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風紀委員あらわる!

ー/ー



 うちの高校の学園祭は、今年は一味違った。
 校舎も校庭もゴミひとつ散らかることがなく、迷子は一瞬で親の元へ連れていかれ、すべてのトイレの混雑状況が階段脇に張り出されて五分おきに更新される。
 誰もが笑顔になり、誰もが満足を口にする。
 アンケート結果も高評価ばかりだ。
 すばらしい。

 そして俺は今、それらすべての責任を取って、校長室で反省文を書かされている。
 なぜこうなったのか、俺は記憶を一カ月ほどさかのぼる。


一日一善アプリタイトル


『なあ、スズノ。頼みがあるんだが』
 フィールド移動中に、ショータがチャットで話しかけてきた。
『なん?』
 俺は移動を追跡モードに設定して、インベントリの整理をしながら片手間に返事を書き込む。
『スマホアプリ、作れるって言ったよな』
『まあ』
 簡単なものなら。
 このゲームでの付き合いも長いから、お互いのことは断片的に伝えあってる。
『作ってほしいんだよね、アプリ』
『やだよ』
 俺はボイチャが苦手だから、必然テキチャでコミュニケーションが取れる相手だけとつるんでる。
 で、ショータはお互い高校生だってことと住んでる地方が近いことは知ってるけど、だからといって会おうぜとはならない心の距離感が、俺は気に入ってる。
 だからショータがこういう話を持ち掛けてくるのは珍しいなと感じた。
『即答かよw』
『こっちにメリットねえじゃん』
 インベントリの整理が終わったので長文で返せるようになった俺は、そう返信すると、差しこむ夕陽からスマホを隠すように窓に背を向ける。
 教室には四人でゲラゲラ笑ってるグループ以外、誰もいない。
 開けっ放しの扉からは、部活の掛け声や楽器の音、あとはバタバタと誰かが歩く音が廊下ごしに聞こえてくる。
『スズノの好きそうなイタズラ系なんだよ。話を聞くだけでもどう?』
『強引だなあ。まあ、聞くだけなら。とりあえずクエスト片付けようぜ……って、おま、なんでキャンセルすんだよ』
 思わず舌打ち。
 ショータはときどき……いや、わりと頻繁に身勝手な行動を取る。
 たいてい後で謝ってくるが、理由があいまいでうやむやにされてばかりだ。
 まあ、俺もショータもガチ勢じゃないから、喧嘩になるほどのことじゃない。
 でも気分がいい話じゃないよなあ。
 俺は小さくため息をついて、下を向いた。
 そのときだ。
 ダン! とリノリウムの床を踏みつける音が響いた。
「なぜならば! 今すぐ話を聞いてほしいから!」
 驚いて顔を上げると、後ろの出入り口に、見たことのない美少女が腰に手を当てて立っていた。
 左手にはカバー付きのスマホを持っている。
 俺は首を巡らして四人組のグループの方を見た。
 全員がポカーンとして美少女の方を見ている。
 なるほど、こいつらじゃない。
 とするとやっぱり……
「え、えっと、俺?」
 恐る恐る自分に指を向ける。
「あ、はじめましてじゃないからね。こんにちは、二年A組の鈴乃屋凛空(すずのやりく)君」
 ちょ、なんで俺の名前知ってんだ、この人。
 ネクタイの色からすると三年生か。
 あと、風紀委員の腕章をしてる。
 そんでもって……美少女だ。
 うん。美人というより美少女。
 短く跳ねたポニーテールが、丸い大きな目が、小さめの鼻が、血色のいい滑らかな頬が、よく動く艶のある唇が……いや、なに言ってんの俺、キモイだろ。
 ああ、それと、黒のストッキング、いいよね。
「どこ見てるのかな」
 その声に、床方向に向けていた視線をゆっくりと上げていく。
 声の調子も含めて、どうやら怒ってはいない。でもその目を見ればわかる。こっちの邪な心は完全に見透かされていた。
 なにか言ったほうがいいのかもしれない。
 でもなにを言えばいいのか、まったくわからない。
 俺が唇をなめたり何度か口をパクパクしていると、先輩はスタスタと教室に入ってきた。
 まっすぐに、俺の方へ。
 状況が全く飲み込めない。
「話をしよう。委員会室に来て」
 先輩は俺の腕を取った。
「は? え、なんで?」
「おいおい。話を聞いてくれるって約束したじゃない」
 そんな約束、知らない先輩とするはずがない。した覚えもない。人違いだ。
 ……いや、待てよ。
「え……え? ……ええっ?! あの、もしかして……ショ、ショータ?」
 間違ってたら恥ずかしいので、わりと小声で。
「そ。ようやく答えにたどり着いたようだね、スズノ」
 イタズラに成功したような得意げな笑顔で俺を見下ろす先輩。
 どうやらショータの正体は、美少女だった……らしい。
 てか、かんっぺきに男だと思い込んでた。
 過去のやり取りが走馬灯のように頭を流れていき、目の前の美少女に収束していく。
 思考が全く追いつかない。
「ほら、呆けてないで。行くよ。鞄持って」
 腕を強く引かれるままに、俺は立ち上がり、スマホを鞄に入れると反対側に抱えた。
「よし。あ、君たち。あと三十分で下校時間だからね」
 俺と同様まったく成り行きを飲み込めていないままこっちを見ていた四人組に先輩は声をかける。
 俺は風紀委員でショータで先輩の美少女に引きずられるように教室を後にした。


