表示設定
表示設定
目次 目次




第十五話:駆け抜ける日々

ー/ー



 年が明け、数え年で3歳を迎えたフリアノン。
 白雷ジムは正月気分もそこそこに、早朝から活気づいていた。

 

 

 ◇

 

 「おはようございますっ!」

 

 廊下を駆け抜けるフリアノンに、スタッフたちが笑顔で挨拶を返す。

 

 「おう、今日も気合い入ってんな!」

 

 「無理すんなよ、フリアノン!」

 

 彼女は小さく頷き、真っ直ぐオフィスへと向かう。
 デビュー当時の、おどおどと人の背中に隠れていた姿はもうない。

 

 

 ◇

 

 「クラシック……絶対に出る……!」

 

 誰に聞かせるでもなく、小さく呟く。
 その言葉には、決意以上の熱がこもっていた。

 

 

 ◇

 

 フリアノンは既にJクラス所属。
 あと2ランク、B、Aを超えなければ、クラシックへの切符は手に入らない。

 

 (でも……わたしなら……。)

 

 震える指先を握りしめる。
 スレイプニルが最後に見せたあの背中。
 あの夢を、わたしが――

 

 

 ◇

 

 オフィスに入ると、村瀬がコーヒーを飲んでいた。
 フリアノンを見ると、眉を上げる。

 

 「またレースの相談か?」

 

 「……はい……!」

 

 迷いのない返事だった。
 村瀬はため息をつく。

 

 「お前なぁ……今月もう二戦組んでるんだぞ?
 体も作り直さなきゃならないし、ユリウスさんだってスケジュールが……。」

 

 

 ◇

 

 「……お願いします!」

 

 フリアノンは深く頭を下げた。
 細い肩が震えている。

 

 「……わたし……スレイの夢を……叶えたいんです……。
 そのためには……クラスを上げないと……!」

 

 

 ◇

 

 村瀬はコーヒーを置き、ゆっくりと椅子から立ち上がった。
 窓の外には、薄暗い宇宙港に照明が灯り始めている。

 

 「……分かった。」

 

 フリアノンが顔を上げる。

 

 「無理はさせられないが……無理しない程度になら……。」

 

 

 ◇

 

 「……ありがとうございますっ!」

 

 瞳を潤ませながらも、フリアノンの声には力があった。

 

 

 ◇

 

 数日後、フリアノンは再び宇宙港のコースに立っていた。

 

 「ノンちゃん、今日も頼むよ?」

 

 コックピットから聞こえるユリウスの優しい声に、フリアノンは深く息を吐く。

 

 (わたし……行くから……スレイ……見ててね……!)

 

 

 ◇

 

 スタートが切られた。
 短距離戦。
 瞬発力勝負。

 

 序盤から飛ばす先行勢を横目に、フリアノンはユリウスの指示で後方につける。

 

 「まだ……まだだよ……。」

 

 念動力の制御装置が唸る。
 最終コーナー。
 ユリウスの声が弾んだ。

 

 「――今だ、行けっ!!」

 

 

 ◇

 

 その瞬間、体内に走る熱。
 推進力が爆発し、視界が白く弾けた。

 

 (わたし……走ってる……走ってるよ……スレイ……!)

 

 残り200m。
 外から一気に差し込み、先頭へ。

 

 (あと少し……あと少し……!)

 

 そして――ゴール。

 

 

 ◇

 

 「Jクラス、フリアノン1着!!」

 

 実況の声がコクピット内に響く。
 フリアノンの頬を涙が伝った。

 

 (スレイ……勝ったよ……。)

 

 

 ◇

 

 控え室に戻ると、ユリウスが優しく微笑んでいた。

 

 「おめでとう、ノンちゃん。」

 

 「……ありがとうございます……。」

 

 

 ◇

 

 だが彼女の瞳は、すでに次のレースを見据えていた。
 Bクラス、そしてAクラス――。

 

 (わたし……絶対に……行くから……クラシックに……!
 スレイの夢を……わたしが叶えるから……!)

