演者とクリエイター

ー/ー



「私をバズらせる?」

 どゆこと? と小首を傾げるその姿を、不覚にも可愛らしいと思ってしまう。これしきのことでいちいち感情を揺さぶられてはいけないと自分に言い聞かせて、僕は一つ咳払いをする。

「まず阿鷹の動画を撮って投稿する」


「うん」

「バズるまでそれを続ける」

「うん?」

「バズることで阿鷹を有名人にして、唯一無二のカリスマ性を付与させる。求心力を取り戻した阿鷹は一躍人気者に返り咲くっていう算段」

「うーん……」

 相槌が最終的には唸りとなってしまった。阿鷹瑚春はわかりやすく難しい顔をしている。僕の言ったことを脳内で要約しているんだろうけれど、残念ながら僕が思い描いている方針をこれ以上平易な表現で伝えることは不可能だった。

「なんだかすごい夢物語みたいに聞こえたんだけど」
 と阿鷹瑚春は僕を非難するような表情を浮かべている。

「だから言っただろ、方法じゃなくて方針だって」

「じゃあ、具体的なことについてはこれから考えるってこと?」

「一応、俺の中でもう少しだけ具体的な方針は固めてある。けど、その前に確認しときたいことがある」

「確認って?」

「阿鷹はこの前、自分の顔が世間に出回ることに特に抵抗はないって言ったよな」

「言ったけど」

「じゃあ、ネット上のバズりによってある程度有名人になる覚悟はできてるか?」

「……てがみ君、もしかして本気で言ってるの?」

「俺は最初から本気だ」

 ドラマなんかでよくある、疑問に対して食い気味に即答するやつ、それが綺麗に決まった。けれど、阿鷹瑚春は険しい表情を崩さない。

「てがみ君、ショート動画とか観ないって前に言ってなかった?」

「この前阿鷹と別れてから初めてアプリをインストールした」

 はあ、と阿鷹瑚春はあからさまなため息をついた。
「そんな人が一体どうやって私をバズらせてくれるの?」

 彼女は落胆しているように見えた。こんなやつの相手なんかするんじゃなかった、と今にもベンチから立ち上がってしまいそうだった。その展開だけは避けたい一心で、僕は彼女に褒められた自分の言語化能力を最大限に発揮しようと努めた。

「動画は一日かけて浴びるほど観た。それからコンテンツ作成の手順とバズりの条件や要素なんかを調べられる限り調べた。その上で断言してやる。きちんとコンセプトを固めて、阿鷹のビジュアルを前面に押し出したそれなりのクオリティの動画をコンスタントに投下していったら、おそらくバズることはできる」

 言ってしまえば、これは阿鷹瑚春という最上級の原石を磨いて加工し、その価値を世に問うという、それだけの作業だった。

 阿鷹瑚春は、可愛くて魅力的な十六歳の女の子。それは髪色がエキセントリックであろうと不変の事実だ。ショート動画というコンテンツの主役を張れるだけの華やかさを、彼女は間違いなく備えている。

「こないだも言ったけど、可愛い子が踊ったりしてる動画なんて本当にありふれてるんだよ」

 嘆息混じりに、阿鷹瑚春は呟く。
「ああ。阿鷹クラスの可愛い子が踊ったり寸劇したりよくわからん街角インタビュー受けてたりする動画を死ぬほど観た。でも、そういった子たちのほとんどは自主的にコンテンツを作ってるわけじゃなかった」

「どういうこと?」

「彼女たちは基本的に演者であって、コンテンツを作り出すクリエイターじゃないってことだ」

「でも、中にはプレイングマネージャーみたいな子だっているんじゃないの?」

「そうだ。で、そういうアカウントはやっぱり伸びやすい」

「うんうん」

「大事なのは、企画力と継続力だ。これは俺の推測だけど、きちんと系統立ててプランを考えて、戦略的にバズりにいくやつっていうのは、きっとそこまで多くないんだと思う。ましてや阿鷹くらいのビジュアルになってくると、承認欲求みたいなのはそこまで肥大していないだろうから、バズりに対する執着もない」

「だから、私みたいに可愛い子が本気でバズろうと思ったらバズれるってこと?」

 あけすけすぎて、いっそ気持ちがいい物言いだった。

「そこまで簡単に言うつもりはないけど、決して非現実的な夢物語なんかじゃないと思ってる」

 僕がそう言うと、阿鷹瑚春は「うー」と膝を抱え込むようにして俯いてしまう。次に顔を上げたとき、彼女と正面から視線がかち合ってしまう。反射的に目を逸らしてしまいそうになったけれど、どうにかこらえてその眼を見つめる。

「まずいなあ。なんか私、簡単にてがみ君の口車に乗っちゃいそうなんだけど」

 どこか投げやりに聞こえる言葉だったけれど、僕は不思議と、彼女の本心に眠る恐怖心や、ことに対する真剣なまでの執着の片鱗を感じとった。思わぬタイミングで彼女が隠し通そうとしていたなにかを覗き見てしまったような気がして、僕はなんだか落ち着かない気持ちになってしまう。

「とにかく、俺のプランは阿鷹瑚春という美少女を素材にみんなが注目するような動画を作って公開して一山当てて、有名人に仕立て上げることで格上げを狙うっていうものだ。そしたら返り咲くどころか、スクールカーストのトップオブトップになってるだろうよ」

