時は現代___
現代の高校生の虐めは陰湿だ。
一度ターゲットにされると虐める側が飽きるまで、延々とオモチャにされる。
夜桜月乃はそんなことを考えていた。
黒髪をおさげにした、いかにも虐められそうな少女、私。
私は頭から牛乳を被り、トイレの個室にこもっている。
牛乳を被せたのはこのクラスのトップカーストの女子。
まあ、虐め、だろう。
虐められた理由は、私が大の男嫌いだったからだ。
トップカーストの女子、その子の好きな男子、そいつが私のことが好きだから、というのがいじめが始まるきっかけであった。
それに、同じくトップカーストの女子の好きな人が私のことを好きだったことも合わさり、クラスの女子たちが敵に回ったのだ。
初めは集団による無視や、物を隠されたりする程度だったが、最近は物理的な嫌がらせを受けることが多くなった。
初めの方は心配してくれた友達なんてのも居たんだけどな…。
私が誰かと付き合うなりなんなりしていれば良かったのだろうが、あいにく私は大の男嫌い。
それは小さい頃にあった出来事のせいなのだが、今それはどうでも良い、と私は頭の中で片付ける。
私がそのせいでマスクやメガネをつけ、三つ編みにしているのも別の話だ。
私は思考が逸れてしまい、二度目のため息をついた。
私は現在女子トイレの個室に隠れているが、他の女子に見つかるのも時間の問題かもしれない。
そろそろいなくなったかな?
私がそう思い、個室から出ると、さっき私に牛乳をかけた虐めっこ女子はいないようだ。
それに、何やら廊下が騒がしい。
私は牛乳をトイレットペイパーで拭き、髪を水道で洗った。
耳を澄ますと、
「早く、早く先生呼んで!」
「教室に入って鍵をかけて!」
という声が聞こえる。
どうしたのだろう、と不思議に思いながら、トイレから出る。
今まで私をいじめていた彼女らは教師に見つからないようこっそりと私を虐めてきた。
こんなにあからさまに気持ち悪がられたことはないのにな、とまたまた不思議に思う私の疑問は、私から見て右の廊下にいる人物を見た瞬間に解けた。
「ぐふ、ぐふふ、ぐふふふふ」
右の廊下には、不気味に笑う中年の男が刃物を持って立っていた。
顔はフードで見えず、全身黒ずくめだ。
私が気が付くと周りに生徒はいなかった。
私をおいて、皆逃げたのだ。
私は恐怖する。
生命の危機を感じた私は、冷静に自分の教室へと走り出した。
私の背中に冷たい汗が流れる。
成人男性が苦手な私は過呼吸を起こすが、無理矢理走り出す。
不審者の反対方向へ走り、すぐそこにある自分の教室へと着く。
私は強引に教室の扉を開き、振り返って不審者の位置を確認する。
不審者はまだ動いていない。
というかなぜ教室の扉に鍵をかけていないのだろう?
私からして、それはかなり嬉しいことなのだが。
体を扉に体を滑り込ませた私は、中に入り、鍵を閉めた。
これでしばらくは大丈夫なはずだ、と安心して前を向くと仁王立ちになった女子生徒三人。
私の虐めの主犯格だ。
俗に言うトップカーストの女子。
私を虐める張本人たち。
今は緊急事態だというのに何をしているのだろう。
数秒後、私は廊下に座り込んでいた。
そう、トップカーストの女子三人組に突き飛ばされたのだ。
「いったぁ…」
わざわざ鍵まで開けて。
緊急事態の今でも虐めを続けるつもりなのだろうか、と私は呆れる。
「アンタ!こいつを煮るなり焼くなりどうにでもしていいから、このクラスには手を出さないで頂戴!」
とトップカースト女子が不審者に向かって言ったのだ。
「え?」
私だってあんな気持ち悪いおじさんに好き勝手されたくないと言いたかったが、コミュ力ゼロの私にそれを求めるのは無粋というものである。
あのおじさん変態っぽいし、と私は心の中でおじさんをディスる。
捕まったら何されるかわかったもんじゃない。
不審者は曖昧に頷き、私へとゆっくり近づいてきた。
トップカーストの女子は、教室内で正義のヒーローのように胴上げされている。
そして、他の女子が扉を閉めた。
その目には、軽蔑や侮蔑などが垣間見える。
ガチャリ
鍵が閉まった。
不審者はかなり近づいている。
やっとこの辛い人生が終わるのだろうか、と私は心のどこかで安堵していた。
生きてて良いことなどなかった人生が。
不審者は呼吸を荒くしながら私の傍、すぐ横へと立つ。
私は目を瞑る。
来るであろう衝撃に備えて。
その瞬間、私は悲鳴をあげた。
「ギャァアアッ!!」
腕へと痛みが走ったからだ。
はじめに右腕、次に左腕。
そして足首を切りつけられたのか、両足も動かない。
私としては早く死にたかったのだが、不審者にその気はないらしい。
痛めつけてから殺すつもりなのだ。
五分後__
私はこう思っていた。
死にたい、と。
「うっ」
不審者に散々殴られ、切られ、打撲だらけの私。
そう思うのは当然なのかもしれない。
そろそろ終わりにして欲しい。
と私が懇願していた、その時だった。
首に包丁のひんやりとした感触。
鮮血が飛び散る。
体がどんどん冷たくなっている。
死ぬ間際、私は思考を彷徨っていた。
もう、何も考えられない。
唯一の心残りは母のことだろうか。
あ、母さん、二年前に死んだんだったっけ。
その瞬間、視界が赤黒く染まった。
視界の端には私のことをゴミでも見るかのような目をしているクラスメイトが印象付いたままだ。
視界が、真っ暗に…。
これは私の血なのか、それとも私の死__?