逢いたいが情、見たいが病Ⅱ Love longs, and longing aches.
ー/ー 屋上に上がると、ちょうど崇直たちが奥の展示場から出てくるところだった。
「そっち何かあるの」
紅緒が握った手に力を込めた。
「あ」
もう一度握り直すように僕の手を掴み、引っ張るように崇直の方へ連れて行く。
場合によったらその先の展示場へ行く気だな。
「マンボウだよ。珍しいだろう、オレら席取っとくから行ってくれば」
と田中が展示場を指しながら応えた。
崇直が半笑いで僕を見る。
「あれま、手なんか握ちゃって。行ってくれば? 先行っとくから」
「あ、うん」
「行くよ、わーちゃん」
うわっ、紅緒引っ張りすぎ。それじゃ嫌がる子供を連れて歩くお母さんだよ。
後ろで崇直がゲラゲラ笑っているのが聞こえた。
うーーーっ。崇直のやろう、昔のことまだ覚えてやがったか。
屋上のすみに設けられた特別展示水槽。
そのスペースは薄暗く、通路に沿って巨大な水槽があった。
薄い膜が何枚もカーテンのように水槽の中に垂れている。
水流のせいか、ゆらゆらと揺れて今にも何かが出てきそうだ。
何だこれ。
「見て、わーちゃん。マンボウだ」
その垂れた膜を縫うようにコレまた巨大なマンボウが現れた。
薄暗い中、銀色の巨体が浮き上がる。
「マンボウって、明るいのダメなんだって。水槽にぶつかって怪我するから膜で保護してるって書いてある」
そう言って僕を見上げる。
やばいっ。
そのまま抱きしめてキスしそうになった。
いや、すればよかったのか。
今なら、誰もいないよ、な。
「わーちゃん、どうかした?」
紅緒、ごめん。嫌だったら突き飛ばしていいから。
「直ちゃんの5年祭の時、迎えに来ていた女の人」
え。
伸ばしかけた手を止める。
「きれいな人、上の駐車場に来てたでしょう」
紀和さんだ。
「うん」
あの日、午後から伊豆へ旅行に行く予定で車で迎えに来てくれてたんだ。
そうか、見られてたのか。
「私とこんなことしてたら、あの人にわーちゃん怒られるかな」
と腕を曲げ握った手を僕に見せた。
何言い出すんだよ。心臓が止まるかと思ったじゃないかよ。
「いや、大丈夫というか、もう別れたから」
「えーーっ、また上手く行かなかったの」
おまえが言うか! このやろう、終いにはキスするぞ。
握る左手に力を込め、引き寄せた。
間近に紅緒が顔を寄せてくる。
「慰めてあげようか。泣いてもいいよ。胸かしてあげる」
「……いらねーよ、バカ」
強がっちゃって、と思いっきり突き飛ばされた。
「どーせ、フラレたんでしょうが」
と今度は背中をしばくしばく。
いてーよ、普通に。
「うるさい」
「一晩中泣いたんじゃない?」
「フラレたくらいで泣くか」
「えー、あたしだったら一月は落ち込むな。ずーっと引きずって泣いちゃう」
嘘をつけ。お前はフラレたことなんかないだろうが。
違う。
フラレるより辛い目にあったんだった。
今笑っている紅緒は、直樹のことを忘れたわけじゃない。
心に秘めてるだけだ。
「うひゃっ、外は眩しいね、わーちゃん」
外に出たら、西日が目を刺してきた。
「西日って眩しいんだな」
「いっけない。アシカのハナコが待ってるよ。急げーっ」
と、また僕の手を握って紅緒が走り出した。
この手を話したくないと、強く思った。
「そっち何かあるの」
紅緒が握った手に力を込めた。
「あ」
もう一度握り直すように僕の手を掴み、引っ張るように崇直の方へ連れて行く。
場合によったらその先の展示場へ行く気だな。
「マンボウだよ。珍しいだろう、オレら席取っとくから行ってくれば」
と田中が展示場を指しながら応えた。
崇直が半笑いで僕を見る。
「あれま、手なんか握ちゃって。行ってくれば? 先行っとくから」
「あ、うん」
「行くよ、わーちゃん」
うわっ、紅緒引っ張りすぎ。それじゃ嫌がる子供を連れて歩くお母さんだよ。
後ろで崇直がゲラゲラ笑っているのが聞こえた。
うーーーっ。崇直のやろう、昔のことまだ覚えてやがったか。
屋上のすみに設けられた特別展示水槽。
そのスペースは薄暗く、通路に沿って巨大な水槽があった。
薄い膜が何枚もカーテンのように水槽の中に垂れている。
水流のせいか、ゆらゆらと揺れて今にも何かが出てきそうだ。
何だこれ。
「見て、わーちゃん。マンボウだ」
その垂れた膜を縫うようにコレまた巨大なマンボウが現れた。
薄暗い中、銀色の巨体が浮き上がる。
「マンボウって、明るいのダメなんだって。水槽にぶつかって怪我するから膜で保護してるって書いてある」
そう言って僕を見上げる。
やばいっ。
そのまま抱きしめてキスしそうになった。
いや、すればよかったのか。
今なら、誰もいないよ、な。
「わーちゃん、どうかした?」
紅緒、ごめん。嫌だったら突き飛ばしていいから。
「直ちゃんの5年祭の時、迎えに来ていた女の人」
え。
伸ばしかけた手を止める。
「きれいな人、上の駐車場に来てたでしょう」
紀和さんだ。
「うん」
あの日、午後から伊豆へ旅行に行く予定で車で迎えに来てくれてたんだ。
そうか、見られてたのか。
「私とこんなことしてたら、あの人にわーちゃん怒られるかな」
と腕を曲げ握った手を僕に見せた。
何言い出すんだよ。心臓が止まるかと思ったじゃないかよ。
「いや、大丈夫というか、もう別れたから」
「えーーっ、また上手く行かなかったの」
おまえが言うか! このやろう、終いにはキスするぞ。
握る左手に力を込め、引き寄せた。
間近に紅緒が顔を寄せてくる。
「慰めてあげようか。泣いてもいいよ。胸かしてあげる」
「……いらねーよ、バカ」
強がっちゃって、と思いっきり突き飛ばされた。
「どーせ、フラレたんでしょうが」
と今度は背中をしばくしばく。
いてーよ、普通に。
「うるさい」
「一晩中泣いたんじゃない?」
「フラレたくらいで泣くか」
「えー、あたしだったら一月は落ち込むな。ずーっと引きずって泣いちゃう」
嘘をつけ。お前はフラレたことなんかないだろうが。
違う。
フラレるより辛い目にあったんだった。
今笑っている紅緒は、直樹のことを忘れたわけじゃない。
心に秘めてるだけだ。
「うひゃっ、外は眩しいね、わーちゃん」
外に出たら、西日が目を刺してきた。
「西日って眩しいんだな」
「いっけない。アシカのハナコが待ってるよ。急げーっ」
と、また僕の手を握って紅緒が走り出した。
この手を話したくないと、強く思った。
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