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第4話 魔霊と精霊 -2/3- ①

ー/ー




「では、人間を脅かす『魔霊』について説明する。これは重要だから、しっかり聞いて理解するように。四十頁を開け」

リーオの指示で、プラグは教本を開いた。
そこには黒いインクで、コウモリのような翼を持つ、異形の化け物が描かれていた。

「まず『魔霊(まれい)』とは。五百年前、アルケルムの戦いで、ハラプ=ハラケスという精霊が生み出した『邪霊(じゃれい)』――が時を経て、形を持った物と言われている。我々クロスティアが排除する脅威には、この魔霊退治も含まれる。魔霊は大きさは人の三倍から四倍。あるいはもっと大きい個体もある」

「私が見た物で、一番大きかったのは、三階建ての屋根を越えたものだな。『火の魔霊』で討伐の際、多くの隊士が犠牲になった。羽ばたくだけで建物が崩壊し、街が炎に包まれた……」
リーオの言葉に、候補生達が息を呑んだ。

「この『火の魔霊』というのは、火一族の精霊がなるものだが、どの精霊だったのかは、未だに分からない。単純に、知らない精霊だったのかもしれないが、皮膚や翼が硬く真っ黒になるため、姿や特徴で判別ができないのだ。ただ、精霊独自の技を使う事があるから、分かる場合もある。しかし、魔霊になってしまうと、精霊はもはや、元の姿に戻る事はできない。討伐……殺した後、プレートに収め、収めた後プレートを破壊し、それでお終いだ。ちなみにプレートの色は黒色。名前は記されない。もしどこかで見つけても、決して手を触れず、すぐ教会に報告しろ。黒いプレートを持っている者がいたら、それも報告だ。一人で相手するのは、不可能だと思ってくれ」

リーオの言葉を、プラグはただ聞いた。

「『邪霊』というのは、魔霊になる一段階前の精霊を言う。精霊が何らかの理由で、憎悪に染まると、精霊は邪霊になる。そして暴走し、手が付けられなくなり『厄災』を振りまく。厄災は、植物が枯れたり、人を含む動物が死んだり、病がはびこったり、一帯が燃えるように暑くなったり、とかだな。この時点で手紙による通報がくるから、我々はまたは巫女が駆け付け、プレートに収める」

「しかし封印が間に合わなければ、精霊は、この、おぞましい姿になって、暴れ回る。この国にも、例えば国境付近や、海沿いでまれに見られる。海から来る理由は分からないが、どこかに住み処があると言われている。国境付近は、他国が侵略の道具として使っている説があるが……どれも憶測だ。内陸で見られる場合は、大抵、暴走した精霊が魔霊になった場合だ――そうだ。この中で、実際に魔霊を見た者はいるか?」
リーオは思いついた、と言うように候補生達を見た。

――プラグは、目を覚ましてから初めて、魔霊の存在を知った。そんな存在は見たことも、聞いたことも無かったのだ。

すると一人、手を挙げた者がいる。
「シオウか。見たのか?」
リーオが言った。

「……見たけど……飛び去っていくところでした」
「どういう状況だったか、話せるか?」
「……俺の村を焼いて、去って行きました。俺は出かけてて無事だったけど」
シオウの表情はいつになく厳しい。

「でもあれは自業自得だ……!」
とシオウが吐き捨てるように呟いた。
リーオは驚き、続きを促した。

「俺の村は……村というか街だけど、ある精霊を捕まえて、ずっと、虐待していたんだ。それで精霊が怒って、ああなった。だからあれは自業自得だ。たぶんそのくらいでないと、魔霊にはならない。いやわかんないけど」
「君の村というのは、レガンのラオラ付近か?」
「はい」
リーオが申し訳無さそうな表情になった。
「そうか。その報告は遅れて届き、我々は、間に合わなかった。各領主の元に手紙を配り、領主は各地方の有力者、教会と連携しているが、全てを網羅している訳では無い。すまなかった」
「いえ……まあ、終わったことですし……何とかしようとしてたんなら、まあ、いいです。それだけで助かります」
シオウは歯切れが悪い。
シオウが精霊騎士になろうとしたのは、この出来事が切欠なのかもしれない。

「では、続きだ。実際に魔霊に出くわしたら、どう対処すべきか。どこを狙うべきか。これは対策が練られている。まず、前提として、魔霊は霊力がある限り、浅い傷はすぐ再生する。皮膚も硬い。これを倒せるのは、精霊が変化した『精霊剣』だけだ。次の頁に絵がある」

四十一頁を見ると、剣の絵が描かれていた。
形は良くある長剣で、柄に宝玉がはまっている。宝玉の回りに美しい装飾がある。

「『ル・ガルド・ディアセス』の祝詞で精霊は剣に変化する。『ル・フィーラ』のように、『ル・ガルド』だけに省略も可能だ。これは「抜剣」と言う意味がある。ただし精霊剣は、紅玉鳥が造る『結界』の中でしか使えない。『結界』は、決闘に使う『聖域』や、教会にある『結界』とはまた違ったもので、『聖結界』とも言う。最低三羽の紅玉鳥が囲んだ、三角形、または多角形の空間のことだ」

