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vol.25 バレた秘密、苦い決意

ー/ー



 渋谷ゲリラライブの興奮冷めやらぬRogue Soundの小さな事務所。
 けんたろうとユージは、パーテーションで仕切られただけの簡素な空間で、向かい合って座っていた。
 壁一枚隔てた向こうでは、綾音さんが何やら作業をしている。

「なぁ、けんたろう。一条零、どうすんだよ?」

 ユージが切り出した。
 一条零のユーロビート新曲発表と、記者会見での直接的な呼びかけは、彼らにとっても無視できない事態だった。

「……わかんない」

 けんたろうは、俯いたまま、絞り出すように答えた。
 一条零の言葉は、彼の心の奥底に響き、けいとさんとの関係で感じていた孤独や寂しさを、より強く意識させていた。

 ユージは、そんなけんたろうの様子に気づき、少し優しい声で話を続けた。

「俺たちも、なんだかんだで、Midnight Verdictを追いかけてこのバンド始めたんだもんな」

 けんたろうは顔を上げた。ユージの言葉に、二人のバンド結成のきっかけが蘇る。

「けいとちゃんとあやがデビューするからって、俺たちから距離を取っていったもんな。あの時は、正直寂しかったよ」

 ユージは、遠い目をしながら語る。
 スターとして売れ始めた恋人たちが、自分たちを巻き込まないようにと、あえて距離を置こうとした時期があったのだ。

「でも、俺らだって、ただ指をくわえて見てるわけにはいかないだろ? けんたろうのお前が『バンド作って、追いかけよう』って言った時、マジで最高だと思ったぜ」

 ユージの言葉に、けんたろうは小さく頷いた。
 あの時、けいとさんにもっと会いたい、自分も彼女の隣に並び立ちたいという純粋な衝動が、彼を突き動かしたのだ。

「少しは、追いついたかな……って、最近よく思うぜ」

 ユージは感慨深げに、そして誇らしげに言った。
 Synaptic Driveは、今や彼らが追いかけていたMidnight Verdictに匹敵するほどの注目を集めている。

「で、どうなんだよ、けんたろう。けいとちゃんとは、うまくいってるのか? 俺は、あやとはそこそこやってるぜ。まあ、あやが最近、俺のこと怒ってるけどな」

 ユージの問いに、けんたろうの表情は曇った。彼は、けいとさんとすれ違ってきた今までの経緯、会えない時間の寂しさ、そして自分がどれだけ孤独を感じていたかを、ぽつりぽつりと話し始めた。

「それで、『あなたは知らない』ができたんだ……」

 けんたろうは、そう言って力なく笑った。
 自分の心を吐き出すように語るその言葉は、パーテーション一枚隔てた向こうにいる綾音さんには、全て筒抜けだった。

 綾音は、耳を疑った。
 Midnight Verdictのメンバーが、ユージとけんたろうの恋人!?
 あの国民的ガールズユーロビートバンドと、今をときめく謎の新人バンドが、そんな関係だったなんて。
 そして、けんたろうの歌が、あのけいとさんへの切ない想いから生まれたものだなんて……。
 綾音さんは、ゆっくりと立ち上がると、パーテーションの向こうの二人に歩み寄った。

「ねぇ、ユージくん、けんたろうくん……けいととかあやって、今をときめくMidnight Verdictのことみたいね!」

 綾音さんは、少し探るような口調で言った。
 二人の反応を確かめるように。
 けんたろうとユージは、顔を見合わせた。まさか、全部聞かれているとは思っていなかったのだ。

「……そうなんだ」

 ユージが、観念したように小さく答えた。
 その瞬間、綾音さんの顔は、驚きと興奮で大きく開いた。

「えー!!!!!!!!!!」

 綾音さんの絶叫が、狭い事務所に響き渡った。
 その声に、隣の社長室から、社長が飛んでくる。

「どうしたんだい!? 綾音くん!?」

 社長の問いに、綾音さんは興奮冷めやらぬ様子で、目に涙を浮かべながら、指をさした。

「社長……! けんたろうくんとユージくんが……! Midnight Verdictの、けいとさんと、あやさんと……!」

 社長は、綾音さんの言葉を聞いて、文字通りぶっ飛んだ。
 驚きで腰を抜かし、その場にへたり込んでしまう。

「な、なんだってええええええええええええ!!!!!!!」

 弱小レーベルの社長にとっては、あまりにも大きすぎる、そして、あまりにも危険すぎる秘密が、今、白日の下に晒されたのだ。
 彼らが付き合っていることを知った社長の顔は、驚愕と、今後のリスクへの恐怖で、青ざめていた。
 Rogue Soundの小さな事務所に、Synaptic Driveの二人の恋愛事情が知れ渡った瞬間、社長の顔は文字通り青ざめ、その場にへたり込み、頭を抱えた。
 相手は、今や国民的ガールズユーロビートバンドとして名を馳せるMidnight Verdictだ。
 こちらは弱小レーベル。
 もし、この秘密が世間にバレれば、スキャンダルを恐れたMidnight Verdict側が、Rogue Soundを潰しにかかる可能性もゼロではない。

