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第4章・第12話

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 向陽学院の理事長を務めているという山本との出会いで、私の人生は、世界が広がったと言える。
 陳腐なたとえだが、その後に体験したことを考えると、この表現がピッタリだった。

 まだ、父の経営していた会社が順調だった頃に、家族で洒落た店のディナーに出掛けたことは何度かあったけど……。

 個室で提供される懐石料理や、高級ホテルの最上階のラウンジ、クルーズ船でのディナーは未成年の私が足を踏み入れることのなかった場所で、そこには、父が会社が傾いた後では、自分たちの家庭環境では望むべくもない世界が広がっていた。
 そこで目にしたものをスマホで撮影し、SNSでアップロードすると、面白いように閲覧数や、いいねの数が伸びる。

 さいわい、それらの投稿は、偽名を使った裏アカウントで行っていたので、大学の学部や部活の仲間たちに自分の投稿が特定されることはなかった。このことが、あとになって自分の活動に大きく影響することになる。

 もちろん、山本とは、いわゆるオトナの関係ではあったが、彼は他のパパたちと違って、あまりガツガツと私のカラダを求めてくることはなかった。ただ、ときどき、

「渚の投稿は、ヒトを引き付ける要素があるね。同年代の女の子たちも憧れるんじゃないかな?」

と、特別に工夫をしている覚えのない私のSNSの投稿を誉めてくれた。

 その言葉のとおり、自分の撮影した写真には、同性と思われるアカウントからも、

「憧れます!」
「わたしも行ってみたい!」

というコメントがたくさん付いたりして、それらの投稿を見ていたのか、ある日、山本がこんな提案をしてきた。

「渚、キミの投稿する世界に憧れている子たちも多いみたいだ。どうだろう、彼女たちと連絡を取って、僕たちに紹介してくれないか?」

 私は、その提案をなんの疑いもなく受け入れ、交際クラブのサイトを介さずに山本たちにフォロワーの女性たちを紹介した。

 それが、私の人生の二度目の転機になったとも言える――――――。

 私のフォロワーの一人は、山本たちと知り合ってからしばらくして、こんなことを言っていた。

「この世界を知ってから、お金をもらわないでオトコの人と会ったり、肉体関係を持つのってバカバカしくなっちゃいました。ちょっと、ありえないっていうか――――――。どれだけイケメンでも、好きな人でも、カラダの関係になるなら、お金が欲しい。そもそも、自分はアレが好きじゃないんで……相手が満たされるだけの行為が無償なんてありえなくないですか? なんで、相手にタダでさせちゃってたんだろう? って、目が覚めちゃいました」

 悪びれることもなく、こんなことを言う相手に、私は共感するところがありながらも、こんな道に引きずり込んでしまったことに対する複雑な感情から苦笑するより、ほかはなかった。

 ただ、しばらくして、事態に変化が訪れる。
 
 山本は、私が紹介した女の子たちをこれまでどおり、懐石料理の店や、高級ホテルの最上階のラウンジ、クルーズ船でのディナーに連れて行ったあと、大手企業や自治体などの取り引き先相手に、彼女たちをあてがうようになったのだ。

 当然、これは、私が紹介した女の子たちとの間で軋轢を生むことになる。

「お金をもらわないでオトコの人と会ったり、肉体関係を持つのってバカバカしくなっちゃいました」
「どれだけイケメンでも、好きな人でも、カラダの関係になるなら、お金が欲しい」
「相手が満たされるだけの行為が無償なんてありえなくないですか? なんで、相手にタダでさせちゃってたんだろう?」

 そう言っていた彼女も、山本が接待する取り引き先の相手とは、無償で関係を持つことになる。

「これは、キミの世界を広げるためだから――――――」

 などと言って、山本たちも最初は誤魔化していたらしいが、企業づとめの人間や、しがない公務員に広げられる世界など無いことは、大学生にもなれば、誰にだってわかる。
 さらに、取り引き先だけでなく、山本たち、女子を斡旋する側にも関係を持った女の子に入れあげてしまう人間もいたようだ。

「パパには、二種類のタイプがあって、プライベートには立ち入らないよっていう山本さんみたいなタイプと、お金を払った疑似恋愛のはずなのに、ガチ恋してしまうタイプ。パパの一人が、ガチ恋状態になってるジジイがいて、ホントにうざいんですよ。だから、ワタシに彼氏がいるってバレて凄く揉めたんですよ! ジジイにも気を使って『大好きだよ』『愛してるよ』って、LANEをしないといけないから、すごくウザい」

 なんだか、アイドルとファンの関係みたいだな、とあきれながらも話しを聞いて、彼女たちをなだめるのも、私の役目になっていた。そのときに悟ったわ。

 誰かを好きになったり、恋愛感情を抱くって、すごくリスク。好きっていう感情は一番ムダなものじゃないかって……なんのお金にもならないし、浪費するだけだもの。

 こうして、しばらく経ったあと、大学生や社会人になった女性では、取り引き先の需要を十分に満たさないと考えたのだろう。山本は、大学卒業後の就職先として、私にこんな提案をしてきた。