教本には紅玉鳥が小さく、三羽描かれ、線で結ばれて『結界』と描かれている。

「このため、魔霊の討伐には最低、三羽の紅玉鳥と、三人の巫女が同行する。結界は戦闘中、維持しなければならないので、巫女が一人倒れた場合や、紅玉鳥が殺された場合――紅玉鳥は心配いらないが、とにかく、二羽では成り立たない。緊急時、一人、または二人の巫女が紅玉鳥を三羽操る例もあったが、そんな事はまれだ。巫女の霊力が底を尽きたら、結界は消える。巫女の霊力は個人差があるが、一般的な巫女で、十分から二十分程度か。結界を張ったら、その場で即座に倒す必要がある。そこで集団戦だ」

『結界』の適応可能距離は、お互いの紅玉鳥が見える距離まで。これは必ず、相手が見えなければいけない。つまり、街中ではせいぜい五百メルト。見晴らしの良い場所であるほと広くなるが、あまり離れても連携が取れないので、百から二百メルトが多いと言う。

「結界を張っている間も、巫女は動く事ができる。だから結界ごと、敵を追う場合がある。あるいは、逃げたら一度結界を解いて、再び結界を張る。巫女が張っているわけでは無く、巫女と意識を共有し、同調した紅玉鳥が、巫女の指示で動いていると考えれば分かりやすい。だから巫女は動ける訳だ。ただし霊力は巫女から吸い上げられる。自然、消耗が激しくなる。その場合は、複数の巫女が代わる代わる結界を張る。自分の紅玉鳥でなくてもいいので、交代は可能だ。そうして、巫女が頑張っている間に、我々が速やかに魔霊を討つ。そうして核を破壊して、プレートに収める。これはそのままだと『邪霊』が発生して、第二、第三と同じ『魔霊』が発生するからだ。プレートは黒色。幸い、黒いプレートは精霊剣で簡単に破壊可能だ。誰かが剣を突き立てる。これで討伐終了となる」

リーオは息を吐いた。
生徒は皆、難しい顔で聞いている。聞いた事の無い者がほとんどだろう。
プラグも、巫女の役割、やり方は把握していたが、実際に精霊騎士がどう戦っているのかは初めて聞いた。教本には書いていない。

「とまあ、これは実際に精霊を持ってからの話だ。集団戦闘は、巫女と連携して訓練をする。魔霊の弱点は人と同じく、胸……心臓だ。正確には、胸腺……肋骨の真ん中、少し上だな。が、そこは一番固い。まず狙うのは翼。それが再生するまでに、できれば仲間と協力して、四肢をもいでから、胸。いきなり胸でも構わないが、羽があると逃げられたり、攻撃されたりするので、この方が効率がいいと分かった。尻尾がある場合はそれも先に切り落とす。だから集団戦になる。この戦闘には、勿論、プレートが使える。プレートを使いつつ、精霊――魔霊を弱らせ、足止めし、一気に叩く、と言った所か」

「精霊剣、プレートでの牽制、攻撃は連携が必要だし、かなり複雑になるので、じっくりと覚えていくことになる。集団戦の訓練は、半年過ぎた頃からだな。今はまだ考えなくていいが、――これが我々の任務であることを、精霊騎士を希望する諸君は、肝に銘じてくれ。クロスティア騎士団に入れば、必ず、魔霊に出会うと言う事を」

■ ■ ■

魔霊の話を聞いた後、候補生達は皆、それぞれ深く考え込んでいた。
特に精霊騎士を目指す者にとっては、かなり重要だ。
プラグも例外では無いが――。少し違う事を考えていた。

(黒いプレート……そんな物があるのか……)
カルタにいたとき、魔霊の存在と、その対処方法や、結界の祝詞も学んでいたが……。
実際に出会った者はいなかったし、出てくることも無かった。
――カルタで教わった対処方法は、結界に収めとにかく耐えて、王都や領主に『手紙』で救援要請をする、という物だ。
それも、防災対策程度の『もし来たらこうしましょう』という注意喚起にすぎない。
紅玉鳥生産設備を有し、国境にあり、防衛意識の高いカルタでこれなのだから、おそらくこれはどの聖女教会でも同じだ。
……例外は王都の聖女教会ではないか? 
ここは騎士団が目と鼻の先なので、具体的な対応が決まっているかもしれない。
それに『巫女と連携して』と言っていたから、その『巫女』は王城の巫女達に違い無い。

……クロスティアの精霊騎士が特殊なのであって、普通の巫女には魔霊は倒せない。
精霊剣を使うには精霊と契約する必要があり、巫女は精霊を持っている場合があるが、それでも、クロスティアの騎士で数人、あるいはもっと必要ならば、巫女の力で倒すのは難しい。

――プラグは、プレートという形になるなら、何とか、中の精霊を救えないかと考えた。
昼食前、人気の無い場所まで歩き、周囲を確認した後、ラ=ヴィアと相談した。
ここは宿舎の外れの、滅多に人が来る事の無い……若い聖樹がある場所だ。

