Regeneration【V】④
ー/ー ◇ ◇ ◇
「ごきげんよう、お父様」
「ああ、ヴァイオレット。……お前、いくつになった?」
「二十二歳です」
数日ぶりに顔を合わせた父に問われ、答える。
「もう二十二、か」
この家に来て、──『ヴァイオレット』になって六年が過ぎた。
その間レティは、ほとんどこの屋敷から出たことはなかった。当然、学校にも通っていない。学業も良家の娘としての嗜みの習い事も、それぞれ専門の家庭教師がついていた。
外出するのは、どうしても避けられない社交の場のみだった。
家としての付き合いで必須なパーティに出席しても、ぴったりと張り付いた侍女に何もかも任せておけばいい。
「ヴァイオレット様は毅然となさって、決して隙など見せられませんようただ微笑んでいらしてくださいませ。上流のお嬢様は、軽薄にお話しになる必要はございません」
執事やメイド頭に言い含められた通り、パーティでは侍女が取り仕切ってくれた。
促されたときだけ、名を名乗り簡単な挨拶をする。
威厳は崩さないよう、レティには無縁だが尊大にはなりすぎないよう。
ただこれはレティがお飾りの人形だからではなく、そういう「御令嬢」は実は珍しくないというのも今は知っている。
自分が家を存続させるための部品でしかないと、この六年で十分すぎるくらいに学んだ。
レティには、自らカーライル家を継ぐことなど初めから期待されていなかった。
おそらくは、レティとオリジナルの『ヴァイオレット』との最も明確な違いはその部分だ。
だからこそ父は、レティに学業の家庭教師をつけることにはあまり乗り気ではなかったという。
自主的に考えて行動することなど望まれていない複製には無意味だ、という考えが根底にあったのだろう。
それをキャロラインが「名家の御令嬢としての品位や言動には、学問的な知識も影響いたします」と翻意を促してくれたというのものちに聞くことになった。
結局のところ、父の決めたこの家に似つかわしい相手と結婚して、子を為す。
レティの役目はただそれだけだ。
人間になった今も変わらず、所詮『人形』に過ぎない。
それなのに未だ縁談の話さえ出ないのは、やはり後ろ暗い出自のせいだろうか。
たった一つの「役目」を果たせないなら、レティが生きてここにいる意味はいったい何なのだろう。
「ごきげんよう、お父様」
「ああ、ヴァイオレット。……お前、いくつになった?」
「二十二歳です」
数日ぶりに顔を合わせた父に問われ、答える。
「もう二十二、か」
この家に来て、──『ヴァイオレット』になって六年が過ぎた。
その間レティは、ほとんどこの屋敷から出たことはなかった。当然、学校にも通っていない。学業も良家の娘としての嗜みの習い事も、それぞれ専門の家庭教師がついていた。
外出するのは、どうしても避けられない社交の場のみだった。
家としての付き合いで必須なパーティに出席しても、ぴったりと張り付いた侍女に何もかも任せておけばいい。
「ヴァイオレット様は毅然となさって、決して隙など見せられませんようただ微笑んでいらしてくださいませ。上流のお嬢様は、軽薄にお話しになる必要はございません」
執事やメイド頭に言い含められた通り、パーティでは侍女が取り仕切ってくれた。
促されたときだけ、名を名乗り簡単な挨拶をする。
威厳は崩さないよう、レティには無縁だが尊大にはなりすぎないよう。
ただこれはレティがお飾りの人形だからではなく、そういう「御令嬢」は実は珍しくないというのも今は知っている。
自分が家を存続させるための部品でしかないと、この六年で十分すぎるくらいに学んだ。
レティには、自らカーライル家を継ぐことなど初めから期待されていなかった。
おそらくは、レティとオリジナルの『ヴァイオレット』との最も明確な違いはその部分だ。
だからこそ父は、レティに学業の家庭教師をつけることにはあまり乗り気ではなかったという。
自主的に考えて行動することなど望まれていない複製には無意味だ、という考えが根底にあったのだろう。
それをキャロラインが「名家の御令嬢としての品位や言動には、学問的な知識も影響いたします」と翻意を促してくれたというのものちに聞くことになった。
結局のところ、父の決めたこの家に似つかわしい相手と結婚して、子を為す。
レティの役目はただそれだけだ。
人間になった今も変わらず、所詮『人形』に過ぎない。
それなのに未だ縁談の話さえ出ないのは、やはり後ろ暗い出自のせいだろうか。
たった一つの「役目」を果たせないなら、レティが生きてここにいる意味はいったい何なのだろう。
みんなのリアクション
