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第115話 現状整理

ー/ー



 確かに現状を一番理解してそうなのは樫田だ。
 きっと何か知っている。

「正直、私は山路が辞めるって言いだした理由を知らないわ。雰囲気でなんとなくそうなんじゃないかって感じ取っていただけ……でも樫田はたぶん知っているわ」

「そりゃそうかもしれないけどよ、なんか意外だわ。椎名の口から樫田に相談しろって言葉が出るの」

「そうね。樫田とは部長の座をかけたライバルだと勝手に思っているもの」

 そんな風に思っていたのか。
 樫田がどう考えているかは分からないが、椎名から見たらそうなのだろう。

「でも、四の五の言ってられないでしょ」

「そうだな。次集まる時がいつかも決まってないもんな」

 樫田が結論を後回しにしてくれたが、ひょっとしたら明日またみんなで集まるかもしれないのだ。
 俺の言葉に、椎名は首を横に振った。

「それだけじゃない。もう配役発表までしたのよ。次の稽古からは忙しくなるわ」

「……ああその通りだな」

 そこまで頭が回っていなかった。
 次の稽古からは今までと違い、実際に動きをつけたり音響や照明の確認が加わったりと難易度が増す。
 今一度気を引き締めて臨まないといけない。

「それに私たちは二年生よ。一年生たちの面倒も見ないといけない」

 付け加えるように椎名が言う。
 そうだった。自分のことだけじゃない。
 周りのことも見ないといけない。先輩として導かなければならない。

「やることだらけだな」

「そうね。だからこそ、今日明日にでも樫田に相談しなさい」

「ああ、分かったよ」

 俺は素直に椎名の指示に従うことにした。
 ここで話していても、解決へは至らないだろう。

「……そういえば、こんな状況になってしまったけど杉野。主役おめでとう」

「ああ、ありがとう」

 椎名の言葉に俺は軽く感謝を述べた。
 何というか、喜びにくい状況になってしまった。
 そんな俺の心情を察したのか椎名は笑う。

「山路の件で色々思うところがあるかもしれないけど、主役になったのはあなたの頑張りだわ。もっと喜んでいいと思うわ」

「分かってんだけどさ。なんていうか、そういうの全部吹っ飛んだ……それでいうなら椎名は……」

「結局、最後の最後まで轟先輩には勝てなかったわね」

 俺の言葉を遮り、椎名は呟くように言った。
 こういう時、気の利いた人なら何か言えただろうが俺は言葉を持っていなかった。
 今の椎名が、少しでも傷つけてしまうと壊れてしまうガラス細工のように思えたからだ。

「部長になるために配役は重要って言っておきながら申し訳ないわ」

「いや、そんなことは」

「大丈夫よ。決まった以上は頂いた役と向き合うわ」

 椎名は力強く断言した。
 どうやら俺の考えは杞憂だったらしい。

「そっか。なら椎名が部長になるのもしっかりとこなさないとだな」

「ええ、もちろんよ……少しやることをまとめましょう」

「そうだな」

「まず、現状について。春大会まで三週間。そしてそれが終わると山路が辞める。そしてこの三週間は部活が忙しくなる」

「ああ」

「この三週間の間にしないといけないのは、春大会に向けた練習……色々あるでしょうけど一番優先順位が高いのは春大会よ」

「もちろん」

 俺は頷いた。
 そりゃそうだ。どんなに色んなことがあっても俺たち演劇部にとって、春大会で公演を成功させるのが一番だ。

「次に山路が辞めようとしているのを阻止すること。これについてはまず杉野が樫田に相談すること。いろいろ情報が集まってから動きましょう」

 確かに山路の件について分からないことの多い今、むやみに動くのは得策ではない。
 情報を集めてから、また考えるしかない。

「そして……私が部長になること。全国を目指すための過程ね。これについては主に私が頑張るしかないわね」

「樫田や増倉がライバルだよな」

「ええ、そうね」

 そこについては、俺はあんまり力になれないのかもしれない。
 結局は先輩たちから見て、部長にふさわしい人が選ばれるのだろう。

「リーダーシップ、後輩たちの面倒、統率力。言葉にするとそんなところでしょうけど、実際には目に見えない力ね」

 椎名は今自分に必要なことをそうまとめた。
 リーダーシップは椎名が一番ありそうだが、後輩たちの面倒は増倉、統率力は樫田に軍配が上がりそうだ。
 そう考えると今のところ誰が部長になってもおかしくなさそうだ。

「それでも、私が部長になるわ」

 覚悟の宿った瞳で俺を見てくる椎名。
 ああ、そうだな。

「椎名なら成れるよ」

「ありがとう」

 何の確証もないがそう答えると椎名は嬉しそうに感謝を述べた。
 俺は、ここで気になることを聞いた。

「……でも、こんな形でみんなに全国を目指すを周知することになって良かったのか?」

「それは正直予想外だったわ。でもいずれ通る道だもの。遅いか早いかの違いよ」

「そっか……増倉とかもっと反対するかと思ったわ」

「彼女も山路が辞めるかもしれないって思っていたんでしょうね。そっちに気を取られていたのかもしれないわ」

 確かにみんなで部活を楽しむことに重きを置いている増倉にとっては、山路が辞めることの方が大事か。
 そう考えるとみんなに全国を目指すをちゃんと説明しないといけない。
 樫田や大槻は、どう思っているのだろうか。



