表示設定
表示設定
目次 目次




0-1

ー/ー



 空がいつもより青く見えるのは、フロントガラスが空より青いせいだった。そのせいで明かりのついていない電灯も、空を走るカラスまでもが彩色されている。青いインクしか持っていない幼子が、丁寧に塗り絵をしているようだった。
 助手席に座っていた白藤(しらふじ)月乃(つきの)は、どれだけ進んでも変わり映えのしないコンクリート街に飽き飽きとしていた。席にもたれかかり、カルシウムが豊富なブルーベリーミルクを飲んでいた。
「例えばさ」
 月乃の私服はといえば、無地の白いシャツをヘソの上で結ぶ快活な上着に灰色のスキニー。灰色だったが、つい数分前にミルクをこぼしたせいで太ももの辺りが黒く濡れていた。髪は外ハネのウェーブで、細い目に前髪が少しかかった茶髪だった。
 彼女は足を組み、やや退屈そうな声音で続けた。
「私が脚本家だったとする。ハリウッドとか、海外のドラマでもいい」
「百里あり得ませんが、続けてどうぞ」
 運転席に座っているのは汐里(しおり)。月乃の姉だった。彼女は片手でハンドルを握りながら車を走らせている。先ほどから、向かい風のように流れてくる車の数が多い。このままいけばすぐに渋滞を起こすだろう。反対に、白藤姉妹が走っている車道は空いていた。
「これから私たちは悪を討伐しにいくんだ。得意の銃とか、刀とかを使ってバッタバッタと()ぎ払っていく」
 いつものことだから気にもならない。汐里は交通ルールを無視し、目の前から走ってくる車を避けて進んだ。目的地が近くなると、焚火のような煙の香りがふわりと鼻腔に流れ込む。
「だけどさ、ずーっと私たちが勝っても観客は面白いって思うかなあ」
「なら試しに今回は負けてみますか」
 汐里は月乃のラフな服装と打って変わって礼装だった。一見すると巫女装束だが、生地は厚く張っている。そのうえ腹部を覆い隠すように黒い腹当をしていて、その下に赤い袴がくるぶしまで伸びていた。対照的な二人の恰好だったが、唯一の共通点は互いに黒のハイカットスニーカーを履いているところだろう。
 彼女の性格を裏付けるように、髪は黒く前髪は眉毛のあたりで整えられていた。側頭部で団子結びがされていて、その髪は腰まで伸びている。目元のほくろは、彼女にとっては自慢だった。
「負けたら面白い結末になんのかね、それならあたし乗った」
 目的地までは近い。それを報せるかのようにパトカーが物理的なバリケードを作っていた。車で往来を規制しているのだ。月乃はようやく退屈という(かせ)から解放されたかのように目を開いた。
 警察が迂回するように先導している中、汐里が運転する車は減速するどころかアクセルを踏む力が強まった。警察が拡声器越しに何かを言うが構わず、汐里は車線を変えて走りくる車を避けながらバリケードの横を通り過ぎていった。
 右に左と揺られ、月乃は楽しそうにはしゃいでいた。
「良い大人が、はしたないですよ」
 バリケードを通過すると、目の前を走る車は無くなった。汐里は最高速度に切り替え、月乃は窓を開けて窓から外に身を乗り出してから警察に振り向く。何をするかと汐里は横目で見ると、彼女は投げキッスをして車内に戻っていた。
 目的地はみなとみらい駅のすぐそば、映画館だった。古いラジオからは警察無線の声が聞こえてくる。
 ――目標は依然、驚異的な力で暴走中。銃で足を撃ったが怯む様子もない。狙撃も意味を成さない、あれは人間か?
