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第2章~第5話 蛙化現象②~

ー/ー



加絵留皇子(かえるおうじ)くんと、始めて出会ったのは、入学式のときだったの……私、背が低くて、他の人たちの後ろから、クラス発表の掲示板が確認できなくて困ってたんだけど……そのとき、『どしたん? オレが見てきてやろうか? 名前は?』って、声をかけてくれたのが、彼だったんだ」

 ネコ先輩にうながされて語り始めた金野(こんの)さんの話しは、少女マンガの冒頭シーンを見ているかのような展開で始まった。

「そのときは、単純にこんなにカッコイイ男子が、私なんかに声をかけてくれるんだ……って驚いただけだった。1年のとき、彼とは同じクラスだったけど、そんなに話す機会もなくて、私の方は一方的に、いつも、加絵留(かえる)くんに憧れているだけだった。彼は、カッコイイし、クラスの輪の中心にいたから、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……」

 自分の想いを回想するかのように語る金野さん。
 ただ、私には、彼女の言葉が、まるで自分の気持ちを見透かしているように感じられた。

 これまでの人生で、特定の男子を相手に強い恋愛感情を抱いたことはなかったけれど……。

 私も、金野さんのように、少し気になる()()()()をこっそりと眺めることが多かったからだ(そして、周りのヒトに話すと面倒なことになるのはわかりきっていたので黙っていたけど、その中には、幼なじみの戌井犬太(いぬいけんた)が含まれていることもあった)。

 そんな私の図星を突かれたような焦りとは無関係に、金野さんのエピソード・トークは続く。

「そう……()()()()()()()()()()()()()()()()んだけど――――――4月のクラス替えで、また彼と同じクラスになった1週間後に、彼から『オレと付き合ってください』って、突然、告白されて付き合うことになったんだ……」

「ほう……それは、おめでとう――――――と、言いたいところだが、それだけでは終わらなかった、と言うことだね?」

 金野さんの言葉と気持ちを確認するように、ネコ先輩が問いかけた。
 すると、上級生の委員長は、自分の想いを吐き出すように、言葉を振り絞った。

「うん、そうなんだ……密かに憧れていた加絵留くんとお付き合いできるんだから、幸せなハズなのに……どう考えても、自分が悪いっていうのはわかっているんだけど、皇子くんが手を繋いで来ようとすると、気持ち悪いって感じちゃうんだ……まるで、彼がカエルになったみたいに――――――」

 その言葉が発せられると同時に、第二理科室の空気は、一気に重たくなった。
 
 その重たい空気の中、金野さんの相談事を先に聞いていたからか、これまで沈黙していた桑来さんが口を開く。
 
「ねぇ、これって、蛙化現象ってヤツだよね? カエルって名前が付いてるくらいだし、生物学とか心理学の知識で、なんとかならないかな?」

 クラスメートの言葉に、「ふむ……」と、小さくうなずいたネコ先輩は、腕組みをして、何事かを考えているようすで語り始めた。

「まず、確認しておきたいのは、そもそも蛙化現象というのは、生物学の用語ではない。それ故に、単純にこうすれば良い、という()()()()()()()()()有効な方策というものは無いと考えてもらいたい」

「そ、そうなんだ――――――」

 断言するように答えたネコ先輩の言葉に、金野さんは、ガッカリしたのだろう。こちらからも、わかるように、あきらかに意気消沈して、肩を落とすようすが見て取れた。

 ただ、そんな委員長の姿を見ながら、ネコ先輩は、優しげな表情で語りかける。

「大丈夫だ。そんなに気落ちする必要はない。誰にでも当てはまる有効な方策は無い、と言ったが、キミ自身の話しをもっと詳しく聞かせてもらえれば、対策が見つかる可能性も高い。どうだろう? もう少し、キミの話しを聞かせてもらえないか?」