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 確かに現状を一番理解してそうなのは樫田だ。
 きっと何か知っている。
「正直、私は山路が辞めるって言いだした理由を知らないわ。雰囲気でなんとなくそうなんじゃないかって感じ取っていただけ……でも樫田はたぶん知っているわ」
「そりゃそうかもしれないけどよ、なんか意外だわ。椎名の口から樫田に相談しろって言葉が出るの」
「そうね。樫田とは部長の座をかけたライバルだと勝手に思っているもの」
 そんな風に思っていたのか。
 樫田がどう考えているかは分からないが、椎名から見たらそうなのだろう。
「でも、四の五の言ってられないでしょ」
「そうだな。次集まる時がいつかも決まってないもんな」
 樫田が結論を後回しにしてくれたが、ひょっとしたら明日またみんなで集まるかもしれないのだ。
 俺の言葉に、椎名は首を横に振った。
「それだけじゃない。もう配役発表までしたのよ。次の稽古からは忙しくなるわ」
「……ああその通りだな」
 そこまで頭が回っていなかった。
 次の稽古からは今までと違い、実際に動きをつけたり音響や照明の確認が加わったりと難易度が増す。
 今一度気を引き締めて臨まないといけない。
「それに私たちは二年生よ。一年生たちの面倒も見ないといけない」
 付け加えるように椎名が言う。
 そうだった。自分のことだけじゃない。
 周りのことも見ないといけない。先輩として導かなければならない。
「やることだらけだな」
「そうね。だからこそ、今日明日にでも樫田に相談しなさい」
「ああ、分かったよ」
 俺は素直に椎名の指示に従うことにした。
 ここで話していても、解決へは至らないだろう。
「……そういえば、こんな状況になってしまったけど杉野。主役おめでとう」
「ああ、ありがとう」
 椎名の言葉に俺は軽く感謝を述べた。
 何というか、喜びにくい状況になってしまった。
 そんな俺の心情を察したのか椎名は笑う。
「山路の件で色々思うところがあるかもしれないけど、主役になったのはあなたの頑張りだわ。もっと喜んでいいと思うわ」
「分かってんだけどさ。なんていうか、そういうの全部吹っ飛んだ……それでいうなら椎名は……」
「結局、最後の最後まで轟先輩には勝てなかったわね」
 俺の言葉を遮り、椎名は呟くように言った。
 こういう時、気の利いた人なら何か言えただろうが俺は言葉を持っていなかった。
 今の椎名が、少しでも傷つけてしまうと壊れてしまうガラス細工のように思えたからだ。
「部長になるために配役は重要って言っておきながら申し訳ないわ」
「いや、そんなことは」
「大丈夫よ。決まった以上は頂いた役と向き合うわ」
 椎名は力強く断言した。
 どうやら俺の考えは杞憂だったらしい。
「そっか。なら椎名が部長になるのもしっかりとこなさないとだな」
「ええ、もちろんよ……少しやることをまとめましょう」
「そうだな」
「まず、現状について。春大会まで三週間。そしてそれが終わると山路が辞める。そしてこの三週間は部活が忙しくなる」
「ああ」
「この三週間の間にしないといけないのは、春大会に向けた練習……色々あるでしょうけど一番優先順位が高いのは春大会よ」
「もちろん」
 俺は頷いた。
 そりゃそうだ。どんなに色んなことがあっても俺たち演劇部にとって、春大会で公演を成功させるのが一番だ。
「次に山路が辞めようとしているのを阻止すること。これについてはまず杉野が樫田に相談すること。いろいろ情報が集まってから動きましょう」
 確かに山路の件について分からないことの多い今、むやみに動くのは得策ではない。
 情報を集めてから、また考えるしかない。
「そして……私が部長になること。全国を目指すための過程ね。これについては主に私が頑張るしかないわね」
「樫田や増倉がライバルだよな」
「ええ、そうね」
 そこについては、俺はあんまり力になれないのかもしれない。
 結局は先輩たちから見て、部長にふさわしい人が選ばれるのだろう。
「リーダーシップ、後輩たちの面倒、統率力。言葉にするとそんなところでしょうけど、実際には目に見えない力ね」
 椎名は今自分に必要なことをそうまとめた。
 リーダーシップは椎名が一番ありそうだが、後輩たちの面倒は増倉、統率力は樫田に軍配が上がりそうだ。
 そう考えると今のところ誰が部長になってもおかしくなさそうだ。
「それでも、私が部長になるわ」
 覚悟の宿った瞳で俺を見てくる椎名。
 ああ、そうだな。
「椎名なら成れるよ」
「ありがとう」
 何の確証もないがそう答えると椎名は嬉しそうに感謝を述べた。
 俺は、ここで気になることを聞いた。
「……でも、こんな形でみんなに全国を目指すを周知することになって良かったのか?」
「それは正直予想外だったわ。でもいずれ通る道だもの。遅いか早いかの違いよ」
「そっか……増倉とかもっと反対するかと思ったわ」
「彼女も山路が辞めるかもしれないって思っていたんでしょうね。そっちに気を取られていたのかもしれないわ」
 確かにみんなで部活を楽しむことに重きを置いている増倉にとっては、山路が辞めることの方が大事か。
 そう考えるとみんなに全国を目指すをちゃんと説明しないといけない。
 樫田や大槻は、どう思っているのだろうか。