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第22話 王都へ

ー/ー



「でぁっ!」

 剣閃を、マナがひらりとかわす。その手が剣の持ち手を掴んだ次の瞬間、騎士の体が宙返りしていた。

「うわああっ!?」

 とすん、と騎士は尻もちをついた。落下寸前に、マナが体を引き上げたからだ。
 呆然と座り込む騎士に、拾った剣を差し出しながらマナが言った。

「自分の勝ちでいいですか?」
「……あ、ああ。な、何をしたんだ?」
「投げただけです。ユリさん、手首を捻ってるので治療してあげて下さい」
「う、うん」

 騎士の右手に杖を向け、回復魔法をかける。

「あ、ありがとうな、嬢ちゃん。……最初のやつが回復魔法を使えるんだが、伸びちまって情けねえ。いや、情けないのは俺も一緒か」
「そ、そんなことないよ! マナが強すぎるんだよ!」
 
 なぜ騎士を励ましているのか、ユリアムはわけがわからなかった。傍らには最初にやられて気絶したままの騎士と、関節技で肩を痛めた二人目の騎士がいる。
 そしてマナは、隊長に歩み寄っていた。

「四人目は誰ですか? 隊長さんですか? 二人がかりでも構いませんよ。自分はまだ元気ですし」
「ぬ……ぐ」

 唸る隊長の肩から、力が抜けるのが見えた。

「……分かった。恥の上塗りはせん。我々の負けだ」
「特使として認めてくれるんですね?」
「あ、ああ、そうだな」
「では改めて、外交特使として国王陛下への謁見を希望します」

 時が止まった。

「ま、待て、そもそも私にそんな権限はない!」
「取り次いでもらうだけで構いません。元々、国王陛下に会うために王都を目指していましたし」

 ユリアムも、謁見と聞いた時は唖然としてしまった。だが怪獣探しという目的を考えれば、むしろ理にかなっている。王様の協力が得られれば、大きな力になる。突飛ではあるが。

 腕組みした隊長が顔をしかめた。
 
「しかしだな、身元の不確かなものを取り次ぐなど……」

 マナが唐突に、こちらを見た。
 
「彼女の……ユリアムさんの身元ならどうです?」
「えっ!? 私!?」

 全員の視線が、自分に向いていた。

「ユリさんは魔法学校出身の、優秀な魔法使いと聞いています。学校が貴国の管理なら、照会かなにかできるのではないですか?」
「確かに国の管轄ではある。ユリアムとやら、お前は卒業生なのか?」
「は、はい! そうです! ついこの前卒業したばかりです!」
「証明できるか?」
「はい!」

 リュックから卒業記念の七つ星メダルを取り出し、隊長に見せる。

「こ、これです!」
「ふむ、確かに七つ星だ。今年の日付に名前。ユリアム・セゴリン。なるほど。だが私には本物かどうか、判断がつかん。盗品の可能性も……」
「本物ですよ隊長」

 声を上げたのは、先ほどマナに投げ飛ばされた騎士だ。

「この子の回復魔法は、ここで寝てる若造のものより、ずっとよく効きました。並の魔法使いじゃありません」
「……そいつは星いくつだ?」
「五つ星です」
「なるほど」

 隊長がユリアムに向き直った。

「どうやら本物のようだな」
「え、じゃあ……」

 頷いた隊長は、マナを見た。

「陛下に取り次いでもらえるよう、努力しよう。そうでなくとも重要参考人として、王都にお前たちを送る」
「ありがとうございます」
「それと、ベノゼラの行方だが……」 
「今は、あの街に危険は無くなった、とだけ。詳しいことは、王都で直接報告しても?」

 隊長は質問を飲み込むように黙り、不承不承といった面持ちながらも頷いた。
 
「……分かった、そう伝えておこう。馬に乗れ。ユリアム、うちの平民どもを治してくれたこと、感謝する」
「えっ、あっいや、そんな別に……」
「ちょっと隊長! 平民はひどいじゃないですか! 隊長も特使殿とやってみてくださいよ」
「もうその必要はない! 子どもに負けたお前らは、しばらく平民だ! 歩け! この子らの馬を引け!」
「ひでえ……」

