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第15話 精霊結晶 ②

ー/ー




■ ■ ■

「少し眩しいですよ」
リズが「は?」と言う間もなく、広間全体が淡い光に包まれた。
眩しくは無い――いや、眩しい!

リズは慌てて手で目を覆った。そして思わず、顔を逸らした。

「おま、これ見ていいのか!? つか予告しろ!」
目を閉じたままリズは言った。

「――眩しいと言ったじゃありませんか。大丈夫です、光はすぐに収まります。そうしたら、目を開けて下さい。ああ、やっぱり冠が戻っているな」

リズはぎょっとした。声が少し、違ったのだ。
正確に言うと似たような声なのだが……プラグの声より少し高く、幼い。そして不思議と響く。大聖堂で自分の声を聞いた時、こんな感じになるが、この大広間では先まで普通に聞こえていた。この声で喋られたら、同じ人物と認識できるか怪しい。せいぜい声質が似ている、くらいだ。
十秒ほどで光が収まったので、リズはゆっくりと瞼を上げた。

「……?」
そこにいたのは――、一瞬見えなかったが――まばゆい金冠をつけた、美しい精霊だった。
静かに目を閉じている……白銀色に輝く長い髪は、風も無いのに揺れている。
身長はプラグより僅かに低い。
黒い詰め襟の上に、羽のような上着をはおって、腕には長く白い羽衣があり、どれもこれも、発光し、きらめいていて眩しい。
頭には緑の宝玉がはめ込まれた金の冠を載せていた。冠にはヴェールが付いていて、頭を囲んで、周囲にまばゆい金の輪……金環が浮いている。金環は十字型や菱形の金属の連なりで、十字の中央には色とりどりの宝石が埋め込まれていた。
他にもまばゆい輝きを放つ、金属板のような物が列を成し浮いている。カド=ククナの左右、上部、金環の上にも並び、三十はある。

……まるで花嫁のようだ。
しかしリズの隣でロレ=ナーダが。
「ああ……なんてこと……、本当に羽が無い……おいたわしや……!」
と青ざめているので、痛々しいと見えるらしい。

「……」
リズは思わず口を開けた。これは精霊とは別物だ。

しばらく見て、出て来た感想は。
「派手だなぁ……」
だった。プラグ――カド=ククナがぱちりと目を開ける。瞳は金色だった。
リズは顔をしっかり見て驚いた。
プラグは顔が似ている、という口ぶりだったが、全く似ていない。
瞳の色は同じだが、光彩も人と違うし、どちらかと言えば丸目で、可愛いらしい顔をしている。体つきも精霊のもので、かなり細身になっている。
と言うかプラグは男なのだが、スカートらしき物をはいているので少女に見える。

「ええ。でもまだちょっと足りないな。本来は、長い金のいばら? みたい物がついてきて、周囲が金色に染まります……地上に降り立った時もこの姿だったので、ずっと人に化けていたんですよ。いちいち動きにくいですから。やっぱり羽は戻って無いか……」
カド=ククナは体をひねって、背中を確かめている。
カド=ククナ自体は地に足を着けているのだが。周囲の金環は浮いていて、羽衣と、冠についた透明なヴェールが揺らめく。
良く見れば――衣装は全て、地に着かず浮いていた。

……これに出会ったら勝てる気がしない。
カド=ククナの後ろでは、ナダ=エルタが冷や汗をかいたまま文字通り『凍って』いる。

「はぁ……なんか凄ぇな……いやでも、見て分かったが、間違い無く、お前だって気付かれない。見といて良かった。いきなり出会ったら、なんか凄ぇのが出てきた! 勝てる気しねぇ! くらいにしか思わなかっただろうな。たぶん『俺です』って言われても信じらんねぇ」
リズは言ったが、カド=ククナは心配そうだ。
「そうですか? 声も似てると思いますし……顔も似てると思うんですが?」
「近づいて良いか?」
カド=ククナを中心に部屋はかなり明るいが、リズからは眩しい。
リズは手でひさしを作りながら、階段を下りて近づいた。

