第十八話 カーニバル前夜

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 僕は麻里子さんの夢の手伝いをすると決めた。
 大好きな彼女の夢は実現させてあげたいと思う。
 それに僕もオタクなので創作活動には興味がある。たぶん、高校時代のクラスメイトの影響だと思う。やつは文芸部でプロ作家を目指していた。風のうわせでは書籍化したという話をちらりと聞いたことがある。情報源は例によって高校からのつきあいである阿良又光司(あらまたこうじ)だ。
 それに俺の彼女は漫画家なんだぜっていきってみたい。

 麻里子さんの画風は毛筆で描かれたようなタッチで特に女性キャラクターが魅力的だ。むっちりとした胸にお尻の曲線は二次元なのに三次元を思わせる。キャラクターから醸し出される色気は誰も見ていないのなら、思わずしゃぶりつきたくなるほどだ。僕の知る中ではこれほど魅力的な女性キャラクターを描ける作家はプロでも数えるほどだと思う。
 素人判断で申し訳ないが、麻里子さんの画力は十分プロでも通じると思う。やはりネックは顔喪失症だったということだ。
 人前にでずにプロになれるかもしれないが、ハードルはかなり高いと僕は思う。
 今の世の中、才能も必要だけどコミュニケーション能力も作家には必要だと僕は思う。頑固で自分勝手な天才よりも性格が良くて約束を守る秀才のほうが社会では受け入れられる。これは僕が社会人になって感じたことだ。

 八月最初の日曜日に開催されるコミックカーニバルにむけて、麻里子さんは鋭意制作中である。さらに出版社の公募にだすための原稿も制作している。
 これは忙しい。
 プロになって売れたら、アシスタントなんかを雇えるかもしれいがまだアマチュアに毛がはえたレベルの麻里子さんには難しい。それらの作業にくわえて、タウン誌なんかに収めるイラストや記事をかかないといけないので、麻里子さんとのデートは減らさざる負えない。

 僕が麻里子さんのためにできることはすべてやろうと決めた。
 まずは麻里子さんの健康を支えることだ。
 健康はなによりも優先させなければいけない。
 健康でないと何もできない。
 ということで僕は料理を始めた。
 食は健康を支えるもっとも大切で大事な柱だ。
 とはいえ素人の僕ができることは限られる。
 そんな僕は大いなる味方をスーパーの棚でみつけた。それはずらりと綺羅星のごとく並ぶ調味料たちだ。味の素にクックドゥ、丸美屋、ハウス、これらの企業努力に脱帽せざる負えない。なんたってこれらの調味料をつかうだけでプロの味に近づけるのだ。
 このなかでも麻里子さんの好物は丸美屋の麻婆豆腐だ。ご飯との相性は抜群でしかも簡単ときている。本当に便利だ。
 僕が料理を担当するということで、もう半同棲状態になっている。
 ワンルームの僕の部屋では手狭になってきたのは確かだ。
 まあ、狭い分麻里子さんと密着できるのはいいことなんだけどね。麻里子さんて平熱が高めであったかいんだよな。それに全体的にむちむしていて抱き心地は最高なんだ。もう一人寝には戻れない。
 僕に麻里子さんが必要なように麻里子さんに僕が必要だと、そういう関係になってきたと我ながら思うのであった。

 三月は終わり近づいたある日のことだ。
「で、できたわ……」
 髪をふりみだした麻里子さんがジャージ姿で天井を見ている。
 どうやら同人誌の原稿ができたようだ。
「ねえ、夏彦君。ご褒美のチューちょうだい」
 かわいいおねだりだ。
 この世の中でこんなかわいいおねだりを断ることができる男性がいるのだろうか。いやきっといないはずだ。もちろん、僕は断る術をもたない。
 十分ほど麻里子さんと大人のキスをした。
 麻里子さんって唇が厚くて、キスだけどいきそうになるほど気持ちいいんだよね。

