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落花情あれど流水意なし1 The love is one-side.

ー/ー



 紀和(きわ)さんは誰もが知る大企業の若き幹部候補で、肩書きも立派なバリキャリだ。
 結婚には興味がないらしく、性格は奔放。
 だけど、そこが彼女らしいところだと僕は思っている。
 
 外にも男がいるような噂もあるが、噂はうわさだ。
 実際そんな気配は感じたことがないんだから。

 会う時はいつも、紀和さんが連絡をくれる。
 僕からは彼女のスケジュールを考えると気後れして、とても連絡なんかできないんだ。
 メール位はしてみたいが、未だにそんな勇気がなくて返信しかしたことがない。 

「亘、あのね、話があるの」

 さっきまでの情事が嘘のように、紀和さんが落ち着いた声で僕の胸元から顔を上げて聞いてきた。
 なんだろう改まって。

「なに」
「そろそろ、私たちの関係を見直そうかなって思ってるのよ」
 
 見直すって、何を? 
 いつも紀和さんの部屋で会うわけじゃないし、食事の場所によってはホテルに泊まることだってある。
 駅近の居酒屋だって、ガード下の焼き鳥屋だって彼女はぜんぜん気にしないから会ってて楽しい人なんだ。
 それって、僕が勝手に良いように解釈してたってことか。

「次はちゃんとした食事の店を予約するよ。今日の居酒屋はうるさくて……」 
「そういうことじゃないの」
 
 ケタケタと笑いながら、紀和さんは手を顔に当てた。まじめだなぁとか言ってる。
 
「今日のお店は魚も新鮮だったし、味も悪くなかった。そういうことじゃないの」
 彼女が体を離し、肘をついて半身を起こした。
 
「この関係もそろそろ終わりにしようって思ってね。つまり、さよならってこと」 
「さよなら……って、ちょっと待って」 
 天井に逸らしていた視線を、隣に向ける。

「私が気づいてないとでも思ってた?」 
 汗ばんだ顔にかかった髪の毛を指で剥がし、彼女はじっと僕を見つめている。
 
「だから、そろそろ潮時かなって思うの」
 
 動転して、その場に起き上がってしまったよ。
 トドのつまり、飽きられたってことか。
「そんなに驚かなくてもいいじゃない。セフレの関係を解消するってだけよ」
 
 セフレって。
 その言葉が、棘になって胸に突き刺さる。
 結婚や将来の話はしていないけれど、そんな軽い関係だなんて考えてもいなかったよ。 
 
「一年も私に付き合ってくれてありがとう。楽しかったわ。ひとりに戻れて、嬉しい?」 
 僕は慌てて首を振って否定した。何を言えばいいかわからない。
 
「あら、黙っちゃって。何を言われても上手に受け流して、怒らないし、機嫌よくて、ほんとにいい男だったわ、あなた」
 
 開きかけた口に、紀和さんが人差し指を当てて塞ぐ。 
「それも今思えば、私と正面から向き合う気なんてなかったって話よね」
 
「違うよ。紀和さんと過ごす時間は楽しかったから……」 
「お気遣い、ありがとう」
 そう言って微笑みながら彼女は視線を外す。
 
「亘、あんたってホントいい男だったわ」 
 紀和さんに不満なんてこれっぽっちもないよ。
 今、お互いスッポンポンなんだよ。つまりそういうことなんだよ。
 この状況で別れ話なんて、なんだか ひどく惨めな気分になるじゃないか。 
 
「紀和さん、僕……」
「連絡っていつも私なのは仕方ないとして」 
 こっちを見た紀和さんの形の良い眉毛がピクっと上を向く。
 続いて迫力のある視線を投げ、ビックリするほど素っ頓狂な声で聞いてきた。
   
「あのさぁ、この一年の間、私に突然会いたいとかなかったわけ?」 
「そ、それは、仕事なのに突然電話したら迷惑かと思って。紀和さん忙しいし、残業……多いし」 
「留守電でもメールでも、メッセージは残せるよ。もしかして専攻はそっち系じゃなかったっけ、ねぇ!」
 
 やれやれと言いたげに頭を抱え、大袈裟にため息を吐かれる。 
「そうかぁ~、一回もなかったか」 
 あーショックだわぁといって、またそっぽを向かれた。
 この人は化粧を落とす年齢がわからなくなる。もちろん、それでも充分綺麗なんだよ。
 そして年齢より遥かに若く見えるんだ。
 