「ラ=ヴィア。君は魔霊の存在を知っていたか?」
実体化したラ=ヴィアが首を振った。
「私は、しらない。いつのまに……そんなものが」
「……黒いプレートか。実際に見れば、浄化できるか否か分かるんだが……すぐ破壊、という口ぶりだったよな。つまり核を破壊できるまで弱っていると言う事だ。精霊の核は精霊剣でなければ壊せないし、核がなくなると、精霊はすぐ死んでしまう。プレートに収めるのは『邪霊』が出ない様にするためか? 酷い事もあったものだ……」
「……ほんとうに……シオウの村をおそった子も、もとは精霊だったんでしょう?」
ラ=ヴィアが悲しげに目を細めて、うつむいた。

「かわいそうに……」

ラ=ヴィアの目から涙がこぼれ、落ちた涙は結晶になった。
プラグはラ=ヴィアの肩を支えた。
「ラ=ヴィア、泣かないでくれ。これから考えよう。きっと方法はある。この大陸にいま俺と君がいるんだ。目を開けた以上は、背ける事はできない」
ラ=ヴィアは頷いた。
「……主、主の力でなんとかできる?」
「……分からない。精霊に戻ればあるいはと思うが……仕組みを理解して、新しい方法を造らないと。でも嘘と水鏡か……これでなんとかなるものか……? アメルがいたら……鏡……それでも難しいか。ラ=ヴィアはどう思う?」
「『浄化』は? アリア=エルタ。私が鏡にうつして、アリアが浄化する」
「いい方法だが……それでも足りないと思う。核が壊されて、魂(レフル)が無くなって、抜け殻になっているなら……魂(レフル)を探して、呼び戻すのは、俺だけでは難しい。アリアは今どこに居るんだろう。浄化の精霊石はあるけど、本人の話は聞かないな。リーオ隊長なら知ってるかな。巫女長とも相談したいところだけど……さすがに無理か……?」

プラグは立ち上がった。
アルスが来る気配があったからだ。

「プラグ、どこー? ご飯、食べ損ねるわよ」
「ああ、今行く! じゃあ、ラ=ヴィア」
『み』
ラ=ヴィアは頷き、霊体に戻った。
『まず、ごはん、いそげ!』
「そうだな」
プラグは苦笑した。

■ ■ ■

午後からは通常通りの鍛練で、あっと言う間に日が暮れた。
今日からは走り込みが無いので、拍子抜けしている。
(――こんな事では、駄目だな……)
倒すべきは魔霊となると、対人戦闘の技術がどこまで役に立つか。
そのうち手加減、擬態なんて言っていられなくなるだろう。
プラグは自主鍛練をしようかと思ったが、一応、する前に聞いた方が良いだろう。

何はともあれ夕食だ。

「フィニー、この後、ちょっと良いか」
プラグが先に来ていたフィニーに話し掛けると、フィニーが固まった。

「え。なに……?」
青ざめた様子で言うので、プラグは面食らった。
「いや……この前の、シオウの件で」
「ああ、うんそれか。そんなの、もういいよ。僕が多分悪かったんだし。気にしてないし?」
と言った瞬間、シオウが食器を、大きな音を立てて置いた。

フィニーが固まる。
「げ……怒ってる?」
フィニーは悪い奴では無いのだが、どうも口が軽いというか。配慮が足りないというか。
「一応聞いたんだが、話して貰えなくて。……この件は、諦めた方がいいかもな。シオウに言う気がないみたいだから。力になれなくてすまないな。君も、おかしな話は程々に」
「ううん。全然。止めてくれて助かったよ」
「ところで、少し話したいコトがあるから、顔かしてくれ」

プラグは、あれ? この言い方で良かったか? と思いながら微笑んだ。
「ひぃい」
「あ、違う違う大した事じゃ無い」
「じゃあここで言って」
「いやここではちょっと……」
「ええ……?」
「とりあえず食べよう」

食後、食堂の外でフィニーと立ち話した。
「少し気になったんだが、もしかして、聖女教会の巫女長ってフィニーの血縁か?」
「ん? 巫女長……ああうん。何、惚れたの?」
「いやそうじゃない。この前、妹がお世話になったから、お礼に行こうかと」
「エッ! それってつまり? 惚れたの? っていうか妹!? 君、妹がいるのーッ!?」
フィニーの大声に、ちょうど出て来た男子三人が立ち止まった。

「お前妹いるのか?」「えっ意外」「へぇ」
と何故か皆、興味津々だ。

「えっ、絶っ対可愛いよね!? どんな子!?」
プラグは聞く相手を間違えた……と思った。だがこれは良い機会かと思い、伝える事にした。
「双子の妹だから、俺に似てる。それはいいとして、明日、妹と一緒に、教会に行くんだが。フィニーと親戚? とかなら、様子を伝えようかと思って……」
一緒に行く予定は無かったが、ラ=ヴィアにプラグの姿を映してもらう手もある。
この辺りで別人と認識してもらえば、これから動きやすくなる。
「双子!? ああ、そうなんだ。一番上の姉さんだけど。よく分かったね。あ、目の色か。でも本妻の子供だから、たまに口うるさい手紙寄越すくらいだよ」
「親しいんだな」
「まあ、そうと言えばそうかな。あ。俺の様子を伝えるなら『真面目にやってる!』って伝えてくれる?」
プラグはそれはどうだろう、と思った。候補生に手を出している様子はないのだが。声は掛けているし、休日は必ず逢い引きしているらしい。
「……善処する……思ったより真面目にやってる、とかでいいか? 君は会いに行かないのか? 一緒に行ってもいいんだが」
「うーん。ごめん、女の子と約束があるから。あ、でも妹は紹介してね」
「……」
プラグは頭を押さえた。
巫女長との会話の糸口になればと思ったのだが――完全に、余計な相談をしてしまった。