……近くでまじまじと見ても、同じ人物には見えない。飛び抜けて美しく、可愛い精霊だ。顔立ちは大人しそうな印象もあり、活発そうな印象もある。悪戯しそうな雰囲気は共通している。髪の色、目の色はそっくりだが……。
……リズの頭に『可憐な少女』と言う言葉が浮かんだ。ドレスとヴェールのせいもあり、男に見えないのだ。喋っていても女で通じる。
「んー、だいぶ顔が違う。可愛いな。触って良いか? つか触れんの? つかマジ可愛いな」
リズは頰に触れてつまんでみた。
「お、触れる。柔らけー」
「ふぁ」
「えっ、じゃあ抱けるのか? 服脱げるのか? ちょっといいか」
黒い上着の首元には、綺羅綺羅と輝く、尖った結晶……のような飾りがある。どうやって脱がせればいいのか分からない。とりあえず、羽衣は取れそうだ。引っ張ると、羽衣が緩んで落ちた。カド=ククナの動きに合わせて金環や飾りが動いて邪魔だが、冠は取れないまでも、一番上の、黒い上着は羽織っているだけなので脱がせそうだ。リズは結晶の飾りを少し持ち上げて、上着を一枚、引っ張って脱がせた。ボタン留めだったので楽勝だ。
「えっ、ちょ、ちょっと!?」
上着がふわりと床に落ちる。手を放した後も結晶の飾りは宙に浮いている。上着の下は真っ白なブラウスで、胸元に五色の宝石がはまった、長い、金の首飾りを付けていた。重厚なつくりの年代物だ。国宝級だろう。ブラウスはたっぷりとしたレースで彩られ、可愛い印象だ。
ブラウスの肩には、羽のような白い布が前後左右にたくさんついている。羽っぽい布には良く見ると透かし模様が入っていた。裏側は金色。かと思えば一部は赤。刺繍が入っていたりする。精霊の布地は軽くて豪華だ。
「ああ、そうか霊体と実体があるのか? 実体化してたら触れるんだな? ほう。あっ、これ本当にスカートか!? 下はどうなってんだ!?」
リズは白いスカートをめくった。美しい衣装なので楽しくなって来た。下はまるきりドレスのような、レースいっぱいの作りだった。たっぷりとした白い布をかき分けると、黒い平靴を履いた素足が見えた。足は白く細く、所々に金の入れ墨がある。
「おっすげー! 短パンだ!? うわー! えっ付いてるのか? ――ッ」
カド=ククナが「やぁッ」と言う可愛らしい悲鳴を上げ、リズの頭を膝で蹴った。
「痛ってぇ……!」
「触らないで下さい! もう! 離れて!」
頭を叩かれながらもスカートの中で粘っていると、もう一度蹴られそうになったが、今度は足を捕まえた。
「わっ?」
リズはスカートから出て、カド=ククナがリズから逃げようとするのを、がっちり捕まえて――横抱きにして持ち上げた。豪華な衣装や冠はほとんど重さがなく、カド=ククナの頼りない体躯が分かる。スカートが揺れ、羽の衣がふわりと宙に舞った。
「――ええッ!?」
「おっ軽!? いや守備範囲。むしろこっちのが好み。お前等、今日は帰って良いぞー」
「ちょ、ちょっと……ッ!?」
「いやー良いモン拾ったな! よし、世界を救ったあかつきには、結婚するか?」
「!?」
カド=ククナはリズを押しのけ、慌てて降りて、ラ=ヴィアの元へ走って逃げた。
「ミ゛ーーーッ!!」
ラ=ヴィアがカド=ククナを背中に庇い、頭の羽を広げて、翼を広げて威嚇してきた。
その姿はまるきり猫でリズは笑った。
「なんだやるか? ロレ、やるぞ!」
「はい! ヤりましょう~!」
ロレはでれでれとして嬉しそうだ。
「ミ゛ーーーーーッ!! ロレ! お前、主に近づくな!」
ラ=ヴィアは更に威嚇した。その後ろではカド=ククナが衣装の乱れを整えている。ナダ=エルタもようやく正気になって、上着や羽衣を拾って手伝い始めた。カド=ククナは「いきなりスカートをめくるなんて。なんて人だ! 最低!」と言って怒っている。やはりあれはスカートらしい。

