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第2話

ー/ー



 自分の朝食をトーストとアイスコーヒーで軽く済ませたあと、クーラーを効かせた自室に戻り、ベッドに身体を預けながら考える。

 葛西稔梨(かさいみのり)が亡くなったことは、おそらく、今日か明日には学校からクラスメートに連絡が入るのではないか?
 そうでなくても、この情報を耳にした生徒がいたら、グループLANEで一気に情報が拡散されるだろう。

 もしかすると、現時点で葛西が亡くなったという事実を知っているのは、2年3組のクラスメート、いや、ボクの通う向陽(こうよう)学院の生徒の中でも自分だけかも知れないけれど、このニュースをクラスメートが登録しているLANEに流そうとは思えなかった。

 第一に、葛西とそれほど親しくなかった自分がその情報を拡散して良いのか、というためらいがあったし、第二に、自分が情報を得た経緯を説明することが面倒だ、ということもある。自分の身内が警察官であるということを同級生たちに隠し通すつもりは無いけれど、必要以上に触れ回りたくもない。

 それでも――――――。

 同級生の死という現実は、自分ひとりで抱えるには重すぎる。

 その間にも、何度かLANEにメッセージが届いたのだけど、()()()()()()()()()()()()()()ので、未読スルーすることにした。
 悶々とした感情を抱えながら、動画サイトなどを巡回するものの、ほとんど、内容が頭に入って来ない。
 
 昨日の夜までは、県内を拠点に活動している同世代の動画配信者である《竜馬ちゃんねる》の二人とカリスマ女子高生として知られる白草四葉ちゃんがコラボをして配信している『夏の心霊スポット・ツアー』のライブ配信を楽しみにしていたのだが、それも、どうでも良くなってしまった。

 嘘か本当か良くわからない、真偽不明の怪談よりも、親しかったとは言えなくても、クラスメートが自ら命を絶った、という事実の方が、胸をざわつかせるのだ、ということを身をもって実感する。

(それにしても、いったい、どうして自殺なんか……)
 
 叔父の言葉を初めて耳にした時から感じている疑問がずっと頭の中を巡る中、ずっと同じことを考え込んでいる間、昼食を取ることも忘れ、気がつけば、いつの間にか窓から差し込む陽射しは、西に傾いていた。

「マズい! 夕飯の買い出しに行かなきゃ!」

 誰が聞いている訳でもないのに、そう口にしたボクは、憲二さんが帰って来るまでに夕食を作るため、着替えて、玄関ドアを開けると、午後の強烈な陽射しと、おそらく、一日の最高気温に達しているだろう外気が、熱気をまとって身体にまとわりついてきた。

「あっつ……」

 日本列島も、いよいよ熱帯地方に所属することになったのか、と勘違いさせるくらいの熱波に心がおれそうになりながらも、買い物用のカゴを取り付けたクロスバイクを漕ぎ出す。

(夏の盛りに自転車移動はキツすぎるし、バイトでもして原付免許を取ろうかな?)

 そんなことを考えながら、駅前のスーパーに到着する。

 さて、今日のメニューは、ナニにするか――――――?

 クロスバイクを駐輪場に置き、冷蔵庫にある野菜類を思い浮かべながら献立を考案しようと、スーパーの店内に入ろうとすると、見慣れた女子生徒が、男と並んで歩いているのが目に止まった。

 白地に青い鳥の羽のような柄が印象的な浴衣姿は、夏らしい涼し気な雰囲気で、サイドテールに結われた髪型と相まって、さわやかな「清涼感」という言葉がピッタリと当てはまる。帯も白と水色を基調としたカラーで、落ち着いた印象の中にも可愛らしさがあり、普段、教室で見るイメージとそぐわない着こなしでこちらに向かって歩いてくるのは、クラスメートの湯舟敏羽(ゆふねとわ)だ。

 見かけない大学生風の男と一緒だったので、声をかけて良いのか、ためらっていると、彼女の方から思ってもいなかった言葉がかけられた。

「あっ、野田くん! 待ってたんだよ」

 彼女から唐突に放たれた言葉に、
 
(ハァ!? 待ってたって、ナニ言ってるんだ?)
 