■ ■ ■

やはり頼るべきはリーオだった。

「巫女長は居るそうだ。特に予定はないらしいが、毎日の礼拝があるので、午後二時頃からが助かると。それで良ければ明日の朝、伝えておく」
リーオは、食後まもなく、態々部屋に伝えに来てくれた。
「ありがとうございます。ついでに少し相談したい事があるので。帰りは少し遅くなるかもしれません。ところで、リーオさんは、浄化のプレートがどこにあるか知っていますか? 赤でなくて、精霊がいる方の銀プレートの『アリア=エルタ』です」
「浄化か。ああ、あれなら、確か国王陛下が持っていたはずだ」
「え……この国の?」
プラグは驚いた。意外に近いが、意外に面倒な人物が持っていた。
「ああ。だから我が国では浄化石が手に入りやすい。そのうち授業で、主要なプレートの持ち主を勉強するが、何かあったのか?」
「いえ……混み入った話なので。ちょっと……廊下で」
プラグは部屋を出て、廊下で話した。

「あの。これは単なる興味なんですが。今日話に出た、黒いプレートはどこかに保管されていますか? 壊すと言っていましたが、プレート自体に害が無いなら、研究用等に」
「……機密だな」
「あ。そうか。そうですね。なら良いです。図書館に寄って帰ると思うので、遅くなります」
するとリーオがうろんな目をした。
「予定が増えたな。何か企んでいるのか?」
「いえ、そんな事は」
「……何を調べるつもりだ?」
「……この国の歴史をー……」
リーオの目には『怪しい』と書いてある。
「それと浄化が何の関係がある? ――ん……まさか?」
リーオは言って気が付いたらしい。眉を顰めて、プラグを見て来た。

「……来なさい」
プラグはあえなく連行された。

■ ■ ■

「これはただの疑問なんですが、黒いプレートは、浄化できないんですか?」
プラグは連れて来られた図書室で、あくまで、一候補生としての質問をした。
二人は窓際の机に向かい会って座っている。
ラ=ヴィアも当然のごとく霊体だが、同じ部屋にいる。

「……その質問をすると言う事は、何か、算段があるのか?」
リーオが言った。
「いえ……純粋な興味です。黒いプレートがあれば珍しいから、見てみたいな、という」
「……教会のすぐ裏に、プレートの管理・製造・研究施設がある。そこでは研究者もいて、プレートの謎を解明せんと日夜努力している。黒いプレートは教会に一枚保管されているが。結界の中にある。下手に触るのは、止せ。以前の二の舞になったら、分かるな? お前は討伐される」
リーオは淡々と告げた。
以前の、というのはラ=ヴィアの件だ。
「……そうですか……管理は巫女長が?」
「それを知ってどうする?」
「……出来る事なら」

プラグは迷い。迷って、迷って。言葉を発した。
「仲間ですから。助けたいんです。難しい事ですが」

リーオが、プラグを、殺気の籠もった目で睨んだ。
「……それを聞いて、行かせると思うか?」
「思いません」
プラグは溜息を吐いた。

「けれど、俺達がやらなければ。誰もできないでしょう」
プラグの背後で、ラ=ヴィアが頷いた。

プラグの言葉に、リーオが息を吐く。
「お前は何の精霊だ? どいつもこいつも、ラ=ヴィアに怯えて口を開かない」
「ラ=ヴィアは怒ると怖いから……」
隣を見ると、ラ=ヴィアが『こいつ、今、きらいになった』と言う顔をしていた。
「俺が何の精霊かは、今は……あるいはずっと、言う事はできません」
プラグが言うと、リーオは、眉を顰めて。
「それでいいのか?」
と不思議な事を言った。
「お前はそれでいいのか? それで、この騎士団に入って人助けをして、それでいいのか? 人として暮らして、それでいいのか? ――まだ、精霊として自由に生きた方がましだと思うが。そこまでして人の振りをする目的があるのか?」
リーオというのは、さすが隊長だけあって、聡明な人物らしい。

「目的……は内緒です」
プラグは埒があかないと思った。これで外出禁止になってしまったら。巫女長にお礼を言う事もできない。
「……」
リーオが腕を組む。彼もきっと、埒があかないと思っているだろう。
プラグは仕方無い、と諦める事にした。
「では直接、リズ隊長に掛け合います。明日は、お礼と図書館だけにします」
「――」
するとリーオが。短い息を吐いた。
「運の良い奴だ。明日の朝。隊長が戻られる――隊長同伴なら、外出を許可しよう。浄化の方法は、我々も探っているが、それがお前にできるのか?」

