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草刈る山路が笛の音Ⅵ Every step you take my eyes follow.

ー/ー



 数メートル先を紅緒と田中が歩いてる。
 なんだか楽しそうに、高校時代の部活の話でもしてるのだろうか。
 君らの高校時代もバスケの話も、僕は知らないけど。 

「亘」

「うん」

 崇直もずっと前を見たままだ。こいつも前の二人が気になってるのかな。
 
「もしかしてあれか。また、女と別れたのか」

「ゔげっ」

 崇直、おまえはどうしてそういうところ、鼻が効くんだよ。

「せ、先週別れた」

「やっぱり。けっこう長く付き合ってたよな」

「1年くらい。でも、もう要らないって、先週見事捨てられました」

 そう言ったら、崇直は心底憐れむような顔で僕を見て、やれやれとばかり首を振った。

「捨てられたとか、何言ってんのおまえ」

 え?

「他人に戻っただけ。捨てられたんじゃない。そんな人だったか?」

 他人に戻っただけ。

「飽きられたんだと思ってた」

「飽きられたんならそれでいいけどさ、物みたいにおまえを扱う人だったかって訊いてんの」

 僕は首を振る。
 紀和さんは、そんな人じゃない。

「違うよ。そんな人じゃない。紀和さんは……」

 僕、紅緒をダシにごまかしてたのか。
 
「それで酒呑んだのか?」

 違う違う。慌てて首を振る。
 そこでまたまた紀和さんとの別れ話を、紅緒のことは濁して崇直にまで話すことになってしまった。
 先輩に大笑いされたくだりまで、喋っちゃったよ。

「寧ろ良かったんじゃないの、平川さんに話して。笑い飛ばしてくれたんだろう。無事失恋乗り越えたんじゃね」

 失恋!
 僕、紀和さんのことそんなに好きだったのか。
 彼女が言う通り、正面から向き合わなかったくせに。
 勝手なもんだなぁ。
 最低じゃないか、僕。

「そりゃ、フラれたら誰だって辛いし悲しいからな。引っ越しまでされちゃ、諦めるしか無いわな」

 あ、そこはね自分でも何と言うか。
 最低な奴って気づかせてくれてありがとうよ。
 はーっ、ため息がまた出ちゃうよ。

「確かに、面白い人だわ。オレだって笑うよ。その話」

 今更思い出し笑いすんなよ、もう恥ずいじゃないかよ。 

「確かに、崇直にまで笑われて、お陰で吹っ切れたよ」

 いい加減な気持ちで女性と付き合うものじゃないって、良く分かったよ。
 
「ん。じゃ、また別の子……」

「嵩ちゃーん!」

 先を行く紅緒が振り返り、大声で崇直を呼んでいる。

「入口ここで良かったっけ」

 声、デカ。

 ああ、もうと、崇直が叫ぶのが面倒なのかゼスチャーで返している。

「何急いでるんだベーのやつ」

 崇直が、行くぞと走り出す。
 高架橋下の入口から入り、突き当り手前のエレベーターホールまで行ってみたら。
『世界の毒毒猛毒展』という大きなパネルが展示されてあった。
 それもヤドクガエルの巨大写真付きだ。

「わーちゃん。どうしよう、ヤドクガエル来てる! テレビでやってたんだよね。生で見られるよ」
 
 その横に、あった! 豹紋蛸の写真。
 めちゃ可愛いっじゃん。

「べー、豹紋蛸も居るぞ。マンバは無理だとしてもアダーあたりは来てて欲しい。あ、ブラック・ウィドウは居るんじゃね」

 興奮してきた。昔を思い出すなぁ。神社の湧き水の辺りでアカハライモリ見つけて、卵孵したよな。
 カエルの卵も、何匹孵したか。

 僕らはエレベーターから降りると速攻でチケットを購入し、呆れる崇直と田中を尻目に特別展示室のある2階の階段を駆け上がった。

「うわ〜、綺麗」

 紅緒が悲鳴にも似た歓声を上げる。
 だよな、この色はずるいよなぁ。

 コバルトヤドクガエルは、本当に綺麗な青い色をしてるんだ。
 大きさなんて僕の指先程度なのに、その毒たるや像さえ即死させるのだからゾクッとするよね。
 キューブ型の水槽内ジャングルに、隠れるように佇んでいる青いカエル。
 濃い緑の中、しっとりと霧が降る下生えにちょこんと佇んで、そこから見える世界って一体どんなんだろう。