と、戸惑っていると、湯舟敏羽は、こちらに近寄ってきたかと思うと、一方的に腕を絡ませてきて、教室でも聞いたことのないような甘ったるい声で語りかけてくる。

「もう遅れるなら連絡してよ〜。わたしをずっと待たせるつもりだったの〜?」

 その有無を言わせぬ言動に、言外のプレッシャーを感じて、思わず、

「あ、あぁ、遅くなってゴメンな」

と返答すると、彼女に絡んでいた男が、小さく「チッ」と舌打ちをして露骨に顔をしかめて去っていく。

 その後ろ姿に対して、軽く中指を立てて舌を出す仕草に、ボクが若干、引いていることに気づいたのか、クラスメートの女子生徒は小声で、

「話しを合わせてくれてありがとう。感謝感謝」

と言って、目の前で手を合わせる。

「どうしたんだい? まさか、()()な展開で、しつこくナンパされていたとか?」

「そう! そのまさかの()()な展開。まったく、ただでさえ外は暑苦しいのに、しつこくて鬱陶しい!」

「そうか……モテる女はツラいよな」

「ホント、それな! 浴衣姿だからって、簡単に釣られると思って……アンタたちのために、浴衣を着てるんじゃない無いっての!」

 ボクを相手に不満を述べられても困るけど、それ以上に、「モテる女はツラい」ということを否定せず肯定したことに苦笑しながらも、今朝の憲二さんとの会話を思い出す。朝から、モヤモヤとした気持ちを抱えていたところに、クラスメートに出会ったことで、思っていたことが不意に口から出てしまった。