■ ■ ■



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「では、人間を脅かす『魔霊』について説明する。これは重要だから、しっかり聞いて理解するように。四十頁を開け」
リーオの指示で、プラグは教本を開いた。
そこには黒いインクで、コウモリのような翼を持つ、異形の化け物が描かれていた。
「まず『魔霊(まれい)』とは。五百年前、アルケルムの戦いで、ハラプ=ハラケスという精霊が生み出した『邪霊(じゃれい)』――が時を経て、形を持った物と言われている。我々クロスティアが排除する脅威には、この魔霊退治も含まれる。魔霊は大きさは人の三倍から四倍。あるいはもっと大きい個体もある」
「私が見た物で、一番大きかったのは、三階建ての屋根を越えたものだな。『火の魔霊』で討伐の際、多くの隊士が犠牲になった。羽ばたくだけで建物が崩壊し、街が炎に包まれた……」
リーオの言葉に、候補生達が息を呑んだ。
「この『火の魔霊』というのは、火一族の精霊がなるものだが、どの精霊だったのかは、未だに分からない。単純に、知らない精霊だったのかもしれないが、皮膚や翼が硬く真っ黒になるため、姿や特徴で判別ができないのだ。ただ、精霊独自の技を使う事があるから、分かる場合もある。しかし、魔霊になってしまうと、精霊はもはや、元の姿に戻る事はできない。討伐……殺した後、プレートに収め、収めた後プレートを破壊し、それでお終いだ。ちなみにプレートの色は黒色。名前は記されない。もしどこかで見つけても、決して手を触れず、すぐ教会に報告しろ。黒いプレートを持っている者がいたら、それも報告だ。一人で相手するのは、不可能だと思ってくれ」
リーオの言葉を、プラグはただ聞いた。
「『邪霊』というのは、魔霊になる一段階前の精霊を言う。精霊が何らかの理由で、憎悪に染まると、精霊は邪霊になる。そして暴走し、手が付けられなくなり『厄災』を振りまく。厄災は、植物が枯れたり、人を含む動物が死んだり、病がはびこったり、一帯が燃えるように暑くなったり、とかだな。この時点で手紙による通報がくるから、我々はまたは巫女が駆け付け、プレートに収める」
「しかし封印が間に合わなければ、精霊は、この、おぞましい姿になって、暴れ回る。この国にも、例えば国境付近や、海沿いでまれに見られる。海から来る理由は分からないが、どこかに住み処があると言われている。国境付近は、他国が侵略の道具として使っている説があるが……どれも憶測だ。内陸で見られる場合は、大抵、暴走した精霊が魔霊になった場合だ――そうだ。この中で、実際に魔霊を見た者はいるか?」
リーオは思いついた、と言うように候補生達を見た。
――プラグは、目を覚ましてから初めて、魔霊の存在を知った。そんな存在は見たことも、聞いたことも無かったのだ。
すると一人、手を挙げた者がいる。
「シオウか。見たのか?」
リーオが言った。
「……見たけど……飛び去っていくところでした」
「どういう状況だったか、話せるか?」
「……俺の村を焼いて、去って行きました。俺は出かけてて無事だったけど」
シオウの表情はいつになく厳しい。
「でもあれは自業自得だ……!」
とシオウが吐き捨てるように呟いた。
リーオは驚き、続きを促した。
「俺の村は……村というか街だけど、ある精霊を捕まえて、ずっと、虐待していたんだ。それで精霊が怒って、ああなった。だからあれは自業自得だ。たぶんそのくらいでないと、魔霊にはならない。いやわかんないけど」
「君の村というのは、レガンのラオラ付近か?」
「はい」
リーオが申し訳無さそうな表情になった。
「そうか。その報告は遅れて届き、我々は、間に合わなかった。各領主の元に手紙を配り、領主は各地方の有力者、教会と連携しているが、全てを網羅している訳では無い。すまなかった」
「いえ……まあ、終わったことですし……何とかしようとしてたんなら、まあ、いいです。それだけで助かります」
シオウは歯切れが悪い。
シオウが精霊騎士になろうとしたのは、この出来事が切欠なのかもしれない。
「では、続きだ。実際に魔霊に出くわしたら、どう対処すべきか。どこを狙うべきか。これは対策が練られている。まず、前提として、魔霊は霊力がある限り、浅い傷はすぐ再生する。皮膚も硬い。これを倒せるのは、精霊が変化した『精霊剣』だけだ。次の頁に絵がある」
四十一頁を見ると、剣の絵が描かれていた。
形は良くある長剣で、柄に宝玉がはまっている。宝玉の回りに美しい装飾がある。
「『ル・ガルド・ディアセス』の祝詞で精霊は剣に変化する。『ル・フィーラ』のように、『ル・ガルド』だけに省略も可能だ。これは「抜剣」と言う意味がある。ただし精霊剣は、紅玉鳥が造る『結界』の中でしか使えない。『結界』は、決闘に使う『聖域』や、教会にある『結界』とはまた違ったもので、『聖結界』とも言う。最低三羽の紅玉鳥が囲んだ、三角形、または多角形の空間のことだ」
