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第4話

ー/ー



「わたし、稔梨(みのり)とは中学の頃から、ずっと同じクラスだったんだ……」

 葛西稔梨(かさいみのり)の自宅へと続く祝川さくら道を歩きながら、湯舟敏羽(ゆふねとわ)は、ポツリとつぶやいた。

「仲は良かったのか? 葛西と……」

 口に出してから、(あっ、マズい……)と、心のなかで舌を打つ。さっき、バーガーショップで、湯舟自身の口から葛西との関係が語られるまでは、自分から質問したりしないでおこう、と心に決めたばかりだったのに、彼女の切なげな口調と表情に対して、思わず口をついて出た言葉を後悔する。

 ただ、こちらの予想に反して、自身の人間関係についてたずねるボクの問いかけに、彼女は素直にコクリとうなずいて答えた。

「うん……少なくとも、わたしは親友だと思ってた」

「そっか……けど、意外だな。クラスじゃ、そんなに親しく話してるように見えなかったのに」

 またしても、対人関係について深堀りするような言葉を返してしまったが、湯舟は、そのことをさして気にするようすもなく沈んだままの表情で応じる。

「1年の頃は、よく一緒に遊んでいたんだけど……2年になってから、稔梨を誘っても、あまりノッて来なくなって……わたし、避けられてたのかな? (うち)のこともあるし――――――」

 彼女はそう言って、うつむいたまま、トボトボと歩く。
 湯舟敏羽が、「(うち)のこともあるし――――――」と、ポツリと言葉をこぼした理由は、容易に察しがついた。

 彼女の実家は、ユフネ・グループというレジャー・外食産業などいくつもの会社を経営する総合娯楽企業のオーナーなのだ。そして、そのレジャー産業の中には、パチンコ店やラブホテルなどの店舗も含まれている。
 もちろん、学校内でそのことについて、面と向かって触れるような生徒はいないし、普段の彼女の言動から、そういったことを意識することはなかった。

 それでも、自身の家庭環境というものは、まだまだ大人の庇護を必要とする自分たちのような年代にとっては、切り離せない問題で、そのことは、()()()()()()()()()という、特殊な家庭環境で思春期を過ごしているボクには良く分かる。

 そんなことを考えながら、柄にもなく、隣りに並んで歩く彼女をフォローするような言葉が自然と口に出る。
 
「もし、去年までずっと仲が良かったというのが本当なら、葛西が疎遠になった理由は、湯舟の家のこととは関係ないさ。なにか他に理由があるはずだ」

 さり気なく、そう答えると、クラスメートはうつむき加減だった顔をサッと上げて問い返してきた。

「ホントに? どうして、そう思うの?」

「根拠はない。複雑な家庭環境に育った人間のカンってやつだよ」

 なるべく表情を変えずにサラリと答えを返したつもりだったんだけど、湯舟敏羽は、プッと吹き出したあと、

「なにそれ……」

と、つぶやいてクスクスと笑う。笑われるのは心外だったけど、彼女の落ち込んだような表情が少し明るくなったことは、ボクの気持ちを軽くさせた。

 ただ、そんなこちらの気分を知ってか知らずか、湯舟敏羽は、こう続ける。

「意外と言えば、わたしも、意外だったな〜」

「ん? ナニが意外なんだ?」

「うん! 野田くんは、クラスの女子なんて興味ないのかと思ってたけど、()()()()()()()わたし達のことを観察してたんだな〜、って思ってさ」

 彼女の一言に、「ハァ?」と思わず声に出してしまう。
 たあ「ただ、クラスの中で目立っている湯舟の周りで、葛西の姿を見ることが少ないなってイメージがあっただけだよ。他意は無い。ヒトのことをストーカーみたいに言うのは、やめてくれ」