 この原稿をサークルの主催者に見せて、印刷所にもっていくそうだ。
 僕はその修正がなされていない原稿「カレンの航海日記」を読ませてもらった。
 それはもうとんでもなくエロかった。麻里子さんが目の前にいなければ一人でことを始めそうなほどエロかった。この原稿に多少の修正が入るとはいえ、そのエロさに陰りが見えることはないだろう。
 「カレンの航海日記」の竿役のクルーは僕をモデルにしているはずだが、そいつのそれはたいへんご立派なものだった。モデルとは比べ物にならない。
「ちょっと誇張したのよね」
 てへっと舌を出す麻里子さんであった。
 なんだか麻里子さんは僕の前では表情が豊かになったような気がするな。
 
 どのシーンのどの部分を修正するかをサークルの主催者と後日にそうだんするということだ。
 サークルの主催者は漫画家の江戸沢(えどさわ)麻美香(まみか)という女性だ。
 サークル名は「江戸むらさき」という名だ。
 僕はその名前を聞いて驚いた。
 江戸沢麻美香はエログロの新鋭として最近もっとも注目される漫画家の一人だ。代表作は「触手人間28号とツンデレお嬢様」でコミックマニアの中でも注目株の女性作家だ。女性ながら男子が好きなシュチエーションを熟知している作風が受けている。実は男性ではないかと一時ネットでさわがれたほどだ。
 麻里子さんの良き理解者で漫画の師匠でもあるという。
「れっきとした女子ですよ。優しい人です」
 麻里子さんは江戸沢麻美香をそう評した。

 四月初めの金曜日の夜、打ち合わせのため僕たちは江戸沢麻美香先生と会うこよになった。それを阿良又にいうとうらやましがられた。
 俺も会いたいというので、ダメ元で麻里子さんに頼んだら、なんと江戸沢麻美香先生から許可をもらえた。
 その打ち合わせに阿良又の彼女もくることになった。
 そういえば、麻里子さんに合わせるという約束をしていたし、いい機会だ。
 場所は心斎橋の個室のある居酒屋チェーン店に決まった。
  