「渚、キミは後輩の面倒見も良いようだ。これからも、こうして、女の子たちをフォローしてあげてくれないか? ついては、キミにピッタリの就職先があるんだが?」

 そう言った彼は、知り合いのカーディーラーを通じて、状態の良いフェラーリの中古車をプレゼントしてくれた。私は、それを口止め料と受け止めた。

 ◆ ◆ ◆ ◆

 ここまでの三浦先生の話しを聞いたボクは、こみ上げてくる吐き気を押さえつけるのに精一杯だった。


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 向陽学院の理事長を務めているという山本との出会いで、私の人生は、世界が広がったと言える。 陳腐なたとえだが、その後に体験したことを考えると、この表現がピッタリだった。
 まだ、父の経営していた会社が順調だった頃に、家族で洒落た店のディナーに出掛けたことは何度かあったけど……。
 個室で提供される懐石料理や、高級ホテルの最上階のラウンジ、クルーズ船でのディナーは未成年の私が足を踏み入れることのなかった場所で、そこには、父が会社が傾いた後では、自分たちの家庭環境では望むべくもない世界が広がっていた。
 そこで目にしたものをスマホで撮影し、SNSでアップロードすると、面白いように閲覧数や、いいねの数が伸びる。
 さいわい、それらの投稿は、偽名を使った裏アカウントで行っていたので、大学の学部や部活の仲間たちに自分の投稿が特定されることはなかった。このことが、あとになって自分の活動に大きく影響することになる。
 もちろん、山本とは、いわゆるオトナの関係ではあったが、彼は他のパパたちと違って、あまりガツガツと私のカラダを求めてくることはなかった。ただ、ときどき、
「渚の投稿は、ヒトを引き付ける要素があるね。同年代の女の子たちも憧れるんじゃないかな?」
と、特別に工夫をしている覚えのない私のSNSの投稿を誉めてくれた。
 その言葉のとおり、自分の撮影した写真には、同性と思われるアカウントからも、
「憧れます!」
「わたしも行ってみたい!」
というコメントがたくさん付いたりして、それらの投稿を見ていたのか、ある日、山本がこんな提案をしてきた。
「渚、キミの投稿する世界に憧れている子たちも多いみたいだ。どうだろう、彼女たちと連絡を取って、僕たちに紹介してくれないか?」
 私は、その提案をなんの疑いもなく受け入れ、交際クラブのサイトを介さずに山本たちにフォロワーの女性たちを紹介した。
 それが、私の人生の二度目の転機になったとも言える――――――。
 私のフォロワーの一人は、山本たちと知り合ってからしばらくして、こんなことを言っていた。
「この世界を知ってから、お金をもらわないでオトコの人と会ったり、肉体関係を持つのってバカバカしくなっちゃいました。ちょっと、ありえないっていうか――――――。どれだけイケメンでも、好きな人でも、カラダの関係になるなら、お金が欲しい。そもそも、自分はアレが好きじゃないんで……相手が満たされるだけの行為が無償なんてありえなくないですか? なんで、相手にタダでさせちゃってたんだろう? って、目が覚めちゃいました」
 悪びれることもなく、こんなことを言う相手に、私は共感するところがありながらも、こんな道に引きずり込んでしまったことに対する複雑な感情から苦笑するより、ほかはなかった。
 ただ、しばらくして、事態に変化が訪れる。
 山本は、私が紹介した女の子たちをこれまでどおり、懐石料理の店や、高級ホテルの最上階のラウンジ、クルーズ船でのディナーに連れて行ったあと、大手企業や自治体などの取り引き先相手に、彼女たちをあてがうようになったのだ。
 当然、これは、私が紹介した女の子たちとの間で軋轢を生むことになる。
「お金をもらわないでオトコの人と会ったり、肉体関係を持つのってバカバカしくなっちゃいました」
「どれだけイケメンでも、好きな人でも、カラダの関係になるなら、お金が欲しい」
「相手が満たされるだけの行為が無償なんてありえなくないですか? なんで、相手にタダでさせちゃってたんだろう?」
 そう言っていた彼女も、山本が接待する取り引き先の相手とは、無償で関係を持つことになる。
「これは、キミの世界を広げるためだから――――――」
 などと言って、山本たちも最初は誤魔化していたらしいが、企業づとめの人間や、しがない公務員に広げられる世界など無いことは、大学生にもなれば、誰にだってわかる。
 さらに、取り引き先だけでなく、山本たち、女子を斡旋する側にも関係を持った女の子に入れあげてしまう人間もいたようだ。
「パパには、二種類のタイプがあって、プライベートには立ち入らないよっていう山本さんみたいなタイプと、お金を払った疑似恋愛のはずなのに、ガチ恋してしまうタイプ。パパの一人が、ガチ恋状態になってるジジイがいて、ホントにうざいんですよ。だから、ワタシに彼氏がいるってバレて凄く揉めたんですよ! ジジイにも気を使って『大好きだよ』『愛してるよ』って、LANEをしないといけないから、すごくウザい」
 なんだか、アイドルとファンの関係みたいだな、とあきれながらも話しを聞いて、彼女たちをなだめるのも、私の役目になっていた。そのときに悟ったわ。
 誰かを好きになったり、恋愛感情を抱くって、すごくリスク。好きっていう感情は一番ムダなものじゃないかって……なんのお金にもならないし、浪費するだけだもの。
 こうして、しばらく経ったあと、大学生や社会人になった女性では、取り引き先の需要を十分に満たさないと考えたのだろう。山本は、大学卒業後の就職先として、私にこんな提案をしてきた。
「渚、キミは後輩の面倒見も良いようだ。これからも、こうして、女の子たちをフォローしてあげてくれないか? ついては、キミにピッタリの就職先があるんだが?」
 そう言った彼は、知り合いのカーディーラーを通じて、状態の良いフェラーリの中古車をプレゼントしてくれた。私は、それを口止め料と受け止めた。
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 ここまでの三浦先生の話しを聞いたボクは、こみ上げてくる吐き気を押さえつけるのに精一杯だった。