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俺は自分の姿が狼男になっていることをすっかり忘れて、おじさんの元へと駆けてった。
頭からすごい血が出ている……っていうか、カウンターのところが真っ赤に染まってるんだ、おそらくかなりの血を流しているに違いない。
おじさんを抱き起こして、何度も呼んだ。その時ふと気がついたんだけど、この状態になっていても普通にしゃべることができるんだ。こんなに鼻と口が長いからさ、ワンとかしか言うことができないのかと思ってた。

おじさんは一向に目を覚まそうとしない。まさか、死んじゃってるんじゃないのかな。そう思うと、自然に背筋が冷たくなってくるのが感じられた。
でもおかしいな。カウンターの上のところには大量の血があるのに、床には血が一切こぼれてないんだ。それにおじさんを抱いているっていうのに、なんにも流れてない。
それに妙に酸っぱい匂いがする……なんでだ?
いや、この匂い知ってるぞ、メシ食うときにときどき……
俺は恐る恐る、カウンターの上にこびりついてる血みたいなものを触って、ぺろっと舐めてみた。
……これ、ケチャップじゃねーか!
もう一度カウンターを見回してみた、そこには揚げ物や温めるタイプの惣菜が、たくさん散らばっている。
から揚げにコロッケ、それにホットドッグ。
そうだ、これホットドッグにかけるケチャップじゃないか、強盗が暴れた時に、調味料の袋を割ったか潰したかしたみたいで、よくよく見ると床一面にケチャップやソースが散乱してる。おじさん、揚げ物を作ってる最中に強盗に遭ったのか。

「う……」
そうしているうちに、おじさんの気がついたようだ。よかった!
思わず俺は声を上げて、おじさんに話しかけようとした。
「よかった、おじさん、大丈夫だったんだね」
「ひっ!」俺を見たおじさんは短い悲鳴を上げて、今度は白目をむいちゃった。
待ってくれよ、おじさんまた気絶しちゃったの? なんでだよ!
でも、俺はおじさんがまた倒れた理由なんて全然見当つかなかった。狼男の姿のままだなんてすっかり忘れちゃってたしね。
いや、そんなことはとりあえず後回しだ、ってことで、俺はカウンターの後ろにおいてある古い電話機を取り、急いで110番に電話をかけた。ツメが長いせいで、すっげー番号ボタン押しづらいなって、つい独り言が出ちゃったけどね。
すぐにお巡りさんが電話にでてくれた、強盗だってことで、コンビニの住所を教えて、それと……
「あなたのお名前を教えてもらえますか」
電話口のお巡りさんの言葉に、俺はつい自分の名前を言いそうになった。ダメだ、言っちゃダメだ!
だって今は深夜0時過ぎ、それに俺はまだ未成年(さらに狼男)。そこまでペラペラしゃべっちゃったら、今度は俺のほうが警察の厄介になっちゃう。
「もしもーし、名前いいですか?」電話の向こうの声が、急に遠くなりだしてきた。
どうしよう、こんな時どうすりゃいいんだ、って頭の中がグルグル回ってきて、おまけに目も回ってきた。
ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ! どうしたらいいんだ、電話切っちゃったらマズイし、かと言って偽名とか使ったって…って、偽名?
その時ようやく我に返ることができた。そうだ、俺は今違うんだ、俺は俺じゃなかったんだ。
俺はカウンターの裏に立てかけてある小さな鏡を手にとって、じっと眺めてみた。
大きくピンととがった耳、鋭く金色に輝く目、前に伸びた鼻面と、その先端には黒い鼻。
普段の俺じゃない、今の俺は狼なんだ!
俺は両手で自分の顔面をパンパンと叩き、活を入れた。
「もしもし、聞こえますか、名前よろしいですか?」俺はもう一度受話器を手にして、名前を告げた。

「え…っと、俺は、オオガミ…です」
「え、名前はオオガミ…さんでよろしい訳ですか?」電話口の向こうから、ちょっと驚いてるような声が聞こえた。

「ええ、はい、そうです」何いってんだ俺! いくら狼男だからって「オオガミ」って名前は無いだろ。
いや、でも無意識に出ちまったものはしょうがない。そう、俺は一応オオカミなんだから。
俺はそのまま電話を切って、外へ出た。
このままパトカーが来るのを待つか、それとももう一度おじさんの目を覚まさせようか、どっちにしろ警察には状況説明しなきゃならないしね。

……って、バカか俺!? この姿でどうする気なんだよ!あーそうだった、おじさんが倒れたのって、俺の姿を思いっきり見ちゃったからだ。
姉貴に続いてこれで二度目だ、なんてバカなことしちゃったんだろう、俺。
自分が狼男であることと人間であることの境界線がイマイチ分からなくなってくるんだ。ある意味これは危険なことだ。鏡を見る習慣、つけとかないといけないな…でないといつしか取り返しの付かないことになっちゃうかもしれない。