 カーナビの音がラジオの音と連なったが、目的地に到着したというアナウンスのようだった。駅前の広場に車が停まると二人はシートベルトを外し、トランクを開けた。
 中にはキャリーバッグの中に、大量の武器が詰め込まれていた。拳銃、ナイフ、瓶、バール。月乃は拳銃とナイフを、汐里は蓋の部分に取り付けられていた日本刀を手に、封鎖された通路へと進みだした。
 当然、一人の警察官が気付いて二人に詰め寄ってくる。皺を寄せた彼の目には怒気が含まれていた。
「おたくら野次馬か。それなら迷惑だから、離れててくれないかな。今はおたくらに構ってる暇はないんだよ」
 あからさまに邪見な扱いを受けた月乃は、喧嘩腰になって警官に銃を突きつけた。
「奇遇だなあ。あたしらもお前に構ってる暇はないんだ、ここを通らせてもらうよ」
「お、おい! 銃を捨てろ!」
 警官は無線でやり取りをしている。内容を聞く限り、どうやら目標の仲間が現れたと上司に報告していた。彼もまた拳銃を取り出して月乃に向け、拮抗した時間が流れる。二人の様子にため息を吐いた汐里が横を通り過ぎようとすると、またぞろ警官が動きを止めるように語る。
 どうやって場を切り抜けるか汐里が考えあぐねいていると、二人の背後から声が掛かった。皺のついた貫禄のある低い声だった。
「二人とも銃を下ろせ。こいつらは目標の仲間じゃない」
 出てきたのは警官の上司どころか、指揮官とも呼べる警部補の近藤(こんどう)(れん)だった。
 彼は白いワイシャツを二の腕まで捲り、黒いチノパンの姿。一時的に無法地帯になった現場の特権で煙草を吸いながら映画館を見上げていた。
「今回は早く出てきてくれましたね」
 汐里は鞘にかけていた手を離して言った。目で月乃に銃を下ろすように合図を送り、緊迫状態は収まった。
「交通規制をかけていた部下から連絡があった。どっかのバカが強引に突破してきやがったから注意しろってな」
「おいおい、聞き捨てならないな。あたし達はバカじゃない。どっからどう見てもお利巧さんだ」
 腐れ縁を彷彿(ほうふつ)とさせるじゃれ合いも、お約束通りだ。汐里は早く片付けないと犠牲者が出る使命感に追われ先を急ごうとしたが、ふとどこからか視線を感じて身を強張らせた。
「お前らが来たってのはつまり、またなのか」
 後ろ髪をかいて、苛立ちを隠さずに連が言った。
「今回のは結構手強いよ。なんせ、妖心指数(えんしんしすう)は基準値の二倍超えと来たもんだから」
「どんなジームなんだ」
「まだ分からないから推測でしかないけど、とにかく暴力的でぶっ飛んだ奴だ!」
 半年ぶりに肉を目の前にした狼のように月乃は猛っていた。今にも銃を撃ちそうなほどで、無邪気な様子は誰にも止められないだろう。
 汐里は視線の正体を探っていたが、ようやく理解した。そして理解した途端、彼女は足止めをしてきた警官に目を向けた。
 彼は拳銃を月乃に向けてまだ構えていた。
「月乃、伏せてください!」
 警官の目からは黒さが失われ、白色だけに覆われていた。月乃が理解するまでに時間がかかる。汐里は肩で月乃にぶつかり、その途端に鳴り響く銃声が汐里の肩甲骨を貫いた。
 二発目の銃声が聞こえる前に、汐里は袴の脇に差していたクナイを取り出して空に向けて投擲(とうてき)する。クナイはそのまま上空へ放たれるかと思われたが、百メートルも超えないところで突然動きが制止した。やがて血が滴り落ち、現れたのは血走った眼玉だった。
 眼玉の中心部から背中にかけて一本の肉の線が伸びており、青白い光を放ったかと思えば目玉は地面へと落下した。
「汐里、大丈夫かよ!」
 大丈夫だと手で制した汐里は、警官が倒れているのを目にして救急隊員を呼ぶよう連に指示。連は無線機で隊員と連絡を取っていたが、反応がないのか何度も呼びかけているように見えた。
「めっちゃ血が出てるぞ、本当に大丈夫か」
