「ふ、ふぁぁ〜」
僕は夜型なので朝は苦手だ。
ベッドに寝転がったまま、大きく伸びをする。
僕の名前は最上朔。
何の変哲もない、普通の男子中学生だ。
僕はベッドを降りて、一階にある洗面所へ行き、洗顔して、歯磨きを済ませる。
「朔ぅ〜!ご飯出来たわよ〜!」
今日も過保護な母親の声がリビングから聞こえる。
「もう起きてる!」
僕はそう言い返し、リビングへと向かった。
朝食を摂り、制服に着替え、登校。
それが、この三ヶ月の朝の流れだ。
僕は、今年の春、中学生になった。
地元の公立中学にそのまま入学したので、顔ぶれは小学生の頃とあまり変わらない。
「朔〜〜〜!」
後ろから何やら騒がしい声が聞こえるが、僕は極力スルーする。
後ろからガシッと肩を掴まれ、僕はようやく振り向いた。
「おはよう、優香」
「おっはよ〜⭐︎」
彼女の名前は一ノ瀬優香。
少し茶色がかった長い髪をポニーテールにしてまとめている。
彼女の焦茶に近い目の色は引き込まれそうになる程綺麗だ。
腐れ縁のような、家が横なだけのただの幼馴染だ。
こいつは小学校高学年あたりからいわゆる陽キャと呼ばれる存在へと成長していた。
なのに僕みたいなオタクに絡む変人である。
そして単純に声が大きい。
「何だよぅ〜しけたツラしやがってよぅ〜」
おりゃ、と優香は僕を軽く小突く。
「それはいつも通りだ」
僕は登校中、毎日のように家が真横の優香に揶揄われている。
そのおかげで僕のスルースキルも大分成長した。
僕たちは喋りながらも、着実に歩を進めていく。
「くっつくな、離れろ」
中学校が見えてくると僕は優香から逃げるように歩き始める。
陸上部である優香から逃げるのは至難の業である。
「え〜いいじゃ〜ん学校まで一緒に行こうよ〜」
優香は僕をガッチリホールドし、逃すまいとしている。
クラスメイトや教師に見られて関係性を誤解されたらどうするんだ。
僕と優香が一緒に登校していることでさえ危ういのに、腰に抱きつくなんて。
幼馴染ということも周囲は知らないのだし、優香は僕に気を遣って言っていないのか、はたまたこんなやつと幼馴染なんてバレたくない、という気持ちから言っていないのか。
優香は、今学校で一番モテている。
まあ客観的に見ると優香は陸上部でスタイルも良く、いつも笑顔で、顔も良い方だと思う。
僕が言えたことではないけど。
僕は、運動はできる方だ。
アニメを見て鍛錬というものに憧れ、毎朝五キロほどを走っているからだ。
筋トレもする方だと思う。
僕はその筋肉と陰キャ特有の影の薄さを利用し、優香を撒いたところで、学校の正門を潜った。