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第8回

ー/ー



「まーったく、えらそうに人の盗みは責めておいて、自分だってそうなんじゃないか」

 すくい取った指輪や古代王国の金貨、首飾りなどにざっと目を通して横へ放り出す。貴金属同士がぶつかってたてる音にまぎれて、聞こえないと思ってかぶつぶつと愚痴るエセルに、壁で棚を探っているセオドアのにらみがギンと飛ぶ。

「いつまでもぶつくさ言ってないで、その分手を動かせ!
 いいか? 真球だぞ。真球の翠玉(エメロード)だ。大きさにまでぜいたくは言わない。ただ、できれば表面が細かい正三角形でカットされているやつがあればいい」

 そんなの都合よくあるかよ……とぼやくエセルには目もくれず、セオドアも棚の上でぐちゃぐちゃになっている宝石たちをかき回した。

 青鋼石(サフィール)紅鋼玉石(リュビ)青金石(ラピス)柘榴石(グルナ)金剛石(ディアマン)。珍重される金緑玉(アレクサード)まであるのに、どうして翠玉がないんだ? かけらもないじゃないか。あのタヌキ、よりによって翠玉だけ嫌ってるとでもいうのか? 魔を祓う石とされている石に、一体何の恨みがあるっていうんだ。

「ほかのじゃだめなのかぁ?」

 ひと通り周囲を引っかき回して飽きたエセルが、全くやる気の失せた声で手の中の天藍石(ラズライト)を上に放るなどして弄びながら言ってくる。

「だめだ。相手が魅妖ならせめて真球じゃないと、浄化どころか結界にもならない」

 この分ではもういくら探しても翠玉は出てこないだろうと見当がついて、とんだ誤算だと舌打ちをする。

 ただでさえ翠玉以外の封魔具を使ったことはないというのに、それを曲げて、翠玉でなくとも真球であればどの石でもいいとまで思ったのだが、それさえない。

「終わりか?」

 ほうっと大きく息を()いて振り返ったセオドアに、喜々とした声ではエセルが言う。
 セオドアは首を振り、隣室へつながっているらしい、奥にあるドアのない入り口を指差した。

「いや、あっちにも何かあるようだから、ついでに見ていこう。それでもなかったら、退魔師の部屋を探す。破魔の剣があるかもしれない」
「えーっ。なんだよそれ! 部屋がいくつあると思ってるんだ? 東西南北それぞれに別館があるんだぞ? 何十部屋だぞ? 見て回るだけで半日はかかる!」

 ブーブー文句を言ってくる。

(うるさい、ばか。口に出すな、やる前から気が滅入るじゃないか)

「やるだけ無駄だって。やめようよ、もう」

 背中にぶつけられるエセルの非難めいた言葉には一切耳を貸さず、セオドアはさっさと隣室へと向かおうとする――向かおうとした、そのときだ。

 突然――文字どおり、本当に唐突に、セオドアは今背を向けたばかりの小部屋の入り口付近で魅魎の巨大な気配を察知して振り返った。
 直後、幼い少女の、からかいというスパイスを満遍なくふりかけたような声が耳朶(じだ)を打つ。

「そこより先は、ここの主である私の許可がないと通れないのよ、お嬢ちゃん」

 はじかれるように振り返ったセオドアは、声の主を目にした瞬間うめき声をもらす。

 壁や柱、床に転がった宝石たちが、触れただけでピシピシと音をたてて凍りつき、ひびが入って砕けるほどの闇の凍気をまとい、愉悦の笑みをたたえた漣が、そこに出現していた。


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「まーったく、えらそうに人の盗みは責めておいて、自分だってそうなんじゃないか」
 すくい取った指輪や古代王国の金貨、首飾りなどにざっと目を通して横へ放り出す。貴金属同士がぶつかってたてる音にまぎれて、聞こえないと思ってかぶつぶつと愚痴るエセルに、壁で棚を探っているセオドアのにらみがギンと飛ぶ。
「いつまでもぶつくさ言ってないで、その分手を動かせ!
 いいか? 真球だぞ。真球の|翠玉《エメロード》だ。大きさにまでぜいたくは言わない。ただ、できれば表面が細かい正三角形でカットされているやつがあればいい」
 そんなの都合よくあるかよ……とぼやくエセルには目もくれず、セオドアも棚の上でぐちゃぐちゃになっている宝石たちをかき回した。
 |青鋼石《サフィール》・|紅鋼玉石《リュビ》・|青金石《ラピス》。|柘榴石《グルナ》に|金剛石《ディアマン》。珍重される|金緑玉《アレクサード》まであるのに、どうして翠玉がないんだ? かけらもないじゃないか。あのタヌキ、よりによって翠玉だけ嫌ってるとでもいうのか? 魔を祓う石とされている石に、一体何の恨みがあるっていうんだ。
「ほかのじゃだめなのかぁ?」
 ひと通り周囲を引っかき回して飽きたエセルが、全くやる気の失せた声で手の中の|天藍石《ラズライト》を上に放るなどして弄びながら言ってくる。
「だめだ。相手が魅妖ならせめて真球じゃないと、浄化どころか結界にもならない」
 この分ではもういくら探しても翠玉は出てこないだろうと見当がついて、とんだ誤算だと舌打ちをする。
 ただでさえ翠玉以外の封魔具を使ったことはないというのに、それを曲げて、翠玉でなくとも真球であればどの石でもいいとまで思ったのだが、それさえない。
「終わりか?」
 ほうっと大きく息を|吐《と》いて振り返ったセオドアに、喜々とした声ではエセルが言う。
 セオドアは首を振り、隣室へつながっているらしい、奥にあるドアのない入り口を指差した。
「いや、あっちにも何かあるようだから、ついでに見ていこう。それでもなかったら、退魔師の部屋を探す。破魔の剣があるかもしれない」
「えーっ。なんだよそれ! 部屋がいくつあると思ってるんだ? 東西南北それぞれに別館があるんだぞ? 何十部屋だぞ? 見て回るだけで半日はかかる!」
 ブーブー文句を言ってくる。
(うるさい、ばか。口に出すな、やる前から気が滅入るじゃないか)
「やるだけ無駄だって。やめようよ、もう」
 背中にぶつけられるエセルの非難めいた言葉には一切耳を貸さず、セオドアはさっさと隣室へと向かおうとする――向かおうとした、そのときだ。
 突然――文字どおり、本当に唐突に、セオドアは今背を向けたばかりの小部屋の入り口付近で魅魎の巨大な気配を察知して振り返った。
 直後、幼い少女の、からかいというスパイスを満遍なくふりかけたような声が|耳朶《じだ》を打つ。
「そこより先は、ここの主である私の許可がないと通れないのよ、お嬢ちゃん」
 はじかれるように振り返ったセオドアは、声の主を目にした瞬間うめき声をもらす。
 壁や柱、床に転がった宝石たちが、触れただけでピシピシと音をたてて凍りつき、ひびが入って砕けるほどの闇の凍気をまとい、愉悦の笑みをたたえた漣が、そこに出現していた。