「どうするんだい、綾音くん! メディア対応は!? うちにはそんな力はないぞ……!」

 社長の悲鳴のような問いに、綾音さんは決意に満ちた表情で立ち上がった。

「私が、私が全力で守ります! 彼らを、そして彼らの音楽を、絶対に守り抜いてみせます!」

 その目は、マネージャーとしての覚悟に満ちていた。しかし、事務所内は依然として大混乱のままだった。

「なんとかなるっしょ!」

「ならないわよー!!!」
 綾音の鋭いツッコミが飛ぶ。

 ユージはいつもの調子で軽口を叩いたが、その瞳の奥には、あやをこれ以上面倒に巻き込みたくないという、彼なりの覚悟が宿っていた。

 事務所は、一触即発の緊迫感に包まれていた。
 そんな中、けんたろうは、けいとさんへの複雑な思いを秘めながら、静かに、しかし決意を込めて言った。

「僕自身も、けいとさんと距離を取ります」

 社長、ユージ、綾音さんの視線が、一斉にけんたろうに注がれる。
 しん…と静まり返った後、皆どうして良いかわからず顔を見合わせる。
 呼吸音と時計の針の音だけが静かに響く。
 彩音は、「本当にそれで良いの?」と言いかけて言葉を飲み込んだ。

 けんたろうの言葉は、まるで自分自身に言い聞かせているかのようだった。
 けいとさんを愛している。
 しかし、彼女をこれ以上危険に晒すわけにはいかない。
 そして何より、あの夜からの気まずさが、彼をそう言わせたのかもしれない。
 本当にそれでいいのか?
 彼の表情には、深い葛藤が浮かんでいた。