「とまあ、冗談はこのくらいにして――今見て分かったが、こりゃ誰も気付かないな。うん。堂々としてりゃいい」

次の瞬間に、カド=ククナの姿が霞み、一瞬でプラグに戻った。リズは舌打ちした。
カド=ククナを見た後だと、プラグがとても生意気に見えるのだ。
……からかいに対する反応も、少し違った気がする。実はそれを見る為に絡んだのだ――というのは、後付けだ。プラグの精霊体は予想外に可愛かった。
しかし何の精霊かは皆目見当が付かない。むしろ思った以上に神様ぽかった。もはや、精霊のくくりかどうかも怪しい。

プラグが眉を顰めた。
「……そうですか? 俺はだいぶ似ていると思うんですけど」
プラグの言葉にリズは呆れた。
「はぁー? そりゃ、精霊の感覚だ。似てるのは髪と目の色くらいだな。あっちは丸目だし、大人しい美少女に見える。絶対バレないって。それにしても、お前、可愛い感じの反応するんだな? きゃあ、なんて悲鳴、中々ないぞ」
「……言ってません、きゃぁなんて!」
「いやぁ、だったか?」
するとプラグが珍しく、頰を染めて口ごもった。
「この、プラグ・カルタは人に化けるために作った人格なんです。だからちょっと、男らしいというか。俺の思う限りですが」
――つまりククナが『素』だと言う事だ。
……コイツなりに人の振りを頑張っているのだろう。要するに格好付けだが、元の可愛さを知ったら、健気に思えてきた。

(あの顔と細い体で頑張ってるから、精霊達もなんとかしなきゃ、ってなってんだな、なるほど)
リズはこの大陸の成り立ちを理解した。
カド=ククナは仲間を強引に引っ張っていく指導者かと思ったら、私達が守ってあげなきゃ! という、姫や貴婦人のような扱いだったのだ。顔がタイプだったので、リズとしても望む所だ。

「あ。でも、ククナもオスなんだよな? ついてるもんな」
リズはちゃっかり確認していた。するとプラグは更に真っ赤になった。
「……もうやだこの人……」
カド=ククナらしき本音をのぞかせて、プラグが項垂れ――顔を上げて睨んできた。

「ええ、男ですがソレが何か? 言っておきますが、もし世界がどうにかなっても、貴方とは結婚しませんから!」
リズは大いに笑い、ふと真顔になった。
「それなんだが、私、思うんだよな……予言の言葉……私とお前が世界を救うって、『私』が生きている間の事なんじゃ無いか? 何十年かそこらの」
リズの言葉にプラグがはっとした。

「……案外、ヤバイのかもな。さーて! 今から飲むぞ! 婚約祝いだ!」
「……もう、勝手にやってください!」
プラグが声を張り上げた。

■ ■ ■

「おら飲め、飲め」
リズはグラスも無しに勧めてくる。
「結構です……!」
プラグが『徹夜は勘弁、早く帰りたい』と思って困っていると、足音が聞こえたので慌てて立ち上がって執務机の下に隠れた。ラ=ヴィアとナダ=エルタも慌ててついてくる。

「隊長? お一人で飲んでいるんですか?」
入って来たのはアプリアだった。彼女はまだ隊服を着ている。
「よー! いや一人じゃねえ、ロレロレが一緒だ」
「はぁい、ロレロレでぇす~!」
ロレは相変わらずというか、変わっていない。