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俺は自分の姿が狼男になっていることをすっかり忘れて、おじさんの元へと駆けてった。
頭からすごい血が出ている……っていうか、カウンターのところが真っ赤に染まってるんだ、おそらくかなりの血を流しているに違いない。
おじさんを抱き起こして、何度も呼んだ。その時ふと気がついたんだけど、この状態になっていても普通にしゃべることができるんだ。こんなに鼻と口が長いからさ、ワンとかしか言うことができないのかと思ってた。
おじさんは一向に目を覚まそうとしない。まさか、死んじゃってるんじゃないのかな。そう思うと、自然に背筋が冷たくなってくるのが感じられた。
でもおかしいな。カウンターの上のところには大量の血があるのに、床には血が一切こぼれてないんだ。それにおじさんを抱いているっていうのに、なんにも流れてない。
それに妙に酸っぱい匂いがする……なんでだ?
いや、この匂い知ってるぞ、メシ食うときにときどき……
俺は恐る恐る、カウンターの上にこびりついてる血みたいなものを触って、ぺろっと舐めてみた。
……これ、ケチャップじゃねーか!
もう一度カウンターを見回してみた、そこには揚げ物や温めるタイプの惣菜が、たくさん散らばっている。
から揚げにコロッケ、それにホットドッグ。
そうだ、これホットドッグにかけるケチャップじゃないか、強盗が暴れた時に、調味料の袋を割ったか潰したかしたみたいで、よくよく見ると床一面にケチャップやソースが散乱してる。おじさん、揚げ物を作ってる最中に強盗に遭ったのか。
「う……」
そうしているうちに、おじさんの気がついたようだ。よかった!
思わず俺は声を上げて、おじさんに話しかけようとした。
「よかった、おじさん、大丈夫だったんだね」
「ひっ!」俺を見たおじさんは短い悲鳴を上げて、今度は白目をむいちゃった。
待ってくれよ、おじさんまた気絶しちゃったの? なんでだよ!
でも、俺はおじさんがまた倒れた理由なんて全然見当つかなかった。狼男の姿のままだなんてすっかり忘れちゃってたしね。
いや、そんなことはとりあえず後回しだ、ってことで、俺はカウンターの後ろにおいてある古い電話機を取り、急いで110番に電話をかけた。ツメが長いせいで、すっげー番号ボタン押しづらいなって、つい独り言が出ちゃったけどね。
すぐにお巡りさんが電話にでてくれた、強盗だってことで、コンビニの住所を教えて、それと……
「あなたのお名前を教えてもらえますか」
電話口のお巡りさんの言葉に、俺はつい自分の名前を言いそうになった。ダメだ、言っちゃダメだ!
だって今は深夜0時過ぎ、それに俺はまだ未成年(さらに狼男)。そこまでペラペラしゃべっちゃったら、今度は俺のほうが警察の厄介になっちゃう。
「もしもーし、名前いいですか?」電話の向こうの声が、急に遠くなりだしてきた。
どうしよう、こんな時どうすりゃいいんだ、って頭の中がグルグル回ってきて、おまけに目も回ってきた。
ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ! どうしたらいいんだ、電話切っちゃったらマズイし、かと言って偽名とか使ったって…って、偽名?
その時ようやく我に返ることができた。そうだ、俺は今違うんだ、俺は俺じゃなかったんだ。
俺はカウンターの裏に立てかけてある小さな鏡を手にとって、じっと眺めてみた。
大きくピンととがった耳、鋭く金色に輝く目、前に伸びた鼻面と、その先端には黒い鼻。
普段の俺じゃない、今の俺は狼なんだ!
俺は両手で自分の顔面をパンパンと叩き、活を入れた。
「もしもし、聞こえますか、名前よろしいですか?」俺はもう一度受話器を手にして、名前を告げた。
「え…っと、俺は、オオガミ…です」
「え、名前はオオガミ…さんでよろしい訳ですか?」電話口の向こうから、ちょっと驚いてるような声が聞こえた。
「ええ、はい、そうです」何いってんだ俺! いくら狼男だからって「オオガミ」って名前は無いだろ。
いや、でも無意識に出ちまったものはしょうがない。そう、俺は一応オオカミなんだから。
俺はそのまま電話を切って、外へ出た。
このままパトカーが来るのを待つか、それとももう一度おじさんの目を覚まさせようか、どっちにしろ警察には状況説明しなきゃならないしね。
……って、バカか俺!? この姿でどうする気なんだよ!あーそうだった、おじさんが倒れたのって、俺の姿を思いっきり見ちゃったからだ。
姉貴に続いてこれで二度目だ、なんてバカなことしちゃったんだろう、俺。
自分が狼男であることと人間であることの境界線がイマイチ分からなくなってくるんだ。ある意味これは危険なことだ。鏡を見る習慣、つけとかないといけないな…でないといつしか取り返しの付かないことになっちゃうかもしれない。