vol.17 売るな、叫べ!
ー/ー けんたろうが一晩で書き上げたソロ曲『あなたは知らない』。その圧倒的なクオリティと、むき出しの感情に、Rogue Soundの社長、ユージ、そして綾音さんは、衝撃を受けていた。しかし、この曲をどう世に出すか、彼らは頭を抱えていた。
弱小レーベル、Rogue Soundの事務所では、話し合いが繰り広げられた。
「この曲は、間違いなくけんたろうくんの才能を最大限に引き出すものだ。だが、どうやって世に出すか……」
社長は唸る。全国ネットのテレビ番組に出演し、ドラマ主題歌も担当したとはいえ、Synaptic Driveはまだ謎のベールに包まれた存在だ。通常のリリース方法では、この曲が持つ真の衝撃を伝えきれないのではないか、という懸念があった。
「今までと同じようにリリースは……」
綾音さんの声には、迷いが見て取れた。彼女も、この曲がただのシングルとして消費されてしまうことを恐れていた。もっと、この曲にふさわしい、インパクトのある方法があるのではないか、と。
議論は堂々巡り、時間だけが過ぎていく。誰もが頭を抱え、沈黙が流れたその時、ユージが突然、ニヤリと笑った。
「ゴタゴタめんどくせーや。そんなに悩むなら、売らなきゃいい」
その言葉に、社長と綾音さんは一瞬、目を丸くしてユージを見た。何を言っているんだ、こいつは、と。
「は?」
社長が呆れたように問い返す。ユージは、そんな二人の反応を面白がるように、さらに言葉を続けた。
「ゲリラよ」
「は?」
今度は、社長も綾音さんも、文字通り目が点になった。
ユージは、皆の反応を楽しみながら、自信満々にそのアイデアをぶちまけた。
「ゲリラライブを渋谷の真ん中でやるんだよ。若者の街の真ん中で、けんたろうが新曲を歌うんだ」
ユージの言葉に、社長と綾音さんは、驚きと共にそのアイデアの持つ破壊力に気づき始めた。
「Synaptic Driveのゲリラライブin渋谷。想像してみろよ、社長、綾音さん」
ユージは、興奮したように身を乗り出す。
「あの正体不明の『けんたろう』が、渋谷のど真ん中で、自分自身の『魂の叫び』を歌うんだぜ? しかも、その正体はシルエットのまま。メディアもネット民も、一斉に騒ぎ出すに決まってる。こんなの、たまんねーだろ?!」
ユージの目は、獲物を見つけた猛獣のようにギラギラと輝いていた。それは、常識外れで、無謀とも言える計画だ。だが、その背後には、誰もが納得する「けんたろうの音楽を、最も効果的に世に問う」という確固たる信念があった。
ユージの熱気に満ちた提案に、社長と綾音はゴクリと喉を鳴らした。その破壊力と可能性は計り知れない。だが、彼らは同時に、もう一人の当事者に視線を向けた。
この計画の核となる楽曲『あなたは知らない』を生み出した、けんたろうだ。彼は会議の隅で、青ざめた顔で固まっていた。
「けんたろうくん……君は、どう思う?」
社長がおそるおそる尋ねる。けんたろうは俯いたまま、か細い声で答えた。
「渋谷の……ど真ん中で……? 僕が……?」
彼の声は震えていた。
「無理です……。あんな、たくさんの人がいる場所で……僕の歌なんて……。それに、もし失敗して、警察沙汰にでもなったら……僕のせいで、Rogue Soundに迷惑がかかるのは……」
『あなたは知らない』は、けんたろう自身の内側から絞り出した、あまりにも個人的で、生々しい感情の塊だ。それを、渋谷を行き交う不特定多数の好奇の目に晒すことへの恐怖。そして、弱小レーベルであるRogue Soundを危険に晒すことへの罪悪感。彼が躊躇するのは当然だった。
綾音も、社長も、かける言葉が見つからない。その重苦しい沈黙を破ったのは、やはりユージだった。彼はけんたろうの隣にドカッと腰を下ろすと、その肩を強く掴んだ。
「おい、けんたろう」
ユージの声は、意外なほど静かだった。
「お前、この歌を誰に届けたいんだ?」
「え……?」
「お前のその『魂の叫び』ってやつは、綺麗なホールで、チケットを買ったファンだけにお行儀よく聴いてもらうためのもんか? 違うだろ」