 そして、穏やかに語りかける先輩につられ、私も勢い余って口を開いてしまった。

「あの、金野さんの気持ち、私も少しわかります! 実は先月、私も仲の良かった男子から告白されたんですけど……相手の気持ちにどう答えて良いかわからなくて、その場から逃げ出すような感じになっちゃったんです。それ以来、ケンタ……その幼なじみと話すのが気まずくなっちゃって……これまでのように、壁になったみたいな感じで、相手のことを見守っているだけで良かったのに、って――――――」

 突然の私の発言に驚いたのか、金野さんと桑来さんの二人は目を丸くしていたけど、ネコ先輩は、クックックと、興味深そうに笑いながら、クラスメートに語りかける。

「そう言えば、詳しい紹介ができていなかったね。彼女は、1年生の音無音寿子さん。我らが、生物心理学研究会の新入部員にして、将来の有望な幹部候補だ。音無さんも、幼なじみからの告白という、絶好の機会を得たにも関わらず、悩んでいるようでね。良ければ、いっしょに問題の解決に向き合ってみないかい?」

 そう提案する先輩に対して、「幹部候補って、1年は私と佳衣子の二人しか居ないじゃないですか!?」と、ツッコミを入れてから、あらためて、相談主の上級生に向き直る。

「私も、告白されて困っていることを他人に相談なんてしたら、色んな人を不愉快な気持ちにさせるんじゃないかって思ってました。もしかしたら、金野さんが抱えているお悩みは、私と共通するところがあるかも知れません。迷惑でなければ、私もいっしょに、この問題に取り組ませてもらえませんか?」