「すごい、なんだかさっきより説得力感じるかも」

 具体的なことはやっぱり決まってないのに、と文句を垂れながらも、阿鷹瑚春はどこか楽しげに笑っていた。僕の拙いプレゼンは、どうやら一定の成功を収めたようだった。


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みんなのリアクション

「私をバズらせる?」
 どゆこと? と小首を傾げるその姿を、不覚にも可愛らしいと思ってしまう。これしきのことでいちいち感情を揺さぶられてはいけないと自分に言い聞かせて、僕は一つ咳払いをする。
「まず阿鷹の動画を撮って投稿する」
「うん」
「バズるまでそれを続ける」
「うん?」
「バズることで阿鷹を有名人にして、唯一無二のカリスマ性を付与させる。求心力を取り戻した阿鷹は一躍人気者に返り咲くっていう算段」
「うーん……」
 相槌が最終的には唸りとなってしまった。阿鷹瑚春はわかりやすく難しい顔をしている。僕の言ったことを脳内で要約しているんだろうけれど、残念ながら僕が思い描いている方針をこれ以上平易な表現で伝えることは不可能だった。
「なんだかすごい夢物語みたいに聞こえたんだけど」
 と阿鷹瑚春は僕を非難するような表情を浮かべている。
「だから言っただろ、方法じゃなくて方針だって」
「じゃあ、具体的なことについてはこれから考えるってこと?」
「一応、俺の中でもう少しだけ具体的な方針は固めてある。けど、その前に確認しときたいことがある」
「確認って?」
「阿鷹はこの前、自分の顔が世間に出回ることに特に抵抗はないって言ったよな」
「言ったけど」
「じゃあ、ネット上のバズりによってある程度有名人になる覚悟はできてるか?」
「……てがみ君、もしかして本気で言ってるの?」
「俺は最初から本気だ」
 ドラマなんかでよくある、疑問に対して食い気味に即答するやつ、それが綺麗に決まった。けれど、阿鷹瑚春は険しい表情を崩さない。
「てがみ君、ショート動画とか観ないって前に言ってなかった?」
「この前阿鷹と別れてから初めてアプリをインストールした」
 はあ、と阿鷹瑚春はあからさまなため息をついた。
「そんな人が一体どうやって私をバズらせてくれるの?」
 彼女は落胆しているように見えた。こんなやつの相手なんかするんじゃなかった、と今にもベンチから立ち上がってしまいそうだった。その展開だけは避けたい一心で、僕は彼女に褒められた自分の言語化能力を最大限に発揮しようと努めた。
「動画は一日かけて浴びるほど観た。それからコンテンツ作成の手順とバズりの条件や要素なんかを調べられる限り調べた。その上で断言してやる。きちんとコンセプトを固めて、阿鷹のビジュアルを前面に押し出したそれなりのクオリティの動画をコンスタントに投下していったら、おそらくバズることはできる」
 言ってしまえば、これは阿鷹瑚春という最上級の原石を磨いて加工し、その価値を世に問うという、それだけの作業だった。
 阿鷹瑚春は、可愛くて魅力的な十六歳の女の子。それは髪色がエキセントリックであろうと不変の事実だ。ショート動画というコンテンツの主役を張れるだけの華やかさを、彼女は間違いなく備えている。
「こないだも言ったけど、可愛い子が踊ったりしてる動画なんて本当にありふれてるんだよ」
 嘆息混じりに、阿鷹瑚春は呟く。
「ああ。阿鷹クラスの可愛い子が踊ったり寸劇したりよくわからん街角インタビュー受けてたりする動画を死ぬほど観た。でも、そういった子たちのほとんどは自主的にコンテンツを作ってるわけじゃなかった」
「どういうこと?」
「彼女たちは基本的に演者であって、コンテンツを作り出すクリエイターじゃないってことだ」
「でも、中にはプレイングマネージャーみたいな子だっているんじゃないの?」
「そうだ。で、そういうアカウントはやっぱり伸びやすい」
「うんうん」
「大事なのは、企画力と継続力だ。これは俺の推測だけど、きちんと系統立ててプランを考えて、戦略的にバズりにいくやつっていうのは、きっとそこまで多くないんだと思う。ましてや阿鷹くらいのビジュアルになってくると、承認欲求みたいなのはそこまで肥大していないだろうから、バズりに対する執着もない」
「だから、私みたいに可愛い子が本気でバズろうと思ったらバズれるってこと?」
 あけすけすぎて、いっそ気持ちがいい物言いだった。
「そこまで簡単に言うつもりはないけど、決して非現実的な夢物語なんかじゃないと思ってる」
 僕がそう言うと、阿鷹瑚春は「うー」と膝を抱え込むようにして俯いてしまう。次に顔を上げたとき、彼女と正面から視線がかち合ってしまう。反射的に目を逸らしてしまいそうになったけれど、どうにかこらえてその眼を見つめる。
「まずいなあ。なんか私、簡単にてがみ君の口車に乗っちゃいそうなんだけど」
 どこか投げやりに聞こえる言葉だったけれど、僕は不思議と、彼女の本心に眠る恐怖心や、《《返り咲く》》ことに対する真剣なまでの執着の片鱗を感じとった。思わぬタイミングで彼女が隠し通そうとしていたなにかを覗き見てしまったような気がして、僕はなんだか落ち着かない気持ちになってしまう。
「とにかく、俺のプランは阿鷹瑚春という美少女を素材にみんなが注目するような動画を作って公開して一山当てて、有名人に仕立て上げることで格上げを狙うっていうものだ。そしたら返り咲くどころか、スクールカーストのトップオブトップになってるだろうよ」
「すごい、なんだかさっきより説得力感じるかも」
 具体的なことはやっぱり決まってないのに、と文句を垂れながらも、阿鷹瑚春はどこか楽しげに笑っていた。僕の拙いプレゼンは、どうやら一定の成功を収めたようだった。