教本には紅玉鳥が小さく、三羽描かれ、線で結ばれて『結界』と描かれている。
「このため、魔霊の討伐には最低、三羽の紅玉鳥と、三人の巫女が同行する。結界は戦闘中、維持しなければならないので、巫女が一人倒れた場合や、紅玉鳥が殺された場合――紅玉鳥は心配いらないが、とにかく、二羽では成り立たない。緊急時、一人、または二人の巫女が紅玉鳥を三羽操る例もあったが、そんな事はまれだ。巫女の霊力が底を尽きたら、結界は消える。巫女の霊力は個人差があるが、一般的な巫女で、十分から二十分程度か。結界を張ったら、その場で即座に倒す必要がある。そこで集団戦だ」
『結界』の適応可能距離は、お互いの紅玉鳥が見える距離まで。これは必ず、相手が見えなければいけない。つまり、街中ではせいぜい五百メルト。見晴らしの良い場所であるほと広くなるが、あまり離れても連携が取れないので、百から二百メルトが多いと言う。
「結界を張っている間も、巫女は動く事ができる。だから結界ごと、敵を追う場合がある。あるいは、逃げたら一度結界を解いて、再び結界を張る。巫女が張っているわけでは無く、巫女と意識を共有し、同調した紅玉鳥が、巫女の指示で動いていると考えれば分かりやすい。だから巫女は動ける訳だ。ただし霊力は巫女から吸い上げられる。自然、消耗が激しくなる。その場合は、複数の巫女が代わる代わる結界を張る。自分の紅玉鳥でなくてもいいので、交代は可能だ。そうして、巫女が頑張っている間に、我々が速やかに魔霊を討つ。そうして核を破壊して、プレートに収める。これはそのままだと『邪霊』が発生して、第二、第三と同じ『魔霊』が発生するからだ。プレートは黒色。幸い、黒いプレートは精霊剣で簡単に破壊可能だ。誰かが剣を突き立てる。これで討伐終了となる」
リーオは息を吐いた。
生徒は皆、難しい顔で聞いている。聞いた事の無い者がほとんどだろう。
プラグも、巫女の役割、やり方は把握していたが、実際に精霊騎士がどう戦っているのかは初めて聞いた。教本には書いていない。
「とまあ、これは実際に精霊を持ってからの話だ。集団戦闘は、巫女と連携して訓練をする。魔霊の弱点は人と同じく、胸……心臓だ。正確には、胸腺……肋骨の真ん中、少し上だな。が、そこは一番固い。まず狙うのは翼。それが再生するまでに、できれば仲間と協力して、四肢をもいでから、胸。いきなり胸でも構わないが、羽があると逃げられたり、攻撃されたりするので、この方が効率がいいと分かった。尻尾がある場合はそれも先に切り落とす。だから集団戦になる。この戦闘には、勿論、プレートが使える。プレートを使いつつ、精霊――魔霊を弱らせ、足止めし、一気に叩く、と言った所か」
「精霊剣、プレートでの牽制、攻撃は連携が必要だし、かなり複雑になるので、じっくりと覚えていくことになる。集団戦の訓練は、半年過ぎた頃からだな。今はまだ考えなくていいが、――これが我々の任務であることを、精霊騎士を希望する諸君は、肝に銘じてくれ。クロスティア騎士団に入れば、必ず、魔霊に出会うと言う事を」
■ ■ ■
魔霊の話を聞いた後、候補生達は皆、それぞれ深く考え込んでいた。
特に精霊騎士を目指す者にとっては、かなり重要だ。
プラグも例外では無いが――。少し違う事を考えていた。
(黒いプレート……そんな物があるのか……)
カルタにいたとき、魔霊の存在と、その対処方法や、結界の祝詞も学んでいたが……。
実際に出会った者はいなかったし、出てくることも無かった。
――カルタで教わった対処方法は、結界に収めとにかく耐えて、王都や領主に『手紙』で救援要請をする、という物だ。
それも、防災対策程度の『もし来たらこうしましょう』という注意喚起にすぎない。
紅玉鳥生産設備を有し、国境にあり、防衛意識の高いカルタでこれなのだから、おそらくこれはどの聖女教会でも同じだ。
……例外は王都の聖女教会ではないか? 
ここは騎士団が目と鼻の先なので、具体的な対応が決まっているかもしれない。
それに『巫女と連携して』と言っていたから、その『巫女』は王城の巫女達に違い無い。
……クロスティアの精霊騎士が特殊なのであって、普通の巫女には魔霊は倒せない。
精霊剣を使うには精霊と契約する必要があり、巫女は精霊を持っている場合があるが、それでも、クロスティアの騎士で数人、あるいはもっと必要ならば、巫女の力で倒すのは難しい。
――プラグは、プレートという形になるなら、何とか、中の精霊を救えないかと考えた。
昼食前、人気の無い場所まで歩き、周囲を確認した後、ラ=ヴィアと相談した。
ここは宿舎の外れの、滅多に人が来る事の無い……若い聖樹がある場所だ。
「ラ=ヴィア。君は魔霊の存在を知っていたか?」
実体化したラ=ヴィアが首を振った。
「私は、しらない。いつのまに……そんなものが」