「私は問題ありません。それより早く対処しなければ私たちの手に負えなくなります。今の基準値を確認してください」
 月乃は手首にかけていた時計の龍頭(りゅうず)を操作し、驚愕の色を目に浮かべた。
「マジか」と小声で口ずさんだ。基準値は二倍だったのが、今は五倍に膨れ上がっている。
 無線機と格闘していた連に、汐里は避難するよう呼びかける。
「近藤、付近にいる警官や機動隊を全て撤退させなさい。中にいる人質の人数も教えていただければ」
「三十人だ。マーベル映画を観ていた全員ってところだな。観客席に座らせられている」
 目標が解放条件として提示しているのは刑務所にいる重犯罪者、小平(こだいら)竜司(りゅうじ)の解放と三〇〇万円。当然ながら用途は不明で、竜司との関係性も明らかではない。目標の顔は最新技術を使ってもまだ確認がとれていないが、声紋と刑務所のデータを照らし合わせても該当する者はいなかった。
 初犯にしては大胆過ぎると警察ならば誰もが思っただろう。
 あらゆる技術を投入して特定を急いでいるが、時間がかかっている様子だった。
 連は早口で説明した後、その場を立ち去ろうとした時。
 目の前からパトカーが全速で飛び掛かってくるのが見えた。対象は月乃と汐里、二人だった。運転席に乗っているのは白目になった制服警官。
「近藤さん、急いで撤退を全員に!」
 月乃はタイヤに向かって一発の弾丸を撃ち込んだ。その弾丸はタイヤをパンクさせ、勢いよく停車したそれは横転した。
 連は無線機で撤退を呼びかけながら、自身も避難を開始する。
「姉貴、今回の敵はどうやら感染型みたいだな。厄介になってきたぞ」
「間違いありませんね。百々目鬼(どどめき)の力です。大本を絶ちましょう、それができなければ善人殺しです」
「ある程度の犠牲はいいか」
 汐里は歩き出し、笑みを浮かべながらこう言った。
「いえ、許しません」
 分かりきった答えではあったものの、月乃は落胆しつつもう一丁の銃を取り出してから走り始める。戦いはすぐ間近だった。


スタンプを贈って作者を応援しよう!

次のエピソードへ進む 0-2


みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



 空がいつもより青く見えるのは、フロントガラスが空より青いせいだった。そのせいで明かりのついていない電灯も、空を走るカラスまでもが彩色されている。青いインクしか持っていない幼子が、丁寧に塗り絵をしているようだった。
 助手席に座っていた白藤《しらふじ》月乃《つきの》は、どれだけ進んでも変わり映えのしないコンクリート街に飽き飽きとしていた。席にもたれかかり、カルシウムが豊富なブルーベリーミルクを飲んでいた。
「例えばさ」
 月乃の私服はといえば、無地の白いシャツをヘソの上で結ぶ快活な上着に灰色のスキニー。灰色だったが、つい数分前にミルクをこぼしたせいで太ももの辺りが黒く濡れていた。髪は外ハネのウェーブで、細い目に前髪が少しかかった茶髪だった。
 彼女は足を組み、やや退屈そうな声音で続けた。
「私が脚本家だったとする。ハリウッドとか、海外のドラマでもいい」
「百里あり得ませんが、続けてどうぞ」
 運転席に座っているのは汐里《しおり》。月乃の姉だった。彼女は片手でハンドルを握りながら車を走らせている。先ほどから、向かい風のように流れてくる車の数が多い。このままいけばすぐに渋滞を起こすだろう。反対に、白藤姉妹が走っている車道は空いていた。
「これから私たちは悪を討伐しにいくんだ。得意の銃とか、刀とかを使ってバッタバッタと薙《な》ぎ払っていく」
 いつものことだから気にもならない。汐里は交通ルールを無視し、目の前から走ってくる車を避けて進んだ。目的地が近くなると、焚火のような煙の香りがふわりと鼻腔に流れ込む。