 ああ、そうだったまつげ長くて、俯くと影を落とすんだ。
 癖っ毛のせいかまつ毛もクルンと上むいてたよなぁ。
 
「……学業と研修で忙しいんだろうけど……でさ、……」
  
 目が好きだったなぁ。くるくる表情が変わって、見てるだけで良かったんだ。
 一緒にいるだけで楽しかったんだよ。逢いたいなぁ。
 
「………ちゃんと話聞いてる? ねぇ、もしもーし」 
 紀和さんが起き上がりぺたんと座って、僕の頭に手を伸ばし髪をクシャっとした。 




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 |紀和《きわ》さんは誰もが知る大企業の若き幹部候補で、肩書きも立派なバリキャリだ。
 結婚には興味がないらしく、性格は奔放。
 だけど、そこが彼女らしいところだと僕は思っている。
 外にも男がいるような噂もあるが、噂はうわさだ。
 実際そんな気配は感じたことがないんだから。
 会う時はいつも、紀和さんが連絡をくれる。
 僕からは彼女のスケジュールを考えると気後れして、とても連絡なんかできないんだ。
 メール位はしてみたいが、未だにそんな勇気がなくて返信しかしたことがない。 
「亘、あのね、話があるの」
 さっきまでの情事が嘘のように、紀和さんが落ち着いた声で僕の胸元から顔を上げて聞いてきた。
 なんだろう改まって。
「なに」
「そろそろ、私たちの関係を見直そうかなって思ってるのよ」
 見直すって、何を? 
 いつも紀和さんの部屋で会うわけじゃないし、食事の場所によってはホテルに泊まることだってある。
 駅近の居酒屋だって、ガード下の焼き鳥屋だって彼女はぜんぜん気にしないから会ってて楽しい人なんだ。
 それって、僕が勝手に良いように解釈してたってことか。
「次はちゃんとした食事の店を予約するよ。今日の居酒屋はうるさくて……」 
「そういうことじゃないの」
 ケタケタと笑いながら、紀和さんは手を顔に当てた。まじめだなぁとか言ってる。
「今日のお店は魚も新鮮だったし、味も悪くなかった。そういうことじゃないの」
 彼女が体を離し、肘をついて半身を起こした。
「この関係もそろそろ終わりにしようって思ってね。つまり、さよならってこと」 
「さよなら……って、ちょっと待って」 
 天井に逸らしていた視線を、隣に向ける。
「私が気づいてないとでも思ってた?」 
 汗ばんだ顔にかかった髪の毛を指で剥がし、彼女はじっと僕を見つめている。
「だから、そろそろ潮時かなって思うの」
 動転して、その場に起き上がってしまったよ。
 トドのつまり、飽きられたってことか。
「そんなに驚かなくてもいいじゃない。セフレの関係を解消するってだけよ」
 セフレって。
 その言葉が、棘になって胸に突き刺さる。
 結婚や将来の話はしていないけれど、そんな軽い関係だなんて考えてもいなかったよ。 
「一年も私に付き合ってくれてありがとう。楽しかったわ。ひとりに戻れて、嬉しい?」 
 僕は慌てて首を振って否定した。何を言えばいいかわからない。
「あら、黙っちゃって。何を言われても上手に受け流して、怒らないし、機嫌よくて、ほんとにいい男だったわ、あなた」
 開きかけた口に、紀和さんが人差し指を当てて塞ぐ。 
「それも今思えば、私と正面から向き合う気なんてなかったって話よね」
「違うよ。紀和さんと過ごす時間は楽しかったから……」 
「お気遣い、ありがとう」
 そう言って微笑みながら彼女は視線を外す。
「亘、あんたってホントいい男だったわ」 
 紀和さんに不満なんてこれっぽっちもないよ。
 今、お互いスッポンポンなんだよ。つまりそういうことなんだよ。
 この状況で別れ話なんて、なんだか ひどく惨めな気分になるじゃないか。 
「紀和さん、僕……」
「連絡っていつも私なのは仕方ないとして」 
 こっちを見た紀和さんの形の良い眉毛がピクっと上を向く。
 続いて迫力のある視線を投げ、ビックリするほど素っ頓狂な声で聞いてきた。
「あのさぁ、この一年の間、私に突然会いたいとかなかったわけ?」 
「そ、それは、仕事なのに突然電話したら迷惑かと思って。紀和さん忙しいし、残業……多いし」 
「留守電でもメールでも、メッセージは残せるよ。もしかして専攻はそっち系じゃなかったっけ、ねぇ!」
 やれやれと言いたげに頭を抱え、大袈裟にため息を吐かれる。 
「そうかぁ~、一回もなかったか」 
 あーショックだわぁといって、またそっぽを向かれた。
 この人は化粧を落とす年齢がわからなくなる。もちろん、それでも充分綺麗なんだよ。
 そして年齢より遥かに若く見えるんだ。
 ああ、そうだったまつげ長くて、俯くと影を落とすんだ。
 癖っ毛のせいかまつ毛もクルンと上むいてたよなぁ。
「……学業と研修で忙しいんだろうけど……でさ、……」
 目が好きだったなぁ。くるくる表情が変わって、見てるだけで良かったんだ。
 一緒にいるだけで楽しかったんだよ。逢いたいなぁ。
「………ちゃんと話聞いてる? ねぇ、もしもーし」 
 紀和さんが起き上がりぺたんと座って、僕の頭に手を伸ばし髪をクシャっとした。