「……黒いプレートか。実際に見れば、浄化できるか否か分かるんだが……すぐ破壊、という口ぶりだったよな。つまり核を破壊できるまで弱っていると言う事だ。精霊の核は精霊剣でなければ壊せないし、核がなくなると、精霊はすぐ死んでしまう。プレートに収めるのは『邪霊』が出ない様にするためか? 酷い事もあったものだ……」
「……ほんとうに……シオウの村をおそった子も、もとは精霊だったんでしょう?」
ラ=ヴィアが悲しげに目を細めて、うつむいた。
「かわいそうに……」
ラ=ヴィアの目から涙がこぼれ、落ちた涙は結晶になった。
プラグはラ=ヴィアの肩を支えた。
「ラ=ヴィア、泣かないでくれ。これから考えよう。きっと方法はある。この大陸にいま俺と君がいるんだ。目を開けた以上は、背ける事はできない」
ラ=ヴィアは頷いた。
「……主、主の力でなんとかできる?」
「……分からない。精霊に戻ればあるいはと思うが……仕組みを理解して、新しい方法を造らないと。でも嘘と水鏡か……これでなんとかなるものか……? アメルがいたら……鏡……それでも難しいか。ラ=ヴィアはどう思う?」
「『浄化』は? アリア=エルタ。私が鏡にうつして、アリアが浄化する」
「いい方法だが……それでも足りないと思う。核が壊されて、魂(レフル)が無くなって、抜け殻になっているなら……魂(レフル)を探して、呼び戻すのは、俺だけでは難しい。アリアは今どこに居るんだろう。浄化の精霊石はあるけど、本人の話は聞かないな。リーオ隊長なら知ってるかな。巫女長とも相談したいところだけど……さすがに無理か……?」
プラグは立ち上がった。
アルスが来る気配があったからだ。
「プラグ、どこー? ご飯、食べ損ねるわよ」
「ああ、今行く! じゃあ、ラ=ヴィア」
『み』
ラ=ヴィアは頷き、霊体に戻った。
『まず、ごはん、いそげ!』
「そうだな」
プラグは苦笑した。
■ ■ ■
午後からは通常通りの鍛練で、あっと言う間に日が暮れた。
今日からは走り込みが無いので、拍子抜けしている。
(――こんな事では、駄目だな……)
倒すべきは魔霊となると、対人戦闘の技術がどこまで役に立つか。
そのうち手加減、擬態なんて言っていられなくなるだろう。
プラグは自主鍛練をしようかと思ったが、一応、する前に聞いた方が良いだろう。
何はともあれ夕食だ。
「フィニー、この後、ちょっと良いか」
プラグが先に来ていたフィニーに話し掛けると、フィニーが固まった。
「え。なに……?」
青ざめた様子で言うので、プラグは面食らった。
「いや……この前の、シオウの件で」
「ああ、うんそれか。そんなの、もういいよ。僕が多分悪かったんだし。気にしてないし?」
と言った瞬間、シオウが食器を、大きな音を立てて置いた。
フィニーが固まる。
「げ……怒ってる?」
フィニーは悪い奴では無いのだが、どうも口が軽いというか。配慮が足りないというか。
「一応聞いたんだが、話して貰えなくて。……この件は、諦めた方がいいかもな。シオウに言う気がないみたいだから。力になれなくてすまないな。君も、おかしな話は程々に」
「ううん。全然。止めてくれて助かったよ」
「ところで、少し話したいコトがあるから、顔かしてくれ」
プラグは、あれ? この言い方で良かったか? と思いながら微笑んだ。
「ひぃい」
「あ、違う違う大した事じゃ無い」
「じゃあここで言って」
「いやここではちょっと……」
「ええ……?」
「とりあえず食べよう」
食後、食堂の外でフィニーと立ち話した。
「少し気になったんだが、もしかして、聖女教会の巫女長ってフィニーの血縁か?」
「ん? 巫女長……ああうん。何、惚れたの?」
「いやそうじゃない。この前、妹がお世話になったから、お礼に行こうかと」
「エッ! それってつまり? 惚れたの? っていうか妹!? 君、妹がいるのーッ!?」
フィニーの大声に、ちょうど出て来た男子三人が立ち止まった。
「お前妹いるのか?」「えっ意外」「へぇ」
と何故か皆、興味津々だ。
「えっ、絶っ対可愛いよね!? どんな子!?」
プラグは聞く相手を間違えた……と思った。だがこれは良い機会かと思い、伝える事にした。
「双子の妹だから、俺に似てる。それはいいとして、明日、妹と一緒に、教会に行くんだが。フィニーと親戚? とかなら、様子を伝えようかと思って……」
一緒に行く予定は無かったが、ラ=ヴィアにプラグの姿を映してもらう手もある。
この辺りで別人と認識してもらえば、これから動きやすくなる。
「双子!? ああ、そうなんだ。一番上の姉さんだけど。よく分かったね。あ、目の色か。でも本妻の子供だから、たまに口うるさい手紙寄越すくらいだよ」
「親しいんだな」
「まあ、そうと言えばそうかな。あ。俺の様子を伝えるなら『真面目にやってる!』って伝えてくれる?」
プラグはそれはどうだろう、と思った。候補生に手を出している様子はないのだが。声は掛けているし、休日は必ず逢い引きしているらしい。