「たいちょー、そういえば、コルコルちゃんのおかえり会、いつヤるんですか~?」
ロレの言葉に、プラグはそうだった、と思った。
コル=ナーダのお帰り会をしたかったのだが、候補生生活は自由が利かない。精霊を集めようにもそれぞれが候補生についているし……場所もどこがいいのだろう。リズがいたら聞こうと思っていたのだ。
ラ=ヴィアもナダ=エルタもこの騎士団では新入りになる。今まではどうしていたのだろう?
「私ずっと待ってるんです~! お酒、飲みたーい!」
ロレは飲んだくれ精霊なので、宴会は大好きだろう。
「はぁ。お前等なぁ。今回は酒は無し! しばらく節約だ。場所はここを使って良いから、適当にやれ。日付は……もう今度の休みでいいだろ」
「そんなぁ~! 飲みたい~!」
ロレが嘆いた。
「ああ。コル=ナーダのお帰り会ですか? 何をするんですか?」
アプリアの声が聞こえる。
「んー。だいたい、同じ一族がやるんですけどぉ~、火の子達が幹事をやると、火の玉が飛んで、全員の火柱でばーっと胴上げして終了! みたいな? 感じでぇーす」
「げ」
火柱、の言葉にリズが嫌そうな声を出した。
「ロレロレがやると、皆、気持ち良くなって~! サイッコーなんだけど、皆に止められる」
……プラグとラ=ヴィアは思い出した。
確かに火一族の祭りは火球や火柱を上げて……とにかく派手だ。最後はお互いの火の勢いを競い合うので、何も無い平原で行っていた。
精霊も酒が飲めるのだが……酔っ払うと碌なことがないのだ。

アプリアが「では今回は人間式で行きましょう」と提案した。
「ニンゲンシキ?」
「お酒は無しで、ケーキや料理でお祝いするんです」
「え~、地味! 私、コルコルとは大親友だもん~! 盛大にお祝いしたい~!」
……ロレは完全に酔っている。飲んだくれというのは大概、酒に弱いのだ。
「まあそう言わずに。幹事は誰がやりますか? ラ=ヴィアさんはどうでしょう」
「んー。この世で最も強く賢いラ=ヴィアお姉様の幹事は、ちょっと地味なんですよねぇ……まーでも、それがいいか。うん。頼んでおきます」
ロレが言った。

「お願いしますね。では、隊長、もう戻って寝ましょう」
「えー! 飲み直す!」
リズが文句を言った。
「はいはい……全くもう」
アプリアはリズとロレを連れて、広間を出て、最後に「ル・レーナ」で灯りを消した。

誰も居なくなった後、プラグはほっとして、机の下から出た。
「なんとかなったな……ラ=ヴィアが幹事で良かった」
「み……。なるべく、フツーの会にする……」
「そんなに凄いんですか?」
ナダ=エルタが首を傾げた。
「クロスティアでは、盛大に火の粉を広げて……派手だったな……主賓は炎の絨毯の上を歩いて登場、雨あられと火矢を飛ばして……火の玉を打ち上げて歓迎、火の輪くぐりや、酒を吹き出しての火炎放射大会や火だるまごっこもあった。胴上げは火柱で、勢いに乗った精霊達が火山を砕いてマグマの中に飛び込んだこともあったな……」
「そ、それが、クロスティアですか……」
ナダ=エルタはかなり引いている。
そう言えばナダ=エルタはクロスティアを見た事も無い。
「火一族は特に派手だから……他はもっと大人しいよ。クロスティアにはそのうち行けると思うから、一緒に行って景色を見よう。と言っても、見えるのは狭い範囲だけなんだけど……」
プラグの言葉にナダ=エルタが、暗闇でも分かる程目を丸くした。
「行けるんですか!?」
「うん、決闘(ゼラルート)の時にはね。後は、教会の聖域からもつなげられるけど、勝手にはできないかな……それはまた今度、ってことで、お帰り会は来週か。急いで支度しないと」
「ミ、あっと言う間!」
「俺はあまり手伝えないけど、料理くらいは作れると思う。あ、ついでにシオウも呼ぶ? こっそりだけど……持ち主だし」
「ミ~! 採用!」
「でも参加したがるかな?」
「みー……わからない」
精霊たくさんに人間一人、というのは居心地が悪いかもしれない。
シオウは混血なので精霊と似たような物ではあるのだが……?
「だったら……ホタルとゼラトも呼んでみる? それなら話し相手もいるし」
「ミ、聞いてみる? ……主は参加しないの? いた方が嬉しいヨ?」
「でも、俺ばかり楽しむのも悪いし……うーん。リズは……いやだめか。とりあえず今日は戻って、休もうか」
「ミ!」
このままでは参加者がどんどん増えそうなので、一旦切り上げる事にした。

