どんなこと?」
「そうだな、キミは、いまの彼氏に告白されたとき、もしくは、交際を始めたときに、『どうして、|自《・》|分《・》|み《・》|た《・》|い《・》|な《・》|人《・》|間《・》|に《・》|告《・》|白《・》|し《・》|た《・》|ん《・》|だ《・》|ろ《・》|う《・》』あるいは、『いままでは普通に接していたのに、|オ《・》|ン《・》|ナ《・》|と《・》|し《・》|て《・》|見《・》|ら《・》|れ《・》|る《・》|の《・》|は《・》|な《・》|ん《・》|か《・》|イ《・》|ヤ《・》|だ《・》』と感じたことは無かったかい?」
 それは、金野さんに対して発した問いかけだと言うことは、誰が聞いても、あきらかだったのに、ネコ先輩の言葉は、私の胸にも深く突き刺さった。
「どうして、わかったの? たしかに、『|皇子《おうじ》くんは、どうして私なんかと付き合ってるんだろう?』っていつも思ってる……」
 金野さんは、またも驚くような反応をみせていたたけれど、私は内心で彼女以上に、驚愕していた。
 いままでは、幼なじみとして普通に接していたのに、|オ《・》|ン《・》|ナ《・》|と《・》|し《・》|て《・》|見《・》|ら《・》|れ《・》|る《・》|の《・》|は《・》|な《・》|ん《・》|か《・》|イ《・》|ヤ《・》|だ《・》、というのは、私がケンタに告白されてから、ずっと心のどこかで感じていたことだからだ。
 私の心の内側をよそに、ネコ先輩は、「そうか……」と、金野さんに対して柔和に微笑んだあと、
「それなら、解決策は見つかったも同然だ。容易なことではないかも知れないが、下級生と一緒にがんばってみないか? さあ、実践の時間だよ!」
と言って、私の方に視線を向けた。