 何匹か入ってるらしいが、手前の一匹しか見つけられない。

 紅緒と一緒に探していたら、崇直がやってきた。

「いたいた」

「やっと来た。ほら、コバルトヤドクガエル」

 紅緒の隣を譲ってやる。

 おお、と崇直もこの小さなクリーチャーに目が釘付けだ。

「田中が爬虫類系ダメなんだって」

「え、ナオト先輩そうだったの」

「足は多くても無くても無理らしい」

「虫もダメなんだ。ざんねんーん」

 と言いつつ、紅緒は特に気にするでもなくヤドクガエルに夢中だ。
 君はそうでなくっちゃね。

 僕はそんな紅緒を対面からガラス越しに眺めていた。紅緒の顎のあたりに、コバルトブルーの小さなカエル。
 誰もヤドクガエルから目が離せないよな。
 色も造形も、特別だもんな。

「なので、屋上のアシカショーで落ち合おうぜ。後1時間はあるから好きに見て回ってくれ」

 じゃ、と崇直が水槽から離れるのがガラス越しに分かった。

「オーケー。バイバーイ」

 僕らはカエルから目を離さないまま、崇直に手を降り再びコバルト色の生きた宝石に集中した。
 
「何匹居るんだろうね」

 そう紅緒に問いかけたら、右奥から勢いよく別の一匹が紅緒の顔に向かって飛び出してきた。
 紅緒の小さな悲鳴があがる。
 その姿があまりにあどけなくて、僕は吹き出してしまった。
 