「……善処する……思ったより真面目にやってる、とかでいいか? 君は会いに行かないのか? 一緒に行ってもいいんだが」
「うーん。ごめん、女の子と約束があるから。あ、でも妹は紹介してね」
「……」
プラグは頭を押さえた。
巫女長との会話の糸口になればと思ったのだが――完全に、余計な相談をしてしまった。
■ ■ ■
やはり頼るべきはリーオだった。
「巫女長は居るそうだ。特に予定はないらしいが、毎日の礼拝があるので、午後二時頃からが助かると。それで良ければ明日の朝、伝えておく」
リーオは、食後まもなく、態々部屋に伝えに来てくれた。
「ありがとうございます。ついでに少し相談したい事があるので。帰りは少し遅くなるかもしれません。ところで、リーオさんは、浄化のプレートがどこにあるか知っていますか? 赤でなくて、精霊がいる方の銀プレートの『アリア=エルタ』です」
「浄化か。ああ、あれなら、確か国王陛下が持っていたはずだ」
「え……この国の?」
プラグは驚いた。意外に近いが、意外に面倒な人物が持っていた。
「ああ。だから我が国では浄化石が手に入りやすい。そのうち授業で、主要なプレートの持ち主を勉強するが、何かあったのか?」
「いえ……混み入った話なので。ちょっと……廊下で」
プラグは部屋を出て、廊下で話した。
「あの。これは単なる興味なんですが。今日話に出た、黒いプレートはどこかに保管されていますか? 壊すと言っていましたが、プレート自体に害が無いなら、研究用等に」
「……機密だな」
「あ。そうか。そうですね。なら良いです。図書館に寄って帰ると思うので、遅くなります」
するとリーオがうろんな目をした。
「予定が増えたな。何か企んでいるのか?」
「いえ、そんな事は」
「……何を調べるつもりだ?」
「……この国の歴史をー……」
リーオの目には『怪しい』と書いてある。
「それと浄化が何の関係がある? ――ん……まさか?」
リーオは言って気が付いたらしい。眉を顰めて、プラグを見て来た。
「……来なさい」
プラグはあえなく連行された。
■ ■ ■
「これはただの疑問なんですが、黒いプレートは、浄化できないんですか?」
プラグは連れて来られた図書室で、あくまで、一候補生としての質問をした。
二人は窓際の机に向かい会って座っている。
ラ=ヴィアも当然のごとく霊体だが、同じ部屋にいる。
「……その質問をすると言う事は、何か、算段があるのか?」
リーオが言った。
「いえ……純粋な興味です。黒いプレートがあれば珍しいから、見てみたいな、という」
「……教会のすぐ裏に、プレートの管理・製造・研究施設がある。そこでは研究者もいて、プレートの謎を解明せんと日夜努力している。黒いプレートは教会に一枚保管されているが。結界の中にある。下手に触るのは、止せ。以前の二の舞になったら、分かるな? お前は討伐される」
リーオは淡々と告げた。
以前の、というのはラ=ヴィアの件だ。
「……そうですか……管理は巫女長が?」
「それを知ってどうする?」
「……出来る事なら」
プラグは迷い。迷って、迷って。言葉を発した。
「仲間ですから。助けたいんです。難しい事ですが」
リーオが、プラグを、殺気の籠もった目で睨んだ。
「……それを聞いて、行かせると思うか?」
「思いません」
プラグは溜息を吐いた。
「けれど、俺達がやらなければ。誰もできないでしょう」
プラグの背後で、ラ=ヴィアが頷いた。
プラグの言葉に、リーオが息を吐く。
「お前は何の精霊だ? どいつもこいつも、ラ=ヴィアに怯えて口を開かない」
「ラ=ヴィアは怒ると怖いから……」
隣を見ると、ラ=ヴィアが『こいつ、今、きらいになった』と言う顔をしていた。
「俺が何の精霊かは、今は……あるいはずっと、言う事はできません」
プラグが言うと、リーオは、眉を顰めて。
「それでいいのか?」
と不思議な事を言った。
「お前はそれでいいのか? それで、この騎士団に入って人助けをして、それでいいのか? 人として暮らして、それでいいのか? ――まだ、精霊として自由に生きた方がましだと思うが。そこまでして人の振りをする目的があるのか?」
リーオというのは、さすが隊長だけあって、聡明な人物らしい。
「目的……は内緒です」
プラグは埒があかないと思った。これで外出禁止になってしまったら。巫女長にお礼を言う事もできない。
「……」
リーオが腕を組む。彼もきっと、埒があかないと思っているだろう。
プラグは仕方無い、と諦める事にした。
「では直接、リズ隊長に掛け合います。明日は、お礼と図書館だけにします」
「――」
するとリーオが。短い息を吐いた。
「運の良い奴だ。明日の朝。隊長が戻られる――隊長同伴なら、外出を許可しよう。浄化の方法は、我々も探っているが、それがお前にできるのか?」
■ ■ ■