ー/ー



ゾクっとした、耳元でそんな怖いこと言われて本気で身体中の毛がビリビリしたんだ。
俺戦うことなんて全然だぞ、対してジンはと言えば、目の前でぶっ倒れているイノシシ見れば分かる通り、目にも止まらぬ乱舞技でKOさせちゃったんだし。
絶対勝てねえよ!

「なーんてな、冗談だよ」
ポンと俺の肩に手をのせた。え、ウソだった……の?
「お前みたいなヘタレなやつをボコボコにしたって張り合いねえしな」
ビックリしただろ? なんてあいつはホッと気の抜けた俺の顔を覗き込んできたんだけど……
わかる。ジンの目だけはマジだってこと。冗談とかじゃない、とりあえず今は手を出さないでおいてやるぜ。って。口じゃなく目でそう言ってたんだ。

「タケル……?」げっ、トモキ!?
忘れてた、俺トイレ行きたくなったって離れたまんまだったし! オマケにさっきジンのやつに無理矢理ワーウルフに変えられたし目の前にはワーイノシシとジンがいるしでどうすりゃいいんだよやっべえええええ!
「なんかすごい音が聞こえたんだけど」
え?
あわてて振り向くと……いない!
二足歩行のジンもワーイノシシも忽然と消えてたんだ。それに……
俺も元の人間の姿に戻ってた。ズボンだけは下げたまんまだったけど。

「な、なんか進展……あった?」トモキに聞いてみたら、その時のデカい音以外はなんにもなかったって。だから俺も「いや、そんな音した?」ってとぼけておいた。
⭐︎⭐︎⭐︎
「他県で畑の作物の連続盗難事件が発生してるってニュースが来てたよ。最初は普通に下りてきた野生動物の仕業って言われてたんだけど、しばらくして被害の規模が大きくなってきて……」
「それが、今回のにも関係あるってこと?」
帰り道、大あくびしながらトモキはスマホを俺に見せてくれた。
「絶対にクマなんかじゃない。僕はそう思ったんだ」
また続ける? って聞いたら、トモキは微妙だねって。できればそうしてもらいたい。こっちだって怪物と戦うのはもうゴメンだからね。
あとは……今回の自由研究はどうやってまとめ上げなきゃならないかだな。まあそれはトモキに任せるとして。
今はとにかく、寝たい……
⭐︎⭐︎⭐︎
翌日、俺はジンに話を聞こうとあいつが飼われてる家へ向かった。

「スピリットに魂を穢された人間がこんな近くにいたとはな……驚きだ」
ジンの毛が、陽の光にきらりと光って見えた。
「スピリット?」
「ご先祖からの言い伝えだ。俺たちケモノの魂……つまりスピリットは、時おり輪廻転生の理を無視して、人間の心と身体を奪うんだとか」
「よく分かんねえ……」
「理解しなくたって構わねえよ」
なんなんだよジン、そのぶっきらぼうな答えは。
だが、と前置きし、またあいつは続けた。
「お前もまた特別な存在だ。本来ならば魂を穢された人間は、ヒトであるということを忘れている。だからあのイノシシには何を言っても通用しない……ただどちらかが倒れるまで戦うだけだ。しかしお前は」
「穢されていなかった……ってことだよね?」
ジンは軽くうなづいた「そうだ、お前はバカなお前のままだしな」って。ハイハイ嫌味ありがとさん。

「あれから俺も冷静になって考えたんだ……なぜお前がスピリットに穢された身でありながら自我を持ち続けているんだ?」
「どういうこと?」
険しかったジンの顔が、頬が、目が、鼻先が。ほんのちょっぴり微笑んだように見えたんだ。
「そうだな、しばらくお前を観察してみるのも悪くないな……って」
「マジかよ、正直お前と一緒になんていたくないんだけど」
「当たり前だ。俺はいつだってお前の弱さを見つけたら、その首に牙を立てる気だってことは忘れるな」
その言葉に、俺の背筋に冷や汗が走った。
「仲良くやろうなんてことは考えるな。俺の強さは承知済みだろ?」
言葉が出なかった。確かにそうだ。こいつのやばい強さを俺は目の当たりにしたんだし。いつかこいつは俺に鋭い牙を向けるんだろうな。あのイノシシを倒した時みたく。

俺に……強くなれるのかな?

