2.
ー/ー
「……んん。……んー、ん? ……うわあああああ!」
起床時刻は午前六時。のはずがその七分前の今、俺は驚きで布団から跳び上がっていた。
「触んな!!!」
安らぎのまどろみの中、ぬくもりのある布団の柔らかさを感じながら爽やかな朝の目覚めを待っている俺の顔に、何かがさらさらと当たっていた。
意志のあるような、ないようなそれは細い糸のような不揃いな束で、肌をさらさらと撫でたかと思えば、時折ちくちくと不快な感触に変わる。その不快感が勝ち、目を開けて確認した俺は、それがなんであるかわかると同時に跳ね起きたのだ。
昨日の、あの髪の毛である。
「まだあと七分寝れたじゃねえかよ」
スマホを確認した俺はイライラとあいつに向かって言った。俺の寝ているロフトの天井付近に後頭部があり、そこから俺の顔があったあたりにとぐろを巻くような形で髪の毛がゆらゆらと動いていた。
「……短くね?」
後頭部から垂れ下がる髪の毛を忌々しく眺めていると、昨日と長さの違うことに俺は気がついた。昨日の髪の毛はロフトから階下に届いて少し余るくらいの長さがあった。それが今では、ロフトの天井から俺の枕元までの高さしかない。
「いや、だとしてもどけよ」
短くなっているからなんだって言うんだ。俺の安眠枕に得体の知れない、衛生的にもよくわらない髪の毛が触れていると思うとぞわぞわと鳥肌が立った。純粋に気持ちが悪い。
「そうそう、その辺でじっとしとけ」
やはり、俺の言葉が理解できるのだろう。後頭部はするすると滑らかに動き、ロフトの階段付近へと移動した。ひとまず、俺の安全圏からいなくなったことに安堵する。
さて、どうしたものか。昨日に引き続き、これは現れた。目的や意図がまるでわからない。心当たりも当然ない。そもそも俺はオカルトの類は信じていないのだ。令和のこの時代にこんな非科学的なことが存在してたまるか。
ピピピピピ―――。
考えていると六時のアラームが鳴った。起床の時間だ。
「とにかく、俺の毎日の邪魔をするな」
後頭部に向かって言うと、ぶるぶると小刻みに震えた。それが肯定なのか、否定なのかはわからない。が、昨日みたいにヘドバンするでもなく、ただバイブレーションのように震えているだけだった。
動かなそうなのを確認した俺はロフトから降り、支度をするためあいつのことを考えないよう努めた。
「おはようございます。時刻は六時十分になりました。今朝のニュースです」
そう、今は朝なのだ。一日の始まりなんだ。つけたテレビが現実を突きつけてくれる。軽くシャワーを浴び、手早く着替えを済ませ、コーヒーを淹れ、リビングで寛ぎ、スマホでニュースや流行りのトピックスをなんとなく眺める。そんないつも通りの朝。
「はぁ……」
だが、視界の隅には常にあのぶるぶると震えている髪の毛が見えている。
そのうち消えるさ。消えるというか、俺の妄想や白昼夢かもしれないし。仕事で疲れて見ている幻覚の可能性だってある。だから、やっぱり考えないようにするべきだ。どっちにしたって、考えたって仕方がないのだから。
俺は自分自身にそう言い聞かせ、改めて日常を意識した。
しかしこの日から、俺の目覚めはこれがスタンダードになった。
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
おすすめ作品を読み込み中です…
この作品と似た作品
似た傾向の作品は見つかりませんでした。
この作品を読んだ人が読んでいる作品
読者の傾向からおすすめできる作品がありませんでした。
おすすめ作品は現在準備中です。
おすすめ作品の取得に失敗しました。時間をおいて再度お試しください。
「……んん。……んー、ん? ……うわあああああ!」
起床時刻は午前六時。のはずがその七分前の今、俺は驚きで布団から跳び上がっていた。
「触んな!!!」
安らぎのまどろみの中、ぬくもりのある布団の柔らかさを感じながら爽やかな朝の目覚めを待っている俺の顔に、何かがさらさらと当たっていた。
意志のあるような、ないようなそれは細い糸のような不揃いな束で、肌をさらさらと撫でたかと思えば、時折ちくちくと不快な感触に変わる。その不快感が勝ち、目を開けて確認した俺は、それがなんであるかわかると同時に跳ね起きたのだ。
昨日の、あの髪の毛である。
「まだあと七分寝れたじゃねえかよ」
スマホを確認した俺はイライラとあいつに向かって言った。俺の寝ているロフトの天井付近に後頭部があり、そこから俺の顔があったあたりにとぐろを巻くような形で髪の毛がゆらゆらと動いていた。
「……短くね?」
後頭部から垂れ下がる髪の毛を忌々しく眺めていると、昨日と長さの違うことに俺は気がついた。昨日の髪の毛はロフトから階下に届いて少し余るくらいの長さがあった。それが今では、ロフトの天井から俺の枕元までの高さしかない。
「いや、だとしてもどけよ」
短くなっているからなんだって言うんだ。俺の安眠枕に得体の知れない、衛生的にもよくわらない髪の毛が触れていると思うとぞわぞわと鳥肌が立った。純粋に気持ちが悪い。
「そうそう、その辺でじっとしとけ」
やはり、俺の言葉が理解できるのだろう。後頭部はするすると滑らかに動き、ロフトの階段付近へと移動した。ひとまず、俺の安全圏からいなくなったことに安堵する。
さて、どうしたものか。昨日に引き続き、これは現れた。目的や意図がまるでわからない。心当たりも当然ない。そもそも俺はオカルトの類は信じていないのだ。令和のこの時代にこんな非科学的なことが存在してたまるか。
ピピピピピ―――。
考えていると六時のアラームが鳴った。起床の時間だ。
「とにかく、俺の毎日の邪魔をするな」
後頭部に向かって言うと、ぶるぶると小刻みに震えた。それが肯定なのか、否定なのかはわからない。が、昨日みたいにヘドバンするでもなく、ただバイブレーションのように震えているだけだった。
動かなそうなのを確認した俺はロフトから降り、支度をするためあいつのことを考えないよう努めた。
「おはようございます。時刻は六時十分になりました。今朝のニュースです」
そう、今は朝なのだ。一日の始まりなんだ。つけたテレビが現実を突きつけてくれる。軽くシャワーを浴び、手早く着替えを済ませ、コーヒーを淹れ、リビングで寛ぎ、スマホでニュースや流行りのトピックスをなんとなく眺める。そんないつも通りの朝。
「はぁ……」
だが、視界の隅には常にあのぶるぶると震えている髪の毛が見えている。
そのうち消えるさ。消えるというか、俺の妄想や白昼夢かもしれないし。仕事で疲れて見ている幻覚の可能性だってある。だから、やっぱり考えないようにするべきだ。どっちにしたって、考えたって仕方がないのだから。
俺は自分自身にそう言い聞かせ、改めて日常を意識した。
しかしこの日から、俺の目覚めはこれがスタンダードになった。