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第35話 最後の『学究祭』

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 ウバ摘みの季節が終わって、とうとう『天王との謁見(えっけん)の法』のための資金が貯まった。『白の月』の下旬。今年も『学究祭(がっきゅうさい)』の三日間がやってくる。
 レーキたち三学年生は、迫り来る卒業試験に集中するために『学究祭』は自由参加となっていた。
 大人しく試験勉強をする者、三年間のまとめを発表する者、開き直って最後の祭りを目一杯楽しむ者……生徒たちはみな思い思いに最後の『学究祭』を過ごしている。
 レーキはグーミエ、エカルラートと共同で「『治癒水(ちゆすい)』の効果・効能を増幅させる応用混色法について」の研究を中間発表する事にした。さいわいなことに『治癒水』作りに関わったことで、論文に必要な試料は容易く手に入る。
 三ヶ月前、レーキが卒業に向けて『治癒水』について論文を書こうと思うとグーミエに話した所、彼とエカルラートが応用混色法を研究していることを知った。エカルラートの思いつきで、三人の研究をまとめて生かすことで何かしら人の役に立つ研究が出来ないかと言うことになった。それで、三人の共同研究が始まったのだ。



「……レーキ、お疲れ様。張り番代わるよ」

 祭りの三日目、『赤の教室・()』で共同研究発表についての説明役になっていたレーキに、休憩から戻ってきたグーミエが声をかける。

「ありがとう。ちょうど団体が出て行って暇になった所だ」

 先程まで教室には、天法士たちが数人訪れていた。レーキの説明を一通り聞いて、良くまとめられた興味深い研究だと、言葉をかけてくれた。それが、嬉しい。

「さっき来た天法士の集団に褒められた。良くまとまってるって」
「良かった! 本職に褒められるなら良い線行ってるよね。……我ながら、だけど、この展示はよく出来たから、嬉しいよ」

 発表用の展示は書き文字の美しいエカルラートが中心になって作成された。
 論文をまとめて推敲したのはグーミエで、実験を担当したのがレーキだった。

「俺もだ。君もエカルラートも頑張ってくれたからな。君たちと最終学年でこの研究発表が出来て良かったよ」
「君も一生懸命やってくれたじゃないか。この研究が評価されるなら、それは三人の功績だよ」

 シアンがレーキの過去を暴き立てた一件以来、グーミエとエカルラートには感謝の念しかない。過去を知ってなお、彼らは自分を学生として受け入れてくれた。クラスメイトで有ることを続けてくれた。
 そして、こうして共同研究にも参加してくれる。

「そうか。そんな風にいって貰えると、俺も嬉しい。本当にありがとう……それじゃあ、ちょっと休憩してくる」
「うん、いってらっしゃい」

 説明役をグーミエに任せて、レーキは教室を出た。
 どこに行こうか。今年、クランは出店を開いて居るはずで、ズィルバーは同級生たちと演劇をしているはずだ。

「小生は照明係デス!」

 と、ズィルバーは嬉しそうに語っていた。同級生たちとズィルバーの関係は、良好になってきているようで、レーキもほっとしている。
 教師であるアガートは生徒たちが羽目を外し過ぎて問題を起こさないように見回りしている予定で、セクールスは祭りの間休暇をとって自宅に引きこもっているようだ。今頃は読書三昧の一日を過ごして居ることだろう。
 祭りも、今日で最後日。長かった三年間がいよいよ終わる。それが嬉しいと同時に、とても寂しい。
 いよいよ1ヶ月半後、『黒の月』に行われる卒業試験に合格すればレーキは晴れて天法士となる。



 最後の『学究祭』。三日目の夜。研究展示を終えたレーキは、オウロとグラーヴォの二人にズィルバーを紹介した。学院内で顔を合わせる機会のあるクランには、秋がくる前に紹介済みだった。

「小生は天法院の一学年生、ズィルバー・ヴァイスと申しマス。ご覧の通り蟲人(ちゅうじん)でございマス。先輩方、よろしくお願い、いたしマス!」

 少々緊張気味に頭を下げたズィルバーは、フードは被らず、長いマフラーをぐるぐると首に巻いただけ。銀色の角も複眼も晒したままだ。

「よ! 久しぶりー! 今日はフード被ってないんだな」
「ほー! 蟲人は随分ツヤツヤなんだな」
「おおお……!」

 始めて二人を引き合わせた時、クランは学院内の噂でズィルバーのことを知っていた。ズィルバーはなかなか優秀な生徒のようで、希少な蟲人の天法士候補と言うこともあいまって三学年にも噂は届いていたらしい。
 グラーヴォは蟲人に会ったのが初めてのようで、非常に素直な感想を漏らしている。
 一番興奮しているのは、宝石を扱う商人になりたいと言っていたオウロだった。わなわなと震えていたと思ったら、突然顔を上げて叫びだした。