「強くなりたいとか思ってるんじゃねーだろうな?」
ふと、ジンに心の言葉を読まれたみたいでハッとした。
「俺を倒すために強くなる、そんな生半可な理由なんざ無駄だぞ」
「な、なんでだよ……」
今度は小馬鹿にするような、あいつの鼻先に嫌味ったらしい笑みが見てとれた。
「もし、戦うしか道がなければ……その時お前は、親をその爪で、牙で殺すことができるか?」
「え……!?」
「どちらかが生き抜かなければ道がない時、お前の親父が本気で殺しにかかった時、その……」
「いないよ、親父なんて」
「え、あれ!?」驚く立場がジンの方へと変わってしまった。
「何年も前に俺の両親は事故で死んじゃった。俺だけ奇跡的に生きてて、でも引き取ってくれる親戚なんかいなくて、ひとりぼっちかなと思って時に姉貴が現れたんだ」
「…………」
「姉貴が俺とどういう関係なのかは調べたことがない。怖いから。けど姉貴はいつも俺のことを思ってくれていて、そしてなによりも優しい。それだけで今は充分だって思ったんだ」
「そうだった……のか」
「いろいろ将来のこと思うとキリがないけどさ……お金の問題とか。でも今は幸せだと思ってる。だからたとえ俺の姿が変わったとしても」
のぼる朝日が、俺とジンを赤く照らし始めた。
「楽しく幸せになってみたいな、って」
俺の言葉を聞き終えると、あいつは尖った黒い鼻で大きなため息をついた。
「ほんと……バカなんだな、おまえ」
「そう? バカかな?」
「ああ、バカもバカ。最強クラスのバカだ」
なんかそこまで言われるとすげえムカつくんだけど。

「ちょっと気が抜けちまった。ここまで頭空っぽだとはな」
ごろんと、ジンは身体を地面に横たえた
「ンじゃあよ、俺がお前の兄貴になるっつーのはどうだ?」
「え、つまりは兄ちゃん?」
「そーゆーことだ。お前もひとり、俺も今は孤独の身だ。守ってやってもいいんだぜ?」

逆に俺の方がため息つきそうになった。なんなんだジンのやつコロコロと態度変えやがって。殺そうとしたら今度は守るだと? ふざけんな!

「いつでも狙う気は変わらねーさ。お前のことを監視するのもな。まあ要するにお前をいろいろ調べてみたいってことだ。よろしくな弟!」
「やめろよ、俺の方からお断りだ!」
「一緒に調べてやってもいいんだぜ、お前の身体の秘密をよ?」
ふと思った。つまり俺はジンに利用されようとしている……ってワケだ。つまり俺も利用を!?
「まあ俺の方からは消える気はないけどな。ここに居続けていればメシの心配も身体をわざわざ洗う心配もねえし。それにお前に散歩だって命令できるしよ。至れり尽くせりだ。ぶわはははははは!」

ワケわからねえ、お前オオカミだけど犬だろ? 今はおばちゃんの飼い犬だろ? なんで俺が飼い犬に命令されなきゃなんねーんだよ。

「やる気か? ケンカなら負けねーぞ」
「くっ……」あああダメだ、力なら完全に負けるし。

「やべえ時はすぐに俺を呼びな。お前のくせえ足跡の臭いをたどれば、場所なんて速攻で分かるからな」

だ か ら そ れ は 言 う ン じ ゃ ね ー!!
ぜってーにぶっ殺す! 強くなったらジンの奴ぜってーに殺す!


