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第9話 魔法使いじゃないなら何なの?

ー/ー



 舌の鳴る音を聞いた直後、ユリアムはマナの腕の中で奇妙な浮遊感を感じた。次いで、どんっ、と着地の衝撃。

「うっ!」
「すいません。二人だとカンセイを消しきれませんね」

 カンセイ? 消す?
 聞き返そうとした時。

「お、おいあんたら何なんだ? 危ないだろ! それに勝手に乗り込まれちゃ困るぜ!」

 マナの腕から降りて周囲を見れば、そこは平底船の船尾甲板上。そして声を荒げたのは船頭だった。周りの客は驚きか、不審の目を自分たちに向けている。
 当然だ。無賃乗船である。だが急な事態に口が回らない。

「あっ、あのその……!」
「すみません。料金は払います。……あと、あの人たちも何とかします」

 マナが船の後ろを指して船頭に言った。あの人たち? と、後ろを見ると……。

「うわ、まだ追いかけてくる……」

 川沿いの道を、ならず者たちが追って来ていた。客の一人が声を上げる。

「あいつら街の不良どもじゃないか。あんたら何したんだ?」

 マナが答えた。
 
「襲われたので、反撃して倒しただけです」
「そりゃ……ああもなるな。プライドだけの連中だ」
「そんなことより、また魔法使うつもりだよ!」

 叫んで指差す。魔法使いのボロ布男が、川に踏み入りながら杖を構えようとしていた。他の男たちも水を蹴立てては罵声と、届かない石ころを投げつけてくる。
 自身も杖を構えようとして、マナに肩を叩かれた。

「杖と腕を封じれば、魔法は使えませんか?」
「へっ? うん、まあ……」

 マナの妙な質問に、反射的に答えた。

「じゃあ自分が何とかします」

 言うやいなやマナが舌打ちのような音を立て、掲げた右手で奇妙な動作。青い粒子が一瞬見えた直後、その手は謎の道具を持っていた。

「しょ、召喚?」

 だが詠唱も無しに早すぎる。そしてその道具は見たこともなかった。持ち手付きの、角ばった黒い棒……としか形容しようがない奇妙な道具だ。
 マナはその道具を手慣れた様子でいじる。かしゃんという音のあと、先端をボロ布男に向けてそれを構えた。
 ばしゅっ、という音に驚く。
 直後。

「うっ、うわあっ!」

 男の悲鳴。その身体にはどうやったのか、ヒモか何かがきつく巻き付いて、杖ごと腕を拘束していた。

「ええっ!?」

 飛び道具なのだろうか? だがこんな道具もあんな効果も知らない。知らないが、ユリアムは頭を振って思考を切り替えた。
 とにかくこれで魔法は使えない。あとは他のならず者だ。船は走って追いつける程度の速度。追いつかれれば、投石も届く。足止めしなければいけない。
 水を蹴立てるならず者たちを睨み、杖を構えた。

「……マナ、下がってて。あとは私が」

 杖を構え、詠唱。静止し固まるイメージを魔力に乗せて、腕から杖へと流し込む。狙いは遠方、円上範囲。

「ふっ!」

 突き出した杖が魔力を放った。それはならず者たちの足元で冷気へと変じ、川の水を凍てつかせる。もう動けない。ならず者たちの困惑と悲鳴に、追ってきた警備兵の怒声が混ざった。たっぷり絞られることだろう。

「やったぁ! マナ見てた!? スゴいでしょ!」

 横を向いた瞬間、こちらに手を伸ばすマナが見えた。そして声。

「危ない!」

 反射的に身がすくむ。直後、飛んできた石がマナの手を直撃した。

「っ!」

 マナの顔が苦痛に歪み、甲板にぽたりと雫が垂れた。その赤い色に、思考が止まる。

「マ、マナ! ごめん! 手が……」
「いえ、大したことはないです」

 そう言って、マナはまた舌を鳴らす。今度は白い布と包帯が現れた。また謎の召喚魔法だ。だがそんなことより……。

「待って! 私が治してあげる」
「……治す?」
「手を出して、じっとしてて」

 一番得意な詠唱だ。杖の先が柔らかな光を放つ。対象が本来持つ生命力と魔力に作用して傷を治す、癒やしの魔法だ。
 ユリアムは回復魔法に自信があった。だからこの程度の傷ならすぐに治る。そう思っていた。