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 うちの高校の学園祭は、今年は一味違った。
 校舎も校庭もゴミひとつ散らかることがなく、迷子は一瞬で親の元へ連れていかれ、すべてのトイレの混雑状況が階段脇に張り出されて五分おきに更新される。
 誰もが笑顔になり、誰もが満足を口にする。
 アンケート結果も高評価ばかりだ。
 すばらしい。
 そして俺は今、それらすべての責任を取って、校長室で反省文を書かされている。
 なぜこうなったのか、俺は記憶を一カ月ほどさかのぼる。
『なあ、スズノ。頼みがあるんだが』
 フィールド移動中に、ショータがチャットで話しかけてきた。
『なん?』
 俺は移動を追跡モードに設定して、インベントリの整理をしながら片手間に返事を書き込む。
『スマホアプリ、作れるって言ったよな』
『まあ』
 簡単なものなら。
 このゲームでの付き合いも長いから、お互いのことは断片的に伝えあってる。
『作ってほしいんだよね、アプリ』
『やだよ』
 俺はボイチャが苦手だから、必然テキチャでコミュニケーションが取れる相手だけとつるんでる。
 で、ショータはお互い高校生だってことと住んでる地方が近いことは知ってるけど、だからといって会おうぜとはならない心の距離感が、俺は気に入ってる。
 だからショータがこういう話を持ち掛けてくるのは珍しいなと感じた。
『即答かよw』
『こっちにメリットねえじゃん』
 インベントリの整理が終わったので長文で返せるようになった俺は、そう返信すると、差しこむ夕陽からスマホを隠すように窓に背を向ける。
 教室には四人でゲラゲラ笑ってるグループ以外、誰もいない。
 開けっ放しの扉からは、部活の掛け声や楽器の音、あとはバタバタと誰かが歩く音が廊下ごしに聞こえてくる。
『スズノの好きそうなイタズラ系なんだよ。話を聞くだけでもどう?』
『強引だなあ。まあ、聞くだけなら。とりあえずクエスト片付けようぜ……って、おま、なんでキャンセルすんだよ』
 思わず舌打ち。
 ショータはときどき……いや、わりと頻繁に身勝手な行動を取る。
 たいてい後で謝ってくるが、理由があいまいでうやむやにされてばかりだ。
 まあ、俺もショータもガチ勢じゃないから、喧嘩になるほどのことじゃない。
 でも気分がいい話じゃないよなあ。
 俺は小さくため息をついて、下を向いた。
 そのときだ。
 ダン! とリノリウムの床を踏みつける音が響いた。
「なぜならば! 今すぐ話を聞いてほしいから!」
 驚いて顔を上げると、後ろの出入り口に、見たことのない美少女が腰に手を当てて立っていた。
 左手にはカバー付きのスマホを持っている。
 俺は首を巡らして四人組のグループの方を見た。
 全員がポカーンとして美少女の方を見ている。
 なるほど、こいつらじゃない。
 とするとやっぱり……
「え、えっと、俺?」
 恐る恐る自分に指を向ける。
「あ、はじめましてじゃないからね。こんにちは、二年A組の|鈴乃屋凛空《すずのやりく》君」
 ちょ、なんで俺の名前知ってんだ、この人。
 ネクタイの色からすると三年生か。
 あと、風紀委員の腕章をしてる。
 そんでもって……美少女だ。
 うん。美人というより美少女。
 短く跳ねたポニーテールが、丸い大きな目が、小さめの鼻が、血色のいい滑らかな頬が、よく動く艶のある唇が……いや、なに言ってんの俺、キモイだろ。
 ああ、それと、黒のストッキング、いいよね。
「どこ見てるのかな」
 その声に、床方向に向けていた視線をゆっくりと上げていく。
 声の調子も含めて、どうやら怒ってはいない。でもその目を見ればわかる。こっちの邪な心は完全に見透かされていた。
 なにか言ったほうがいいのかもしれない。
 でもなにを言えばいいのか、まったくわからない。
 俺が唇をなめたり何度か口をパクパクしていると、先輩はスタスタと教室に入ってきた。
 まっすぐに、俺の方へ。
 状況が全く飲み込めない。
「話をしよう。委員会室に来て」
 先輩は俺の腕を取った。
「は? え、なんで?」
「おいおい。話を聞いてくれるって約束したじゃない」
 そんな約束、知らない先輩とするはずがない。した覚えもない。人違いだ。
 ……いや、待てよ。
「え……え? ……ええっ?! あの、もしかして……ショ、ショータ?」
 間違ってたら恥ずかしいので、わりと小声で。
「そ。ようやく答えにたどり着いたようだね、スズノ」
 イタズラに成功したような得意げな笑顔で俺を見下ろす先輩。
 どうやらショータの正体は、美少女だった……らしい。
 てか、かんっぺきに男だと思い込んでた。
 過去のやり取りが走馬灯のように頭を流れていき、目の前の美少女に収束していく。
 思考が全く追いつかない。
「ほら、呆けてないで。行くよ。鞄持って」
 腕を強く引かれるままに、俺は立ち上がり、スマホを鞄に入れると反対側に抱えた。
「よし。あ、君たち。あと三十分で下校時間だからね」
 俺と同様まったく成り行きを飲み込めていないままこっちを見ていた四人組に先輩は声をかける。
 俺は風紀委員でショータで先輩の美少女に引きずられるように教室を後にした。