ユージはけんたろうの目をまっすぐに射抜く。
「お前の歌はな、そんな安全な場所にいる奴らのためじゃねえ。渋谷のスクランブル交差点の真ん中で、誰にも理解されず、孤独に潰されそうになってるどっかの誰か。そいつの耳に、無理やりねじ込んでやるためのもんだろうが!」
ユージの声が、徐々に熱を帯びていく。
「『あなたは知らない』! タイトル通りじゃねえか! お前のことなんて誰も知らない! 誰も気にも留めない! そんな絶望的な場所で、たった一人で叫ぶから意味があるんだろうが! 『こんな感情があるんだ』って、『俺はここにいるんだ』ってな!」
迷惑? リスク? ユージは鼻で笑った。
「そんなもんは、俺と社長が全部しょってやる! お前は余計なことなんざ考えなくていい。お前の仕事はただ一つ。あいつらの度肝を抜く、最高の歌を歌うことだ。それだけやりゃいいんだよ!」
ユージの言葉は、乱暴で、一方的だった。だが、そこにはけんたろうの才能への絶対的な信頼と、彼の音楽を誰よりも信じる熱い想いが溢れていた。
けんたろうは、ユージの言葉に打ちのめされたように、しばらく黙り込んでいた。だが、やがて俯いていた顔をゆっくりと上げる。その瞳には、先ほどまでの怯えは消え、覚悟を決めた強い光が宿っていた。
「……僕、やります」
その一言は、静かだが、揺るぎない決意に満ちていた。
「僕が、歌います」
その言葉を聞いて、ユージは満足そうにニヤリと笑った。
社長は、ユージの熱気に押されるように、そしてその奇抜な発想の持つ可能性に魅了されるように、ゆっくりと口を開いた。綾音さんもまた、その無謀なアイデアの危険性を感じつつも、これしかない、という確信にも似た輝きをその瞳に宿していた。
「ゲリラ……ライブか……」
社長は、再び椅子に深く身を沈め、その言葉を反芻する。それは、小さなRogue Soundにとって、かつてないほどのリスクを伴う挑戦だった。しかし、同時に、彼らの音楽を真に届けるための、唯一無二の手段にも思えた。
ユージの突飛な「ゲリラライブ」の提案に、最初は目を丸くしていたRogue Soundの社長だったが、その発想の持つ可能性に、彼の心は大きく動かされていた。通常のリリースでは埋もれてしまうかもしれない、けんたろうの魂の叫びを、最も鮮烈な形で世に問う。これこそが、弱小レーベルであるRogue Soundが、この荒波の音楽業界で生き残るための、唯一の道だと直感したのだ。
社長は、長い沈黙の後、意を決したように立ち上がった。
「よし……やるぞ!」
その声には、迷いは一切なかった。
「綾音くん! 君はすぐに、Synaptic Driveがライブできるだけの機材と、二人が入れるトラックを用意するんだ。音響設備も、電源も、すべて完璧に揃えてくれ。目立たなければ意味がない!」
社長の指示に、綾音さんも引き締まった表情で頷いた。彼女もまた、この無謀とも思える挑戦に、マネージャーとしての全てを賭ける覚悟を決めていた。
「はい! 社長! 任せてください!」
そして、社長は自らに言い聞かせるように、そして覚悟を固めるように、力強く続けた。
「私は所轄の市役所や警察署に確認をしてくる。当然、許可は下りないだろうが……それでも、万が一に備えて、できる限りの根回しをしておく。そして、最悪の事態も想定しておかねばならない」
彼の言葉には、並々ならぬ決意が込められていた。ゲリラライブは、法的なリスクが非常に大きい。無許可での路上パフォーマンスは、即座に中止させられるだけでなく、逮捕や罰金といった事態に発展する可能性も孕んでいる。弱小レーベルであるRogue Soundにとって、これは社の存続に関わるほどの、まさに一か八かの大勝負だった。
『あなたは知らない』。この、けんたろうの感情をむき出しにした魂の歌を、世に届けること。そのためならば、どんなリスクも厭わないという、社長の、そしてRogue Sound全体の覚悟がそこにはあった。