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「タケル……?」げっ、トモキ!?
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え?
あわてて振り向くと……いない!
二足歩行のジンもワーイノシシも忽然と消えてたんだ。それに……
俺も元の人間の姿に戻ってた。ズボンだけは下げたまんまだったけど。
「な、なんか進展……あった?」トモキに聞いてみたら、その時のデカい音以外はなんにもなかったって。だから俺も「いや、そんな音した?」ってとぼけておいた。
⭐︎⭐︎⭐︎
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「それが、今回のにも関係あるってこと?」
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また続ける? って聞いたら、トモキは微妙だねって。できればそうしてもらいたい。こっちだって怪物と戦うのはもうゴメンだからね。
あとは……今回の自由研究はどうやってまとめ上げなきゃならないかだな。まあそれはトモキに任せるとして。
今はとにかく、寝たい……
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翌日、俺はジンに話を聞こうとあいつが飼われてる家へ向かった。
「スピリットに魂を穢された人間がこんな近くにいたとはな……驚きだ」
ジンの毛が、陽の光にきらりと光って見えた。
「スピリット?」
「ご先祖からの言い伝えだ。俺たちケモノの魂……つまりスピリットは、時おり輪廻転生の理を無視して、人間の心と身体を奪うんだとか」
「よく分かんねえ……」
「理解しなくたって構わねえよ」
なんなんだよジン、そのぶっきらぼうな答えは。
だが、と前置きし、またあいつは続けた。
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「穢されていなかった……ってことだよね?」
ジンは軽くうなづいた「そうだ、お前はバカなお前のままだしな」って。ハイハイ嫌味ありがとさん。
「あれから俺も冷静になって考えたんだ……なぜお前がスピリットに穢された身でありながら自我を持ち続けているんだ?」
「どういうこと?」
険しかったジンの顔が、頬が、目が、鼻先が。ほんのちょっぴり微笑んだように見えたんだ。
「そうだな、しばらくお前を観察してみるのも悪くないな……って」
「マジかよ、正直お前と一緒になんていたくないんだけど」
「当たり前だ。俺はいつだってお前の弱さを見つけたら、その首に牙を立てる気だってことは忘れるな」
その言葉に、俺の背筋に冷や汗が走った。
「仲良くやろうなんてことは考えるな。俺の強さは承知済みだろ?」
言葉が出なかった。確かにそうだ。こいつのやばい強さを俺は目の当たりにしたんだし。いつかこいつは俺に鋭い牙を向けるんだろうな。あのイノシシを倒した時みたく。
俺に……強くなれるのかな?
「強くなりたいとか思ってるんじゃねーだろうな?」
ふと、ジンに心の言葉を読まれたみたいでハッとした。
「俺を倒すために強くなる、そんな生半可な理由なんざ無駄だぞ」
「な、なんでだよ……」
今度は小馬鹿にするような、あいつの鼻先に嫌味ったらしい笑みが見てとれた。
「もし、戦うしか道がなければ……その時お前は、親をその爪で、牙で殺すことができるか?」
「え……!?」
「どちらかが生き抜かなければ道がない時、お前の親父が本気で殺しにかかった時、その……」
「いないよ、親父なんて」
「え、あれ!?」驚く立場がジンの方へと変わってしまった。
「何年も前に俺の両親は事故で死んじゃった。俺だけ奇跡的に生きてて、でも引き取ってくれる親戚なんかいなくて、ひとりぼっちかなと思って時に姉貴が現れたんだ」
「…………」
「姉貴が俺とどういう関係なのかは調べたことがない。怖いから。けど姉貴はいつも俺のことを思ってくれていて、そしてなによりも優しい。それだけで今は充分だって思ったんだ」
「そうだった……のか」
「いろいろ将来のこと思うとキリがないけどさ……お金の問題とか。でも今は幸せだと思ってる。だからたとえ俺の姿が変わったとしても」
のぼる朝日が、俺とジンを赤く照らし始めた。
「楽しく幸せになってみたいな、って」
俺の言葉を聞き終えると、あいつは尖った黒い鼻で大きなため息をついた。
「ほんと……バカなんだな、おまえ」
「そう? バカかな?」
「ああ、バカもバカ。最強クラスのバカだ」
なんかそこまで言われるとすげえムカつくんだけど。
「ちょっと気が抜けちまった。ここまで頭空っぽだとはな」
ごろんと、ジンは身体を地面に横たえた
「ンじゃあよ、俺がお前の兄貴になるっつーのはどうだ?」
「え、つまりは兄ちゃん?」
「そーゆーことだ。お前もひとり、俺も今は孤独の身だ。守ってやってもいいんだぜ?」
逆に俺の方がため息つきそうになった。なんなんだジンのやつコロコロと態度変えやがって。殺そうとしたら今度は守るだと? ふざけんな!
「いつでも狙う気は変わらねーさ。お前のことを監視するのもな。まあ要するにお前をいろいろ調べてみたいってことだ。よろしくな弟!」
「やめろよ、俺の方からお断りだ!」
「一緒に調べてやってもいいんだぜ、お前の身体の秘密をよ?」
ふと思った。つまり俺はジンに利用されようとしている……ってワケだ。つまり俺も利用を!?
「まあ俺の方からは消える気はないけどな。ここに居続けていればメシの心配も身体をわざわざ洗う心配もねえし。それにお前に散歩だって命令できるしよ。至れり尽くせりだ。ぶわはははははは!」
ワケわからねえ、お前オオカミだけど犬だろ? 今はおばちゃんの飼い犬だろ? なんで俺が飼い犬に命令されなきゃなんねーんだよ。
「やる気か? ケンカなら負けねーぞ」
「くっ……」あああダメだ、力なら完全に負けるし。
「やべえ時はすぐに俺を呼びな。お前のくせえ足跡の臭いをたどれば、場所なんて速攻で分かるからな」
だ か ら そ れ は 言 う ン じ ゃ ね ー!!
ぜってーにぶっ殺す! 強くなったらジンの奴ぜってーに殺す!