「もう、誰にも会いませんように……偵察を頼む」
プラグはこっそり、部屋に戻った。

〈おわり〉


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■ ■ ■
「少し眩しいですよ」
リズが「は?」と言う間もなく、広間全体が淡い光に包まれた。
眩しくは無い――いや、眩しい!
リズは慌てて手で目を覆った。そして思わず、顔を逸らした。
「おま、これ見ていいのか!? つか予告しろ!」
目を閉じたままリズは言った。
「――眩しいと言ったじゃありませんか。大丈夫です、光はすぐに収まります。そうしたら、目を開けて下さい。ああ、やっぱり冠が戻っているな」
リズはぎょっとした。声が少し、違ったのだ。
正確に言うと似たような声なのだが……プラグの声より少し高く、幼い。そして不思議と響く。大聖堂で自分の声を聞いた時、こんな感じになるが、この大広間では先まで普通に聞こえていた。この声で喋られたら、同じ人物と認識できるか怪しい。せいぜい声質が似ている、くらいだ。
十秒ほどで光が収まったので、リズはゆっくりと瞼を上げた。
「……?」
そこにいたのは――、一瞬見えなかったが――まばゆい金冠をつけた、美しい精霊だった。
静かに目を閉じている……白銀色に輝く長い髪は、風も無いのに揺れている。
身長はプラグより僅かに低い。
黒い詰め襟の上に、羽のような上着をはおって、腕には長く白い羽衣があり、どれもこれも、発光し、きらめいていて眩しい。
頭には緑の宝玉がはめ込まれた金の冠を載せていた。冠にはヴェールが付いていて、頭を囲んで、周囲にまばゆい金の輪……金環が浮いている。金環は十字型や菱形の金属の連なりで、十字の中央には色とりどりの宝石が埋め込まれていた。
他にもまばゆい輝きを放つ、金属板のような物が列を成し浮いている。カド=ククナの左右、上部、金環の上にも並び、三十はある。
……まるで花嫁のようだ。
しかしリズの隣でロレ=ナーダが。
「ああ……なんてこと……、本当に羽が無い……おいたわしや……!」
と青ざめているので、痛々しいと見えるらしい。
「……」
リズは思わず口を開けた。これは精霊とは別物だ。
しばらく見て、出て来た感想は。
「派手だなぁ……」
だった。プラグ――カド=ククナがぱちりと目を開ける。瞳は金色だった。
リズは顔をしっかり見て驚いた。
プラグは顔が似ている、という口ぶりだったが、全く似ていない。
瞳の色は同じだが、光彩も人と違うし、どちらかと言えば丸目で、可愛いらしい顔をしている。体つきも精霊のもので、かなり細身になっている。
と言うかプラグは男なのだが、スカートらしき物をはいているので少女に見える。
「ええ。でもまだちょっと足りないな。本来は、長い金のいばら? みたい物がついてきて、周囲が金色に染まります……地上に降り立った時もこの姿だったので、ずっと人に化けていたんですよ。いちいち動きにくいですから。やっぱり羽は戻って無いか……」
カド=ククナは体をひねって、背中を確かめている。
カド=ククナ自体は地に足を着けているのだが。周囲の金環は浮いていて、羽衣と、冠についた透明なヴェールが揺らめく。
良く見れば――衣装は全て、地に着かず浮いていた。
……これに出会ったら勝てる気がしない。
カド=ククナの後ろでは、ナダ=エルタが冷や汗をかいたまま文字通り『凍って』いる。
「はぁ……なんか凄ぇな……いやでも、見て分かったが、間違い無く、お前だって気付かれない。見といて良かった。いきなり出会ったら、なんか凄ぇのが出てきた! 勝てる気しねぇ! くらいにしか思わなかっただろうな。たぶん『俺です』って言われても信じらんねぇ」
リズは言ったが、カド=ククナは心配そうだ。
「そうですか? 声も似てると思いますし……顔も似てると思うんですが?」
「近づいて良いか?」