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 渋谷ゲリラライブの興奮冷めやらぬRogue Soundの小さな事務所。
 けんたろうとユージは、パーテーションで仕切られただけの簡素な空間で、向かい合って座っていた。
 壁一枚隔てた向こうでは、綾音さんが何やら作業をしている。
「なぁ、けんたろう。一条零、どうすんだよ?」
 ユージが切り出した。
 一条零のユーロビート新曲発表と、記者会見での直接的な呼びかけは、彼らにとっても無視できない事態だった。
「……わかんない」
 けんたろうは、俯いたまま、絞り出すように答えた。
 一条零の言葉は、彼の心の奥底に響き、けいとさんとの関係で感じていた孤独や寂しさを、より強く意識させていた。
 ユージは、そんなけんたろうの様子に気づき、少し優しい声で話を続けた。
「俺たちも、なんだかんだで、Midnight Verdictを追いかけてこのバンド始めたんだもんな」
 けんたろうは顔を上げた。ユージの言葉に、二人のバンド結成のきっかけが蘇る。
「けいとちゃんとあやがデビューするからって、俺たちから距離を取っていったもんな。あの時は、正直寂しかったよ」
 ユージは、遠い目をしながら語る。
 スターとして売れ始めた恋人たちが、自分たちを巻き込まないようにと、あえて距離を置こうとした時期があったのだ。
「でも、俺らだって、ただ指をくわえて見てるわけにはいかないだろ? けんたろうのお前が『バンド作って、追いかけよう』って言った時、マジで最高だと思ったぜ」
 ユージの言葉に、けんたろうは小さく頷いた。
 あの時、けいとさんにもっと会いたい、自分も彼女の隣に並び立ちたいという純粋な衝動が、彼を突き動かしたのだ。
「少しは、追いついたかな……って、最近よく思うぜ」
 ユージは感慨深げに、そして誇らしげに言った。
 Synaptic Driveは、今や彼らが追いかけていたMidnight Verdictに匹敵するほどの注目を集めている。
「で、どうなんだよ、けんたろう。けいとちゃんとは、うまくいってるのか? 俺は、あやとはそこそこやってるぜ。まあ、あやが最近、俺のこと怒ってるけどな」
 ユージの問いに、けんたろうの表情は曇った。彼は、けいとさんとすれ違ってきた今までの経緯、会えない時間の寂しさ、そして自分がどれだけ孤独を感じていたかを、ぽつりぽつりと話し始めた。
「それで、『あなたは知らない』ができたんだ……」
 けんたろうは、そう言って力なく笑った。
 自分の心を吐き出すように語るその言葉は、パーテーション一枚隔てた向こうにいる綾音さんには、全て筒抜けだった。
 綾音は、耳を疑った。
 Midnight Verdictのメンバーが、ユージとけんたろうの恋人!?
 あの国民的ガールズユーロビートバンドと、今をときめく謎の新人バンドが、そんな関係だったなんて。
 そして、けんたろうの歌が、あのけいとさんへの切ない想いから生まれたものだなんて……。
 綾音さんは、ゆっくりと立ち上がると、パーテーションの向こうの二人に歩み寄った。
「ねぇ、ユージくん、けんたろうくん……けいととかあやって、今をときめくMidnight Verdictのことみたいね!」
 綾音さんは、少し探るような口調で言った。
 二人の反応を確かめるように。
 けんたろうとユージは、顔を見合わせた。まさか、全部聞かれているとは思っていなかったのだ。
「……そうなんだ」
 ユージが、観念したように小さく答えた。
 その瞬間、綾音さんの顔は、驚きと興奮で大きく開いた。
「えー!!!!!!!!!!」
 綾音さんの絶叫が、狭い事務所に響き渡った。
 その声に、隣の社長室から、社長が飛んでくる。
「どうしたんだい!? 綾音くん!?」
 社長の問いに、綾音さんは興奮冷めやらぬ様子で、目に涙を浮かべながら、指をさした。
「社長……! けんたろうくんとユージくんが……! Midnight Verdictの、けいとさんと、あやさんと……!」
 社長は、綾音さんの言葉を聞いて、文字通りぶっ飛んだ。
 驚きで腰を抜かし、その場にへたり込んでしまう。
「な、なんだってええええええええええええ!!!!!!!」
 弱小レーベルの社長にとっては、あまりにも大きすぎる、そして、あまりにも危険すぎる秘密が、今、白日の下に晒されたのだ。
 彼らが付き合っていることを知った社長の顔は、驚愕と、今後のリスクへの恐怖で、青ざめていた。
 Rogue Soundの小さな事務所に、Synaptic Driveの二人の恋愛事情が知れ渡った瞬間、社長の顔は文字通り青ざめ、その場にへたり込み、頭を抱えた。
 相手は、今や国民的ガールズユーロビートバンドとして名を馳せるMidnight Verdictだ。
 こちらは弱小レーベル。
 もし、この秘密が世間にバレれば、スキャンダルを恐れたMidnight Verdict側が、Rogue Soundを潰しにかかる可能性もゼロではない。
「どうするんだい、綾音くん! メディア対応は!? うちにはそんな力はないぞ……!」
 社長の悲鳴のような問いに、綾音さんは決意に満ちた表情で立ち上がった。
「私が、私が全力で守ります! 彼らを、そして彼らの音楽を、絶対に守り抜いてみせます!」
 その目は、マネージャーとしての覚悟に満ちていた。しかし、事務所内は依然として大混乱のままだった。
「なんとかなるっしょ!」
「ならないわよー!!!」
 綾音の鋭いツッコミが飛ぶ。
 ユージはいつもの調子で軽口を叩いたが、その瞳の奥には、あやをこれ以上面倒に巻き込みたくないという、彼なりの覚悟が宿っていた。
 事務所は、一触即発の緊迫感に包まれていた。
 そんな中、けんたろうは、けいとさんへの複雑な思いを秘めながら、静かに、しかし決意を込めて言った。
「僕自身も、けいとさんと距離を取ります」
 社長、ユージ、綾音さんの視線が、一斉にけんたろうに注がれる。
 しん…と静まり返った後、皆どうして良いかわからず顔を見合わせる。
 呼吸音と時計の針の音だけが静かに響く。
 彩音は、「本当にそれで良いの?」と言いかけて言葉を飲み込んだ。
 けんたろうの言葉は、まるで自分自身に言い聞かせているかのようだった。
 けいとさんを愛している。
 しかし、彼女をこれ以上危険に晒すわけにはいかない。
 そして何より、あの夜からの気まずさが、彼をそう言わせたのかもしれない。
 本当にそれでいいのか?
 彼の表情には、深い葛藤が浮かんでいた。