 

 その決意は、誰にも折れない光となって、彼女の中で燃えていた。


スタンプを贈って作者を応援しよう!

次のエピソードへ進む 第十六話:昇格の刻


みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



 年が明け、数え年で3歳を迎えたフリアノン。
 白雷ジムは正月気分もそこそこに、早朝から活気づいていた。
 ◇
 「おはようございますっ!」
 廊下を駆け抜けるフリアノンに、スタッフたちが笑顔で挨拶を返す。
 「おう、今日も気合い入ってんな!」
 「無理すんなよ、フリアノン!」
 彼女は小さく頷き、真っ直ぐオフィスへと向かう。
 デビュー当時の、おどおどと人の背中に隠れていた姿はもうない。
 ◇
 「クラシック……絶対に出る……!」
 誰に聞かせるでもなく、小さく呟く。
 その言葉には、決意以上の熱がこもっていた。
 ◇
 フリアノンは既にJクラス所属。
 あと2ランク、B、Aを超えなければ、クラシックへの切符は手に入らない。
 (でも……わたしなら……。)
 震える指先を握りしめる。
 スレイプニルが最後に見せたあの背中。
 あの夢を、わたしが――
 ◇
 オフィスに入ると、村瀬がコーヒーを飲んでいた。
 フリアノンを見ると、眉を上げる。
 「またレースの相談か?」
 「……はい……!」
 迷いのない返事だった。
 村瀬はため息をつく。
 「お前なぁ……今月もう二戦組んでるんだぞ?
 体も作り直さなきゃならないし、ユリウスさんだってスケジュールが……。」
 ◇
 「……お願いします!」
 フリアノンは深く頭を下げた。
 細い肩が震えている。
 「……わたし……スレイの夢を……叶えたいんです……。
 そのためには……クラスを上げないと……!」
 ◇
 村瀬はコーヒーを置き、ゆっくりと椅子から立ち上がった。
 窓の外には、薄暗い宇宙港に照明が灯り始めている。
 「……分かった。」
 フリアノンが顔を上げる。
 「無理はさせられないが……無理しない程度になら……。」
 ◇
 「……ありがとうございますっ!」
 瞳を潤ませながらも、フリアノンの声には力があった。
 ◇
 数日後、フリアノンは再び宇宙港のコースに立っていた。
 「ノンちゃん、今日も頼むよ?」
 コックピットから聞こえるユリウスの優しい声に、フリアノンは深く息を吐く。
 (わたし……行くから……スレイ……見ててね……!)
 ◇
 スタートが切られた。
 短距離戦。
 瞬発力勝負。
 序盤から飛ばす先行勢を横目に、フリアノンはユリウスの指示で後方につける。
 「まだ……まだだよ……。」
 念動力の制御装置が唸る。
 最終コーナー。
 ユリウスの声が弾んだ。
 「――今だ、行けっ!!」
 ◇
 その瞬間、体内に走る熱。
 推進力が爆発し、視界が白く弾けた。
 (わたし……走ってる……走ってるよ……スレイ……!)
 残り200m。
 外から一気に差し込み、先頭へ。
 (あと少し……あと少し……!)
 そして――ゴール。
 ◇
 「Jクラス、フリアノン1着!!」
 実況の声がコクピット内に響く。
 フリアノンの頬を涙が伝った。
 (スレイ……勝ったよ……。)
 ◇
 控え室に戻ると、ユリウスが優しく微笑んでいた。
 「おめでとう、ノンちゃん。」
 「……ありがとうございます……。」
 ◇
 だが彼女の瞳は、すでに次のレースを見据えていた。
 Bクラス、そしてAクラス――。
 (わたし……絶対に……行くから……クラシックに……!
 スレイの夢を……わたしが叶えるから……!)
 その決意は、誰にも折れない光となって、彼女の中で燃えていた。