カド=ククナを中心に部屋はかなり明るいが、リズからは眩しい。
リズは手でひさしを作りながら、階段を下りて近づいた。
……近くでまじまじと見ても、同じ人物には見えない。飛び抜けて美しく、可愛い精霊だ。顔立ちは大人しそうな印象もあり、活発そうな印象もある。悪戯しそうな雰囲気は共通している。髪の色、目の色はそっくりだが……。
……リズの頭に『可憐な少女』と言う言葉が浮かんだ。ドレスとヴェールのせいもあり、男に見えないのだ。喋っていても女で通じる。
「んー、だいぶ顔が違う。可愛いな。触って良いか? つか触れんの? つかマジ可愛いな」
リズは頰に触れてつまんでみた。
「お、触れる。柔らけー」
「ふぁ」
「えっ、じゃあ抱けるのか? 服脱げるのか? ちょっといいか」
黒い上着の首元には、綺羅綺羅と輝く、尖った結晶……のような飾りがある。どうやって脱がせればいいのか分からない。とりあえず、羽衣は取れそうだ。引っ張ると、羽衣が緩んで落ちた。カド=ククナの動きに合わせて金環や飾りが動いて邪魔だが、冠は取れないまでも、一番上の、黒い上着は羽織っているだけなので脱がせそうだ。リズは結晶の飾りを少し持ち上げて、上着を一枚、引っ張って脱がせた。ボタン留めだったので楽勝だ。
「えっ、ちょ、ちょっと!?」
上着がふわりと床に落ちる。手を放した後も結晶の飾りは宙に浮いている。上着の下は真っ白なブラウスで、胸元に五色の宝石がはまった、長い、金の首飾りを付けていた。重厚なつくりの年代物だ。国宝級だろう。ブラウスはたっぷりとしたレースで彩られ、可愛い印象だ。
ブラウスの肩には、羽のような白い布が前後左右にたくさんついている。羽っぽい布には良く見ると透かし模様が入っていた。裏側は金色。かと思えば一部は赤。刺繍が入っていたりする。精霊の布地は軽くて豪華だ。
「ああ、そうか霊体と実体があるのか? 実体化してたら触れるんだな? ほう。あっ、これ本当にスカートか!? 下はどうなってんだ!?」
リズは白いスカートをめくった。美しい衣装なので楽しくなって来た。下はまるきりドレスのような、レースいっぱいの作りだった。たっぷりとした白い布をかき分けると、黒い平靴を履いた素足が見えた。足は白く細く、所々に金の入れ墨がある。
「おっすげー! 短パンだ!? うわー! えっ付いてるのか? ――ッ」
カド=ククナが「やぁッ」と言う可愛らしい悲鳴を上げ、リズの頭を膝で蹴った。
「痛ってぇ……!」
「触らないで下さい! もう! 離れて!」
頭を叩かれながらもスカートの中で粘っていると、もう一度蹴られそうになったが、今度は足を捕まえた。
「わっ?」
リズはスカートから出て、カド=ククナがリズから逃げようとするのを、がっちり捕まえて――横抱きにして持ち上げた。豪華な衣装や冠はほとんど重さがなく、カド=ククナの頼りない体躯が分かる。スカートが揺れ、羽の衣がふわりと宙に舞った。
「――ええッ!?」
「おっ軽!? いや守備範囲。むしろこっちのが好み。お前等、今日は帰って良いぞー」
「ちょ、ちょっと……ッ!?」
「いやー良いモン拾ったな! よし、世界を救ったあかつきには、結婚するか?」
「!?」
カド=ククナはリズを押しのけ、慌てて降りて、ラ=ヴィアの元へ走って逃げた。
「ミ゛ーーーッ!!」
ラ=ヴィアがカド=ククナを背中に庇い、頭の羽を広げて、翼を広げて威嚇してきた。
その姿はまるきり猫でリズは笑った。
「なんだやるか? ロレ、やるぞ!」
「はい! ヤりましょう~!」
ロレはでれでれとして嬉しそうだ。
「ミ゛ーーーーーッ!! ロレ! お前、主に近づくな!」
ラ=ヴィアは更に威嚇した。その後ろではカド=ククナが衣装の乱れを整えている。ナダ=エルタもようやく正気になって、上着や羽衣を拾って手伝い始めた。カド=ククナは「いきなりスカートをめくるなんて。なんて人だ! 最低!」と言って怒っている。やはりあれはスカートらしい。
