第8話 街角の「たこ焼き」屋台とエルウィンの視線 -1
ー/ー
王宮でのカレーライスによる奇跡的な功績が認められ、花子は隔離された小部屋から、王宮の一角にあるもう少し広い部屋を与えられた。
以前の簡素な、牢屋のような部屋とは比べ物にならない快適さに、花子は小さく息を吐いた。
窓からは柔らかな陽光が差し込み、風が心地よく吹き抜ける。
真新しい木製の机と椅子、そして柔らかな寝台。
まるで、故郷の自分の部屋に少しだけ似ているような、そんな安らぎを感じた。
そして、何よりも嬉しかったのは、王の許可を得て、週に数回、王宮の外、街で料理を振る舞うことを許されたことだ。
(いよいよ、街の人たちに故郷の味を届けられる!)
花子の胸は期待に膨らんだ。
王宮の者たちだけでなく、もっと多くの、普通の生活を送る人々の笑顔が見たかった。
故郷では、地方から上京して一人暮らしをしていた花子は、B級グルメをこよなく愛するがゆえに、食の趣味が合う友人はあまり多くなかった。
だから、美味しいものを見つけても、一人で黙々と食べ歩くことがほとんどだった。
だが、この異世界では違う。
自分の料理で誰かを笑顔にできる。
その喜びが、花子を突き動かしていた。
「美味しい!」と目を輝かせる人々の顔を想像するだけで、心が躍る。
自分がこの世界に転移してきたことには、きっと意味があるのだ。
そんな確かな手応えが、花子を支えていた。
次に花子が選んだのは、手軽に作れて、見た目にも楽しく、そして何より「祭り」の雰囲気を纏う故郷の味、たこ焼きだった。
あの丸い形、熱々をハフハフしながら食べる幸福感。
ソースとマヨネーズ、そして踊る鰹節と青のり。
きっと、この世界の誰もが笑顔になるはずだ。
何より、焼いている時の、あの食欲をそそる香りがたまらない。
お祭り気分を盛り上げる、あの賑やかな匂いを、この味気ない王宮の周り、そして街に広げたい。
通販サイトを開く。
手持ちの銀貨は、カレーの材料でほぼ底を尽いていた。
画面に表示される残金を見て、花子は少しだけ眉を下げた。
(うーん、やっぱりお金は大事だなぁ……。でも、たこ焼きは材料費が安いから、なんとかいけるはず!)
そう、幸いなことに、たこ焼きの材料は比較的安価だ。
たこ焼き粉と、手動式のたこ焼き器を注文した。
異世界の市場へ向かう。
市場は、朝から活気ある喧騒に包まれていた。
色とりどりの野菜、生きたまま売られている魚、そして香辛料の匂いが入り混じる。
見慣れない食材が並ぶ中、たこ焼きに使えるものを探すのも、また楽しい時間だった。
タコに似た、少し硬めの海産物を見つけた時は、思わず声を上げてしまった。
「これだ!」
魚屋の店主が怪訝な顔をしたが、花子は気にせず、青ネギに似た野菜と、新鮮な卵も手に入れた。
王都の賑やかな広場の一角に、花子は簡素な屋台を構えた。
木製の骨組みに白い布を張っただけの、質素な作りだ。
しかし、その周りには、すでに好奇心旺盛な人々がちらほら集まり始めている。
焚き火台の上に、通販で召喚した真新しい鉄製のたこ焼き器を乗せる。
銀色の鉄板が、朝日にきらりと光る。
まだ何も焼かれていないのに、その珍しい形に人々は興味津々だ。
熱せられた鉄板に、僅かな油をひき、生地を流し込む。
ジュワアアァ……!と、卵と小麦粉が焼ける、食欲をそそる音が広場に響き渡った。
その音は、まるで花子の心臓の鼓動とシンクロしているかのようだ。
すぐに、香ばしくもどこか甘い、独特の香りが周囲に立ち込め始める。
それは、これまで広場に漂っていた、土埃や汗の匂いをかき消すかのように、人々の鼻腔を刺激した。
通行人たちが足を止め、何事かと屋台の方を振り返る。
「なんだ、この匂いは!?」
「嗅いだことのない香りだ!」
「見たことのない道具だぞ!」
「聖女様が何か作っておられるのか!?」
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以前の簡素な、牢屋のような部屋とは比べ物にならない快適さに、花子は小さく息を吐いた。
窓からは柔らかな陽光が差し込み、風が心地よく吹き抜ける。
真新しい木製の机と椅子、そして柔らかな寝台。
まるで、故郷の自分の部屋に少しだけ似ているような、そんな安らぎを感じた。
そして、何よりも嬉しかったのは、王の許可を得て、週に数回、王宮の外、街で料理を振る舞うことを許されたことだ。
(いよいよ、街の人たちに故郷の味を届けられる!)