彼らは知っていた。この一歩が、Synaptic Driveの運命を決めると同時に、彼ら自身の未来をも左右する、決して後戻りできない道であることを。
弱小レーベル、Rogue Soundの事務所では、話し合いが繰り広げられた。
「この曲は、間違いなくけんたろうくんの才能を最大限に引き出すものだ。だが、どうやって世に出すか……」
社長は唸る。全国ネットのテレビ番組に出演し、ドラマ主題歌も担当したとはいえ、Synaptic Driveはまだ謎のベールに包まれた存在だ。通常のリリース方法では、この曲が持つ真の衝撃を伝えきれないのではないか、という懸念があった。
「今までと同じようにリリースは……」
綾音さんの声には、迷いが見て取れた。彼女も、この曲がただのシングルとして消費されてしまうことを恐れていた。もっと、この曲にふさわしい、インパクトのある方法があるのではないか、と。
議論は堂々巡り、時間だけが過ぎていく。誰もが頭を抱え、沈黙が流れたその時、ユージが突然、ニヤリと笑った。
「ゴタゴタめんどくせーや。そんなに悩むなら、売らなきゃいい」
その言葉に、社長と綾音さんは一瞬、目を丸くしてユージを見た。何を言っているんだ、こいつは、と。
「は?」
社長が呆れたように問い返す。ユージは、そんな二人の反応を面白がるように、さらに言葉を続けた。
「ゲリラよ」
「は?」
今度は、社長も綾音さんも、文字通り目が点になった。
ユージは、皆の反応を楽しみながら、自信満々にそのアイデアをぶちまけた。
「ゲリラライブを渋谷の真ん中でやるんだよ。若者の街の真ん中で、けんたろうが新曲を歌うんだ」
ユージの言葉に、社長と綾音さんは、驚きと共にそのアイデアの持つ破壊力に気づき始めた。
「Synaptic Driveのゲリラライブin渋谷。想像してみろよ、社長、綾音さん」
ユージは、興奮したように身を乗り出す。
「あの正体不明の『けんたろう』が、渋谷のど真ん中で、自分自身の『魂の叫び』を歌うんだぜ? しかも、その正体はシルエットのまま。メディアもネット民も、一斉に騒ぎ出すに決まってる。こんなの、たまんねーだろ?!」
ユージの目は、獲物を見つけた猛獣のようにギラギラと輝いていた。それは、常識外れで、無謀とも言える計画だ。だが、その背後には、誰もが納得する「けんたろうの音楽を、最も効果的に世に問う」という確固たる信念があった。
ユージの熱気に満ちた提案に、社長と綾音はゴクリと喉を鳴らした。その破壊力と可能性は計り知れない。だが、彼らは同時に、もう一人の当事者に視線を向けた。
この計画の核となる楽曲『あなたは知らない』を生み出した、けんたろうだ。彼は会議の隅で、青ざめた顔で固まっていた。
「けんたろうくん……君は、どう思う?」
社長がおそるおそる尋ねる。けんたろうは俯いたまま、か細い声で答えた。
「渋谷の……ど真ん中で……? 僕が……?」
彼の声は震えていた。
「無理です……。あんな、たくさんの人がいる場所で……僕の歌なんて……。それに、もし失敗して、警察沙汰にでもなったら……僕のせいで、Rogue Soundに迷惑がかかるのは……」
『あなたは知らない』は、けんたろう自身の内側から絞り出した、あまりにも個人的で、生々しい感情の塊だ。それを、渋谷を行き交う不特定多数の好奇の目に晒すことへの恐怖。そして、弱小レーベルであるRogue Soundを危険に晒すことへの罪悪感。彼が躊躇するのは当然だった。
綾音も、社長も、かける言葉が見つからない。その重苦しい沈黙を破ったのは、やはりユージだった。彼はけんたろうの隣にドカッと腰を下ろすと、その肩を強く掴んだ。
「おい、けんたろう」
ユージの声は、意外なほど静かだった。
「お前、この歌を誰に届けたいんだ?」
「え……?」
「お前のその『魂の叫び』ってやつは、綺麗なホールで、チケットを買ったファンだけにお行儀よく聴いてもらうためのもんか? 違うだろ」
ユージはけんたろうの目をまっすぐに射抜く。
「お前の歌はな、そんな安全な場所にいる奴らのためじゃねえ。渋谷のスクランブル交差点の真ん中で、誰にも理解されず、孤独に潰されそうになってるどっかの誰か。そいつの耳に、無理やりねじ込んでやるためのもんだろうが!」