「だけどさ、ずーっと私たちが勝っても観客は面白いって思うかなあ」
「なら試しに今回は負けてみますか」
 汐里は月乃のラフな服装と打って変わって礼装だった。一見すると巫女装束だが、生地は厚く張っている。そのうえ腹部を覆い隠すように黒い腹当をしていて、その下に赤い袴がくるぶしまで伸びていた。対照的な二人の恰好だったが、唯一の共通点は互いに黒のハイカットスニーカーを履いているところだろう。
 彼女の性格を裏付けるように、髪は黒く前髪は眉毛のあたりで整えられていた。側頭部で団子結びがされていて、その髪は腰まで伸びている。目元のほくろは、彼女にとっては自慢だった。
「負けたら面白い結末になんのかね、それならあたし乗った」
 目的地までは近い。それを報せるかのようにパトカーが物理的なバリケードを作っていた。車で往来を規制しているのだ。月乃はようやく退屈という枷《かせ》から解放されたかのように目を開いた。
 警察が迂回するように先導している中、汐里が運転する車は減速するどころかアクセルを踏む力が強まった。警察が拡声器越しに何かを言うが構わず、汐里は車線を変えて走りくる車を避けながらバリケードの横を通り過ぎていった。
 右に左と揺られ、月乃は楽しそうにはしゃいでいた。
「良い大人が、はしたないですよ」
 バリケードを通過すると、目の前を走る車は無くなった。汐里は最高速度に切り替え、月乃は窓を開けて窓から外に身を乗り出してから警察に振り向く。何をするかと汐里は横目で見ると、彼女は投げキッスをして車内に戻っていた。
 目的地はみなとみらい駅のすぐそば、映画館だった。古いラジオからは警察無線の声が聞こえてくる。
 ――目標は依然、驚異的な力で暴走中。銃で足を撃ったが怯む様子もない。狙撃も意味を成さない、あれは人間か?
 カーナビの音がラジオの音と連なったが、目的地に到着したというアナウンスのようだった。駅前の広場に車が停まると二人はシートベルトを外し、トランクを開けた。
 中にはキャリーバッグの中に、大量の武器が詰め込まれていた。拳銃、ナイフ、瓶、バール。月乃は拳銃とナイフを、汐里は蓋の部分に取り付けられていた日本刀を手に、封鎖された通路へと進みだした。
 当然、一人の警察官が気付いて二人に詰め寄ってくる。皺を寄せた彼の目には怒気が含まれていた。
「おたくら野次馬か。それなら迷惑だから、離れててくれないかな。今はおたくらに構ってる暇はないんだよ」
 あからさまに邪見な扱いを受けた月乃は、喧嘩腰になって警官に銃を突きつけた。
「奇遇だなあ。あたしらもお前に構ってる暇はないんだ、ここを通らせてもらうよ」
「お、おい! 銃を捨てろ!」
 警官は無線でやり取りをしている。内容を聞く限り、どうやら目標の仲間が現れたと上司に報告していた。彼もまた拳銃を取り出して月乃に向け、拮抗した時間が流れる。二人の様子にため息を吐いた汐里が横を通り過ぎようとすると、またぞろ警官が動きを止めるように語る。
 どうやって場を切り抜けるか汐里が考えあぐねいていると、二人の背後から声が掛かった。皺のついた貫禄のある低い声だった。
「二人とも銃を下ろせ。こいつらは目標の仲間じゃない」
 出てきたのは警官の上司どころか、指揮官とも呼べる警部補の近藤《こんどう》連《れん》だった。
 彼は白いワイシャツを二の腕まで捲り、黒いチノパンの姿。一時的に無法地帯になった現場の特権で煙草を吸いながら映画館を見上げていた。
「今回は早く出てきてくれましたね」
 汐里は鞘にかけていた手を離して言った。目で月乃に銃を下ろすように合図を送り、緊迫状態は収まった。
「交通規制をかけていた部下から連絡があった。どっかのバカが強引に突破してきやがったから注意しろってな」
「おいおい、聞き捨てならないな。あたし達はバカじゃない。どっからどう見てもお利巧さんだ」