「あ、あれ……?」

 効いてはいるが、治りが遅い。いつもの倍はかかっている。何か間違えたのだろうか? 
 たがユリアムの困惑をよそに、マナ本人は治った傷に目を丸くしていた。

「ありがとうございます。これはすごいですね。さっきの水を凍らせる魔法も」
「七つ星だったらこのくらいはね。でもホントはもっと早く治せるはずなんだけど……」
「ユリさん……いえ、()()()()さんは、いろいろな魔法を使えるんですね」
「ふふん、まあね〜」

 一拍置いて、気付く。

「……私の本名!? なんで知ってるの!?」
「先ほど、ご自分で名乗っていましたよ」

 ……確かに名乗っていた。ならず者たちの前で、高らかに。
 恥ずかしさが二重になってしまった。

「そ、そうだった。ごめん……」
「これからは、ユリアムさんと呼んだらいいですか?」
「……やっぱりユリでいい? 本名、好きじゃなくて……」
「もちろんいいですよ。改めて、治療ありがとうございました、ユリさん」
「いやいや、船に乗れたのも相手の魔法止めたのもこっちがお礼言わなきゃだし……」

 そこでもう一つ、大事なことを思い出す。
 
「そうだ! あの召喚魔法! やっぱりマナも魔法使いだったの!? なっ……」

 なんで嘘ついてたの、とは聞けなかった。名前を偽っていた自分が、言える立場ではない。
 しかしマナは首を振った。

「いいえ、自分は魔法使いではありません」
「でもあれ魔法でしょ!?」
「ええ、魔法です。でもユリさんの魔法とは違うものです」

 違う魔法? ますますワケが分からない。

「どういうこと? 魔法使いじゃないなら、マナは一体何なの?」

 マナが、胸に手を当てた。

「自分は、魔法少女です」


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 舌の鳴る音を聞いた直後、ユリアムはマナの腕の中で奇妙な浮遊感を感じた。次いで、どんっ、と着地の衝撃。
「うっ!」
「すいません。二人だとカンセイを消しきれませんね」
 カンセイ? 消す?
 聞き返そうとした時。
「お、おいあんたら何なんだ? 危ないだろ! それに勝手に乗り込まれちゃ困るぜ!」
 マナの腕から降りて周囲を見れば、そこは平底船の船尾甲板上。そして声を荒げたのは船頭だった。周りの客は驚きか、不審の目を自分たちに向けている。
 当然だ。無賃乗船である。だが急な事態に口が回らない。
「あっ、あのその……!」
「すみません。料金は払います。……あと、あの人たちも何とかします」
 マナが船の後ろを指して船頭に言った。あの人たち? と、後ろを見ると……。
「うわ、まだ追いかけてくる……」
 川沿いの道を、ならず者たちが追って来ていた。客の一人が声を上げる。
「あいつら街の不良どもじゃないか。あんたら何したんだ?」
 マナが答えた。
「襲われたので、反撃して倒しただけです」
「そりゃ……ああもなるな。プライドだけの連中だ」
「そんなことより、また魔法使うつもりだよ!」
 叫んで指差す。魔法使いのボロ布男が、川に踏み入りながら杖を構えようとしていた。他の男たちも水を蹴立てては罵声と、届かない石ころを投げつけてくる。
 自身も杖を構えようとして、マナに肩を叩かれた。
「杖と腕を封じれば、魔法は使えませんか?」
「へっ? うん、まあ……」
 マナの妙な質問に、反射的に答えた。
「じゃあ自分が何とかします」
 言うやいなやマナが舌打ちのような音を立て、掲げた右手で奇妙な動作。青い粒子が一瞬見えた直後、その手は謎の道具を持っていた。
「しょ、召喚?」
 だが詠唱も無しに早すぎる。そしてその道具は見たこともなかった。持ち手付きの、角ばった黒い棒……としか形容しようがない奇妙な道具だ。