「とまあ、冗談はこのくらいにして――今見て分かったが、こりゃ誰も気付かないな。うん。堂々としてりゃいい」
次の瞬間に、カド=ククナの姿が霞み、一瞬でプラグに戻った。リズは舌打ちした。
カド=ククナを見た後だと、プラグがとても生意気に見えるのだ。
……からかいに対する反応も、少し違った気がする。実はそれを見る為に絡んだのだ――というのは、後付けだ。プラグの精霊体は予想外に可愛かった。
しかし何の精霊かは皆目見当が付かない。むしろ思った以上に神様ぽかった。もはや、精霊のくくりかどうかも怪しい。
プラグが眉を顰めた。
「……そうですか? 俺はだいぶ似ていると思うんですけど」
プラグの言葉にリズは呆れた。
「はぁー? そりゃ、精霊の感覚だ。似てるのは髪と目の色くらいだな。あっちは丸目だし、大人しい美少女に見える。絶対バレないって。それにしても、お前、可愛い感じの反応するんだな? きゃあ、なんて悲鳴、中々ないぞ」
「……言ってません、きゃぁなんて!」
「いやぁ、だったか?」
するとプラグが珍しく、頰を染めて口ごもった。
「この、プラグ・カルタは人に化けるために作った人格なんです。だからちょっと、男らしいというか。俺の思う限りですが」
――つまりククナが『素』だと言う事だ。
……コイツなりに人の振りを頑張っているのだろう。要するに格好付けだが、元の可愛さを知ったら、健気に思えてきた。
(あの顔と細い体で頑張ってるから、精霊達もなんとかしなきゃ、ってなってんだな、なるほど)
リズはこの大陸の成り立ちを理解した。
カド=ククナは仲間を強引に引っ張っていく指導者かと思ったら、私達が守ってあげなきゃ! という、姫や貴婦人のような扱いだったのだ。顔がタイプだったので、リズとしても望む所だ。
「あ。でも、ククナもオスなんだよな? ついてるもんな」
リズはちゃっかり確認していた。するとプラグは更に真っ赤になった。
「……もうやだこの人……」
カド=ククナらしき本音をのぞかせて、プラグが項垂れ――顔を上げて睨んできた。
「ええ、男ですがソレが何か? 言っておきますが、もし世界がどうにかなっても、貴方とは結婚しませんから!」
リズは大いに笑い、ふと真顔になった。
「それなんだが、私、思うんだよな……予言の言葉……私とお前が世界を救うって、『私』が生きている間の事なんじゃ無いか? 何十年かそこらの」
リズの言葉にプラグがはっとした。
「……案外、ヤバイのかもな。さーて! 今から飲むぞ! 婚約祝いだ!」
「……もう、勝手にやってください!」
プラグが声を張り上げた。
■ ■ ■
「おら飲め、飲め」
リズはグラスも無しに勧めてくる。
「結構です……!」
プラグが『徹夜は勘弁、早く帰りたい』と思って困っていると、足音が聞こえたので慌てて立ち上がって執務机の下に隠れた。ラ=ヴィアとナダ=エルタも慌ててついてくる。
「隊長? お一人で飲んでいるんですか?」
入って来たのはアプリアだった。彼女はまだ隊服を着ている。
「よー! いや一人じゃねえ、ロレロレが一緒だ」
「はぁい、ロレロレでぇす~!」
ロレは相変わらずというか、変わっていない。
「たいちょー、そういえば、コルコルちゃんのおかえり会、いつヤるんですか~?」
ロレの言葉に、プラグはそうだった、と思った。
コル=ナーダのお帰り会をしたかったのだが、候補生生活は自由が利かない。精霊を集めようにもそれぞれが候補生についているし……場所もどこがいいのだろう。リズがいたら聞こうと思っていたのだ。
ラ=ヴィアもナダ=エルタもこの騎士団では新入りになる。今まではどうしていたのだろう?
「私ずっと待ってるんです~! お酒、飲みたーい!」
ロレは飲んだくれ精霊なので、宴会は大好きだろう。