 腐れ縁を彷彿《ほうふつ》とさせるじゃれ合いも、お約束通りだ。汐里は早く片付けないと犠牲者が出る使命感に追われ先を急ごうとしたが、ふとどこからか視線を感じて身を強張らせた。
「お前らが来たってのはつまり、またなのか」
 後ろ髪をかいて、苛立ちを隠さずに連が言った。
「今回のは結構手強いよ。なんせ、妖心指数《えんしんしすう》は基準値の二倍超えと来たもんだから」
「どんなジームなんだ」
「まだ分からないから推測でしかないけど、とにかく暴力的でぶっ飛んだ奴だ!」
 半年ぶりに肉を目の前にした狼のように月乃は猛っていた。今にも銃を撃ちそうなほどで、無邪気な様子は誰にも止められないだろう。
 汐里は視線の正体を探っていたが、ようやく理解した。そして理解した途端、彼女は足止めをしてきた警官に目を向けた。
 彼は拳銃を月乃に向けてまだ構えていた。
「月乃、伏せてください!」
 警官の目からは黒さが失われ、白色だけに覆われていた。月乃が理解するまでに時間がかかる。汐里は肩で月乃にぶつかり、その途端に鳴り響く銃声が汐里の肩甲骨を貫いた。
 二発目の銃声が聞こえる前に、汐里は袴の脇に差していたクナイを取り出して空に向けて投擲《とうてき》する。クナイはそのまま上空へ放たれるかと思われたが、百メートルも超えないところで突然動きが制止した。やがて血が滴り落ち、現れたのは血走った眼玉だった。
 眼玉の中心部から背中にかけて一本の肉の線が伸びており、青白い光を放ったかと思えば目玉は地面へと落下した。
「汐里、大丈夫かよ!」
 大丈夫だと手で制した汐里は、警官が倒れているのを目にして救急隊員を呼ぶよう連に指示。連は無線機で隊員と連絡を取っていたが、反応がないのか何度も呼びかけているように見えた。
「めっちゃ血が出てるぞ、本当に大丈夫か」
「私は問題ありません。それより早く対処しなければ私たちの手に負えなくなります。今の基準値を確認してください」
 月乃は手首にかけていた時計の龍頭《りゅうず》を操作し、驚愕の色を目に浮かべた。
「マジか」と小声で口ずさんだ。基準値は二倍だったのが、今は五倍に膨れ上がっている。
 無線機と格闘していた連に、汐里は避難するよう呼びかける。
「近藤、付近にいる警官や機動隊を全て撤退させなさい。中にいる人質の人数も教えていただければ」
「三十人だ。マーベル映画を観ていた全員ってところだな。観客席に座らせられている」
 目標が解放条件として提示しているのは刑務所にいる重犯罪者、小平《こだいら》竜司《りゅうじ》の解放と三〇〇万円。当然ながら用途は不明で、竜司との関係性も明らかではない。目標の顔は最新技術を使ってもまだ確認がとれていないが、声紋と刑務所のデータを照らし合わせても該当する者はいなかった。
 初犯にしては大胆過ぎると警察ならば誰もが思っただろう。
 あらゆる技術を投入して特定を急いでいるが、時間がかかっている様子だった。
 連は早口で説明した後、その場を立ち去ろうとした時。
 目の前からパトカーが全速で飛び掛かってくるのが見えた。対象は月乃と汐里、二人だった。運転席に乗っているのは白目になった制服警官。
「近藤さん、急いで撤退を全員に!」
 月乃はタイヤに向かって一発の弾丸を撃ち込んだ。その弾丸はタイヤをパンクさせ、勢いよく停車したそれは横転した。
 連は無線機で撤退を呼びかけながら、自身も避難を開始する。
「姉貴、今回の敵はどうやら感染型みたいだな。厄介になってきたぞ」
「間違いありませんね。百々目鬼《どどめき》の力です。大本を絶ちましょう、それができなければ善人殺しです」
「ある程度の犠牲はいいか」
 汐里は歩き出し、笑みを浮かべながらこう言った。
「いえ、許しません」
 分かりきった答えではあったものの、月乃は落胆しつつもう一丁の銃を取り出してから走り始める。戦いはすぐ間近だった。