 金野さんの手を握りながら、私が、そうお願いすると、恐縮したようなようすで、

「う、うん……ありがとう。私ひとりだったら不安だったけど、同じような気持ちで悩んでいるあなたがいっしょなら、心強いかも」

と言って、彼女は、私の手を握り返してくれた。


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「|加絵留皇子《かえるおうじ》くんと、始めて出会ったのは、入学式のときだったの……私、背が低くて、他の人たちの後ろから、クラス発表の掲示板が確認できなくて困ってたんだけど……そのとき、『どしたん? オレが見てきてやろうか? 名前は?』って、声をかけてくれたのが、彼だったんだ」
 ネコ先輩にうながされて語り始めた|金野《こんの》さんの話しは、少女マンガの冒頭シーンを見ているかのような展開で始まった。
「そのときは、単純にこんなにカッコイイ男子が、私なんかに声をかけてくれるんだ……って驚いただけだった。1年のとき、彼とは同じクラスだったけど、そんなに話す機会もなくて、私の方は一方的に、いつも、|加絵留《かえる》くんに憧れているだけだった。彼は、カッコイイし、クラスの輪の中心にいたから、|同《・》|じ《・》|教《・》|室《・》|で《・》|遠《・》|く《・》|か《・》|ら《・》|眺《・》|め《・》|て《・》|る《・》|だ《・》|け《・》|で《・》|十《・》|分《・》|だ《・》|っ《・》|た《・》|ん《・》|だ《・》……」
 自分の想いを回想するかのように語る金野さん。
 ただ、私には、彼女の言葉が、まるで自分の気持ちを見透かしているように感じられた。
 これまでの人生で、特定の男子を相手に強い恋愛感情を抱いたことはなかったけれど……。
 私も、金野さんのように、少し気になる|男《・》|子《・》|同《・》|士《・》をこっそりと眺めることが多かったからだ(そして、周りのヒトに話すと面倒なことになるのはわかりきっていたので黙っていたけど、その中には、幼なじみの|戌井犬太《いぬいけんた》が含まれていることもあった)。
 そんな私の図星を突かれたような焦りとは無関係に、金野さんのエピソード・トークは続く。
「そう……|遠《・》|く《・》|か《・》|ら《・》|眺《・》|め《・》|て《・》|る《・》|だ《・》|け《・》|で《・》|十《・》|分《・》|だ《・》|っ《・》|た《・》んだけど――――――4月のクラス替えで、また彼と同じクラスになった1週間後に、彼から『オレと付き合ってください』って、突然、告白されて付き合うことになったんだ……」
「ほう……それは、おめでとう――――――と、言いたいところだが、それだけでは終わらなかった、と言うことだね?」
 金野さんの言葉と気持ちを確認するように、ネコ先輩が問いかけた。
 すると、上級生の委員長は、自分の想いを吐き出すように、言葉を振り絞った。
「うん、そうなんだ……密かに憧れていた加絵留くんとお付き合いできるんだから、幸せなハズなのに……どう考えても、自分が悪いっていうのはわかっているんだけど、皇子くんが手を繋いで来ようとすると、気持ち悪いって感じちゃうんだ……まるで、彼がカエルになったみたいに――――――」
 その言葉が発せられると同時に、第二理科室の空気は、一気に重たくなった。
 その重たい空気の中、金野さんの相談事を先に聞いていたからか、これまで沈黙していた桑来さんが口を開く。
「ねぇ、これって、蛙化現象ってヤツだよね? カエルって名前が付いてるくらいだし、生物学とか心理学の知識で、なんとかならないかな?」
 クラスメートの言葉に、「ふむ……」と、小さくうなずいたネコ先輩は、腕組みをして、何事かを考えているようすで語り始めた。
「まず、確認しておきたいのは、そもそも蛙化現象というのは、生物学の用語ではない。それ故に、単純にこうすれば良い、という|誰《・》|に《・》|で《・》|も《・》|当《・》|て《・》|は《・》|ま《・》|る《・》有効な方策というものは無いと考えてもらいたい」
「そ、そうなんだ――――――」
 断言するように答えたネコ先輩の言葉に、金野さんは、ガッカリしたのだろう。こちらからも、わかるように、あきらかに意気消沈して、肩を落とすようすが見て取れた。
 ただ、そんな委員長の姿を見ながら、ネコ先輩は、優しげな表情で語りかける。
「大丈夫だ。そんなに気落ちする必要はない。誰にでも当てはまる有効な方策は無い、と言ったが、キミ自身の話しをもっと詳しく聞かせてもらえれば、対策が見つかる可能性も高い。どうだろう? もう少し、キミの話しを聞かせてもらえないか?」
 そして、穏やかに語りかける先輩につられ、私も勢い余って口を開いてしまった。
「あの、金野さんの気持ち、私も少しわかります! 実は先月、私も仲の良かった男子から告白されたんですけど……相手の気持ちにどう答えて良いかわからなくて、その場から逃げ出すような感じになっちゃったんです。それ以来、ケンタ……その幼なじみと話すのが気まずくなっちゃって……これまでのように、壁になったみたいな感じで、相手のことを見守っているだけで良かったのに、って――――――」
 突然の私の発言に驚いたのか、金野さんと桑来さんの二人は目を丸くしていたけど、ネコ先輩は、クックックと、興味深そうに笑いながら、クラスメートに語りかける。
「そう言えば、詳しい紹介ができていなかったね。彼女は、1年生の音無音寿子さん。我らが、生物心理学研究会の新入部員にして、将来の有望な幹部候補だ。音無さんも、幼なじみからの告白という、絶好の機会を得たにも関わらず、悩んでいるようでね。良ければ、いっしょに問題の解決に向き合ってみないかい?」
 そう提案する先輩に対して、「幹部候補って、1年は私と佳衣子の二人しか居ないじゃないですか!?」と、ツッコミを入れてから、あらためて、相談主の上級生に向き直る。
「私も、告白されて困っていることを他人に相談なんてしたら、色んな人を不愉快な気持ちにさせるんじゃないかって思ってました。もしかしたら、金野さんが抱えているお悩みは、私と共通するところがあるかも知れません。迷惑でなければ、私もいっしょに、この問題に取り組ませてもらえませんか?」
 金野さんの手を握りながら、私が、そうお願いすると、恐縮したようなようすで、
「う、うん……ありがとう。私ひとりだったら不安だったけど、同じような気持ちで悩んでいるあなたがいっしょなら、心強いかも」
と言って、彼女は、私の手を握り返してくれた。