 笑い声を背景に、マナがこちらに来た。

「ユリさんのおかげです。助かりました」
「そ、そうかな。えへへへへ……」

 こんなに褒められるのは、久々だった。なにより、マナの力になれたのが嬉しかった。


 最寄りの街に着く前に、日が暮れてしまった。騎士たちが野営の準備をし、マナとユリアムもテントを張る。

 ミフ粒子の魔法は、騎士たちに明かしていない。だからマナはテントを出せない。必然的に、同じテントで寝ることになった。
 狭いテントの中、マナと並んで横になる。布のすき間から、たき火の光が差し込んでいた。

「疲れたぁ……。まさかこんなことになるなんて……」
「自分もそう思います。でも、いい結果にはなりました。ユリさんのおかげです」

 あの時は素直に喜んでしまったが、ユリアムは道すがら考えていた。

「私、メダル見せただけで、なんにもしてないよ」
「そのメダルは、ユリさんが魔法学校で努力した結果じゃないんですか?」

 思わず、マナの方を見た。マナは目を閉じていた。

「ユリさんがいなかったら、王様と謁見どころではありませんでした。だから、やっぱりユリさんのおかげですよ」
「……そうかな」
「ええ、そうです」
「えへへ、ありがとう」
「どういたしまして」

 しばらくして、マナの寝息が聞こえてきた。ユリアムはまた、マナを見た。寝ているその顔は、あどけなさの残る少女にしか見えなかった。

 マナを思う。
 なぜ、マナなんだろう?
 マナでなければ、いけなかったんだろう?
 特別な魔法少女……だとしても、天涯孤独の女の子を一人で送り込んで怪獣と戦わせるなんて……。

 ニホンを思う。
 マナの故郷は、一体どんな国なんだろう?
 どんな人たちがいるんだろう?
 ……どういう気持ちで、マナを送り出したんだろう?

 ……身体の片側、仄かにマナの体温を感じる。

 布越しの暖かさに、不思議な安心感と少しの緊張。だが疲れた身体に引っ張られ、やがて意識は眠りの沼へと沈んでいった。


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次のエピソードへ進む 幕間1 猫耳は湖面を穿ちフナとなる