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 僕は麻里子さんの夢の手伝いをすると決めた。
 大好きな彼女の夢は実現させてあげたいと思う。
 それに僕もオタクなので創作活動には興味がある。たぶん、高校時代のクラスメイトの影響だと思う。やつは文芸部でプロ作家を目指していた。風のうわせでは書籍化したという話をちらりと聞いたことがある。情報源は例によって高校からのつきあいである阿良又光司《あらまたこうじ》だ。
 それに俺の彼女は漫画家なんだぜっていきってみたい。
 麻里子さんの画風は毛筆で描かれたようなタッチで特に女性キャラクターが魅力的だ。むっちりとした胸にお尻の曲線は二次元なのに三次元を思わせる。キャラクターから醸し出される色気は誰も見ていないのなら、思わずしゃぶりつきたくなるほどだ。僕の知る中ではこれほど魅力的な女性キャラクターを描ける作家はプロでも数えるほどだと思う。
 素人判断で申し訳ないが、麻里子さんの画力は十分プロでも通じると思う。やはりネックは顔喪失症だったということだ。
 人前にでずにプロになれるかもしれないが、ハードルはかなり高いと僕は思う。
 今の世の中、才能も必要だけどコミュニケーション能力も作家には必要だと僕は思う。頑固で自分勝手な天才よりも性格が良くて約束を守る秀才のほうが社会では受け入れられる。これは僕が社会人になって感じたことだ。
 八月最初の日曜日に開催されるコミックカーニバルにむけて、麻里子さんは鋭意制作中である。さらに出版社の公募にだすための原稿も制作している。
 これは忙しい。
 プロになって売れたら、アシスタントなんかを雇えるかもしれいがまだアマチュアに毛がはえたレベルの麻里子さんには難しい。それらの作業にくわえて、タウン誌なんかに収めるイラストや記事をかかないといけないので、麻里子さんとのデートは減らさざる負えない。
 僕が麻里子さんのためにできることはすべてやろうと決めた。
 まずは麻里子さんの健康を支えることだ。
 健康はなによりも優先させなければいけない。
 健康でないと何もできない。
 ということで僕は料理を始めた。
 食は健康を支えるもっとも大切で大事な柱だ。
 とはいえ素人の僕ができることは限られる。
 そんな僕は大いなる味方をスーパーの棚でみつけた。それはずらりと綺羅星のごとく並ぶ調味料たちだ。味の素にクックドゥ、丸美屋、ハウス、これらの企業努力に脱帽せざる負えない。なんたってこれらの調味料をつかうだけでプロの味に近づけるのだ。
 このなかでも麻里子さんの好物は丸美屋の麻婆豆腐だ。ご飯との相性は抜群でしかも簡単ときている。本当に便利だ。
 僕が料理を担当するということで、もう半同棲状態になっている。
 ワンルームの僕の部屋では手狭になってきたのは確かだ。
 まあ、狭い分麻里子さんと密着できるのはいいことなんだけどね。麻里子さんて平熱が高めであったかいんだよな。それに全体的にむちむしていて抱き心地は最高なんだ。もう一人寝には戻れない。
 僕に麻里子さんが必要なように麻里子さんに僕が必要だと、そういう関係になってきたと我ながら思うのであった。
 三月は終わり近づいたある日のことだ。
「で、できたわ……」
 髪をふりみだした麻里子さんがジャージ姿で天井を見ている。
 どうやら同人誌の原稿ができたようだ。
「ねえ、夏彦君。ご褒美のチューちょうだい」
 かわいいおねだりだ。
 この世の中でこんなかわいいおねだりを断ることができる男性がいるのだろうか。いやきっといないはずだ。もちろん、僕は断る術をもたない。
 十分ほど麻里子さんと大人のキスをした。
 麻里子さんって唇が厚くて、キスだけどいきそうになるほど気持ちいいんだよね。
 この原稿をサークルの主催者に見せて、印刷所にもっていくそうだ。
 僕はその修正がなされていない原稿「カレンの航海日記」を読ませてもらった。
 それはもうとんでもなくエロかった。麻里子さんが目の前にいなければ一人でことを始めそうなほどエロかった。この原稿に多少の修正が入るとはいえ、そのエロさに陰りが見えることはないだろう。
 「カレンの航海日記」の竿役のクルーは僕をモデルにしているはずだが、そいつのそれはたいへんご立派なものだった。モデルとは比べ物にならない。
「ちょっと誇張したのよね」
 てへっと舌を出す麻里子さんであった。
 なんだか麻里子さんは僕の前では表情が豊かになったような気がするな。
 どのシーンのどの部分を修正するかをサークルの主催者と後日にそうだんするということだ。
 サークルの主催者は漫画家の江戸沢《えどさわ》麻美香《まみか》という女性だ。
 サークル名は「江戸むらさき」という名だ。
 僕はその名前を聞いて驚いた。
 江戸沢麻美香はエログロの新鋭として最近もっとも注目される漫画家の一人だ。代表作は「触手人間28号とツンデレお嬢様」でコミックマニアの中でも注目株の女性作家だ。女性ながら男子が好きなシュチエーションを熟知している作風が受けている。実は男性ではないかと一時ネットでさわがれたほどだ。
 麻里子さんの良き理解者で漫画の師匠でもあるという。
「れっきとした女子ですよ。優しい人です」
 麻里子さんは江戸沢麻美香をそう評した。
 四月初めの金曜日の夜、打ち合わせのため僕たちは江戸沢麻美香先生と会うこよになった。それを阿良又にいうとうらやましがられた。
 俺も会いたいというので、ダメ元で麻里子さんに頼んだら、なんと江戸沢麻美香先生から許可をもらえた。
 その打ち合わせに阿良又の彼女もくることになった。
 そういえば、麻里子さんに合わせるという約束をしていたし、いい機会だ。
 場所は心斎橋の個室のある居酒屋チェーン店に決まった。