 紅緒は恥ずかしかったのか、少しムッとした顔で僕を睨んできた。
 それで我慢できなくなった僕は、声に出して笑ってしまった。

「わーちゃんのいぢわる」

 はいはい。何とでも言ってください。
 やっぱり僕は、君が大好きだよ。


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 数メートル先を紅緒と田中が歩いてる。
 なんだか楽しそうに、高校時代の部活の話でもしてるのだろうか。
 君らの高校時代もバスケの話も、僕は知らないけど。 
「亘」
「うん」
 崇直もずっと前を見たままだ。こいつも前の二人が気になってるのかな。
「もしかしてあれか。また、女と別れたのか」
「ゔげっ」
 崇直、おまえはどうしてそういうところ、鼻が効くんだよ。
「せ、先週別れた」
「やっぱり。けっこう長く付き合ってたよな」
「1年くらい。でも、もう要らないって、先週見事捨てられました」
 そう言ったら、崇直は心底憐れむような顔で僕を見て、やれやれとばかり首を振った。
「捨てられたとか、何言ってんのおまえ」
 え?
「他人に戻っただけ。捨てられたんじゃない。そんな人だったか?」
 他人に戻っただけ。
「飽きられたんだと思ってた」
「飽きられたんならそれでいいけどさ、物みたいにおまえを扱う人だったかって訊いてんの」
 僕は首を振る。
 紀和さんは、そんな人じゃない。
「違うよ。そんな人じゃない。紀和さんは……」
 僕、紅緒をダシにごまかしてたのか。
「それで酒呑んだのか?」
 違う違う。慌てて首を振る。
 そこでまたまた紀和さんとの別れ話を、紅緒のことは濁して崇直にまで話すことになってしまった。
 先輩に大笑いされたくだりまで、喋っちゃったよ。
「寧ろ良かったんじゃないの、平川さんに話して。笑い飛ばしてくれたんだろう。無事失恋乗り越えたんじゃね」
 失恋!
 僕、紀和さんのことそんなに好きだったのか。
 彼女が言う通り、正面から向き合わなかったくせに。
 勝手なもんだなぁ。
 最低じゃないか、僕。
「そりゃ、フラれたら誰だって辛いし悲しいからな。引っ越しまでされちゃ、諦めるしか無いわな」
 あ、そこはね自分でも何と言うか。
 最低な奴って気づかせてくれてありがとうよ。
 はーっ、ため息がまた出ちゃうよ。
「確かに、面白い人だわ。オレだって笑うよ。その話」
 今更思い出し笑いすんなよ、もう恥ずいじゃないかよ。 
「確かに、崇直にまで笑われて、お陰で吹っ切れたよ」
 いい加減な気持ちで女性と付き合うものじゃないって、良く分かったよ。
「ん。じゃ、また別の子……」
「嵩ちゃーん!」
 先を行く紅緒が振り返り、大声で崇直を呼んでいる。
「入口ここで良かったっけ」
 声、デカ。
 ああ、もうと、崇直が叫ぶのが面倒なのかゼスチャーで返している。
「何急いでるんだベーのやつ」
 崇直が、行くぞと走り出す。
 高架橋下の入口から入り、突き当り手前のエレベーターホールまで行ってみたら。
『世界の毒毒猛毒展』という大きなパネルが展示されてあった。
 それもヤドクガエルの巨大写真付きだ。
「わーちゃん。どうしよう、ヤドクガエル来てる! テレビでやってたんだよね。生で見られるよ」
 その横に、あった! 豹紋蛸の写真。
 めちゃ可愛いっじゃん。
「べー、豹紋蛸も居るぞ。マンバは無理だとしてもアダーあたりは来てて欲しい。あ、ブラック・ウィドウは居るんじゃね」
 興奮してきた。昔を思い出すなぁ。神社の湧き水の辺りでアカハライモリ見つけて、卵孵したよな。
 カエルの卵も、何匹孵したか。
 僕らはエレベーターから降りると速攻でチケットを購入し、呆れる崇直と田中を尻目に特別展示室のある2階の階段を駆け上がった。
「うわ〜、綺麗」
 紅緒が悲鳴にも似た歓声を上げる。
 だよな、この色はずるいよなぁ。
 コバルトヤドクガエルは、本当に綺麗な青い色をしてるんだ。
 大きさなんて僕の指先程度なのに、その毒たるや像さえ即死させるのだからゾクッとするよね。
 キューブ型の水槽内ジャングルに、隠れるように佇んでいる青いカエル。
 濃い緑の中、しっとりと霧が降る下生えにちょこんと佇んで、そこから見える世界って一体どんなんだろう。
 何匹か入ってるらしいが、手前の一匹しか見つけられない。
 紅緒と一緒に探していたら、崇直がやってきた。
「いたいた」
「やっと来た。ほら、コバルトヤドクガエル」
 紅緒の隣を譲ってやる。
 おお、と崇直もこの小さなクリーチャーに目が釘付けだ。
「田中が爬虫類系ダメなんだって」
「え、ナオト先輩そうだったの」
「足は多くても無くても無理らしい」
「虫もダメなんだ。ざんねんーん」
 と言いつつ、紅緒は特に気にするでもなくヤドクガエルに夢中だ。
 君はそうでなくっちゃね。
 僕はそんな紅緒を対面からガラス越しに眺めていた。紅緒の顎のあたりに、コバルトブルーの小さなカエル。
 誰もヤドクガエルから目が離せないよな。
 色も造形も、特別だもんな。
「なので、屋上のアシカショーで落ち合おうぜ。後1時間はあるから好きに見て回ってくれ」
 じゃ、と崇直が水槽から離れるのがガラス越しに分かった。
「オーケー。バイバーイ」
 僕らはカエルから目を離さないまま、崇直に手を降り再びコバルト色の生きた宝石に集中した。
「何匹居るんだろうね」
 そう紅緒に問いかけたら、右奥から勢いよく別の一匹が紅緒の顔に向かって飛び出してきた。
 紅緒の小さな悲鳴があがる。
 その姿があまりにあどけなくて、僕は吹き出してしまった。
 紅緒は恥ずかしかったのか、少しムッとした顔で僕を睨んできた。
 それで我慢できなくなった僕は、声に出して笑ってしまった。
「わーちゃんのいぢわる」
 はいはい。何とでも言ってください。
 やっぱり僕は、君が大好きだよ。