ユージの声が、徐々に熱を帯びていく。
「『あなたは知らない』! タイトル通りじゃねえか! お前のことなんて誰も知らない! 誰も気にも留めない! そんな絶望的な場所で、たった一人で叫ぶから意味があるんだろうが! 『こんな感情があるんだ』って、『俺はここにいるんだ』ってな!」
迷惑? リスク? ユージは鼻で笑った。
「そんなもんは、俺と社長が全部しょってやる! お前は余計なことなんざ考えなくていい。お前の仕事はただ一つ。あいつらの度肝を抜く、最高の歌を歌うことだ。それだけやりゃいいんだよ!」
ユージの言葉は、乱暴で、一方的だった。だが、そこにはけんたろうの才能への絶対的な信頼と、彼の音楽を誰よりも信じる熱い想いが溢れていた。
けんたろうは、ユージの言葉に打ちのめされたように、しばらく黙り込んでいた。だが、やがて俯いていた顔をゆっくりと上げる。その瞳には、先ほどまでの怯えは消え、覚悟を決めた強い光が宿っていた。
「……僕、やります」
その一言は、静かだが、揺るぎない決意に満ちていた。
「僕が、歌います」
その言葉を聞いて、ユージは満足そうにニヤリと笑った。
社長は、ユージの熱気に押されるように、そしてその奇抜な発想の持つ可能性に魅了されるように、ゆっくりと口を開いた。綾音さんもまた、その無謀なアイデアの危険性を感じつつも、これしかない、という確信にも似た輝きをその瞳に宿していた。
「ゲリラ……ライブか……」
社長は、再び椅子に深く身を沈め、その言葉を反芻する。それは、小さなRogue Soundにとって、かつてないほどのリスクを伴う挑戦だった。しかし、同時に、彼らの音楽を真に届けるための、唯一無二の手段にも思えた。
ユージの突飛な「ゲリラライブ」の提案に、最初は目を丸くしていたRogue Soundの社長だったが、その発想の持つ可能性に、彼の心は大きく動かされていた。通常のリリースでは埋もれてしまうかもしれない、けんたろうの魂の叫びを、最も鮮烈な形で世に問う。これこそが、弱小レーベルであるRogue Soundが、この荒波の音楽業界で生き残るための、唯一の道だと直感したのだ。
社長は、長い沈黙の後、意を決したように立ち上がった。
「よし……やるぞ!」
その声には、迷いは一切なかった。
「綾音くん! 君はすぐに、Synaptic Driveがライブできるだけの機材と、二人が入れるトラックを用意するんだ。音響設備も、電源も、すべて完璧に揃えてくれ。目立たなければ意味がない!」
社長の指示に、綾音さんも引き締まった表情で頷いた。彼女もまた、この無謀とも思える挑戦に、マネージャーとしての全てを賭ける覚悟を決めていた。
「はい! 社長! 任せてください!」
そして、社長は自らに言い聞かせるように、そして覚悟を固めるように、力強く続けた。
「私は所轄の市役所や警察署に確認をしてくる。当然、許可は下りないだろうが……それでも、万が一に備えて、できる限りの根回しをしておく。そして、最悪の事態も想定しておかねばならない」
彼の言葉には、並々ならぬ決意が込められていた。ゲリラライブは、法的なリスクが非常に大きい。無許可での路上パフォーマンスは、即座に中止させられるだけでなく、逮捕や罰金といった事態に発展する可能性も孕んでいる。弱小レーベルであるRogue Soundにとって、これは社の存続に関わるほどの、まさに一か八かの大勝負だった。
『あなたは知らない』。この、けんたろうの感情をむき出しにした魂の歌を、世に届けること。そのためならば、どんなリスクも厭わないという、社長の、そしてRogue Sound全体の覚悟がそこにはあった。
彼らは知っていた。この一歩が、Synaptic Driveの運命を決めると同時に、彼ら自身の未来をも左右する、決して後戻りできない道であることを。
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