 あらぬ疑いをかけられたボクが、当然の権利として反論の声を上げると、クラスメートは、澄ました表情で、

「うん、まあ、今回はそういうことにしておいてあげる。それよりさ、わたし、もうひとつ気になることがあるんだ……」

と、話題を変えるようにつぶやく。

 ちょっと待ってほしい。
 
 ことは、ボクが、クラスの女子のことをジロジロと観察しているか否かという、重大な問題なわけで、この議題をスルーする訳には行かないんだけど……。

 ただ、彼女の方には、ボクの名誉についての問題を、これ以上、議論をする気がないことが無いようなので、湯舟敏羽の言う、()()()()()()()()()()()()について、たずねてみる。
 
「その気になることって、なんなの?」

「うん、野田くんさ、さっき、『稔梨(みのり)も浴衣を着てたんだよな』って言ったよね? それって、稔梨が亡くなったときに、浴衣を着てたってこと? その浴衣は、どんな色で、どんな柄なの?」

 こちらの問いかけに対して、息せきを切ったように、疑問の数々を投げかける彼女に、ボクは面食らいながら返答する。

「い、いきなり、いくつも質問されても困るよ。まずは、ひとつずつ答えさせてくれないか?」

 興奮気味に詰め寄ってきたクラスメートは、ボクの言葉に、いくらか冷静さを取り戻してうなずいた。そのようすを確認してから、彼女の質問に答えていく。

「まず、ひとつ目の質問の答えはイエスだ。これは、ボクの叔父が事件の話しをしたときに言っていた。次に、ふたつ目の質問の答えもイエス。叔父さんの話から、発見された時に浴衣を着ていたみたいだ。最後に、みっつ目の質問だけど……」

 そこまで言うと、口を真一文字に結んだ湯舟敏羽が、ゴクリと唾を飲み込んだのがわかった。

「残念だけど、浴衣の柄まではわからない。ボクは、葛西の遺体そのものや写真を見た訳じゃないからね。ただ、色については、たしか、『黄色の浴衣』だと言っていた気がする」