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「でぁっ!」
 剣閃を、マナがひらりとかわす。その手が剣の持ち手を掴んだ次の瞬間、騎士の体が宙返りしていた。
「うわああっ!?」
 とすん、と騎士は尻もちをついた。落下寸前に、マナが体を引き上げたからだ。
 呆然と座り込む騎士に、拾った剣を差し出しながらマナが言った。
「自分の勝ちでいいですか?」
「……あ、ああ。な、何をしたんだ?」
「投げただけです。ユリさん、手首を捻ってるので治療してあげて下さい」
「う、うん」
 騎士の右手に杖を向け、回復魔法をかける。
「あ、ありがとうな、嬢ちゃん。……最初のやつが回復魔法を使えるんだが、伸びちまって情けねえ。いや、情けないのは俺も一緒か」
「そ、そんなことないよ! マナが強すぎるんだよ!」
 なぜ騎士を励ましているのか、ユリアムはわけがわからなかった。傍らには最初にやられて気絶したままの騎士と、関節技で肩を痛めた二人目の騎士がいる。
 そしてマナは、隊長に歩み寄っていた。
「四人目は誰ですか? 隊長さんですか? 二人がかりでも構いませんよ。自分はまだ元気ですし」
「ぬ……ぐ」
 唸る隊長の肩から、力が抜けるのが見えた。
「……分かった。恥の上塗りはせん。我々の負けだ」
「特使として認めてくれるんですね?」
「あ、ああ、そうだな」
「では改めて、外交特使として国王陛下への謁見を希望します」
 時が止まった。
「ま、待て、そもそも私にそんな権限はない!」
「取り次いでもらうだけで構いません。元々、国王陛下に会うために王都を目指していましたし」
 ユリアムも、謁見と聞いた時は唖然としてしまった。だが怪獣探しという目的を考えれば、むしろ理にかなっている。王様の協力が得られれば、大きな力になる。突飛ではあるが。
 腕組みした隊長が顔をしかめた。
「しかしだな、身元の不確かなものを取り次ぐなど……」
 マナが唐突に、こちらを見た。
「彼女の……ユリアムさんの身元ならどうです?」
「えっ!? 私!?」
 全員の視線が、自分に向いていた。
「ユリさんは魔法学校出身の、優秀な魔法使いと聞いています。学校が貴国の管理なら、照会かなにかできるのではないですか?」
「確かに国の管轄ではある。ユリアムとやら、お前は卒業生なのか?」
「は、はい! そうです! ついこの前卒業したばかりです!」
「証明できるか?」
「はい!」
 リュックから卒業記念の七つ星メダルを取り出し、隊長に見せる。
「こ、これです!」
「ふむ、確かに七つ星だ。今年の日付に名前。ユリアム・セゴリン。なるほど。だが私には本物かどうか、判断がつかん。盗品の可能性も……」
「本物ですよ隊長」
 声を上げたのは、先ほどマナに投げ飛ばされた騎士だ。
「この子の回復魔法は、ここで寝てる若造のものより、ずっとよく効きました。並の魔法使いじゃありません」
「……そいつは星いくつだ?」
「五つ星です」
「なるほど」
 隊長がユリアムに向き直った。
「どうやら本物のようだな」
「え、じゃあ……」
 頷いた隊長は、マナを見た。
「陛下に取り次いでもらえるよう、努力しよう。そうでなくとも重要参考人として、王都にお前たちを送る」
「ありがとうございます」
「それと、ベノゼラの行方だが……」 
「今は、あの街に危険は無くなった、とだけ。詳しいことは、王都で直接報告しても?」
 隊長は質問を飲み込むように黙り、不承不承といった面持ちながらも頷いた。
「……分かった、そう伝えておこう。馬に乗れ。ユリアム、うちの平民どもを治してくれたこと、感謝する」
「えっ、あっいや、そんな別に……」
「ちょっと隊長! 平民はひどいじゃないですか! 隊長も特使殿とやってみてくださいよ」
「もうその必要はない! 子どもに負けたお前らは、しばらく平民だ! 歩け! この子らの馬を引け!」
「ひでえ……」
 笑い声を背景に、マナがこちらに来た。
「ユリさんのおかげです。助かりました」
「そ、そうかな。えへへへへ……」
 こんなに褒められるのは、久々だった。なにより、マナの力になれたのが嬉しかった。
 最寄りの街に着く前に、日が暮れてしまった。騎士たちが野営の準備をし、マナとユリアムもテントを張る。
 ミフ粒子の魔法は、騎士たちに明かしていない。だからマナはテントを出せない。必然的に、同じテントで寝ることになった。
 狭いテントの中、マナと並んで横になる。布のすき間から、たき火の光が差し込んでいた。
「疲れたぁ……。まさかこんなことになるなんて……」
「自分もそう思います。でも、いい結果にはなりました。ユリさんのおかげです」
 あの時は素直に喜んでしまったが、ユリアムは道すがら考えていた。
「私、メダル見せただけで、なんにもしてないよ」
「そのメダルは、ユリさんが魔法学校で努力した結果じゃないんですか?」
 思わず、マナの方を見た。マナは目を閉じていた。
「ユリさんがいなかったら、王様と謁見どころではありませんでした。だから、やっぱりユリさんのおかげですよ」
「……そうかな」
「ええ、そうです」
「えへへ、ありがとう」
「どういたしまして」
 しばらくして、マナの寝息が聞こえてきた。ユリアムはまた、マナを見た。寝ているその顔は、あどけなさの残る少女にしか見えなかった。
 マナを思う。
 なぜ、マナなんだろう?
 マナでなければ、いけなかったんだろう?
 特別な魔法少女……だとしても、天涯孤独の女の子を一人で送り込んで怪獣と戦わせるなんて……。
 ニホンを思う。
 マナの故郷は、一体どんな国なんだろう?
 どんな人たちがいるんだろう?
 ……どういう気持ちで、マナを送り出したんだろう?
 ……身体の片側、仄かにマナの体温を感じる。
 布越しの暖かさに、不思議な安心感と少しの緊張。だが疲れた身体に引っ張られ、やがて意識は眠りの沼へと沈んでいった。