「そう言えば、葛西稔梨(かさいみのり)も浴衣を着てたんだよな……」

「えっ? 稔梨(みのり)が、どうしたの?」

「あぁ、葛西が自殺したらしいんだ。潮芦矢(しおあしや)の海岸で……」

「へっ!?」

 ポカンと口を開いた湯舟敏羽の顔は、怪訝な表情のまま固まってしまった。


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 自分の朝食をトーストとアイスコーヒーで軽く済ませたあと、クーラーを効かせた自室に戻り、ベッドに身体を預けながら考える。
 |葛西稔梨《かさいみのり》が亡くなったことは、おそらく、今日か明日には学校からクラスメートに連絡が入るのではないか?
 そうでなくても、この情報を耳にした生徒がいたら、グループLANEで一気に情報が拡散されるだろう。
 もしかすると、現時点で葛西が亡くなったという事実を知っているのは、2年3組のクラスメート、いや、ボクの通う|向陽《こうよう》学院の生徒の中でも自分だけかも知れないけれど、このニュースをクラスメートが登録しているLANEに流そうとは思えなかった。
 第一に、葛西とそれほど親しくなかった自分がその情報を拡散して良いのか、というためらいがあったし、第二に、自分が情報を得た経緯を説明することが面倒だ、ということもある。自分の身内が警察官であるということを同級生たちに隠し通すつもりは無いけれど、必要以上に触れ回りたくもない。
 それでも――――――。
 同級生の死という現実は、自分ひとりで抱えるには重すぎる。
 その間にも、何度かLANEにメッセージが届いたのだけど、|送《・》|信《・》|相《・》|手《・》|が《・》|誰《・》|か《・》|は《・》|わ《・》|か《・》|っ《・》|て《・》|い《・》|た《・》ので、未読スルーすることにした。
 悶々とした感情を抱えながら、動画サイトなどを巡回するものの、ほとんど、内容が頭に入って来ない。
 昨日の夜までは、県内を拠点に活動している同世代の動画配信者である《竜馬ちゃんねる》の二人とカリスマ女子高生として知られる白草四葉ちゃんがコラボをして配信している『夏の心霊スポット・ツアー』のライブ配信を楽しみにしていたのだが、それも、どうでも良くなってしまった。
 嘘か本当か良くわからない、真偽不明の怪談よりも、親しかったとは言えなくても、クラスメートが自ら命を絶った、という事実の方が、胸をざわつかせるのだ、ということを身をもって実感する。
(それにしても、いったい、どうして自殺なんか……)
 叔父の言葉を初めて耳にした時から感じている疑問がずっと頭の中を巡る中、ずっと同じことを考え込んでいる間、昼食を取ることも忘れ、気がつけば、いつの間にか窓から差し込む陽射しは、西に傾いていた。
「マズい! 夕飯の買い出しに行かなきゃ!」
 誰が聞いている訳でもないのに、そう口にしたボクは、憲二さんが帰って来るまでに夕食を作るため、着替えて、玄関ドアを開けると、午後の強烈な陽射しと、おそらく、一日の最高気温に達しているだろう外気が、熱気をまとって身体にまとわりついてきた。
「あっつ……」
 日本列島も、いよいよ熱帯地方に所属することになったのか、と勘違いさせるくらいの熱波に心がおれそうになりながらも、買い物用のカゴを取り付けたクロスバイクを漕ぎ出す。
(夏の盛りに自転車移動はキツすぎるし、バイトでもして原付免許を取ろうかな?)
 そんなことを考えながら、駅前のスーパーに到着する。
 さて、今日のメニューは、ナニにするか――――――?
 クロスバイクを駐輪場に置き、冷蔵庫にある野菜類を思い浮かべながら献立を考案しようと、スーパーの店内に入ろうとすると、見慣れた女子生徒が、男と並んで歩いているのが目に止まった。
 白地に青い鳥の羽のような柄が印象的な浴衣姿は、夏らしい涼し気な雰囲気で、サイドテールに結われた髪型と相まって、さわやかな「清涼感」という言葉がピッタリと当てはまる。帯も白と水色を基調としたカラーで、落ち着いた印象の中にも可愛らしさがあり、普段、教室で見るイメージとそぐわない着こなしでこちらに向かって歩いてくるのは、クラスメートの|湯舟敏羽《ゆふねとわ》だ。
 見かけない大学生風の男と一緒だったので、声をかけて良いのか、ためらっていると、彼女の方から思ってもいなかった言葉がかけられた。
「あっ、野田くん! 待ってたんだよ」
 彼女から唐突に放たれた言葉に、
(ハァ!? 待ってたって、ナニ言ってるんだ?)
と、戸惑っていると、湯舟敏羽は、こちらに近寄ってきたかと思うと、一方的に腕を絡ませてきて、教室でも聞いたことのないような甘ったるい声で語りかけてくる。
「もう遅れるなら連絡してよ〜。わたしをずっと待たせるつもりだったの〜?」
 その有無を言わせぬ言動に、言外のプレッシャーを感じて、思わず、
「あ、あぁ、遅くなってゴメンな」
と返答すると、彼女に絡んでいた男が、小さく「チッ」と舌打ちをして露骨に顔をしかめて去っていく。
 その後ろ姿に対して、軽く中指を立てて舌を出す仕草に、ボクが若干、引いていることに気づいたのか、クラスメートの女子生徒は小声で、
「話しを合わせてくれてありがとう。感謝感謝」
と言って、目の前で手を合わせる。
「どうしたんだい? まさか、|ベ《・》|タ《・》な展開で、しつこくナンパされていたとか?」
「そう! そのまさかの|ベ《・》|タ《・》な展開。まったく、ただでさえ外は暑苦しいのに、しつこくて鬱陶しい!」
「そうか……モテる女はツラいよな」
「ホント、それな! 浴衣姿だからって、簡単に釣られると思って……アンタたちのために、浴衣を着てるんじゃない無いっての!」
 ボクを相手に不満を述べられても困るけど、それ以上に、「モテる女はツラい」ということを否定せず肯定したことに苦笑しながらも、今朝の憲二さんとの会話を思い出す。朝から、モヤモヤとした気持ちを抱えていたところに、クラスメートに出会ったことで、思っていたことが不意に口から出てしまった。
「そう言えば、|葛西稔梨《かさいみのり》も浴衣を着てたんだよな……」
「えっ? |稔梨《みのり》が、どうしたの?」
「あぁ、葛西が自殺したらしいんだ。|潮芦矢《しおあしや》の海岸で……」
「へっ!?」
 ポカンと口を開いた湯舟敏羽の顔は、怪訝な表情のまま固まってしまった。