「……噂には聞いていたけど……君、スゴいっス!! まるで白金っス!! 素晴らしい光沢っス!!」
「……あ、あの……お褒めいただきまして光栄でごさいマ……ス……あ、あの……レーキ、サン……!」

 珍しく鼻息を荒くしてオウロは、ズィルバーの周りをぐるぐると回って、彼の光沢をあらゆる角度から観察している。当のズィルバーは困惑した様子で、レーキに助けを求めた。

「……オウロ、ズィルバーが怯えている。その辺にしておいてくれ」
「……おおっと……ゴメンっス! 怖がらせるつもりはなかったっス~! ……その……君があんまりステキな色だったから……」

 オウロは細い目をますます細くして、ぐっとズィルバーに迫っている。ますます怯えるズィルバーの後ろから、レーキは静かに忠告した。

「……それ、蟲人の間では愛の告白みたいなものらしいぞ」
「……おっとっス! ……今日会ったばかりだし、愛の告白はまだ早いっスね~」

 どこまで冗談で、どこまでが本気なのか。オウロは、にこにことした笑みをズィルバーに向けて手を振った。
 レーキがズィルバーを、クランたち三人に会わせたかったのは、ズィルバーの交友関係を広げることが第一の目的だった。
 情報通で顔も広いクラン、大抵のことに冷静沈着で商才もあるオウロ、腕っ節に自信があり『剣統院(けんとういん)』に顔が利くグラーヴォ。彼らならきっと、ズィルバーが何かしらの問題にうち当たった時に、解決の糸口を指し示してくれる。そう思っている。
 加えて。始めて出来た親しい後輩を仲の良い友人たちに紹介したい、と言う単純な動機もある。
 初対面で強めの先輩風を吹かせていたクランは、今日も自分では爽やかだと思っている笑みを浮かべて後輩を困惑させていた。

「自分はグラーヴォだ。剣統院の三年生。……なあ、蟲人って、喧嘩強いのか?」
「あ、その……蟲人の中には強い方もいらっしゃいマスが、小生は喧嘩は苦手、デス……」

 グラーヴォの強面と唐突な質問に、ズィルバーは身を竦めながらどうにか言葉を見つけている。語尾は消え入りそうに小さくなっていた。

「……そうか。なら荒事になったら頼ってくれ。直ぐに駆けつける。レーキの後輩なら自分にとっても後輩だ」
「は、はいデス! ……あ、その……ありがとうございマス……」
「グラーヴォは顔は怖いけど……すげー良い奴なんだ。強くなることに対してもすげー真面目だしな」

 グラーヴォの肩をぽんぽんと叩いて、クランが請け負う。三年間の学習と鍛錬の成果なのか、グラーヴォの体格はますます威圧感の有るものになっている。

「最後のオレっちはオウロっス。さっきは興奮しすぎてゴメンっス~……オレっちは『商究院(しょうきゅういん)』の三年っス。お金稼ぎたくなったらオレっちに相談するっスよ~……君のお願いなら……どんな手を使ってもなんとかするっス~!」
「オウロ、目がコワい……後鼻息荒い……おれ、お前を見る目が変わりそう……」