 憲二さんとの今朝の会話を思い出しながら答えると、彼女は、大きく目を見開いた。



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「わたし、|稔梨《みのり》とは中学の頃から、ずっと同じクラスだったんだ……」
 |葛西稔梨《かさいみのり》の自宅へと続く祝川さくら道を歩きながら、|湯舟敏羽《ゆふねとわ》は、ポツリとつぶやいた。
「仲は良かったのか? 葛西と……」
 口に出してから、(あっ、マズい……)と、心のなかで舌を打つ。さっき、バーガーショップで、湯舟自身の口から葛西との関係が語られるまでは、自分から質問したりしないでおこう、と心に決めたばかりだったのに、彼女の切なげな口調と表情に対して、思わず口をついて出た言葉を後悔する。
 ただ、こちらの予想に反して、自身の人間関係についてたずねるボクの問いかけに、彼女は素直にコクリとうなずいて答えた。
「うん……少なくとも、わたしは親友だと思ってた」
「そっか……けど、意外だな。クラスじゃ、そんなに親しく話してるように見えなかったのに」
 またしても、対人関係について深堀りするような言葉を返してしまったが、湯舟は、そのことをさして気にするようすもなく沈んだままの表情で応じる。
「1年の頃は、よく一緒に遊んでいたんだけど……2年になってから、稔梨を誘っても、あまりノッて来なくなって……わたし、避けられてたのかな? |家《うち》のこともあるし――――――」
 彼女はそう言って、うつむいたまま、トボトボと歩く。
 湯舟敏羽が、「|家《うち》のこともあるし――――――」と、ポツリと言葉をこぼした理由は、容易に察しがついた。
 彼女の実家は、ユフネ・グループというレジャー・外食産業などいくつもの会社を経営する総合娯楽企業のオーナーなのだ。そして、そのレジャー産業の中には、パチンコ店やラブホテルなどの店舗も含まれている。
 もちろん、学校内でそのことについて、面と向かって触れるような生徒はいないし、普段の彼女の言動から、そういったことを意識することはなかった。
 それでも、自身の家庭環境というものは、まだまだ大人の庇護を必要とする自分たちのような年代にとっては、切り離せない問題で、そのことは、|叔《・》|父《・》|と《・》|の《・》|二《・》|人《・》|暮《・》|ら《・》|し《・》という、特殊な家庭環境で思春期を過ごしているボクには良く分かる。
 そんなことを考えながら、柄にもなく、隣りに並んで歩く彼女をフォローするような言葉が自然と口に出る。
「もし、去年までずっと仲が良かったというのが本当なら、葛西が疎遠になった理由は、湯舟の家のこととは関係ないさ。なにか他に理由があるはずだ」
 さり気なく、そう答えると、クラスメートはうつむき加減だった顔をサッと上げて問い返してきた。
「ホントに? どうして、そう思うの?」
「根拠はない。複雑な家庭環境に育った人間のカンってやつだよ」
 なるべく表情を変えずにサラリと答えを返したつもりだったんだけど、湯舟敏羽は、プッと吹き出したあと、
「なにそれ……」
と、つぶやいてクスクスと笑う。笑われるのは心外だったけど、彼女の落ち込んだような表情が少し明るくなったことは、ボクの気持ちを軽くさせた。
 ただ、そんなこちらの気分を知ってか知らずか、湯舟敏羽は、こう続ける。
「意外と言えば、わたしも、意外だったな〜」
「ん? ナニが意外なんだ?」
「うん! 野田くんは、クラスの女子なんて興味ないのかと思ってたけど、|そ《・》|ん《・》|な《・》|に《・》|熱《・》|心《・》|に《・》わたし達のことを観察してたんだな〜、って思ってさ」
 彼女の一言に、「ハァ?」と思わず声に出してしまう。
 たあ「ただ、クラスの中で目立っている湯舟の周りで、葛西の姿を見ることが少ないなってイメージがあっただけだよ。他意は無い。ヒトのことをストーカーみたいに言うのは、やめてくれ」
 あらぬ疑いをかけられたボクが、当然の権利として反論の声を上げると、クラスメートは、澄ました表情で、
「うん、まあ、今回はそういうことにしておいてあげる。それよりさ、わたし、もうひとつ気になることがあるんだ……」
と、話題を変えるようにつぶやく。
 ちょっと待ってほしい。
 ことは、ボクが、クラスの女子のことをジロジロと観察しているか否かという、重大な問題なわけで、この議題をスルーする訳には行かないんだけど……。
 ただ、彼女の方には、ボクの名誉についての問題を、これ以上、議論をする気がないことが無いようなので、湯舟敏羽の言う、|も《・》|う《・》|ひ《・》|と《・》|つ《・》|の《・》|気《・》|に《・》|な《・》|る《・》|こ《・》|と《・》について、たずねてみる。
「その気になることって、なんなの?」
「うん、野田くんさ、さっき、『|稔梨《みのり》も浴衣を着てたんだよな』って言ったよね? それって、稔梨が亡くなったときに、浴衣を着てたってこと? その浴衣は、どんな色で、どんな柄なの?」
 こちらの問いかけに対して、息せきを切ったように、疑問の数々を投げかける彼女に、ボクは面食らいながら返答する。
「い、いきなり、いくつも質問されても困るよ。まずは、ひとつずつ答えさせてくれないか?」
 興奮気味に詰め寄ってきたクラスメートは、ボクの言葉に、いくらか冷静さを取り戻してうなずいた。そのようすを確認してから、彼女の質問に答えていく。
「まず、ひとつ目の質問の答えはイエスだ。これは、ボクの叔父が事件の話しをしたときに言っていた。次に、ふたつ目の質問の答えもイエス。叔父さんの話から、発見された時に浴衣を着ていたみたいだ。最後に、みっつ目の質問だけど……」
 そこまで言うと、口を真一文字に結んだ湯舟敏羽が、ゴクリと唾を飲み込んだのがわかった。
「残念だけど、浴衣の柄まではわからない。ボクは、葛西の遺体そのものや写真を見た訳じゃないからね。ただ、色については、たしか、『黄色の浴衣』だと言っていた気がする」
 憲二さんとの今朝の会話を思い出しながら答えると、彼女は、大きく目を見開いた。