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◇ ◇ ◇
「ごきげんよう、お父様」
「ああ、ヴァイオレット。……お前、いくつになった?」
「二十二歳です」
数日ぶりに顔を合わせた父に問われ、答える。
「もう二十二、か」
この家に来て、──『ヴァイオレット』になって六年が過ぎた。
その間レティは、ほとんどこの屋敷から出たことはなかった。当然、学校にも通っていない。学業も良家の娘としての嗜みの習い事も、それぞれ専門の家庭教師がついていた。
外出するのは、どうしても避けられない社交の場のみだった。
家としての付き合いで必須なパーティに出席しても、ぴったりと張り付いた侍女に何もかも任せておけばいい。
「ヴァイオレット様は毅然となさって、決して隙など見せられませんようただ微笑んでいらしてくださいませ。上流のお嬢様は、軽薄にお話しになる必要はございません」
執事やメイド頭に言い含められた通り、パーティでは侍女が取り仕切ってくれた。
促されたときだけ、名を名乗り簡単な挨拶をする。
威厳は崩さないよう、レティには無縁だが尊大にはなりすぎないよう。
ただこれはレティがお飾りの人形だからではなく、そういう「御令嬢」は実は珍しくないというのも今は知っている。
自分が家を存続させるための|部品《ピース》でしかないと、この六年で十分すぎるくらいに学んだ。
レティには、自らカーライル家を継ぐことなど初めから期待されていなかった。
おそらくは、レティとオリジナルの『ヴァイオレット』との最も明確な違いはその部分だ。
だからこそ父は、レティに学業の家庭教師をつけることにはあまり乗り気ではなかったという。
自主的に考えて行動することなど望まれていない|複製《道具》には無意味だ、という考えが根底にあったのだろう。
それをキャロラインが「名家の御令嬢としての品位や言動には、学問的な知識も影響いたします」と翻意を促してくれたというのものちに聞くことになった。
結局のところ、父の決めたこの家に似つかわしい相手と結婚して、子を為す。
|レティ《クローン》の役目はただそれだけだ。
人間になった今も変わらず、所詮『人形』に過ぎない。
それなのに未だ縁談の話さえ出ないのは、やはり後ろ暗い《《出自》》のせいだろうか。
「ごきげんよう、お父様」
「ああ、ヴァイオレット。……お前、いくつになった?」
「二十二歳です」
数日ぶりに顔を合わせた父に問われ、答える。
「もう二十二、か」
この家に来て、──『ヴァイオレット』になって六年が過ぎた。
その間レティは、ほとんどこの屋敷から出たことはなかった。当然、学校にも通っていない。学業も良家の娘としての嗜みの習い事も、それぞれ専門の家庭教師がついていた。
外出するのは、どうしても避けられない社交の場のみだった。
家としての付き合いで必須なパーティに出席しても、ぴったりと張り付いた侍女に何もかも任せておけばいい。
「ヴァイオレット様は毅然となさって、決して隙など見せられませんようただ微笑んでいらしてくださいませ。上流のお嬢様は、軽薄にお話しになる必要はございません」
執事やメイド頭に言い含められた通り、パーティでは侍女が取り仕切ってくれた。
促されたときだけ、名を名乗り簡単な挨拶をする。
威厳は崩さないよう、レティには無縁だが尊大にはなりすぎないよう。
ただこれはレティがお飾りの人形だからではなく、そういう「御令嬢」は実は珍しくないというのも今は知っている。
自分が家を存続させるための|部品《ピース》でしかないと、この六年で十分すぎるくらいに学んだ。
レティには、自らカーライル家を継ぐことなど初めから期待されていなかった。
おそらくは、レティとオリジナルの『ヴァイオレット』との最も明確な違いはその部分だ。
だからこそ父は、レティに学業の家庭教師をつけることにはあまり乗り気ではなかったという。
自主的に考えて行動することなど望まれていない|複製《道具》には無意味だ、という考えが根底にあったのだろう。
それをキャロラインが「名家の御令嬢としての品位や言動には、学問的な知識も影響いたします」と翻意を促してくれたというのものちに聞くことになった。
結局のところ、父の決めたこの家に似つかわしい相手と結婚して、子を為す。
|レティ《クローン》の役目はただそれだけだ。
人間になった今も変わらず、所詮『人形』に過ぎない。
それなのに未だ縁談の話さえ出ないのは、やはり後ろ暗い《《出自》》のせいだろうか。
たった一つの「役目」を果たせないなら、レティが生きてここにいる意味はいったい何なのだろう。