 どん引きしているクランの横で、オウロはヴァローナ風の挨拶をしている。
 ズィルバーもおずおずと挨拶を返すが、やはりまだ怯えて居るようだ。

「……それじゃみんな揃った所で、行きますか!」

 凸凹四人に、ズィルバーを加えた五人組が向かう所。それはもう、一つしかない。



 祭りの最後は決まって夜。
 五人組は『(うみ)燕亭(つばめてい)』の旨い食事を、たらふく楽しんだ。特にグラーヴォとズィルバーは良い勝負で、二人で五人前の料理を平らげてまだ小腹が空いているという。それもまた笑い話で。
 今夜の『海の燕亭』では、祭りに合わせて街にやってきた楽団が陽気な曲を奏でていた。
 レーキはジョッキに半分の若いワインを飲み干して、これは確かに旨いモノだと唸る。ワインを選んだのはウバ摘みの成果がどんな酒になるのか、興味が有ったからだ。
 ズィルバーもワインを試したがったので、少量を分けてやると、彼は「……小生はワインよりも果実水の方が好きデス」とジョッキを置いた。
 晴れて酒を飲んでも咎められない年齢になっていたクランは、やはり少量の酒で酔いつぶれ、酔っても顔色の変わらないオウロはもう何杯目か解らない麦エール酒を嬉しそうに口もとに運んでいる。店にいる客は誰もがみな賑やかに幸福そうで。ほろ酔い加減のレーキもまたしあわせを実感していた。
 宴は続く。『夜の鐘』、街中の鐘が同時に鳴り出す前に、五人組は揃って天法院の敷地内に着いた。もうじき天法士となるレーキとクランの二人は耳に綿を詰めて『夜の鐘』の瞬間に備えている。
 初めて『夜の鐘』を味わうズィルバーは、大きい音がするから耳を塞いだ方が良いと言われて、慌てて腕を隠した。蟲人は耳の位置が人間や他の亜人とは違うらしい。
 先触れの鐘が鳴った。今年も『夜の鐘』が始まって祭りが終わる。先触れに促されて大音量で街中の鐘と言う鐘が鳴り出す。何度味わっても凄まじい振動だ。

火球(ファイロ)!!」
光球(ルーモ)!!」

 レーキとクランは他の生徒たちに混じって火球と光球を作り出しては空へと打ち上げる。
 天法院の上空に、次々と光と炎の華麗な花が咲いた。
 クランが苦手としていた基礎の『赤』天法は、レーキの助けもあって天法士として問題の無い水準にまで高められている。凸凹四人組はみな、この三年で着実に成長していた。

 ──ああ、これでとうとう、最後の祭りも終わりだ。

 感慨と共に。今日位は惜しみなく天法を使う。レーキは両腕で抱えるほどの大きな『火球』を、思い切り上空に打ち上げた。それを一度収縮させ、ぱあっと小さな『火球』に分割させる。炎色を、赤から青へ青から白へ黄へと変化させながら、放射状にばら撒いた。散らばった『火球』は、次第に火勢を無くして消えていく。
 天法院の関係者はその精確な『火球』の扱いに驚き、天法院の外で見物していた人々はその美しさに歓声を上げた。
 オウロとグラーヴォ、ズィルバーの三人も空を見上げて手を叩き驚嘆の声を上げている。
 二十五度目の鐘が鳴り終わる。
 レーキたち最終学年の生徒たちにとって、最後の『学究祭』が、終わった。


