予期せぬ出会い
ー/ー 時は戦国。災禍という変わった名の時代。あちこちで戦が起こる、まさしく激動の時代である。
舞台は播磨の外れ。桜が狂い咲くころ、仕事を終えた男が歩いている。その反対側から、提灯を持った女とすれ違う。暗闇に溶け込むかのような男とは対照的である。男はそのまま駆け出す。
女の耳には抜刀する音と、肉が斬れる鈍い音が聞こえてきた。
なにごとかと振り返った女が見たのは、敵が骸と化した一番残酷な場面だった。さらに提灯を持ち上げると、斬った男が見えた。黒翁の面を被っているため、素顔は分からない。背が高い。
鞘に刀が収まる音を響かせた男が言う。
「それみたことか。命は惜しかろう?」
「はい……。ありがとうございました」
女はそう言うことしかできず、逃げるようにその場を後にした。
面の男は女が立ち去るのを見送ってから、先ほど斬った骸の首根っこをつかんで引き摺る。ずるずると重いそれを川の近くまで運ぶ。この日は雨が降った後で、川の流れも速かった。後で騒ぎにされても面倒なため、証を無くしてしまおうと考えたのだ。骸を流し、ついでに手を洗った面の男は、水が予想以上に冷たいことに内心で驚いた。
あの女に殺めた場を見られたのは失敗だったかと思ったが、そうするしか手がなかったと割り切る。女が斬り殺されるのを黙って見ていられる性分ではない。
女は家に駆け戻る。
武士の最期の顔が、脳裏に焼きついて離れない。かなり驚いていたようにも見えた。それに面の者も一切の躊躇いがなかった。長髪をひとつに括っていたので、男かもしれないと思った。
女はがたがたと震える手を、握り締めることしかできなかった。
翁の面をつけた男は無言でスタスタと歩いている。
なにもかもが隠されているこの男。神出鬼没で、罪を犯した人間の前にあらわれては、命を奪う。ただの咎人である。人の業を背負って生きており、人を殺めた快楽に酔うわけでもない。ただただ、闇とともに在り続ける。この男は一体、何者なのだろうか。
舞台は播磨の外れ。桜が狂い咲くころ、仕事を終えた男が歩いている。その反対側から、提灯を持った女とすれ違う。暗闇に溶け込むかのような男とは対照的である。男はそのまま駆け出す。
女の耳には抜刀する音と、肉が斬れる鈍い音が聞こえてきた。
なにごとかと振り返った女が見たのは、敵が骸と化した一番残酷な場面だった。さらに提灯を持ち上げると、斬った男が見えた。黒翁の面を被っているため、素顔は分からない。背が高い。
鞘に刀が収まる音を響かせた男が言う。
「それみたことか。命は惜しかろう?」
「はい……。ありがとうございました」
女はそう言うことしかできず、逃げるようにその場を後にした。
面の男は女が立ち去るのを見送ってから、先ほど斬った骸の首根っこをつかんで引き摺る。ずるずると重いそれを川の近くまで運ぶ。この日は雨が降った後で、川の流れも速かった。後で騒ぎにされても面倒なため、証を無くしてしまおうと考えたのだ。骸を流し、ついでに手を洗った面の男は、水が予想以上に冷たいことに内心で驚いた。
あの女に殺めた場を見られたのは失敗だったかと思ったが、そうするしか手がなかったと割り切る。女が斬り殺されるのを黙って見ていられる性分ではない。
女は家に駆け戻る。
武士の最期の顔が、脳裏に焼きついて離れない。かなり驚いていたようにも見えた。それに面の者も一切の躊躇いがなかった。長髪をひとつに括っていたので、男かもしれないと思った。
女はがたがたと震える手を、握り締めることしかできなかった。
翁の面をつけた男は無言でスタスタと歩いている。
なにもかもが隠されているこの男。神出鬼没で、罪を犯した人間の前にあらわれては、命を奪う。ただの咎人である。人の業を背負って生きており、人を殺めた快楽に酔うわけでもない。ただただ、闇とともに在り続ける。この男は一体、何者なのだろうか。
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時は戦国。|災禍《さいか》という変わった名の時代。あちこちで戦が起こる、まさしく激動の時代である。
舞台は|播磨《はりま》の外れ。桜が狂い咲くころ、仕事を終えた男が歩いている。その反対側から、|提灯《ちょうちん》を持った女とすれ違う。暗闇に溶け込むかのような男とは対照的である。男はそのまま駆け出す。
女の耳には抜刀する音と、肉が斬れる鈍い音が聞こえてきた。
なにごとかと振り返った女が見たのは、敵が骸と化した一番残酷な場面だった。さらに提灯を持ち上げると、斬った男が見えた。|黒翁《くろおきな》の面を|被《かぶ》っているため、素顔は分からない。背が高い。
鞘に刀が収まる音を響かせた男が言う。
「それみたことか。命は惜しかろう?」
「はい……。ありがとうございました」
女はそう言うことしかできず、逃げるようにその場を後にした。
女の耳には抜刀する音と、肉が斬れる鈍い音が聞こえてきた。
なにごとかと振り返った女が見たのは、敵が骸と化した一番残酷な場面だった。さらに提灯を持ち上げると、斬った男が見えた。|黒翁《くろおきな》の面を|被《かぶ》っているため、素顔は分からない。背が高い。
鞘に刀が収まる音を響かせた男が言う。
「それみたことか。命は惜しかろう?」
「はい……。ありがとうございました」
女はそう言うことしかできず、逃げるようにその場を後にした。
面の男は女が立ち去るのを見送ってから、先ほど斬った骸の首根っこをつかんで引き|摺《ず》る。ずるずると重いそれを川の近くまで運ぶ。この日は雨が降った後で、川の流れも速かった。後で騒ぎにされても面倒なため、証を無くしてしまおうと考えたのだ。骸を流し、ついでに手を洗った面の男は、水が予想以上に冷たいことに内心で驚いた。
あの女に殺めた場を見られたのは失敗だったかと思ったが、そうするしか手がなかったと割り切る。女が斬り殺されるのを黙って見ていられる性分ではない。
あの女に殺めた場を見られたのは失敗だったかと思ったが、そうするしか手がなかったと割り切る。女が斬り殺されるのを黙って見ていられる性分ではない。
女は家に駆け戻る。
武士の最期の顔が、脳裏に焼きついて離れない。かなり驚いていたようにも見えた。それに面の者も一切の躊躇いがなかった。長髪をひとつに括っていたので、男かもしれないと思った。
女はがたがたと震える手を、握り締めることしかできなかった。
武士の最期の顔が、脳裏に焼きついて離れない。かなり驚いていたようにも見えた。それに面の者も一切の躊躇いがなかった。長髪をひとつに括っていたので、男かもしれないと思った。
女はがたがたと震える手を、握り締めることしかできなかった。
翁の面をつけた男は無言でスタスタと歩いている。
なにもかもが隠されているこの男。神出鬼没で、罪を犯した人間の前にあらわれては、命を奪う。ただの咎人である。人の業を背負って生きており、人を殺めた快楽に酔うわけでもない。ただただ、闇とともに在り続ける。この男は一体、何者なのだろうか。
なにもかもが隠されているこの男。神出鬼没で、罪を犯した人間の前にあらわれては、命を奪う。ただの咎人である。人の業を背負って生きており、人を殺めた快楽に酔うわけでもない。ただただ、闇とともに在り続ける。この男は一体、何者なのだろうか。