花子の胸は期待に膨らんだ。
王宮の者たちだけでなく、もっと多くの、普通の生活を送る人々の笑顔が見たかった。
故郷では、地方から上京して一人暮らしをしていた花子は、B級グルメをこよなく愛するがゆえに、食の趣味が合う友人はあまり多くなかった。
だから、美味しいものを見つけても、一人で黙々と食べ歩くことがほとんどだった。
だが、この異世界では違う。
自分の料理で誰かを笑顔にできる。
その喜びが、花子を突き動かしていた。
「美味しい!」と目を輝かせる人々の顔を想像するだけで、心が躍る。
自分がこの世界に転移してきたことには、きっと意味があるのだ。
そんな確かな手応えが、花子を支えていた。
次に花子が選んだのは、手軽に作れて、見た目にも楽しく、そして何より「祭り」の雰囲気を纏う故郷の味、たこ焼きだった。
あの丸い形、熱々をハフハフしながら食べる幸福感。
ソースとマヨネーズ、そして踊る鰹節と青のり。
きっと、この世界の誰もが笑顔になるはずだ。
何より、焼いている時の、あの食欲をそそる香りがたまらない。
お祭り気分を盛り上げる、あの賑やかな匂いを、この味気ない王宮の周り、そして街に広げたい。
通販サイトを開く。
手持ちの銀貨は、カレーの材料でほぼ底を尽いていた。
画面に表示される残金を見て、花子は少しだけ眉を下げた。
(うーん、やっぱりお金は大事だなぁ……。でも、たこ焼きは材料費が安いから、なんとかいけるはず!)
そう、幸いなことに、たこ焼きの材料は比較的安価だ。
たこ焼き粉と、手動式のたこ焼き器を注文した。
異世界の市場へ向かう。
市場は、朝から活気ある喧騒に包まれていた。
色とりどりの野菜、生きたまま売られている魚、そして香辛料の匂いが入り混じる。
見慣れない食材が並ぶ中、たこ焼きに使えるものを探すのも、また楽しい時間だった。
タコに似た、少し硬めの海産物を見つけた時は、思わず声を上げてしまった。
「これだ!」
魚屋の店主が怪訝な顔をしたが、花子は気にせず、青ネギに似た野菜と、新鮮な卵も手に入れた。
王都の賑やかな広場の一角に、花子は簡素な屋台を構えた。
木製の骨組みに白い布を張っただけの、質素な作りだ。
しかし、その周りには、すでに好奇心旺盛な人々がちらほら集まり始めている。
焚き火台の上に、通販で召喚した真新しい鉄製のたこ焼き器を乗せる。
銀色の鉄板が、朝日にきらりと光る。
まだ何も焼かれていないのに、その珍しい形に人々は興味津々だ。
熱せられた鉄板に、僅かな油をひき、生地を流し込む。
ジュワアアァ……!と、卵と小麦粉が焼ける、食欲をそそる音が広場に響き渡った。
その音は、まるで花子の心臓の鼓動とシンクロしているかのようだ。
すぐに、香ばしくもどこか甘い、独特の香りが周囲に立ち込め始める。
それは、これまで広場に漂っていた、土埃や汗の匂いをかき消すかのように、人々の鼻腔を刺激した。
通行人たちが足を止め、何事かと屋台の方を振り返る。
「なんだ、この匂いは!?」
「嗅いだことのない香りだ!」
「見たことのない道具だぞ!」
「聖女様が何か作っておられるのか!?」