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 ウバ摘みの季節が終わって、とうとう『天王との|謁見《えっけん》の法』のための資金が貯まった。『白の月』の下旬。今年も『|学究祭《がっきゅうさい》』の三日間がやってくる。
 レーキたち三学年生は、迫り来る卒業試験に集中するために『学究祭』は自由参加となっていた。
 大人しく試験勉強をする者、三年間のまとめを発表する者、開き直って最後の祭りを目一杯楽しむ者……生徒たちはみな思い思いに最後の『学究祭』を過ごしている。
 レーキはグーミエ、エカルラートと共同で「『|治癒水《ちゆすい》』の効果・効能を増幅させる応用混色法について」の研究を中間発表する事にした。さいわいなことに『治癒水』作りに関わったことで、論文に必要な試料は容易く手に入る。
 三ヶ月前、レーキが卒業に向けて『治癒水』について論文を書こうと思うとグーミエに話した所、彼とエカルラートが応用混色法を研究していることを知った。エカルラートの思いつきで、三人の研究をまとめて生かすことで何かしら人の役に立つ研究が出来ないかと言うことになった。それで、三人の共同研究が始まったのだ。
「……レーキ、お疲れ様。張り番代わるよ」
 祭りの三日目、『赤の教室・|Ⅴ《ご》』で共同研究発表についての説明役になっていたレーキに、休憩から戻ってきたグーミエが声をかける。
「ありがとう。ちょうど団体が出て行って暇になった所だ」
 先程まで教室には、天法士たちが数人訪れていた。レーキの説明を一通り聞いて、良くまとめられた興味深い研究だと、言葉をかけてくれた。それが、嬉しい。
「さっき来た天法士の集団に褒められた。良くまとまってるって」
「良かった! 本職に褒められるなら良い線行ってるよね。……我ながら、だけど、この展示はよく出来たから、嬉しいよ」
 発表用の展示は書き文字の美しいエカルラートが中心になって作成された。
 論文をまとめて推敲したのはグーミエで、実験を担当したのがレーキだった。
「俺もだ。君もエカルラートも頑張ってくれたからな。君たちと最終学年でこの研究発表が出来て良かったよ」
「君も一生懸命やってくれたじゃないか。この研究が評価されるなら、それは三人の功績だよ」
 シアンがレーキの過去を暴き立てた一件以来、グーミエとエカルラートには感謝の念しかない。過去を知ってなお、彼らは自分を学生として受け入れてくれた。クラスメイトで有ることを続けてくれた。
 そして、こうして共同研究にも参加してくれる。
「そうか。そんな風にいって貰えると、俺も嬉しい。本当にありがとう……それじゃあ、ちょっと休憩してくる」
「うん、いってらっしゃい」
 説明役をグーミエに任せて、レーキは教室を出た。
 どこに行こうか。今年、クランは出店を開いて居るはずで、ズィルバーは同級生たちと演劇をしているはずだ。
「小生は照明係デス!」
 と、ズィルバーは嬉しそうに語っていた。同級生たちとズィルバーの関係は、良好になってきているようで、レーキもほっとしている。
 教師であるアガートは生徒たちが羽目を外し過ぎて問題を起こさないように見回りしている予定で、セクールスは祭りの間休暇をとって自宅に引きこもっているようだ。今頃は読書三昧の一日を過ごして居ることだろう。
 祭りも、今日で最後日。長かった三年間がいよいよ終わる。それが嬉しいと同時に、とても寂しい。
 いよいよ1ヶ月半後、『黒の月』に行われる卒業試験に合格すればレーキは晴れて天法士となる。
 最後の『学究祭』。三日目の夜。研究展示を終えたレーキは、オウロとグラーヴォの二人にズィルバーを紹介した。学院内で顔を合わせる機会のあるクランには、秋がくる前に紹介済みだった。
「小生は天法院の一学年生、ズィルバー・ヴァイスと申しマス。ご覧の通り|蟲人《ちゅうじん》でございマス。先輩方、よろしくお願い、いたしマス!」
 少々緊張気味に頭を下げたズィルバーは、フードは被らず、長いマフラーをぐるぐると首に巻いただけ。銀色の角も複眼も晒したままだ。
「よ! 久しぶりー! 今日はフード被ってないんだな」
「ほー! 蟲人は随分ツヤツヤなんだな」
「おおお……!」
 始めて二人を引き合わせた時、クランは学院内の噂でズィルバーのことを知っていた。ズィルバーはなかなか優秀な生徒のようで、希少な蟲人の天法士候補と言うこともあいまって三学年にも噂は届いていたらしい。
 グラーヴォは蟲人に会ったのが初めてのようで、非常に素直な感想を漏らしている。
 一番興奮しているのは、宝石を扱う商人になりたいと言っていたオウロだった。わなわなと震えていたと思ったら、突然顔を上げて叫びだした。
「……噂には聞いていたけど……君、スゴいっス!! まるで白金っス!! 素晴らしい光沢っス!!」
「……あ、あの……お褒めいただきまして光栄でごさいマ……ス……あ、あの……レーキ、サン……!」
 珍しく鼻息を荒くしてオウロは、ズィルバーの周りをぐるぐると回って、彼の光沢をあらゆる角度から観察している。当のズィルバーは困惑した様子で、レーキに助けを求めた。
「……オウロ、ズィルバーが怯えている。その辺にしておいてくれ」
「……おおっと……ゴメンっス! 怖がらせるつもりはなかったっス~! ……その……君があんまりステキな色だったから……」