 マナはその道具を手慣れた様子でいじる。かしゃんという音のあと、先端をボロ布男に向けてそれを構えた。
 ばしゅっ、という音に驚く。
 直後。
「うっ、うわあっ!」
 男の悲鳴。その身体にはどうやったのか、ヒモか何かがきつく巻き付いて、杖ごと腕を拘束していた。
「ええっ!?」
 飛び道具なのだろうか? だがこんな道具もあんな効果も知らない。知らないが、ユリアムは頭を振って思考を切り替えた。
 とにかくこれで魔法は使えない。あとは他のならず者だ。船は走って追いつける程度の速度。追いつかれれば、投石も届く。足止めしなければいけない。
 水を蹴立てるならず者たちを睨み、杖を構えた。
「……マナ、下がってて。あとは私が」
 杖を構え、詠唱。静止し固まるイメージを魔力に乗せて、腕から杖へと流し込む。狙いは遠方、円上範囲。
「ふっ!」
 突き出した杖が魔力を放った。それはならず者たちの足元で冷気へと変じ、川の水を凍てつかせる。もう動けない。ならず者たちの困惑と悲鳴に、追ってきた警備兵の怒声が混ざった。たっぷり絞られることだろう。
「やったぁ! マナ見てた!? スゴいでしょ!」
 横を向いた瞬間、こちらに手を伸ばすマナが見えた。そして声。
「危ない!」
 反射的に身がすくむ。直後、飛んできた石がマナの手を直撃した。
「っ!」
 マナの顔が苦痛に歪み、甲板にぽたりと雫が垂れた。その赤い色に、思考が止まる。
「マ、マナ! ごめん! 手が……」
「いえ、大したことはないです」
 そう言って、マナはまた舌を鳴らす。今度は白い布と包帯が現れた。また謎の召喚魔法だ。だがそんなことより……。
「待って! 私が治してあげる」
「……治す?」
「手を出して、じっとしてて」
 一番得意な詠唱だ。杖の先が柔らかな光を放つ。対象が本来持つ生命力と魔力に作用して傷を治す、癒やしの魔法だ。
 ユリアムは回復魔法に自信があった。だからこの程度の傷ならすぐに治る。そう思っていた。
「あ、あれ……?」
 効いてはいるが、治りが遅い。いつもの倍はかかっている。何か間違えたのだろうか? 
 たがユリアムの困惑をよそに、マナ本人は治った傷に目を丸くしていた。
「ありがとうございます。これはすごいですね。さっきの水を凍らせる魔法も」
「七つ星だったらこのくらいはね。でもホントはもっと早く治せるはずなんだけど……」
「ユリさん……いえ、|ユ《・》|リ《・》|ア《・》|ム《・》さんは、いろいろな魔法を使えるんですね」
「ふふん、まあね〜」
 一拍置いて、気付く。
「……私の本名!? なんで知ってるの!?」
「先ほど、ご自分で名乗っていましたよ」
 ……確かに名乗っていた。ならず者たちの前で、高らかに。
 恥ずかしさが二重になってしまった。
「そ、そうだった。ごめん……」
「これからは、ユリアムさんと呼んだらいいですか?」
「……やっぱりユリでいい? 本名、好きじゃなくて……」
「もちろんいいですよ。改めて、治療ありがとうございました、ユリさん」
「いやいや、船に乗れたのも相手の魔法止めたのもこっちがお礼言わなきゃだし……」
 そこでもう一つ、大事なことを思い出す。
「そうだ! あの召喚魔法! やっぱりマナも魔法使いだったの!? なっ……」
 なんで嘘ついてたの、とは聞けなかった。名前を偽っていた自分が、言える立場ではない。
 しかしマナは首を振った。
「いいえ、自分は魔法使いではありません」
「でもあれ魔法でしょ!?」
「ええ、魔法です。でもユリさんの魔法とは違うものです」
 違う魔法? ますますワケが分からない。
「どういうこと? 魔法使いじゃないなら、マナは一体何なの?」
 マナが、胸に手を当てた。
「自分は、魔法少女です」