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3.

ー/ー



「……ただいま」

「あれ、おかえり。今日は早かったんだね」

「……」

 玄関を開ける前からわかっていた。開けた途端に、家中を包む油の臭い。換気ぐらいしてよ。髪の毛に臭いが移っちゃうじゃん。私は意味もなく中途半端な長さの髪をバサバサと振った。

 というか、制服にだって臭いがついちゃう。こんな油臭い制服で行ったら、みんなの笑い者だ。部屋に戻ったらファブリーズしなくちゃ。

 家に帰ってきたのに、なんでこんな面倒くさいことになってるんだろう。やっぱり早く家に帰って来ても、良いことなんてひとつもないや。

「なんとなく、今日は早く帰って来そうな気がしてね、久しぶりにあんバターサンドを作っていたんだよ。あんた好きだったでしょう?」

 おばあちゃんはそう言うとキッチンから顔を出し、私を手招きした。

 真っ白な割烹着を頭からすっぽりとかぶって、白い髪の毛をぎゅっと一つにまとめた姿はサザエさんに出てくる人みたいだ。時代錯誤なおばあちゃんは、不機嫌な私の顔にも気づかず、にこにこと手招きしてる。

 行きたくないけど、渋々おばあちゃんに従ってキッチンに足を踏み入れた。

「ほぉら、お食べ」

 ことりとテーブルに置かれたあんバターサンド。お皿に敷かれたキッチンペーパーでは吸いきれなかった油がギトギトと光っている。見ただけで分かる脂っこさ。たっぷりの油で揚げてあって、しかもバターも入ってる。あんこだって甘くて、砂糖たっぷりだし。こんなのカロリーの塊だ。私の天敵だ。

「いらない。もう子供じゃないし」

「最近はお夕飯もあんまり食べてないじゃないか。そんなんじゃガリガリになっちまうよ」

「いいの。ダイエットしてるんだから」

 今日は学校で調子に乗ってポッキー食べちゃったし、こんなの食べたらダイエットの意味ないじゃん。夕ご飯だって抜かないといけないし。

 そっと自分の脇腹をつまむ。むにっとした感触が、私をイライラさせてくる。

 なんでみんなすらっと綺麗なスタイルなんだろう。私みたいに筋肉質でがっちりしてる女子は、めちゃくちゃ頑張らないと人権なんてないじゃない。

「ダイエットなんてしなくても十分じゃないか」

「うっさいなぁ。放っておいてよ」

 私はそう言うと、私はキッチンのドアを乱暴に閉めた。ドアが閉まる間際のおばあちゃんの顔。悲しそうな、寂しそうな顔をしていた気がする。

 でもドアはもう開けない。いつまでも子供じゃないんだから。髪の毛を掴んで嗅いでみると、ほんの数分キッチンに居ただけなのに、もう油の臭いがこびりついていた。

 最悪な気持ちで、ぐーぐー鳴るおなかを抱えながら、私は自分の部屋に戻った。


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「……ただいま」
「あれ、おかえり。今日は早かったんだね」
「……」
 玄関を開ける前からわかっていた。開けた途端に、家中を包む油の臭い。換気ぐらいしてよ。髪の毛に臭いが移っちゃうじゃん。私は意味もなく中途半端な長さの髪をバサバサと振った。
 というか、制服にだって臭いがついちゃう。こんな油臭い制服で行ったら、みんなの笑い者だ。部屋に戻ったらファブリーズしなくちゃ。
 家に帰ってきたのに、なんでこんな面倒くさいことになってるんだろう。やっぱり早く家に帰って来ても、良いことなんてひとつもないや。
「なんとなく、今日は早く帰って来そうな気がしてね、久しぶりにあんバターサンドを作っていたんだよ。あんた好きだったでしょう?」
 おばあちゃんはそう言うとキッチンから顔を出し、私を手招きした。
 真っ白な割烹着を頭からすっぽりとかぶって、白い髪の毛をぎゅっと一つにまとめた姿はサザエさんに出てくる人みたいだ。時代錯誤なおばあちゃんは、不機嫌な私の顔にも気づかず、にこにこと手招きしてる。
 行きたくないけど、渋々おばあちゃんに従ってキッチンに足を踏み入れた。
「ほぉら、お食べ」
 ことりとテーブルに置かれたあんバターサンド。お皿に敷かれたキッチンペーパーでは吸いきれなかった油がギトギトと光っている。見ただけで分かる脂っこさ。たっぷりの油で揚げてあって、しかもバターも入ってる。あんこだって甘くて、砂糖たっぷりだし。こんなのカロリーの塊だ。私の天敵だ。
「いらない。もう子供じゃないし」
「最近はお夕飯もあんまり食べてないじゃないか。そんなんじゃガリガリになっちまうよ」
「いいの。ダイエットしてるんだから」
 今日は学校で調子に乗ってポッキー食べちゃったし、こんなの食べたらダイエットの意味ないじゃん。夕ご飯だって抜かないといけないし。
 そっと自分の脇腹をつまむ。むにっとした感触が、私をイライラさせてくる。
 なんでみんなすらっと綺麗なスタイルなんだろう。私みたいに筋肉質でがっちりしてる女子は、めちゃくちゃ頑張らないと人権なんてないじゃない。
「ダイエットなんてしなくても十分じゃないか」
「うっさいなぁ。放っておいてよ」
 私はそう言うと、私はキッチンのドアを乱暴に閉めた。ドアが閉まる間際のおばあちゃんの顔。悲しそうな、寂しそうな顔をしていた気がする。
 でもドアはもう開けない。いつまでも子供じゃないんだから。髪の毛を掴んで嗅いでみると、ほんの数分キッチンに居ただけなのに、もう油の臭いがこびりついていた。
 最悪な気持ちで、ぐーぐー鳴るおなかを抱えながら、私は自分の部屋に戻った。