「はぁ。お前等なぁ。今回は酒は無し! しばらく節約だ。場所はここを使って良いから、適当にやれ。日付は……もう今度の休みでいいだろ」
「そんなぁ~! 飲みたい~!」
ロレが嘆いた。
「ああ。コル=ナーダのお帰り会ですか? 何をするんですか?」
アプリアの声が聞こえる。
「んー。だいたい、同じ一族がやるんですけどぉ~、火の子達が幹事をやると、火の玉が飛んで、全員の火柱でばーっと胴上げして終了! みたいな? 感じでぇーす」
「げ」
火柱、の言葉にリズが嫌そうな声を出した。
「ロレロレがやると、皆、気持ち良くなって~! サイッコーなんだけど、皆に止められる」
……プラグとラ=ヴィアは思い出した。
確かに火一族の祭りは火球や火柱を上げて……とにかく派手だ。最後はお互いの火の勢いを競い合うので、何も無い平原で行っていた。
精霊も酒が飲めるのだが……酔っ払うと碌なことがないのだ。
アプリアが「では今回は人間式で行きましょう」と提案した。
「ニンゲンシキ?」
「お酒は無しで、ケーキや料理でお祝いするんです」
「え~、地味! 私、コルコルとは大親友だもん~! 盛大にお祝いしたい~!」
……ロレは完全に酔っている。飲んだくれというのは大概、酒に弱いのだ。
「まあそう言わずに。幹事は誰がやりますか? ラ=ヴィアさんはどうでしょう」
「んー。この世で最も強く賢いラ=ヴィアお姉様の幹事は、ちょっと地味なんですよねぇ……まーでも、それがいいか。うん。頼んでおきます」
ロレが言った。
「お願いしますね。では、隊長、もう戻って寝ましょう」
「えー! 飲み直す!」
リズが文句を言った。
「はいはい……全くもう」
アプリアはリズとロレを連れて、広間を出て、最後に「ル・レーナ」で灯りを消した。
誰も居なくなった後、プラグはほっとして、机の下から出た。
「なんとかなったな……ラ=ヴィアが幹事で良かった」
「み……。なるべく、フツーの会にする……」
「そんなに凄いんですか?」
ナダ=エルタが首を傾げた。
「クロスティアでは、盛大に火の粉を広げて……派手だったな……主賓は炎の絨毯の上を歩いて登場、雨あられと火矢を飛ばして……火の玉を打ち上げて歓迎、火の輪くぐりや、酒を吹き出しての火炎放射大会や火だるまごっこもあった。胴上げは火柱で、勢いに乗った精霊達が火山を砕いてマグマの中に飛び込んだこともあったな……」
「そ、それが、クロスティアですか……」
ナダ=エルタはかなり引いている。
そう言えばナダ=エルタはクロスティアを見た事も無い。
「火一族は特に派手だから……他はもっと大人しいよ。クロスティアにはそのうち行けると思うから、一緒に行って景色を見よう。と言っても、見えるのは狭い範囲だけなんだけど……」
プラグの言葉にナダ=エルタが、暗闇でも分かる程目を丸くした。
「行けるんですか!?」
「うん、決闘(ゼラルート)の時にはね。後は、教会の聖域からもつなげられるけど、勝手にはできないかな……それはまた今度、ってことで、お帰り会は来週か。急いで支度しないと」
「ミ、あっと言う間!」
「俺はあまり手伝えないけど、料理くらいは作れると思う。あ、ついでにシオウも呼ぶ? こっそりだけど……持ち主だし」
「ミ~! 採用!」
「でも参加したがるかな?」
「みー……わからない」
精霊たくさんに人間一人、というのは居心地が悪いかもしれない。
シオウは混血なので精霊と似たような物ではあるのだが……?
「だったら……ホタルとゼラトも呼んでみる? それなら話し相手もいるし」
「ミ、聞いてみる? ……主は参加しないの? いた方が嬉しいヨ?」
「でも、俺ばかり楽しむのも悪いし……うーん。リズは……いやだめか。とりあえず今日は戻って、休もうか」
「ミ!」
このままでは参加者がどんどん増えそうなので、一旦切り上げる事にした。
「もう、誰にも会いませんように……偵察を頼む」
プラグはこっそり、部屋に戻った。
〈おわり〉