 オウロは細い目をますます細くして、ぐっとズィルバーに迫っている。ますます怯えるズィルバーの後ろから、レーキは静かに忠告した。
「……それ、蟲人の間では愛の告白みたいなものらしいぞ」
「……おっとっス! ……今日会ったばかりだし、愛の告白はまだ早いっスね~」
 どこまで冗談で、どこまでが本気なのか。オウロは、にこにことした笑みをズィルバーに向けて手を振った。
 レーキがズィルバーを、クランたち三人に会わせたかったのは、ズィルバーの交友関係を広げることが第一の目的だった。
 情報通で顔も広いクラン、大抵のことに冷静沈着で商才もあるオウロ、腕っ節に自信があり『|剣統院《けんとういん》』に顔が利くグラーヴォ。彼らならきっと、ズィルバーが何かしらの問題にうち当たった時に、解決の糸口を指し示してくれる。そう思っている。
 加えて。始めて出来た親しい後輩を仲の良い友人たちに紹介したい、と言う単純な動機もある。
 初対面で強めの先輩風を吹かせていたクランは、今日も自分では爽やかだと思っている笑みを浮かべて後輩を困惑させていた。
「自分はグラーヴォだ。剣統院の三年生。……なあ、蟲人って、喧嘩強いのか?」
「あ、その……蟲人の中には強い方もいらっしゃいマスが、小生は喧嘩は苦手、デス……」
 グラーヴォの強面と唐突な質問に、ズィルバーは身を竦めながらどうにか言葉を見つけている。語尾は消え入りそうに小さくなっていた。
「……そうか。なら荒事になったら頼ってくれ。直ぐに駆けつける。レーキの後輩なら自分にとっても後輩だ」
「は、はいデス! ……あ、その……ありがとうございマス……」
「グラーヴォは顔は怖いけど……すげー良い奴なんだ。強くなることに対してもすげー真面目だしな」
 グラーヴォの肩をぽんぽんと叩いて、クランが請け負う。三年間の学習と鍛錬の成果なのか、グラーヴォの体格はますます威圧感の有るものになっている。
「最後のオレっちはオウロっス。さっきは興奮しすぎてゴメンっス~……オレっちは『|商究院《しょうきゅういん》』の三年っス。お金稼ぎたくなったらオレっちに相談するっスよ~……君のお願いなら……どんな手を使ってもなんとかするっス~!」
「オウロ、目がコワい……後鼻息荒い……おれ、お前を見る目が変わりそう……」
 どん引きしているクランの横で、オウロはヴァローナ風の挨拶をしている。
 ズィルバーもおずおずと挨拶を返すが、やはりまだ怯えて居るようだ。
「……それじゃみんな揃った所で、行きますか!」
 凸凹四人に、ズィルバーを加えた五人組が向かう所。それはもう、一つしかない。
 祭りの最後は決まって夜。
 五人組は『|海《うみ》の|燕亭《つばめてい》』の旨い食事を、たらふく楽しんだ。特にグラーヴォとズィルバーは良い勝負で、二人で五人前の料理を平らげてまだ小腹が空いているという。それもまた笑い話で。
 今夜の『海の燕亭』では、祭りに合わせて街にやってきた楽団が陽気な曲を奏でていた。
 レーキはジョッキに半分の若いワインを飲み干して、これは確かに旨いモノだと唸る。ワインを選んだのはウバ摘みの成果がどんな酒になるのか、興味が有ったからだ。
 ズィルバーもワインを試したがったので、少量を分けてやると、彼は「……小生はワインよりも果実水の方が好きデス」とジョッキを置いた。
 晴れて酒を飲んでも咎められない年齢になっていたクランは、やはり少量の酒で酔いつぶれ、酔っても顔色の変わらないオウロはもう何杯目か解らない麦エール酒を嬉しそうに口もとに運んでいる。店にいる客は誰もがみな賑やかに幸福そうで。ほろ酔い加減のレーキもまたしあわせを実感していた。
 宴は続く。『夜の鐘』、街中の鐘が同時に鳴り出す前に、五人組は揃って天法院の敷地内に着いた。もうじき天法士となるレーキとクランの二人は耳に綿を詰めて『夜の鐘』の瞬間に備えている。
 初めて『夜の鐘』を味わうズィルバーは、大きい音がするから耳を塞いだ方が良いと言われて、慌てて腕を隠した。蟲人は耳の位置が人間や他の亜人とは違うらしい。
 先触れの鐘が鳴った。今年も『夜の鐘』が始まって祭りが終わる。先触れに促されて大音量で街中の鐘と言う鐘が鳴り出す。何度味わっても凄まじい振動だ。
「|火球《ファイロ》!!」
「|光球《ルーモ》!!」
 レーキとクランは他の生徒たちに混じって火球と光球を作り出しては空へと打ち上げる。
 天法院の上空に、次々と光と炎の華麗な花が咲いた。
 クランが苦手としていた基礎の『赤』天法は、レーキの助けもあって天法士として問題の無い水準にまで高められている。凸凹四人組はみな、この三年で着実に成長していた。
 ──ああ、これでとうとう、最後の祭りも終わりだ。
 感慨と共に。今日位は惜しみなく天法を使う。レーキは両腕で抱えるほどの大きな『火球』を、思い切り上空に打ち上げた。それを一度収縮させ、ぱあっと小さな『火球』に分割させる。炎色を、赤から青へ青から白へ黄へと変化させながら、放射状にばら撒いた。散らばった『火球』は、次第に火勢を無くして消えていく。
 天法院の関係者はその精確な『火球』の扱いに驚き、天法院の外で見物していた人々はその美しさに歓声を上げた。
 オウロとグラーヴォ、ズィルバーの三人も空を見上げて手を叩き驚嘆の声を上げている。
 二十五度目の鐘が鳴り終わる。
 レーキたち最終学年の生徒たちにとって、最後の『学究祭』が、終わった。